1-2 <シザークロス>を追って

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



 俺が<シザークロス>の根城や拠点に詳しいのは、俺が<シザークロス>と顔を鉢合わせるたびに、あいつらの邪魔をしていたからだ。
 邪魔をし始めたきっかけは、俺のポケモンも奴らに盗まれかけたことにつきる。
 初め……初めて奴らにポケモンを奪われた時はなんとか取り返して追い払った。その出来事以降、奴ら<シザークロス>にポケモンを盗まれた被害者を見て、無性に放っておけなくなり、たびたび突っかかってはポケモンを取り戻していたら、自然と奴らの現れる場所や拠点を覚えていった。
 <シザークロス>に限らず、このヒンメル地方を拠点としている悪党並びに小悪党は多い。自警団<エレメンツ>も頑張ってはいるが、それでもこの地方が荒れているのには変わりない。
 すべてはこの地方を治めていた王国が実質滅んでしまってからだ。

 とにかく、人のポケモンを盗ったらドロボウだ。
 奴らは、自分の大切なものを失う痛みを知らないから、あんなことを続けられるのだろう。

 <シザークロス>の根城は複数ある。俺の知っているのは奴らが中継点にしている小さな拠点だけだ。一番大きな本拠地の存在までは俺も<エレメンツ>でさえもつかめていない。奴らは本拠地の存在だけはなかなか尻尾をつかませない。
 だから、タイムリミットは<シザークロス>が本拠地に戻るまでの間だ。

 ヨアケ・アサヒはデリバードに乗り、俺のバイクに並列して空を飛びながら、ポケモンを盗まれた経緯を語る。

「私は旅の途中で、ポケモン屋敷に訪れていたんだ」

 ポケモン屋敷、か。どうやら届け先が襲われたかもしれないという、俺の嫌な予感が当たってしまったようだ。

「そこのお庭には色んなポケモンがのんびり暮らしていて、ドルくん……私のドーブルが興味ありそうに眺めていたからしばらくそこのポケモン達と遊ばせていたの。そうしたら、そこの屋敷のお嬢さんに誘われて、一緒にお茶をしている間に、あの集団が屋敷の庭にいるポケモンを盗んでいたんだ」
「奴らの存在に気がついたのは、いつごろだ」
「庭の方じゃなくて屋敷の外からドルくんの声が聞こえてきて、それで私は気がついたんだ。それまでは静かだったんだよ。私とお嬢さんがドルくん達の元に向かった時には、もう他のポケモンもトラックに乗せられるところで、急いで追いかけた所でキミと、ビー君と出会ったんだよ」

 俺は先ほどのクサイハナの存在を思い出しながら、ヨアケに質問する。

「他のポケモン達は、麻痺にされたり眠らされていたりしてたのか?」
「ううん、ぱっと見はみんな元気だったよ。ただ、その……」

 首を横に振り、それから言葉を詰まらせるヨアケ。考え込む素振りを見せた彼女は、不思議そうに続きを言った。

「やけに大人しかった、かな。人に慣れているからかもしれないけれど、暴れる様子は……なかった」
「……そうか」

 何故ポケモン達は、大人しく連れ去られたのだろうか。いつもの<シザークロス>のやり方、ポケモンを強引に奪うのとは何かが違う。
 そこまで考えたところで、奴らの拠点の一つのおんぼろ小屋が見えてきた。

(まあ、どのみちいつものように取り戻せばいいだけのことだ)

 俺はそれ以上考えるのを止めて、<シザークロス>との対峙に集中するべく、気を引き締めた。


*****************


 その小屋は、トラックも中に入れるような大きな入口が正面に一つ、反対側に小さな裏口が一つある。
 正面の入り口が開いていて、その中にいる<シザークロス>の下っ端にこちらの存在を視認されてしまったので、俺とヨアケは正面から奴らの小屋に乗り込んだ。

「配達屋! ……と、もう一人のお姉さん。よくも身内をやってくれたな!」

 開口一番、<シザークロス>のメンバーの中でもっとも若い、赤毛の少女が進み出て俺たちを睨みつける。
 他のメンバーに取り押さえられながらも、ジタバタともがきながら「よくも!」と敵意をむき出しにした。
 少女の言葉に対してヨアケは答える。

「大丈夫、あの人達は無事だよ。気絶させちゃったみたいだけど、ちゃんとバイクと一緒に道路の外に運んだから。重かったよー」
「え、そう、そうなんだ……。あ、でも追いかけてきたってことは、また、あたし達の邪魔するつもりなんでしょ、配達屋?」
「まあな」
「やっぱり! この――」

 俺の返答に憤り、今にもポケモンを繰り出そうとしている赤毛の少女の声を遮る、どすの利いた声が小屋内に響いた。

「――そこまでだ。いい加減黙りやがれ」

 少女はビクリと固まり、その声の主である、背の高い男の方へ振り向き、呟く。

「ジュウモンジ親分……」

 ジュウモンジと呼ばれた顔に十文字の傷跡がある男は、その三白眼で俺に一瞥くれると、ヨアケを見た。

「配達屋がいつものように来やがったのはともかく……てめえは何者だ?」

 奴の鋭い視線に臆することなく、しっかりと相手の目を見つめ返して、ヨアケはジュウモンジに名乗る。

「初めまして。私はアサヒ、ヨアケ・アサヒです。旅のトレーナーです」

 きちんと自己紹介をしたヨアケにやや面を食らうジュウモンジ。奴も少しだけ襟元を整えてから、胸の前に腕を組んで名乗った。

「俺はジュウモンジ。<シザークロス>を纏めている者だ。ヨアケ・アサヒといったか、旅のトレーナーってことは、あの屋敷の関係者じゃねえってことでいいか?」
「はい……あの、私のドーブルを、ドルくんを返してください」

 若干緊張交じりのヨアケの言葉が、ジュウモンジに届く。
 ジュウモンジの返事は、一言だった。

「いいぜ」

 <シザークロス>の面々が一瞬どよめいたのが、感じ取られた。ヨアケはポカン、としている。動揺しているのは俺も同じだった。思わずジュウモンジに確認を取ってしまう。

「珍しいな。いいのかよ」
「おうよ、こいつの目をみりゃわかる」

 と言って、やつはトラックからドーブルだけを降ろす。ドーブルはヨアケを見つけると、全速力でヨアケの元へ走った。

「ドルくん!」

 抱き合うヨアケとドーブル。はたから見ると、ドーブルがヨアケをなだめているようにも見えた。
 その様子を見て、赤毛の少女が納得したように言った。

「なるほど、お姉さんのポケモンだったんだ。どうりで他のポケモン達と違って、連れていくのに手こずると思ったよ」
「よーく見とけよ配達屋。これがトレーナーをよく信頼している目だ。てめえのポケモンと違ってな」
「……………………っ」

 ジュウモンジの嫌味に、俺はリオルの入ったボールを握りしめる。反論できないでいる自分に悔しさが込み上げた。
 俺は話をそらし、挑発交じりの言葉をジュウモンジに投げかける。

「じゃあ、そろそろ他のポケモンも返してくれないか」
「そいつは出来ねーな」

 俺の言葉に、呆れたような白けたような態度を示すジュウモンジ。俺は声色を変えて、奴を見据えたまま問いかけた。

「一応聞くが、なんでだ」

 俺の問いに、奴は遠回りに述べた。

「そもそもの前提として、俺ら<シザークロス>が盗むポケモンは、トレーナーと仲のいいポケモンじゃねえ。その真逆だよ配達屋」
「トレーナーとの関係が悪いポケモン、か。具体的には?」
「環境が最悪な所で無理やり労働力として使役させてたり、愛玩道具として売られるためだけに育てられているポケモンだったり……てめえが邪魔してきた中には、そういう奴らのポケモンもいたってことだぜ」
「それがどうした。それも人とポケモンとの関係の一つの在り様だ。それに、そうじゃないポケモンもいたんだろう? お前ら<シザークロス>の価値観だけで、奪うことを正当化するな」
「確かに、俺らの行動は正義と呼べるものじゃねえ。人とポケモンのそういう関係が、世の中では当たり前だと認められていることも解る。だからといって、てめえの理屈だけでも、<シザークロス>という存在を悪だと断定するなよ」

 話がそれたな、と奴は押し問答を区切る。どうやらまだ俺の問いに答える気があるらしい。

「さて、本題だ。そこのお嬢さんのポケモンは信頼しあっているから返したが……こいつらの場合、トレーナーとの関係がどうこう以前の問題だ」
「どういう意味なんですか? トレーナーとの今の関係が悪くても、これから仲良くなる……ってことは難しいのかな?」

 ドーブルを抱えたヨアケが、ジュウモンジに尋ねる。ジュウモンジは目を伏せて首を横に振った。

「それが出来るのならば、こいつらはここに大人しく居ないだろうさ。ヨアケ・アサヒはあの屋敷に集められたポケモン達がどういう奴らか、知っているんじゃねえか?」
「あ……」

 何かに気付いたヨアケに、俺は問いただす。

「何か知っているのか、ヨアケ」
「ポケモン屋敷のお嬢さんに聞いたんだけど、屋敷の主は、“行き場のないポケモン”をトレーナーから引き取っていたって……」

 トレーナーがいるのに、行き場がない……だと?

「つまりトレーナーに手放されたポケモンを引き取って、庭で育てていたということか?」

 ジュウモンジに代わり、赤毛の少女が俺の結論を肯定する。

「正解。そして――――」

 赤毛の少女は息を大きく吸ったあと、天井を仰ぎ見ながら区切った言葉の続きを言った。

「――――そして、育てきれなくなった」



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