第53話 壁

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「“つばさでうつ”!」
「“ドラゴンクロー”!」

 ヒトカゲ達が去ってからどれくらい経っただろうか、プテラとガバイトは時間を忘れるほどの激しい攻防を繰り返していた。相殺に相殺を重ね、疲れが出てきている。


 数年前も、今と同じであった。その頃からグラードンを操ろうと考えていたガバイトの事を他の悪党共が見逃すはずがなく、抹殺するようにプテラに依頼したのがきっかけだ。
 そしてプテラは仕事に取り掛かろうとしたが、標的のガバイトの力が互角であったのだ。どんなに攻撃しても同じ技を繰り出して相殺の繰り返しが続いた。
 一瞬の隙を突いて、プテラはようやくガバイトを殺めたのだ。それほど苦労し、2度と関わりたくないと彼に思わせる程の存在だったのだ。
 しかし皮肉なことに、ガバイトは今生きている。数年の時を経て再び殺し合うことになると誰が想像できようか。おそらくガバイト自身も思ってもみなかっただろう。



『“かえんほうしゃ”!』

 2人は同時に“かえんほうしゃ”を放った。炎同士がぶつかり、炎の壁ができている。どちらかが炎を止めない限り、その場から動けないとガバイトは考えていた。

「……“こおりのキバ”!」
「なにっ!」

 驚くことに、炎の壁を突き破ってプテラが出てきた。どうやら炎の壁ギリギリまで“かえんほうしゃ”を放ちながら近づいていったようだ。そして壁を突破すると同時に氷のエネルギーを自身のキバに纏わせ、そのままガバイトの右腕に噛み付く。 
 ガバイトの腕はパキパキと音を立てながら凍り始める。このままでは全身氷漬けになると思ったが、どうすればよいか判断がつかず、咄嗟にプテラを岩壁に力強く叩きつけた。

「ぐっ!」

 衝撃により腕を噛む力が緩み、一瞬の隙に素早く引き抜いた。ガバイトの右腕は半分ほど氷で覆われているため、しばらくは使えなさそうだ。

「あら~、それじゃ利き腕が使えませんな~。白旗も揚げれないってか?」
「……旗の代わりにお前の首を掲げてやる!」

 余裕の表情を見せ付けるプテラに、怒りをあらわにするガバイト。しかしプテラも余裕というわけではなかった。冷や汗が頬を伝う。

「“かげぶんしん”!」

 ガバイトは次の手に移った。“かげぶんしん”により自分の分身でプテラを取り囲んだ。その数ざっと10。本人を目で見極めるのには困難な状況だ。
 手当たりしだいに攻撃して本人に当たる確率はそう大きくない。むしろ自分が攻撃される可能性の方が高い。プテラはその場で動かずにじっと作戦を練ると、この技をくりだした。

「“にほんばれ”!」

 口から上方へ向けてエネルギーの塊を放出させたプテラ。その塊はまるで小さな太陽のように強い光を放っている。するとガバイトの作り出した分身が半透明になっていた。

「続いて本物に“はかいこうせん”!」
「食らうかぁ! “だいもんじ”!」

 はっきりとガバイト本人の姿を確認し、すぐさま“はかいこうせん”を放った。ガバイトも避けるわけにはいかず、すかさず“だいもんじ”で応戦する。
 “はかいこうせん”による赤色のエネルギーと“だいもんじ”による強い炎が衝突した瞬間、大爆発を起こした。2人は互いに吹っ飛ばされて岩壁に体を打ち付けられる。

「くっ、やってくれんな。結構疲れてきたぜ」
「お前もな。そろそろ終盤へといこうじゃねぇか」

 互いに息を切らして構えている。睨み合っている間にも、刻々と時は近づいていった――2人のうち、どちらかが倒れる時が。

「“はがねのつばさ”!」
「“アイアンテール”!」

 プテラは翼、ガバイトは尾を鋼のように硬くしてぶつけ合った。これも2人の力加減が同じで、相手にダメージを与えるほどのものにはならなかった。

「“がんせきふうじ”!」

 ここで咄嗟にプテラは“がんせきふうじ”を繰り出した。これ以上ガバイトに動き回られたくないのだろう、足止めをするつもりだ。

「おっと、“あなをほる”!」

 何と、寸前で“がんせきふうじ”を見切ったガバイトが地面に穴を掘って回避した。一旦地面に隠れられたらどこから出てくるか判断できないため、プテラは一瞬困惑する。

「……これだ! “じしん”!」

 一旦上昇し、地面に自身の両足を力いっぱい叩きつけた。それと同時に大きな地面の揺れが起こった。そのせいで辺りの岩も徐々に崩れてきている。
 揺れが収まってからしばらくして、地中からガバイトが姿を現した。プテラの予想通り、地中で“じしん”を回避することができず、大ダメージを負っていた。

「はぁ、はぁ、くそっ……まさかてめぇに、ここまでやられるとはな……」

 ガバイトの全身に痛みが走っている。もしもう1度同じ攻撃を受けたら、絶対に立っていられないほどの痛みだ。次に決定的なダメージをプテラに与えなければと考えを巡らす。
 ガバイトにはポリシーがある。誰かを殺すとき、とどめは必ず首を掻っ切るのだ。だがそんな事にこだわっている余裕などない。それを除けば、意外に簡単に、そして確実に仕留める方法を思いついた。

「“がんせきふうじ”!」

 何を思ったか、空中に浮いているプテラに向かって“がんせきふうじ”をするガバイト。地面から突き出た岩は天井まで届くほど高く、それはプテラを囲むように並んでいった。
 数秒後には、プテラは上下左右完全に岩に囲まれていた。動きは制限されたものの、逆に岩によって攻撃を防げるだけのように思える。

「何だよこれ? 俺を閉じ込めて逃げる気っすか~?」

 これはガバイトの負けを意味していると思って笑っていたプテラだが、実はそうではなかった。俯いて黙っていたガバイトが顔を上げると、笑みを浮かべてツメを地面へと向けた。

「……あばよ。“いわなだれ”」

 刹那、プテラの頭上から大量の岩がガラガラと音を立てて落ちてきた。岩が当たる前に避けようと体を動かした時に、彼は気づいた――逃げ道がない、と。
 そう、周りは岩しかないのだ。ガバイトの“がんせきふうじ”によって、文字通り“封じ”られたのである。何も考える暇も、そして声を上げる間もなく、岩はプテラを飲み込んでいった。



「ふん、土葬する手間が省けたな」

 目の前に積まれた岩の山を眺めながらガバイトはほくそ笑み、思えば最初からこうしておけばよかったと、独り言を呟く。

「これで引き分けだ。お前が生きていた間していたように、俺も好きなことさせてもらうぜ」

 ガバイトはしばらく岩山を見つめた後、後ろを向いて歩き始めた。その去り際に、ガバイトがある言葉を残していった。


 もし神がいるとしたら、俺は神によって造られた悪魔かもしれねぇな――。


 その頃、ヒトカゲ達はレッドクリフを登っている最中であった。そこは道幅がわりと広いものの、道の両端には凹凸すらない。何かの拍子で両端に足がいってしまった場合、滑落は免れないだろう。
 ひょっとしたらこの頂上にグラードンがいるのか。いや、この中腹あたりだろうか。何もわからないのでとにかく辺りに注意を配りながら走っていた。

「ねぇ、何か見つかった?」
「いいや、何も見つからねぇな。そっちは?」

 ヒトカゲとルカリオが、崖の下を覗き込むように調べている。その逆側を、ベイリーフとドダイトスが覗き込んでいる。アーマルドは旅に不慣れなラティアスをしっかり警護していた。

「こっちも何もあるようには見えないわ」
「そうですね。どうやらこの辺ではないみたいですね」

 こんな会話を、崖の中腹に到達するまでずっと続けていた。手がかりを得られないまま体力だけが徐々に奪われている。

「も~どこなんだろうなぁ~」
「何を捜している?」

 首を傾げてヒトカゲがそう言った時、進行方向側から声をかけられた。誰もがあまり良い気配ではないと感じたせいか、気を引き締めてその方向を見た。
 そこにいたのは、全身が鎧のようなものに覆われ、2本の角がトレードマークであるボスゴドラが1匹、そして紫色の体をして足にも翼が生えている、コウモリに似たポケモンであるクロバットが3匹、計4匹だ。

「お前ら、俺達に何か用か?」

 大体の見当はついていたが、敢えてルカリオは質問した。それを待っていたかのような、嬉しそうな顔をしながらクロバットが答える。

「ここより先を通すわけにはいかないんだ。どうしてもと言うのなら、俺らを倒していくんだな」

 この状況下でこの台詞、間違いなくガバイトの仲間であると確信したヒトカゲ達はすぐに身構えた。だがここで、ドダイトスがヒトカゲに小声で何かを伝えようとしていた。

「ヒトカゲ、先に頂上へ行け。おそらくグラードンは頂上だ」
「でも、数が……」
「心配するな。頼れるメンバーばかりだろ?」

 クロバットの言った、「ここより先を通さない」。これはおそらく頂上付近に何かあることを意味しているとドダイトスは推測し、ヒトカゲを先に行かせようとしたのだ。
 戸惑っていたヒトカゲだが、みんなの顔を窺うと、全員が黙って頷いた。大丈夫だ、任せろ。そう言ってくれているのだと感じ取ることが出来た。

(みんな、頑張って!)

 ヒトカゲもみんなに向けて黙って頷くと、ボスゴドラとクロバットの間をすり抜けるようにして走り出した。

「あっ、てめぇ!」
「おっと、お前の相手は俺らだぜ?」

 慌ててヒトカゲを追いかけようとするボスゴドラの前に、ルカリオとアーマルドが、同様にクロバット達の前には、残りの3人が立ちはだかった。

「……生きて帰れると思うなよ」

 ドスの利いた声でボスゴドラが威圧する。しかしそれくらいで屈するルカリオ達ではなかった。逆に神経が高ぶってきているようだ。
 今、崖上では新たな戦いが始まろうとしていた。

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