ウルトラホールを駆ける航界船プロメテウスでは、機械の中に幽霊が住んでいる。
その名はギラティナ。
出会ったとき、彼の肉体は滅びかけて、命の灯火が今にも消えてしまいそうだった。私はギラティナを救うために、船のサーバーへ彼の意識を移植して、0と1でできた仮想の身体を作ってあげた。
ギラティナは新しい環境に慣れてくれるだろうか。ひょっとしたら、こんな偽物の世界に閉じ込められて、怒っているのかもしれない……。
ある朝、私はけたたましいアラームの音で目を覚ました。
しかし昨日は夜遅くまで働いていたので。
「もうちょっと……あと5分だけ……」
と言って、幸せの布団にくるまり、再び夢の世界へ潜ろうとした。
すると、コンピュータの音声応答システムが奇妙なことを言った。
『ブライス少佐、二度寝の猶予は8分あります。8分後にアラームを設定しました。ごゆっくりお休みください』
私は目をぱちくり開けて飛び起きた。
「……今なんて?」
『おはようございます、ブライス少佐。あなたのために特別な朝食をご用意しました。テーブルに出頭してください』
訳が分からなかった。船には応答用のAIが組み込まれていても、こんな風にサービス精神旺盛ではない。言われたことをやるだけなのに。
奇妙なことは仕事の中でも起きた。
船の機関室で、新しいプログラムコードを組み立てている最中、まだ動かしてもいないのに、エラーを告げるメッセージが浮かんできた。しかも、どこをどう直せば正しく動くか、親身なアドバイス付きで。
いつからシステムがこんなに親切になったんだろう。ひたすら不思議がっている私の目に、驚くべきものが映った。
アクティブ・ウィンドウから、蛇のように長いギラティナがひょっこり顔を覗かせてきたのだ。甲高く人懐こそうに鳴いて、画面の外に消えた。
そのとき初めて、私は真理を悟った。
「ギラティナって……仔猫みたいに可愛いんスね」