いぬ3ーたべものをおいていく

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読了時間目安:4分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 雨の日の帰り道、友達と別れた直後に、ぼくはそいつに出会った。
 道端に置かれた段ボールの中で、まだ小さなポチエナが震えていた。野生で出会ったときの気性の荒さは影もなく、ぼろきれに包まれて、今にも消えてしまいそうな声で鳴いていた。よく見れば、段ボールには黒いマジックで「拾ってください」と書いてある。このポチエナは、捨てられたのだ。それも、体の大きさから考えると、生まれてすぐに捨てられたらしい。酷いことをする人もいるものだ。
 雨は止む気配もなく降り続けている。このまま放っておけば間違いなく凍え死んでしまうだろう。そうでなくとも、何も食べなければ餓死してしまう。どうにかしてあげたいけれど、連れて帰ろうにも、父も母もポケモンは苦手だ。連れて帰ったら間違いなくどやされる。どうしたものだろうか。

 連れて帰る
 見捨てる
→食べ物を置いていく
 保健所に連絡する





























 ぼくは給食のときに残したパンを、箱の中に入れておいた。何が食べられるかはわからないけれど、ポチエナは雑食だという話を聞いたことがあった。大した足しにはならないかもしれないが、これで少しの間は飢え死にすることはないだろう。
 それからぼくは傘を箱の上にかぶさるように置いて、急いで家に帰った。ランドセルを傘代わりにしても、雨は容赦なく全身を濡らしていった。
 家に帰るころにはすっかりずぶ濡れだった。居間で出迎えてくれた母に怪しまれて、咄嗟に風で傘が飛ばされてしまったと嘘をついた。「風邪をひくから着替えてきなさい」と言う母に心の中でごめんなさいを告げつつ、濡れた服を着替えて洗濯機に入れた。嘘をつくのは心が痛む。嘘をついてはいけないと教え込まれた恩恵というべきか、はたまた弊害というべきか。それでも今回は、自分ではない誰かを守るためについた嘘だ。そう言い聞かせて、替えの服を着た。
 その夜、夢を見た。
 傘の下でうずくまるポチエナの夢だ。ぼくが置いてきたパンのかけらに鼻を寄せ、すんすんと匂いを嗅いだ。それから、パンの端を小さくかじり取って咀嚼した。二口、三口と食べ進めるが、パンは一向に減らなかった。今思えば、生まれたばかりでもパンを食べることはできたのだろうか。乳や流動食の方が食べやすかっただろうか。
 どこかで獣の吠え声が聞こえてきたところで、恐ろしくなって目が覚めた。
















 雨は上がり、すがすがしい朝だった。しかし直前に見た夢のせいで、最悪の目覚めだった。朝食もろくに喉を通らず、何とか食べ切ったものの母に心配された。
もしも夢が現実になっていたらと思うと、学校へ向かう足取りは自然と重くなった。

 件の段ボール箱の前を通りかかったとき、嫌な臭いが鼻を突いた。同時に、ぼくが置いていった傘がボロボロになっているのを見て、嫌な予感がした。
 恐る恐る近づいたぼくは、思わずしりもちをついてしまった。
 死んでいる。それも、見るも無残に引き裂かれた状態で。
 おいていったパンの匂いにつられて、野良のポケモンがやってきたのだろう。そしてパンを奪った挙句、抵抗しようとしたポチエナを――
 想像しただけで胃がひっくり返りそうだった。足に力が入らず、歩くことさえままならなかった。これまで遭遇した出来事の中で、間違いなく最悪の部類だった。

 ぼくがパンを置いていったせいで、ポチエナは殺された。その事実が、ぼくの胸を深く、深く抉った。

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