ロックなダイマックス

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読了時間目安:13分
 赤く怪しく光る柱を見ていると、どこか懐かしい感覚があった。ボールから出るとき、帰るときの光によく似ているのだ。もしかしたら、何らかの原理の部分で同じなのかもしれない。

『……っ!?』
 不意に、全身に何かを叩きつけられる感覚がして、私の身体は地面を離れて、また背中から落ちた。痛みが全身を駆け巡る。
 光る柱に気を取られ過ぎていて、周囲への注意が散漫になっていた。情けないほどのケアレスミス。
「……フヒ、さすがにやりすぎであるよ、我が同士www」
「半芝は流石にキモいでござるよ、スズキ殿www」
「そういうヤマダ氏もwwwギガントキモスであるなwwwwww」
 のっそのっそ、と現れたのは大きな影だった。
 野生のカビゴンかと思ったがよく見ると違っていた。太った男がふたり、私の方へ近づいてくる。そのうち、ヤマダと呼ばれたバンダナを巻いた眼鏡の男は、暗い紫色をした竜のような、骨格を剥き出しにしたような、奇妙なポケモンを従えていた。
 私のエスパータイプとしての第六感が、この竜がいわゆる「伝説」にカテゴライズされるものだと伝えていた。圧倒的なまでの強さが肌に突き刺さってくる。
「しかしヤマダ氏wwwやったであるなwww色違いのサナたそですぞwwwこれは高く売れる予感以外ありえないwwwwwwブフォッwwwレイド産じゃないからワンチャンwwwキタコレwww」
「スズキ殿、オークションも良いが、拙者はもう少し身体検査の必要があると思うでござるwwwwwwなんと♀であるしwwwもっとも拙者は♂が相手でも一向に構わんでござるがなwww」
 ヤマダとスズキという男がうっすら笑みを浮かべたまま静かに向かってくる。下卑た笑いが生理的に受けつけない。
「おぅふ、ヤマダ氏? このオナゴ……もしや飼いポケモンではないか? メガネをつけておる。野生のポケモンはこだわりメガネはつけないのでは?」
 私のメガネに気づき、スズキの口調は少し焦ったような様子であった。
「スズキ殿……何を言ってるでござるか? たしかに、人のポケモンを取ったらドロボーと我々も教えられてきたでござる……数十年前のロケット団は企業としての賠償責任を取らされた挙げ句、倒産。現在は形も残っておらんでござる。だが、スズキ殿!!」
 ヤマダは私をいやらしい目で見つめ、その分厚い唇をにいっと吊り上げた。
「どこにトレーナーがいるでござるか、スズキ殿? ということは……捨てられたのでござるよ、このメガネっ娘は! 我々が拾って、いちから調教してやるべきではござらんか!? そして散々遊んだあとは、オークションへポイでござるよwwwwww」
 ふひひ、ぶふぉ……気色の悪い声で男たちは笑った。
 私はまだわずかに動く身体で、男たちにサイコキネシスを放つ。だが、それを受け、行く手を遮ったのは先程の竜であった。
「わかっておらんでござるな……、かわいこちゃん。お仕置きが必要なようでござる。ムゲンダイナ、軽くひねってやるでござるよ」
 ヤマダは、そして叫んだ。
「ヘドロウェーブ!!」
 動けない、流石に終わった――敗北の先を想像し、いよいよ覚悟する。ムゲンダイナと呼ばれた竜が、毒々しい液体をその顎へ集め、こちらへ向けて放つ。
「――行け、バンギラス!」
 割って入った男の声と同時にヘビーボールが投げられ、砂嵐を纒った巨体が、星形の光と共にその姿を表した。
 バンギラスは雄々しく吠えると、身をよじってヘドロウェーブを受け流す。
「ひゅー、ロックだぜぇ」
 あの警官、コウタロー……否、コードネーム“不思議の国のアリス”であった。

――――――――――
【補足】ヤマダとスズキとは?
 デブヲタ二人組。すぐ調子に乗る。ヤマダの手持ちポケモンのうち最大の主力はムゲンダイナ。作中ではあえて規制表現として色違いであることは伏せているが、実は色違いである。ついでにポケルス感染であり6V、控えめであり、マジカル交換で手に入れたときにはマスターボールを保有していたという典型的な改造ポケモンである。
 ヤマダとスズキの夢は、遠く離れたカントー地方にあるアキハバラシティに行くことである。最大の目的は、逢えるアイドル『AKB48』である。彼女たちは単なるアイドルではない。AKBとは“All Kill Burningすべて殺し、燃やせ”のコードネームを持つ、メンバー全員が殺しの訓練を受けたプロという異色の経歴を持つユニットである。
――――――――――

「……さて」
 コウタローはミュージックプレイヤーを止める操作をし、延びたイヤホンを耳から外し、ヤマダに目線を移す。そして、バンギラスを引っ込める……かと思いきやそうではないらしい。一瞬にしてバンギラスはボールに戻ったが、コウタローが軽くそのボールを放る動作をすると、マルマインほどの大きさになり――両手でそれを投げつける。
「――ダイマックス!!」
 投げられたボールは、柱の光と同じ赤色に発光していた。コウタローの声に呼応し、バンギラスがみるみるその姿を変えてゆく。一瞬メガ進化かと思った。カロス地方で初めて経験したときには衝撃を受けたが……それとは異なり、質量を無視しバンギラスは巨大化を続けた。
 ヤマダは、眼鏡をくいっくいっとあげ、その眼鏡が怪しく光を反射させる。
「飛んで火にいる夏の虫……というわけでござるな。ドゥフフ、我のムゲンダイナの敵ではござらん。拙者もいよいよ逆刃刀を捨て、“不殺ころさず”の誓いを破らねばならんようでござるな」
「で、出るのか……? ヤマダ氏の得意技……! 来るか……巨大暗黒光輝砲ダイマックスほう(中二当て字)!!」
 無機質な雰囲気のムゲンダイナはその外見から表情が読み取れない。行動を読みにくいが、まず間違いなく次の攻撃でとどめを刺しに来る。
「……ダイマックスホォオぉぉぉおぁちゃァァァァァァ!!」
 ヤマダの奇声と共にエネルギーがムゲンダイナに集約される――!
 そして、一筋の破壊の光と化したエネルギー砲が巨大化したバンギラスに向かって打ち出される。
「キターーーー!! これでダイマックスしたポケモンはイチコロだ! さすがヤマダ氏! われわれにできない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ!」
 スズキが奇声をあげる。ヤマダも勝利を確認したのか、メガネをクイッとあげ、「拙者は、るろうに。また流れるでござるよ」などと、ヲタク特有の元ネタがよくわからない漫画か何かの決め台詞を発していた。
 ――が、そうはいかなかった。
「へ?」
 次の瞬間、光の熱量を受けたはずのバンギラスは、その場に平然と立っていた。
「お前ロックじゃないぜ? ……バンギラス、見せてやれ。本当のロックてやつをよ! いけ、ダイロック!!」
 巨大化したバンギラスが雄叫びと共に大地を揺るがす。すると、地面が一枚の分厚い板のように隆起し、それがみるみる持ち上がり巨大な一枚壁のようにムゲンダイナの前にそびえ立つ。
「――その壁、超えられるかな?」
 コウタローの勝利宣言であった。
 ムゲンダイナは動く隙もなく、ひっくり返った壁に押しつぶされ、戦闘不能となった。
 ボールに戻っていくムゲンダイナを見て、あれだけ強気だったヤマダが膝を地面に落とす。
 一連の流れを私は痛みにかすむ意識と戦いながら見ていた。

「ふっ……ヤマダ氏は我らふたりの中では最弱……やはり我が行くしかあるまい」
 マスターボールを手にしたスズキが、コウタローのもとへ静かに歩みを進めようとし――
「ふいうち!」
「ひでぶ!」
 何者かの声と共におもむろに蹴りを入れられ、スズキは吹き飛んだ。手にしていたボールも弾け飛ぶ。
 蹴りを入れたのは、赤いハーフパンツをはいたポケモン?
「ちょ、待つであるよ……人間同士のバトルは……それにそのカッコ……エースバーンのレイヤーさんであるか?」
「うるせ! にどげり、にどげり! にどげり!!」
「あべし!!」
 スズキは悲鳴をあげて、蹴り飛ばされる。叩き込むように更に一撃、蹴りを入れる。更に一発、おまけにもう一発。二度どころの話ではなかった。
「お主……何者?」
「さあなあ? 通りすがりの“管理人”とでも言っておこうか」
「……そのエースバーンの恰好コスプレ、そして強烈な蹴り……もしや、ワイルドエリア・オークションの管理人ッ! 魔蹴ましゅうのマッシュ!?」
「気安く呼ぶな、下衆野郎。飛び膝蹴り喰らわすぞコラ」
「ひ、ひぃ……人間同士のバトルはご法度……! それに、飛び膝蹴りはバトルでここぞというときによく外れる……」
「うるせー、くそやろう」
 どうやら人間のようである。男は赤いハーフパンツを履き、白いロングTシャツを着ている。更には、白をベースに赤のワンポイントの入ったニット帽という奇抜なファッションセンスであった。
「おい、コードネーム“管理人”。お前のシマで起きた問題だ。これは一つ貸しだぞ」
「その理由がよくわかんねえんだけどよ」
 魔蹴ましゅうのマッシュ、と呼ばれた男は肩をすくめる。
「しかし、なんたってコウタローが野良の色違いなんて助けてんだ? いくらこいつらが下衆野郎だからって、トレーナーが野生のポケモン捕まえるのにお前が介入する必要ねえだろ? それは“ルール”違反なんじゃねえか? まあ、俺もつい足が出ちまったけどよォ。ちょっとやりすぎちまったかもしれねえ。同情するぜ」
「おい、コードネームで呼べ。“管理人”」
「へいへい、わーったよ、“不思議の国のアリス”」
 私はただ話の内容を理解するのに必死だった。何よりムゲンダイナにやられた傷が痛く、意識を保つにも限界が近い。
「単刀直入に言えば、そのサーナイトは野良ではない。コードネーム“聖母”の所有ポケモンだ」
「ほう、あいつの……? だとすればお前ら、とんだ不孝者だな? 普段色々と許してもらってたのは、誰の優しさのお陰だと思ってんだ?」
 ヤマダとスズキは、「あの子のポケモンとは知らなかった」、「行動を改めていくことで誠意を示したい」などと言っていたが、マッシュは聞く耳を持たなかった。
「あいつに免じて、今まで退去バンせずに済ませてやったけどよ……もうこれは庇いきれねェなァ?」
「あ、あの……」
「とりあえず持ってるポケモン全部出せ。さっきのイカれたムゲンダイナも全てだ」
 ヤマダとスズキはうなだれ――そして、私の目の前は真っ暗になった。戦闘不能、次に目を覚ますときは、ポケモンセンターだろうか。わからないが、薄れゆく意識のなかで浮かんだのは何故かあの少女の顔だった。

――――――――――
【補足】ワイルドエリア・オークションとは?
 ワイルドエリアに点在するレイドでゲットした色違いポケモンを元にトレードなどを行う闇市場。ポケモン同士の交換の材料に用いられることもあれば、オシャボと呼ばれる通貨のような存在との取引にも用いられる。
 ただし、そういったレイドでゲットしたポケモン、通称レイド産は、タマゴから孵化したものよりもレートが劣るため、交換など取引の際には「レイド産」であることをしっかり明記しなければトラブルになることもあるので注意が必要である。
――――――――――
Special thanks,
『AKB48』

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