メモリー42:「募る寂しさ、現れしゴールドランク」の巻

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読了時間目安:27分
 ストック切れになりました…………。
 まさかチカがボクのことを助けてくれないなんて思いもしなかったんだ。確かに自分がチカのことを悲しませて、それで周りのポケモンたちを怒らせてしまったのが原因だけど。でもあのときボクが自分の気持ちを伝えなかったら、今頃どうなったことだろうか。広場の一件以来、何となく彼女の優しさに疑問を感じてしまっている自分がなんか情けない。


 チカから基地に帰ることを提案され戻ってきて、彼女が気配りしてくれて美味しいアップルジュースまで用意してもらった。そこで感謝の気持ちも伝えられた。だけどその優しさひとつひとつにボクは疑問を感じてしまった。この世界でたった一人しかいない大切な仲間なのに。


 チカは悲しそうな表情でボクを見ている。そんな彼女のことをボクは虚ろな表情で見る。すると彼女は気まずそうに視線を反らし、ゴクゴクとアップルジュースを飲んだ。謝るならここで言うべきだった。仲間なんていらないなんてワガママを言ってチカを困らせて、その後の優しさを疑ってしまったことを。もしかしたら心のどこかで、ボクの言葉を待っていたかもしれないのに。


 ……………でも、ボクは結局その一言を言うことが出来なかった。また変に意地を張ってしまう悪い癖が出てきてしまったのだ。重苦しい空気がボクとチカを支配する。本当はこんなはずじゃなかった。もっとチカと楽しく話をして少しでも距離を縮めたかったのに、結局はボクのせいで心が苦しくなる時間で終わってしまったのだ。いつも自分のために頑張ってくれる“パートナー”をこんな態度で接していたら、どこかで見捨てられても文句は言えないよね………。


 「私、帰るね」
 「えっ!?」
 「きょうはお互いギクシャクしちゃったし、明日からまた頑張ろうって思うんだ」
 「ま…………待って!」


 ボクは突然怖くなってしまった。優しくて温かい光がそばから離れる感じがして。離したくない気持ちのあまり、思わずチカの体をぎゅっと抱き締めてしまったのである!!これには彼女も酷く赤面してしまい、咄嗟に赤いほっぺたから強い電撃を放ったのであった。


 「ううう…………………」
 「ゴメンね、ユウキ!ついビックリしちゃって…………!本当に悪気は無かったんだ!!」


 黒焦げになって目を回して倒れている意地っ張りな“リーダー”に向かって、チカは申し訳なさそうに謝り続けた。さっきとは別の意味で気まずい雰囲気が辺りを支配する。


 …………でも、そのおかげでまたお互いの気持ちを向き合わせることが出来そうでした。さっそく「ユウキがこの世界に残って貰えるように尽くす」と決めたことを実行できるチャンスが来たのですから。


 (ユウキに私をまた信じてもらえるように頑張ってみよう。私もユウキのことを信じられるように頑張ってみよう!)


 少しでもユウキとの距離を縮めるためにも!


 「大丈夫…………じゃないか。まだ痛むよね。ゴメンね、私のせいで」
 「違うよ…………チカ」
 「良いの。もう少しだけ私があなたに寄り添って従えば良かっただけの話なんだから…………」
 「チカ………」


 何を言っているんだよ…………半ば自虐的に話を進めるチカに対し、ボクはそのように言いたかった。彼女は何も悪くないと言うのに、自分の考えを捨ててまでボクと共に行動しようとしているのだ。


 「それに考えたんだ。ユウキは私と過ごす時間が無くなるかも知れないのが不安だから仲間をいらないって言ったのは…………どんなことがあっても…………私のそばにいてくれるって思ってくれているんだって」
 「チカ……………」


 彼女の言葉、笑顔がとても悲しいものに感じた。本当は色んなポケモンと仲良くなってみんなと一緒に過ごす時間を楽しもうって考えていたはずだろうに…………ボクのワガママのせいでそれさえも捨てようとしていたのだから。でもその気持ちがボクには凄く嬉しかった。「従って寄り添い尽くす」なんて簡単には出来ないことだろうに、そこまでしてボクのことを一生懸命考えてくれてるんだって感じることが出来たから。必然的に感謝の気持ちが出てくる。並行して申し訳ない気持ちまで押し寄せるものだから、心の中がぐちゃぐちゃになってしまった。それでも何とか言葉にして伝えなきゃってボクは必死になった。


 「ありがとう。そしてゴメンね………チカ。ボク、何から何までキミに頼りきりだね…………自分の意見ばっかり汲み取ってもらってばっかりで」
 「ユウキ…………」
 「ボクはチカ以外のポケモンと上手くやれる気がしない。ほら、ボクは元々人間だから。どれだけヒトカゲとして過ごしても、この事実はずっと変えられない。チカは優しいからボクのことを信じてくれたけれど、きっと他のポケモンはそうはいかないだろう?ましてや自然災害に怯えて疑心暗鬼な状態だと言うなら…………」
 「……………」
 「だから1秒でも長くキミと一緒にいられる方がボクには助かるんだ。ボクは…………好きなんだ。キミの笑顔が。凄く心が温まるし、癒される。だから頑張れる。チカの言う通りなんだ。いつかチカはボクの心の救助隊になるって言ってくれたでしょ?嬉しいんだ。寄り添ってもらえることが。それに…………辛いときは辛いって甘えても良いって言ってくれたから………思いきって甘えてみようかなって…………ゴメン!!!」


 私はユウキの言葉にどうやって答えて良いのかわかりませんでした。彼はずっと不安な気持ちの中で自分のことを頼りにしていたのかもしれません。そうだよね。あなたがこの世界にやってきて7日目になったけど、まともにゆっくりお話しできてるのって私くらいしかいないものね。


 「本当は夜だって一人で過ごすのが凄く寂しい。でも、そこまで言ってしまったらキミに迷惑かけちゃうもんね。…………また明日から救助活動、頑張るよ。約束だから…………世界一の救助隊になるんだって…………」
 「ユウキ…………うん」


 私は小さくうなずきました。彼が好きだと言う飛びっきりの笑顔を見せながら。しばらくの間は、まだ彼と一緒に救助隊が出来る…………そんな安心感もあったから。私だって彼と同じで、そばにいてくれるのが嬉しいから。ましてや一緒に暮らしたいなんて言われてしまって……………恥ずかしいくらいでした。


 (どうか1日でも長くこの幸せが続きますように…………)







 その日も結局チカは自分の寝床に戻っていった。彼女がどこでどんな生活をしているのかは知らない。でも、毎日彼女を見送るその時間が凄く寂しくて仕方がなかった。何とか気丈に振る舞っていたけど。もしかしたら人間時代からボクは“さみしがり”だったのかもしれない。本当は一緒にこの救助基地で暮らせたら良いのにな…………ずっとチカの優しさや温かさに守られながら生きていくことが出来たら良いのにな…………そう思うと、なんだか一人でいるこの時間が虚しく感じる。


 (ポケモン世界の勉強もなんだか飽きてきたしなぁ~…………。あ~あ、なんであんな素直じゃないことを口にしちゃったんだろう………。チカの目の前だとついつい背伸びしちゃうな…………。なんでだろ………)


 まだ眠るにはだいぶ早いような気がする。でも特にやることが見当たらない。とりあえず藁のベッドに寝転がってみる。しかしそんな程度でこの何とも言えないストレス、虚しさが改善することはなかった。むしろ逆に募る一方。思わずベッド越しではあったが、ボクは床を一発殴った。そのあと悔しくて一人でうつ伏せになりながら泣いていた。


 ボクの気持ちとしては正直なところ、チカと一緒にいられる時間が続く限り、可能な限りそばにいてほしい。それが「どうして自分がヒトカゲになったのか?人間に戻る方法はあるのか?人間に戻れなかったらどうしよう」という尽きない不安を忘れる唯一の方法なのだから。その為にはボクは力を尽くす気持ちでいる。


 なぜここまで想い続けるのかはわからない。…………いつか本当に人間に戻れた日が来たときに、チカと過ごした時間の記憶が無くなるのだけは怖かったのかもしれない。だからどうやっても頭の中から剥がれないように、しっかりと彼女の姿を焼き付けて置きたいのかもね…………ボクはそのように自分の言い分を聞いてあげた。


 (ユウキってば………あんな“さみしがり”だなんて思わなかったよ………。なんだか可愛かったな…………)


 いつもの寝床に着いて、その中で丸くなる私。何だか色んなことがあって気を遣っていたのか、私は変に疲れていたようです。まだ夕方にもなってもいないのに、知らず知らずのうちにあくびが出ていました。でもユウキの本音がまたひとつ知ることが出来たので、そういう意味ではスッキリした気持ちになりました。


 (私が思っているより、ユウキとの心の距離はそんなに離れていないのかもしれないね。だってあんなにそばにいて欲しいとか、甘えてみようとか…………そんなことまで言っちゃうんだから…………)


 思い出すとちょっとだけ恥ずかしい感じもしました。それが嬉しさなのか驚きなのかわからないけれど。


 (でも…………さすがに一緒に暮らしたいなんて…………まだ早すぎるよ。別に私たち恋人関係でもなんでも無いんだから。気持ちは嬉しいけどさ…………。それに帰りたいんでしょ、人間の世界に。だったらどこかで私は独りになっちゃうって意味じゃない…………。あなたが…………ユウキが…………)


 この世界にいつまでもいてくれるって言うなら…………そのときは一緒に暮らしても良いけどね…………。


 (いけない!!こんなこと考えたらユウキを困らせちゃう…………!!私はユウキに尽くすんだった。変なこと考えるのは止めて、今の時間を大切にしなくちゃ…………。そしてユウキがポケモンになっちゃった理由を見つけて、戻れる方法がわかったときでも……………いつかユウキが本当に帰るってときにも、笑って見送れるように)


 私も意外と素直じゃないのかも知れません。本音ではユウキに尽くしていけば、彼の気持ちが変わって…………この世界に残ってくれるかもって考えていたのに、今はユウキが人間に戻れる方法を探す気持ちが優先なんだと言い聞かせてるのですから…………。


 (は、早く寝よう!!明日からまた救助活動しなきゃいけないし!ユウキのことを迎えに行かなきゃいけないし!)


 私は顔を真っ赤にしながら無理やり眠りにつこうとするのでした。もちろん、そんなすぐには眠れる訳がありませんでしたが。









 (………あっ、朝だ。いつの間にかぐっすり寝ていたんだな)


 ボクは頭の中でぶつぶつ呟きながらベッドから起き上がる。さすがに一晩心身共に休むことが出来たから、昨日のような不安感はもう無くなるだろう……………そう思ったが、なかなかそう上手くはいかないようだ。


 (きょうで8日目かぁ………。ヒトカゲになって)


 ふと、そんなことを考えてしまうボク。不安から来る苛立ちで、そのストレスをぶつけてしまうこともあったのに、チカの献身的なサポートのおかげで何とかこの世界の雰囲気にも慣れてきたのは事実だ。


 朝起きてポストの中を確認。その中に“たすけてメール”が無ければ、救助活動の準備をしつつ“ペリッパー連絡所”の掲示板を確認して、直接救助活動の申請をしてダンジョンへ向かう……………。依頼主を助けたら直接依頼主が訪ねてきたときも含めて“ペリッパー連絡所”へと向かう。そこで“ふっかつメール”を提出して救助ポイントを受け取る…………。


 それが今のボクの1日の流れだ。昨日はお互いギクシャクしていたけど、きょうからはまた気持ちを入れ直して頑張っていこうと思った。


 どんなときでも優しくしてくれるチカの気持ちを汲み取れなかった分、なおさらね。



 「まだチカは来てないのかなぁ?」


 ボクは少しでも早くチカに会いたかった。それが自分から不安感を解放するのに最適だと思ったのだ。しかし、外に出てみても彼女の姿はどこにもない。思わずしょんぼりしてしまう。


 (いつもならボクが起こされたり、外で待っててくれてるんだけどなぁ………)


 ますますチカに会いたい気持ちが強くなってしまう。彼女を待っている1分、1秒がとても長く感じるくらい、ボクの心の中は彼女のことでいっぱいになってしまったのである。


 「おはよう、ユウキ♪」
 「あ!!チカ!!」
 「わっ、どうしたの!?」
 「寂しかった!!凄く寂しかったよ!!」


 少ししてチカが姿を現した。いつものニッコリと笑う彼女を見た瞬間、ボクの気持ちが何か決壊したような気がした。きっと彼女も驚いたことだろう。まるで待ちくたびれて寂しそうにしている子供が自分の母親を見つけたかのように、飛び付くように抱きついてきたのだから。


 (よっぽど一人で過ごすのが寂しかったんだな…………。まさかこんなに甘えてくるなんて思わなかったよ…………どうしよう…………)


 私は朝からの思わぬ出来事に動揺してしまいました。彼が一人でいることに抵抗があることは昨日から伝えられていましたが、まさかここまで事態が大きくなっているなんて思いもしなかったから。しかし、不思議と私の心の中は
彼のことを支えあげたい、優しくしてあげたい気持ちでいっぱいになってしまったのです。


 (なんでなのかな?ユウキは救助隊を一緒にやってくれている友達…………別に恋人関係でもないのに……………どうしてここまで尽くそうとするんだろう?やっぱり嫌われたくないのかな?離れてしまって…………いなくなるのが怖いのかな?)
 「…………!?」
 (これが…………母性本能って言うのかなぁ。確かに私は一度進化しているし、気持ち的にはユウキのことを支えられるのかもしれない………よくわからないよ…………。でも、彼の沈んだ表情は見たくないな…………)


 気がついたらボクは背中をチカに撫でられていた。彼女の表情は我が子を愛おしく見つめる母親そのもので、ますますぎゅっと抱き締められてる感じがした。…………もっとも種族的にピカチュウは腕が短いので抱き締めてるというより、抱きつく感じといった方が的確だったかもしれないが、それでもチカの献身的な愛情を感じるには充分すぎるくらい。


 (ふわふわしてあったかい…………)


 抱きつかれたことで彼女の体を覆っている毛並みがボクの体にも触れ合った。そのおかげもあって、いつしかボクの気持ちはすっかり満たされてしまったみたいで、安心感からか眠気まで感じてしまった。本当に母親に守られているような…………そんな感じがしたのである。


 ボクのそんな気持ちも、きっとチカに伝わっていただろう。ニコッと笑うと、彼女はボクの頭を撫でてこのように言ったのである。


 「うん、元気になれたね♪良かった♪ユウキ、きょうも一生懸命頑張っていこうね!!」
 「あ、ありがとう…………。ボク、頑張るね!」


 チカのその言葉が本当にボクの心に染みる。人間時代の自分がどんな感じだったかは何もわからないけど、仮に人間に戻る日が来たらこの気持ちも全て忘れてしまわないといけないのだろうか。


 (そうだとしたら何だかやりきれないな)








 ポストの中には特に救助依頼の手紙は入ってなかった。そこでボクたちは“ペリッパー連絡所”へと向かう。掲示板にはきょうもたくさんの手紙がある。それを眺める度、相変わらずこの世界のポケモンたちが自然災害に振り回されながら生活をしていることを感じる。


 「よし、きょうはこれにしよう。“ちいさなもり”3階だな。」
 「頑張って行こうね!」
 「うん!」


 早速手にした“たすけてメール”を、連絡所の受付のペリッパーに提出し、救助活動の許可を受け取る。内容は“ちいさなもり”の3階ではぐれたヒノアラシを救出して欲しいと言うものだった。何でも依頼主さんの友達と言うことらしいが。まあ、とにかくおとといあんな出来事があった“ハガネやま”に行くよりはマシだろうと判断したのである。チカもそのことを理解してくれたように、小さくうなずいてくれた。


 その帰り道のことである。ボクはチカと他愛ない話で盛り上がっていた。始め彼女はキョトンとしていたが、昨日嫌な気分にさせてしまったから……………と、ボクの気持ちを伝えると、嬉しそうに会話に参加してくれたのである。その時間がなぜかお互いいつも以上に幸せを感じていた。本当に不思議な気持ち。


 「あれ?なんだろう?揉め事かな?」


 そんなときだった。ボクたちは広場の中心部に何やら人盛りが出来ているのを目撃した。チカの表情が曇ってしまい、首を傾げてボクに尋ねてくる。


 「行ってみようか。何かあったのかもしれない」
 「あっ……………」


 何気なくボクはチカの手を引いて歩き出す。彼女がビックリした様子でちょっとだけ赤面していたことなど知らずに。


 「仲間を助けてください!お願いしますっ!」
 「ダメだ。そんなんで引き受けられるか!!」
 「でも、どうしても風が必要なんです!お願いです!」
 

 どうやら困り果てているポケモンがいるにも関わらず、それを拒んでいるポケモンがいるようである。


 「あれはわたくさポケモンって種族のワタッコだね。お願いされているポケモンは、よこしまポケモンって種族のダーテングで、その周りにいる二匹のポケモンはその進化前の種族、いじわるポケモンって種族のコノハナみたいだね。ねえ、どうしたの?」


 チカはそんな様子を見ていたポケモン、ようきポケモンと呼ばれている種族のハスブレロに声をかけて事情を聞いてみる。すると彼は困惑した様子でこのように答えた。


 「ん?そのスカーフ…………オマエたちも救助隊なのか?あの騒ぎな。ワタッコが救助を頼んでいるんだが、断られてんだ」
 「え!?」
 「何だって!?」


 ボクもチカも驚きを隠せなかった。まさか困っているポケモンたちを助ける立場の救助隊が、その依頼を断っているなんて信じがたかったのだ。ハスブレロはさらに話を進める。


 「あそこにいるヤツ」
 「?」
 「ほら、あの真ん中にいるハナの尖ったヤツ。ダーテングさ。アイツも周りにいる二匹のコノハナと一緒に救助隊やってるんだけど……………アイツのチーム、がめつくてお金たくさん貰わないと引き受けないんだ」
 「そんな……………」
 「ひどい…………」


 事情を知ったボクたちはショックを隠しきれなかった。確かに救助隊も他のみんなと同じポケモン。危険なダンジョンに乗り込むことで体を傷つけたり、最悪の場合は命まで脅かされる可能性もあった。だから依頼したポケモンはお礼としてお金だったり、アイテムを渡したりするのが一つ“マナー”のようになっていた。もちろんボクたちも同じ救助隊としてダーテングの言い分も理解できる部分はあった。けれど、


 「ワタッコもあんなに頼んでるのに………可哀相だよな」


 そう。そのワタッコというポケモンが藁にもすがる想いで頼み込んでいるところを見ると、相当緊急性が高いように感じたのだ。


 「私、ちょっと説得してみる!!」
 「え!?」
 「何言ってんだよ!?どこのチームのピカチュウだか知らないけど…………!変に意見したら目をつけられしまうぞ!?」
 「そうだよチカ。気持ちはわかるけどさ………あれは第三者が口を出したら火に油を注ぐようなものだよ…………」


 ハスブレロがチカに忠告する。ボクもちょっと冷静になって貰おうと話しかけるが、彼女の意志は固いものだった。そればかりか、むしろボクの考え方にガッカリした様子だった。


 「ユウキ…………一番最初にキャタピーちゃんを助けたとき、あなたはダンジョンに向かうのを躊躇った私に言ってくれたよね?忘れちゃった?」
 「え……………?」


 チカの悲しそうな表情と口調に、ボクは思わずハッとする。そう言えばそのときのチカは今よりずっと“おくびょう”で、バトルも苦手で弱いと自ら公言してまで逃げようとしていたっけ。


 ……………頭の中にそのときの“記憶”がよみがえってくる。


 「ピカチュウ!誰かが目の前で苦しんでいるのに、見て見ないふりをして逃げるのは……例え力が強い人だとしても、それはただの“弱虫”なんだ!!何かしてあげなきゃダメってわかってるのに……言葉ばかりで何も行動しないのもね!!」








 「今のユウキは正にその“弱虫”だよ。たった1週間でここまで弱くなっちゃったの?私の背中を押してくれたあなたはどこに行っちゃったの!?」
 「それは…………」


 チカは悔しそうな表情でボクに訴えてきた。でもそうだよね。困っているポケモンがいたら迷わず助けに行ける自信が自分にはあったんだから。それが色んなバトル、救助活動を積み重ねていくうちにいつしか「守りの姿勢」に変わってしまった。ボクたちを襲ってきたとは言え、他のポケモンが命を失うシーンも目にしてしまったのが何よりの原因だろう。そうしていくうちに、自分の心境にこんな意識が芽生えてきたのかもしれない。


 不用意に危険な箇所に飛び込んでいくのは慎重になろう。ボクはともかくとして、チカが苦しむ姿なんて見たくないから。


 (きっと知らず知らずボクは、チカが救助活動をしているうちに傷ついて命を落とすことを恐れてしまっているんだ。独りになるのが怖いから。でも、それって本当に彼女のことを思っているって言えるんだろうか?)


 チカにはこの気持ちを伝えなかった。そんなことを伝えてしまったら、きっと彼女も自分のことを気遣って思いきった行動が出来なくなってしまうだろう。そうなってしまっては彼女の頑張りを無駄にしてしまうことになりかねないから。だからボクは彼女に謝り続けた。申し訳ないと。


 「しっかりしてね?私はあなたからたくさんの勇気を貰えてここまで頑張れたから。あなたの弱々しい姿は見たくないんだよ。いつでも私にカッコいいところ、見せてほしいな♪」
 「そうだよね……………ゴメンね。ちょっとボクはキミに甘えすぎたかもしれないな」
 「それは別に良いの。頑張り続けたら疲れちゃうだろうから。救助活動が終わった後ならたくさん甘えても構わないよ。それが私なりの“おんがえし”だと思うから…………」
 「お、オマエら…………色んな意味で仲良いんだな……………。見ているこっちが恥ずかしいくらいだぜ…………」
 『あっ………』


 ハスブレロの一言でボクたちは我に帰った。これじゃ単なるラブラブなカップルである。お互いに急に気まずくなったボクたちは軽く赤面しながら、一時的に視線を反らしたのである。


 …………と、そんなときだった。遠くから「待て!!」という勇ましい声が聞こえてきたのは!!


 「おっ、お前たちは!?」


 その堂々した様子の三匹が姿を現した瞬間、ダーテングの表情が一気に青ざめてしまった。その三匹とはねんりきポケモンのフーディン、かえんポケモンのリザードン、そしてよろいポケモンのバンギラスである。ボクたちのように首にスカーフを巻いている様子は見られないが、すぐに救助隊なのだということを感じた。その場で争いを眺めていたポケモンたちもにわかにザワザワし始める。


 「おお、フーディンだ!」
 「あれがあのフーディンか!」


 周りが言うようにフーディンがその三匹の中のリーダーなのだろう。彼はゆっくりダーテングに近づくと、このように言った。


 「おい。可哀想じゃないか。ワタッコの仲間を助けるには風が必要なのだ。オマエの葉っぱのうちわは強風を巻き起こせる。オマエにとっては簡単なことじゃないか。頼みを聞いてやれ」
 (そうなんだ…………)


 ボクはいまいちわからなかったことだった。後でチカに聞いてみたところ、確かにダーテングは樹齢1000年以上もする樹木で暮らしているらしく、別名「森の神様」と呼ばれるほど謎のポケモンらしい。そしてフーディンの言うように、葉っぱのうちわは強風を起こす仕組みになっているとのこと。対してワタッコは風に乗って世界を旅したりするなど、体についた綿毛を上手に利用して行動する習性があるというのだ。


 「うっ………」


 一気に気まずさを感じたのだろう。あるいは緊張感のせいなのか、ダーテングは落ち着きなくあちこちに視線を移している。そして観念したのか、「ちっ、わかったよ。おい、オマエら!!行くぞ!!」と捨て台詞を吐いて、仲間のコノハナと共にその場から立ち去ったのであった。


 「すげえ…………」
 「あのダーテングがおとなしく言うこと聞いたぞ…………」


 一瞬にして問題解決に導いたフーディンの姿に、皆が尊敬の念を抱く。一体彼らは何者なのだろうか。


 「ねえ、彼らはなんなの?」
 「オマエ、知らないのか!?フーディンのチーム、“FLB”のことを!ここらじゃ一番有名な救助隊だぞ!」


 チカの質問にハスブレロがビックリ仰天した表情をしている。救助隊に憧れて勉強をしてきた彼女でも知らないチームなんてあるんだなってボクは思ったけど、そんなこと気にしていたら話が進まなさそうなので敢えて黙っておこう。


 「フーディンの後ろにいるアイツはリザードン。火炎放射で山をも溶かす!その隣にいるのはバンギラス。鎧の体とパワーが自慢。そしてリーダーのフーディン。力技を好まず、超能力で勝負する。知能指数5000のスーパー頭脳の持ち主で、世の中の出来事は全部記憶しているらしい。命令するのはすべてフーディンだ。いわばチームの司令塔だな」


 ハスブレロは丁寧に1匹ずつ紹介してくれた。よくわからないけどとにかく凄いチームなんだろうなってことは想像出来た。


 「あ、ありがとうございました」
 「いや。当然のこと。また断られるようだったらワシに言え。では」


 頼み事を受け入れてもらったワタッコが近づき、嬉しそうにフーディンへお礼を告げる。しかし彼は表情一つ変えずに応対すると、仲間のリザードン、そしてバンギラスと共にボクたちの目の前を通り、その場から立ち去ろうとした。


 その堂々とした振る舞いに、「カッコいい………」「さすがゴールドランクのチームだな」と言ったような尊敬の念が伝わる言葉が飛び交う。


 ……………と、そのときだ。


        ………………メモリー43へ続く。









 


 









 
 

 
 





 


 


 

 


 


 







 頑張って次回の6月12日(土)に間に合わせます!お楽しみに!

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