第二章【新月霊剣】4

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 まだ陽も昇りきらぬ早朝、仄暗い朝焼けの中を十数人の兵士達が隊列を組んで林の中を進んでいた。草を踏む音に混じって、スコルピがカサカサと逃げていく足音が聞こえる。それ程までに周囲は静まり返っていた。その中にクライとゾイルの姿もあった。並んで歩く二人の表情は硬いが、まだ体力には余裕があり険しいという程ではない。二人は隊列に従って黙々と木々の間を通り抜けていく。
「全体、止まれ!」
 少し拓けた所で号令がかかる。隊の兵士達は綺麗にぴたりと動きを止めた。洗練されたその動きに隊列の調教具合が見てとれる。
「ここにキャンプを設置する。各自設営開始!」
 先頭に立つ隊長の声に従って、兵士達は各々テントを張り始める。クライも周りに合わせて背負っていた道具を下ろした時だった。
「クライ君、こちらへ」
 突如呼ばれた声に振り返ると、少し距離を置いて隊長が立っていた。隊長の険しい顔にクライは慌てて道具を置き去りに呼ばれるまま彼の元へ向かう。隊長は難しい顔のままクライを木陰に引き込んだ。クライには自分だけが呼び出される理由も分からず緊張感だけが高まる。目を丸くして隊長の顔を伺うと、隊長は立派な顎髭を弄って小声で話し始めた。
「ここだけの話だが……クライ君、君に特命が出ている」
「私にですか?」
「あぁ……普通新米兵士に特命が下りる事など有り得んのだが……君の、あの力が必要だと判断されたようだ」
 その言葉にクライははっとする。隊長はぼかしたつもりだろうが、クライには『あの力』が何を意味するのかはっきりと理解できた。念の為にと懐に忍ばせていたあの剣に意図せず触れる。金属のそれを越したゾッとする程冷たい感触はまさに『魔剣』そのものだった。クライはそれを力強く握って心に燻る弱さを押し潰す。それはこれから通達される特命を遂行できるかという不安か、はたまた恐ろしい力を持つ剣を扱いきれるかという恐怖か。
「クライ君、君にはこれから相対する隣国の部隊長を暗殺してもらう」
「暗殺……隣国の部隊長……? ちょっと待って下さい。今回の目的は隣国の偵察ですよね? なぜこれから相対すると……ま、まさか」
 隊長の言葉に初めは混乱していたクライだったが、徐々にそれが意味する事を理解する。昨夜、ゾイルの言っていた『裏の作戦』はやはり存在していたのだ。クライがそれを解明する前に、隊長が淡々と種明かしする。
「この偵察部隊の事は既に隣国にリークされている。そして、君の『魔剣』の事も。案の定、君の力を警戒して相手もそれ相応の力で迎え撃つときた。君も聞いた事はあるだろう、隣国の『首刈姫』の名を」
「その『首刈姫』を私に討て、と……」
「そうだ……その為のサポートは我が隊を以て全力で行う。『首刈姫』を倒す、我々はその為の部隊なのだから」
 クライはこの作戦の真実に言葉を失った。偵察なんて最初から嘘だったのだ。この部隊は、隣国の異質な力を持つ部隊長『首刈姫』を殺す為の駒だった。しかも自分の力をダシに使われた挙句、それ頼りの作戦ときた。全てはクライにかかっていると言っても過言ではなかった。その重責に彼は自然と手に汗を握っていた。どうすればいいのか、悩む事も許されない。すべき事は明白だ。それがどんなに困難だとしても、彼はそれを成さなければならない。
 彼は一度目を閉じ心に念じる。自分ならできる。いや、自分にしかできない。もはやできるできないではない、やるのだ。必ず、成し遂げなければ。さもなければ──この部隊は全滅するだろう。
 クライはゆっくり目を開いた。その瞳に強い決意を灯し、隊長にしっかり向き合う。彼は小さな声で、しかしはっきりとこう言った。

「私が必ず『首刈姫』を殺します」

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