メモリー39:「みんなが被害者~ハガネやま#12~」の巻

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 少しずつですがこの作品、「めもダン」(これが略称になります)に、みなさんから温かい応援が増えていて、大変嬉しく思います!ファンのみんなと一緒に頑張れるようにしたいですね!
 迷惑かけてばっか、傷つけてばっか。本当にパートナーがキミじゃなかったら今頃どうなっていただろうか。何も出来ていないから今は“いっしょにいこう”って約束を守るしか無いんだけど…………いつまでもこのままじゃいけないよね。


 チカはまだボクの背中にしがみついた状態だった。もうおんぶされているって言っても良いだろう。それくらいボクと合流出来るまでの時間が怖かったんだと思った。だから最上階である9階への階段が見つかるまでの間、ボクはチカをおぶったまま歩き続けた。さすがに両腕が塞がっているので、道具箱は彼女に託したけれど。それでも少しでも一緒にいられる安心感を与えたいと言う想いがそんな行動を促していた。その思惑通り、チカは少しだけ眠たそうに目をぼんやりさせてしまうほど安心しているように見えた。


 (離ればなれになったり、必要以上に嫌な気持ちにさせてしまったんだ。これくらいのことは頑張らないと…………)


 ボクにも体力に決して余裕があるとは言えない。事実「はぁはぁ」というくらいに呼吸は荒くなっている。それでもひとときのこの時間はボクとチカの気持ちを少しだけラクにさせてくれた。この状態で他のポケモンに襲われたらどうなるのかと言う不安はあったけれど。


 (でも、さっきと違ってチカとは一緒だ。寂しい想いをさせなくても済む。ボクが頑張れば良いんだ。ここまでチカにはたくさん頑張ってもらっていたんだから)


 ボクはもう一度気持ちを入れ直して階段を探す。ふと気がつくと背中から「スー………スー………」という音が聴こえてきた。多分疲れてしまったチカが眠ってしまったのだろう。それくらい安心してくれていると言うならば、ボクも嬉しかった。そしてこんな気持ちにさせてくれている彼女に感謝の気持ちが出てきたのである。なんでって?チカのおかげでボクは独りにならないで済んでいるからなんだ。普通ならおとといみたいな感じになってしまったら、一緒に行動することにお互い気まずさを感じているだろうから。


 (本当にこんなに優しいチカに出逢えて良かったよ)


 だからこそがんばれる。ボクはすっかり寝入ってしまっているチカのことをチラッと見て苦笑いを浮かべながらも、何となく可愛らしく感じるのであった。


 それから何分か後のことだ。ボクたちは遂に最上階への階段を発見することが出来たのは。


 「や…………やったあああ!!チカ、起きてよ!!見つかったよ!!階段だよ!!」
 「え?…………本当だ………。長かったね、ここまで…………」


 ボクの喜ぶ声が聴こえたのだろう。チカが目を覚ましてスタッとボクの背中から降りた。そして自分と同じように喜びに浸ったのである。無理もないよね。“メモリーズ”を結成して初めてお互いの価値観の違いで衝突して解散危機になったり、依頼失敗をして挫折を味わったり。必ずしも平坦な道だったとは言えないのだから。


 だけどいつまでも喜びに浸っている訳にもいかない…………。これですべてが終わりでは無いのだから。


 「いよいよこの先にディグダとダグトリオの父子が待っている…………どんな風になっているかわからないけど、早く助けなきゃ!!」
 「うん!!」


 ボクとチカは真剣な表情で一気にその階段を昇っていった。




   ピュオオオオオォォォ…………
 「ここが…………この山の頂上…………」
 「なんか凄く不気味な場所だね…………」

 “ハガネやま”の9階…………つまり頂上。そこは日中にも関わらず薄暗く、冷たい風が吹き抜ける殺風景な場所だった。あちこち足元がひび割れていて、今にも崩れそうな足場な感じもする。到底誰かが住めそうな環境には思えなかった。この場所のどこかに依頼主は待っている。そう思ってしっぽの炎をたいまつみたいに使って辺りを照らし、ボクとチカは捜索をする。


 「あっ、ユウキ!あそこにディグダとダグトリオが!おーい!だいじょうぶー?助けに来たよ―!」
 「………こ、怖いです」


 しばらくしてチカがビックリした様子で叫ぶ。目の前に広がる断崖絶壁の先に確かにディグダ、そして傷だらけになりながら我が子を懸命に守るダグトリオ。彼らが自分たちのいる場所よりかなり高く、そして孤島になっているような場所で取り残されているのが目に入った。チカが懸命に声をかけるが、返事をするのがようやくという状態だ。


 何度かチカが怯えるディグダに声をかけてなんとか気持ちを落ち着かせようとしているなか、ボクはどうしても気掛かりなことがあった。


 (…………なんでダグトリオはあんな傷だらけになっているんだ?もしかして誰かがこの場所にいるってことなのか…………!!?)


 そのときだった。頭の中で2日前の早朝の記憶がよみがえってきたのである。


 《はじめまして。私たちダグトリオと申します!実は昨日の夜、地震があった後………私たちの子供のディグダが教われまして………高い山の頂上に連れ去られたんです。そんなとこ私たちはとても登っていけないし………。ですのでここはひとつ、ユウキさんにお願いしたいという訳なんです。ディグダをさらったのはエアームドってポケモンです。とても凶悪なヤツなんで気を付けてください。何とぞよろしくお願いします。ではっ!》


 (エアー………ムド…………?)


 ドクンと心臓の音が響いた。本能的に物凄く嫌な予感がした。恐怖感からなのかブルルと身震いをしてしまう。風が冷徹にビュオオオオオと吹いた。…………と、次の瞬間だ!!バサッバサッと鋼で出来た翼を羽ばたかせて、そのポケモンが姿を現したのは………!!


 「あんたたち!何しに来たザマスか!?」


 よろいどりポケモン、エアームド。体全体が鋼で出来ているポケモンがディグダとダグトリオをこんな場所までさらったのは。すかさずチカが怒りの表情で応戦する。

 「ディグダたちを助けに来たんだ!エアームド!悪ふざけしないで彼らを離すんだ!」
 「何言ってるザマス!悪いのはコイツらザマス!毎晩地震が起きて、怖くて安心して眠れないザマス!それもこれもコイツらが地底で暴れるからザマス!!」


 チカの態度が面白くなかったのか、自分の言い分を露にするエアームド。それを聞いて一旦チカが慌てたが冷静になってもう一度エアームドと話をする。


 「そ、それは違うよ。確かに最近よく地震が起きるけど…………でもディグダたちが地底で暴れるくらいで地震は起きないよ」
 「うるさいっザマス!!文句あるなら勝負ザマス!!」


 もはやチカの説得にも耳を傾けようともしないエアームド。睡眠不足によってストレスと疲労が溜まっているのだろうか。さすがのチカもこれにはお手上げな様子でボクに話しかけてくる。


 「ダメだ。エアームドは興奮して話にならない。ここは戦うしかないか…………!」
 「チカ…………」


 以前の彼女からは想像も出来ない決断だった。なんとか平和的に解決を試みようとするくらい心優しく、そして臆病だった彼女からそんな言葉が出てくるなんて。でもこのままだとディグダとダグトリオを助けることは出来ない。だからボクも大きく頷いたのである。


 「うん、そうだね…………!!」


 ヒューと風が吹く。首に巻いたスカーフが揺れる………。それを合図にしてボクたち“メモリーズ”と、エアームドとのバトルが始めたのである!!








 「ワタシを倒すザマス!?何か勘違いしてないザマスか!?許せないザマス!!」
 「きゃっ!!」
 「危ない!!」


 エマームドがバサッと硬い翼を広げ、そのままボクとチカに突撃してきた!恐らく“つばさでうつ”を繰り出して来たのだろう。慌てて避けたがエマームドは「逃がさないザマス!!」と、Uターンしてきて再びボクとチカに向かって来たのである!!このままではいけない………そのように判断したボクは応戦する形で“ひのこ”を、チカは“でんきショック”をそれぞれエマームドに向かって繰り出した!!


 (どうだ!?)


 ……………しかし、その次の瞬間!!


 「甘いザマス!!!そんなちっぽけな技でワタシを倒せると思わないで欲しいザマス!!」
 「なっ!?」
 「えっ!!?」


 なんとエアームドは“かげぶんしん”をしてボクたちの技を回避したのである!これにはチカも困ってしまった様子でボクに話しかけてくる。


 「参ったね。エアームドってはがねとひこうの二つのタイプのポケモン。ユウキのほのお技も私のでんき技も効果はばつぐんだから、比較的戦いやすい相手なんだけど………。あの様子だと相当バトルのレベルも高そうな気がする。やっぱりダンジョンの一番最後をテリトリーにしているだけあって、一筋縄ではいかなそうだね………」
 「仕方ないじゃん」
 「え?」


 チカはビックリした様子だったけど、ボクにとっては予測できる事態だった。なぜなら彼女と初めて冒険した“ちいさなもり”の最下層でも似たようなことがあったから。ひこうタイプがダンジョン外のポケモンを人質にするという形で。……………だが、攻略法だってある。なぜならチカにはどんな相手も逃さない技、“でんげきは”があるのだから!


 「チカ、どうだい?“でんげきは”は撃てそうかい?」
 「で、できなくはないよ。ユウキにはわからないかもしれないけど、“わざマシン”って言って特殊なアイテムを使って覚えた技だから………」
 「それじゃあ今すぐエアームドを狙って………!!」
 「簡単に言わないで!」
 「え?」


 「よし、これでいける!」………手応えを感じたボクだったが、チカは浮かない表情だった。訴えかけられるような彼女の叫びを聞いて、一瞬ビクッとしてしまう。一体どうしたのだろう。



 「こないだピジョンとオニドリル相手に“でんげきは”を出せたのはたまたまだよ………。練習が足りないし、今まで他で使ったこともないでしょう?エネルギーをチャージするのに時間がかかるし、余分にエネルギーを使っている分、失敗したら他の電撃のパワーも落ちちゃう。だから本音を言えばあんまり期待しないで欲しいんだ…………」
 「チカ…………」
 「私のこと心配してもらえるならお願い…………“でんげきは”のことは、ここでは気にしないで欲しいの………」
 「うぅ…………」


 ボクの中でシナリオは崩れてしまった。けれどもここまで来て“パートナー”を犠牲にしてまで、相手を撃退したところでスッキリした気持ちにはなれないだろう。両耳がしおれて申し訳なさそうに表情を沈ませているチカの表情を見て、「いいからがんばれ!」なんてとても言えなかった。


 「仕方ない………。こうなったら力ずくだ!!」
 「ユウキ!!」


 チカの呼ぶ声にも振り返ず、ボクは地面を蹴ってエアームドの翼へと突っ込んでいった…………しかし!


 「無駄ザマス!!“かぜおこし”ザマス!!」
 「うわっ!!」
 「ユウキ!!」


 すぐさま反撃にあってしまい、ボクは地面に叩きつけられてしまった。「大丈夫!?」と、慌てた様子でチカが駆け寄ってくる。心配かけてはいけないと思い、ボクは笑顔で「大丈夫だよ」って返事をした。その姿を見て彼女が泣きながらエアームドに叫ぶ!!


 「ユウキに何するのさ!!」
 「うるさいザマス!お前たちがワタシの邪魔をしてるザマス!」
 「そっちがディグダを誘拐したり、ダグトリオを襲ったりするからじゃないか!!」
 「黙れザマス!!そうやってワタシを悪者扱いにするなんて酷いザマス!!ワタシは被害者ザマス!!」
 「被害者なのはエアームドだけじゃないよ!!みんな自然災害の被害者なんだ!!自分だけが困っているなんて顔をするなあああああああああああ!!!」
 (チ………チカ!?)


 薄暗かったこのフロアが急に目を開けられなくなるほど眩しくなった!!チカが感情を爆発させて電撃を発射したのである!エアームドに命中すれば大ダメージを与えることが出来るが果たして…………!?


 「ワタシが苦手な電撃を使えるからって調子に乗るなザマス!」
 「キャッ!?」
 「速い!!?」


 結果は外れだった。そればかりかチカが電撃を放ったときには既にエアームドは至近距離にいた。そこから更に必中技の“スピードスター”を繰り出してきたものだから、チカはにっちもさっちもいかず、まともなダメージを受けることとなったのである。


 「ううぅ………。いつの間に“こうそくいどう”を…………?」
 「オマエがそっちの“役立たず”なヒトカゲに近寄ったときザマス~♪カッコつけて良いとこ見せようとするからザマス~♪」
 「ボクが………!?」
 「ちょっと待ってよ!!?ユウキが“役立たず”!?勝手なこと言わないでよ!!」


 …………エアームドの言葉に私は怒りを覚えました。なんで一緒にいた訳じゃない相手に、自分の大切な友達のことを悪く言われる必要があるのだろうと。隣で愕然と青ざめた表情をしているユウキの姿を見て、ますますそんな感情が芽生えてしまったのです。


 「どうしたザマス?ワタシが言ったことが正しくて動くことが出来ないザマスか?」
 「ふざけるなあぁぁぁぁぁぁ!!」
 「チカ!!」
 「甘いザマス!!」
 「きゃああ!!」


 私は感情任せで電撃を放ちました。もちろんエアームドに飛び込みながら。しかしそれはさっきの二の舞で終わってしまい、再びエアームドの“スピードスター”の餌食となってしまったのです。それでも諦めず、今度は離れた場所から電撃を乱れ打ちしたのです。しかし、それもダメでした。“かげぶんしん”も発動していた効果で回避力も上がっているエアームドに一度も命中することはなかったのでした。そのうち私は技のパワーが落ちてきているのに気がついたのです。体力が段々と尽きている証拠でした。


 「はぁ………はぁ………はぁ………」
 「どうしたザマス?得意のでんき技を当てることが出来なければ、お前なんか単なるチビネズミザマス!ネズミは鳥の餌食になればいいザマス~♪」
 「ふ………ふざけるな………。あなたことなんか許さないよ…………!ユウキのことを馬鹿にしたんだから………!」
 「でもそれは本当の話ザマス♪オマエが一生懸命バトルをしているのにヒトカゲの方は何もしてないザマスから♪オマエたち、本当に同じ救助隊ザマスか?本当はお互いに敵じゃないザマスか?」
 「チカとは…………敵!?」
 「う…………うるさい!!勝手なことばかり言うなぁぁぁぁ!!」
 「だってそうじゃないザマスか?お前はあのヒトカゲに利用されているだけザマス。役立たずで敵対関係のヒトカゲに。早くその事に気づけザマス!」
 「うるさい!うるさい!うるさあぁぁぁい!あなたに何があるのよ!!」


 私は叫びました。だって自分の夢を叶えてくれた存在が敵対関係だなんて、言いがかりにも程があったから。増してや利用されているなんて。想像したくもありませんでした。口調が荒くなってしまって、もしかしたらユウキにはドン引きされていたかも知れないけれど、それくらい私はこのエアームドのことを潰したいと思ってしまったのです。残酷でしょう?救助隊は他のポケモンとのバトルで極力大きなケガをさせないようにという暗黙のルールがあるのですが、それさえも忘れてしまうまでに私は気持ちが追い詰められてしまったのです。


 「こざかしいザマス!“エアカッター!!”」
 「きゃあ!!」
 「チカ!!」


 しかしまた、私はエアームドの攻撃によって弾き返されてしまいました。慌てた様子で「大丈夫!?」と言いながら駆け寄ってくるユウキ。どうしてなのでしょう。彼の優しさが身に染みました。やっぱり彼は敵でもないし、役立たずでもありません。今の自分には大切な友達でした。だからこそそれをちゃんと証明できない自分が悔しい………。気がついたら彼の腕の中で私は不甲斐なさで涙が溢れてくるのでした。


 「ユウキ、ゴメンね。あなたが言うように、ちゃんと“でんげきは”を操れたらここまで苦しむことなんて無いのに…………ホントに私って肝心なときに何も出来ないよね………………」
 「うんうん、いいんだ。キミのその気持ちだけが凄く嬉しいよ。何とかしようっていうその気持ちが。ボクは自信を無くしそうになった。不安にもなってしまった。それを守ってくれたんだから、何にも文句は無いよ。ありがとう」
 「ユウキ…………ううぅ………」


 彼の言葉に私は涙が止まらなくなってしまいました。気がついたら彼から離れたくないってしっかり掴んで、その中で泣いていたのです。ユウキはその間も私のことを優しく抱きしめてくれ、頭から背中を「よしよし」と撫でてくれたのです。それがまた私の気持ちを癒してくれてるような気がしました。







 「どうしたザマス!?もしかしてもう降参ザマスか!?救助隊って言うわりには大したこと無いザマスね~!!」
 「ごちゃごちゃうるさいな。そこまで相手を小馬鹿にして楽しいのか?」
 「本当のことを言ったまでザマス~♪負け犬は何言っても虚しいザマスね♪」
 「何だと!?」


 ボクは怒りに燃えた。まだ勝負が決まってもいないのに勝手に“負け犬”呼ばわりされたことが許せなかったのである。だからと言って突破口があるわけではない。どうすれば良いのだろうか。


 (あの素早い動きさえ止められたらどうにかなりそうな気がするけど………!?)


 ボクはあることに気付いた。そうだ。この方法があったじゃないかって。チカにはもうちょっとだけ頑張ってもらうことになるけど…………。


 「これしかない!!」
 「!!?」
 「え………?」


 ボクは一言叫んだ。チカが不思議そうな表情をする。エアームドもビックリした表情を見せたが、すぐにそれも薄ら笑いへと変わる。静かにボクに向かって飛んできたのである!!


 「何を考えてるかわからないザマスが、その前にお前たちを倒してあげるザマス!もう一度、“エアカッター”!!!」
 「来た!!今だ!チカ!済まないけどアイツの懐に向かって“でんこうせっか”を繰り出してくれ!!」
 「え!?うん!!わかったよ!!」


 ボクの指示を受け、少し慌てた様子で姿を消したチカ。それがでんこうせっか”を繰り出した証拠だった。それを見てエアームドが忠告をしてくる。


 「ムダムダザマス!!私はそのピカチュウよりもスピードが早いザマス!!」
 「それはどうかな!?」
 「!!?」


 その言葉に臆することなく、ボクは更に続けた。ボクは単にチカのことをエアームドの元へと向かわせることが目的ではなかった。意識が一瞬でも彼女の方へと向かわせる…………それこそが真の目的だったのだ。


 …………しかしその代償として、ボクはチカに不安を抱かせることになってしまった。


 (そんな…………。これじゃエアームドの言う通りじゃない………)


 そう。ボクは自らの作戦を成功させるために彼女を“利用”する形になってしまったのだ。しかもきちんと説明しなかったことが、余計に誤解を拡大させることになったのである。


 「これでお前のその翼に攻撃出来る!食らえ!!」
 「何をするザマス!!やめろザマス!!」
 「やかましい!!その減らず口もこれでおとなしくなるだろう!?」
 「ギャーーーーーーーーーザマス!!!」


 ボクは正直そんなチカの気持ちに気づく余裕なんてなかった。今は目の前の敵を倒すことだけを考えていたから。彼女が一瞬だけエアームドに近づき、それから戻ってきたそのわずかな時間を利用して、ボクは“ゴローンのいし”と“ひのこ”をぶつけた!狙いは翼である。あの翼さえ使えなくなれば動きは自然と封印できる………と、ボクは考えたのである。その考えは見事に的中した。翼に石と炎がぶつかったことでエアームドは失速、そのまま墜落してしまった。


   ドサッッッ!!
 「グワッッッ!!…………ヒィ!!!」


 墜落したエアームドが次に目にしたもの。それは憎悪の炎を燃やし、救助隊の証でもあるバッジをつけた赤いスカーフが冷たい風に揺られたまま、“ゴローンのいし”を右手に握るヒトカゲの姿だった。よくよく見るとその石には炎が燃えている。きっと“ひのこ”を浴びせた特別なものなのだろう…………そのようにエアームドは感じていた。


 「何するザマスか!?」
 「決まっているじゃん。お前を完全に動かせないようにするんだよ…………。ボクたちに向かって言いがかりをつけて、無関係なポケモンを傷つけたんだからね?」
 「止めろザマス!!!救助隊はそんなことしても良いザマスか!?勝手に人の縄張りに入って荒らして…………!」
 「だから縄張りを荒らしている訳じゃねぇって言ってんだろうが!!」
 「止めろ!止めてくれザマス!!」
 「うるせぇんだよ!!」
 「ギャアアアアアアアアア!!!」


 命乞いにも似た反論も届くことはなかった………。ボクは感情的なまま右手に持っていた石をエアームドの翼にぶつけたのである。エアームドの悲鳴が響く。ただの石だけでも相当な激痛だろうに、苦手な炎まで纏っているのだからひとたまりもない。エアームドは本能的な恐怖を感じていた。


 「解放するか?」
 「ヒィ!!………なんでワタシがこんな目に………グェッ!!!」
 「もう一度聞く。解放するのか?」
 

 次にボクはエアームドを蹴飛ばした。無論呻き声は届いてない。いつもよりトーンが低い野性的な声、メラメラと燃える憎悪の感情はしっぽにも反映されていた。目付きもヒトカゲ………というよりはリザードやリザードンを連想させるようなものだった。それくらいボクは「負の部分」に支配されていたのかもしれない。手にした石にボッと炎を浴びせる。


 「何も返事をしないってなら、またぶつけるしかねぇな。仕方ねぇヤツだ…………!」
 「ヒィィィィィィィィィ!!!!」


 再びボクが右手に持った石をエアームドに向かってぶつけようとした…………そのときだった!!


 「やめてえぇぇぇぇぇ!!それ以上エアームドを攻撃しないで!!救助隊の評判がますます悪くなっちゃうよ!!!」
 「!!?」


 背後から悲痛な訴えをしてきたボクの“パートナー”。その声がボクを「負の部分」から救い出してくれたのである。一瞬動きを止めることが出来たのである。まるで時間が止まったかのように。そんなことなんて考える余裕のないチカが傷ついた体を懸命に動かし、ボクのそばに近づいてくる。悲しそうに涙を浮かべて。


 「ユウキ。気持ちはわかるよ………。たくさん変なこと言われて、私だって本当はエアームドをもっと攻撃したいから………」
 「ヒイ!!」


 チカと目線が合ったとき、エアームドは恐怖を感じていた。また攻撃をされてしまうかもしれないという。仕方ないかもしれない。そのときの彼女はどこか冷たい雰囲気に思えたから。でも彼女はその気持ちをグッと抑えていた。あくまでも自分たちの目的は「救助」であり、「撃退」ではないのだと言い聞かせていたから。そのことをボクへ伝えようと思ってたのかもしれない。いつもよりは哀しげだったけれど、それでも微笑んでくれたチカのおかげで、ボクはなんとか踏みとどまることが出来たのである。


 「エアームド。これ以上のことは私たちもしたくない。あなたが言っていることも、地震で疲れて寝不足で本心じゃないって思っているから………だからお願い。ディグダとダグトリオを解放して欲しいんだ。そしたら私たちも大人しくこの山を下りるから………」
 「…………うむむ………まいったザマス」
 「エアームド…………」


 エアームド自身は納得できない表情だった。だからと言ってここからまたボクたちへ反撃する体力は明らかになかった。しばし沈黙が続く。


 「……………仕方ないザマス!ここは一旦逃げるザマス!覚えとけザマス!!!」
 「待って!!!そんな体じゃ危ないよ!?」
 「うるさいザマス!!」


 エアームドは捨て台詞を放ち、ボロボロになった翼を広げて立ち去った。心配したチカの中には自分への嫌悪感、そして自分の目指してきた目標に矛盾が生まれていた。


 「…………しょうがないよね。私たちはダンジョンに住むポケモンからしたら、住んでいるところを荒らしている侵入者でしかないんだから」
 「チカ…………」


 目一杯の笑顔をボクに見せてくれたけど、寂しさや苦しさが入り交じっていて苦しそうにしか見えなかった。


 「おーい。エアームドはいなくなったよ。もう大丈夫。早く下りてきなよう」
 「ダメです…………。怖くて下りられないです………」


 気持ちを無理やり切り替えた彼女は改めてディグダに声をかけるも、依然としてディグダは震えるばかりだ。そばにいるダグトリオも我が子を落ち着かせようと必死で、とても動ける状態ではなかった。


 「しょうがないな。助けにいくから待ってね」
 「ダメです!!あぶない!!」
 「!?」


 見かねたチカが動いてすぐにダグトリオが叫んだ。チカも何かに気づいたのだろう。慌てて足を止める。


 「………っと、あぶない。うわっ!凄いガケだ………。下が見えないよ…………。ユウキ………どうしよっか…………って!?どうしてユウキまで落ちそうになってるの!?」
 「あわわわわ!?」


 チカが驚きながらも急いでボクの腕を引っ張ってくれたので、なんとか無事に済んだ。まさかさっきチカが下を覗いてるときに驚かせようとして近づいたのに、思わぬタイミングでチカが振りかえって空振りしたなんて恥ずかしくて言えないボクだった。(アドリブだったのでカットされるだろうなとは思ったけど、まさか採用されていたので、このシーンを見たあとにチカに怒られたのは言うまでもない)


 「…………どうしよっか。これじゃ向こうに渡れないよ」
 「参ったなぁ」


 ボクとチカは思わずその場で腕を組んで悩んでしまう。その時だ。


 「ビビビ!」
 「あっ!キミたちはこの間のコイル!」
 「ハナシハキイタ。ワレワレガソラカラディクダヲタスケヨウ。ビビビ!」 


 一体どこから登場したのかさっぱりわからなかったけど、これは助かった。確かにコイルたちは、チカの話だと特性の「ふゆう」で空中に浮かんだ状態でいられるのだから、この崖だってなんでもないのだ。


 「ダイジョウブ。マチガッテモシビレタリシナイ。ビビビ!」
 「うう…………」
 「すまない………」


 これでなんとかなるだろう。ボクとチカはコイルたちの行動を見守りつつ、ここでようやく安心感に浸ることができる…………と思われた。しかし!!


 「引っ掛かったザマスね!!まだワタシは退散してないザマス!!」
 『!!!?』


 コイルたちがいる崖の上空からエアームドが登場したのである。まんまとボクたちを騙し、反撃の機会を伺っていたのだ。その表情からはもはや憎しみしか感じられない。このままではコイルたちが危険なのは明らかだった。


 「エアームド!!やめて!!!」
 「問答無用ザマス!!散々ワタシのことをゴミのように扱った救助隊もどきには言われたくないザマス!!同じ目に遭えば良いザマス!!!」
 「ふ…………ふざけるな!!!」


 必死にチカとボクはエアームドを制止しようとする。だけど自分たちから遠い場所で行動されてしまったらどうしようとなかった。一体どうすれば良いんだ。打開策を考えていたそのときだ!!


  ピシャアアアアアア!!!
 「キャッ!!」
 「うわっ!!」
 『!!?』


 突然気持ち悪いくらいに静かだった空から雷が落ちてきたのである!!とっさにボクたちはその場に伏せたので、そのときに何が起きたか全然理解できずにいた。しかし、ハッキリと悲鳴は聴こえてきたのである!


 「ギャアアアアアアアアアアアアアアア…………!!!」
 「エアームド!!エアームド!?」


 何と雷はエアームドに直撃したのである!そのままエアームドはまっ逆さまに崖の下へと墜落し、ボクたちの前から姿を消してしまったのである…………。正に一瞬の出来事だった。


 「そ……………そんな。そんなことって………。エアームドだって……………エアームドだって、私たちと同じ、自然災害の被害者なのに…………」


 ボクとチカは頭が真っ白になり、その場に崩れてしまった。辺りはまた気持ち悪いくらいの静けさを取り戻す。冷たい風だけが吹くだけ。






 ……………そんなボクたちの様子を遠くから見つめる影。その影は一言呟いてその場から立ち去った。


 「チッ…………役に立たないわね!!」



        ………………メモリー40へ続く。
 


 










 





 

 



 


 次回は5月22日(土)20時頃に投稿予定です。お楽しみに!

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