メモリー37:「笑顔と離れる手~ハガネやま#10~」の巻

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 「いっしょにいこう」。これってボクとチカが初めて救助活動をした日に決めたことだったよね。もうあの日とはすっかりボクとキミの勢いは逆転してしまった。でも良いんだ。無理に強がらなくたって助けてくれる仲間がいるってありがたいことだから。


 「いくよ、チカ!!」
 「うん!!」 


 ココドラを撃退してもまだバトルは終わらない。お互いの意志疎通にようやく手応えを感じたのも束の間、その背後からは別のポケモンが迫ってきていた。てっきゅうポケモンと呼ばれる種族のダンバルだった。


 「ユウキ!ダンバルはひこうタイプじゃないけど“ふゆう”って特性で、空中に浮かんだまま身動きできるポケモンだから気をつけて!」
 「わかったよ!」


 チカのアドバイスを素直に受け取って大きくうなずくボク。彼女の言うように猛烈な勢いで“とっしん”してくるダンバルは、そのスピードも早いので迎撃するのも容易ではなかった。このときはまず攻撃を回避しようとしゃがみこんで、一時凌ぎはできた。でも、これで終わりと言うわけにはいかない。………せめてあの動きを封じることさえ出来ればなんとかなるかもしれないが…………。


 「チカ?ボクの背後からでも“でんじは”って撃てそう?」
 「え?うん、大丈夫だと思う。次にダンバルが攻撃を仕掛けてきたときに、跳び跳ねて迎え撃つイメージで放てば………」
 「そうか。じゃあ頼むよ。アイツの動きを封じたところで一気に“ひのこ”を浴びせるから!」
 「うん、わかったよ!」


 ボクの言葉に真剣な表情でうなずくチカ。ようやく何か歯車が噛み合ってきた…………そんな実感を得ていた。


 (確かアイツははがねタイプが含まれているはず………。だからボクのほのおタイプの技は効果的なはずだ。あの動きさえ封じれば勝機はかなりある!)


 「何をゴチャゴチャ話しこんでるんだ!?さっさとおとなしく失せやがれ!」
 (今だ!!)


 ダンバルがさっきとは逆方向………つまり折り返す形で再び“とっしん”してきました。私はそのタイミングを逃すことなく、目一杯地面を蹴ってしっぽでも反動をつけてその場高く跳び跳ねることに成功。そしてユウキの指示通り、赤いほっぺたから“でんじは”をダンバルに向けて放ったのです………!!


  ビリビリビリビリビリビリ!
 「うわっ!ぐっ…………ちくしょう。姑息な真似しやがって…………」


 ダンバルは急失速し停止。これなら私たちの攻撃から逃れることは出来ないでしょう。一気にバトルの流れは傾きつつありました。


 「ここでお前らに足留めされてたまるか!!“ひのこ”!!!」
 「熱い!!!やめてくれ!!炎が苦手なんだ!頼む……………!!!うわあああああ!」


 ダンバルの声は当然ユウキに届くことはありません。いくら断末魔のような叫び声を出しても、ユウキは彼が倒れるまで攻撃を止めることはありませんでした。


 「よし、倒した!先に進もうか、チカ!」
 「うん!」


 彼の呼び掛けに私は笑顔で頷きました。でも完全な笑顔ではなく、少し後ろめたい笑顔。その証拠に彼に気づかれないように、一瞬背後で苦しむダンバルの姿を視界に入れたのです。
 今までの自分なら、必要以上に相手を痛め付けることは嫌がっていたことでしょう。それが原因でユウキとも対立するほどでしたから。でも今は違う。だって自分たちは理由があってやむを得なくこの山に突入している。でなければ、同じポケモン同士で傷つけ合うことを望む理由がどこにあると言うのでしょうか。そうやって割り切っていかないと、今後の救助活動でも迷いが生じる感じがしました。


 (ユウキ。私はもう迷わないよ。何か大きな目標を達成したかったら、多少のリスクを覚悟しなきゃいけない。そこから目を背けたらいけないんだよね…………)


 本当はこの考えにはなりたくなかった。もっと平和的な救助活動をしたかった。でも、それは机上の空論。ジグザグマの群れやイシツブテたちとのバトルを経て、それは叶わぬ想いなんだと突き付けられた現実。私は胸が痛む想いでそれを受け止めながら、ユウキの後ろをまた歩き始めたのです。


 しかし、ボクたちは次の7階へとつながる階段をなかなか見つけられずにいた。そんななかボクも、それからチカも…………自分たちが小腹が空いてることに気が付いた。お腹からその音が聞こえてお互いに恥ずかしい気持ちにはなって、すぐに苦笑い。そして相手のそんな可愛らしい姿に指を差してボクもチカも思わず笑ってしまった。


 「しょうがないよね。バッジがあるお陰で自然と体力を奪われるって影響を無効にして、むしろ自然治癒してくれてる証拠なんだから。空腹感を覚えるのはその代償だもの」
 「何か食べなきゃ………だよね」


 だけどすぐにチカの表情が沈んでしまった。そんな彼女をフォローしようとボクは小さく苦笑いする。そうして辺りをキョロキョロするわけだが、目ぼしい食べ物はどこにもなかった。せいぜいチカが今朝揃えてくれた回復アイテムである木の実をかじることしか出来ない。でもそれで空腹が満たされるような気はしなかった。








 ……………と、そんなときだ。「!」と、チカが何かを思い出したかのように耳をピンと立てつつ、その場にしゃがんで道具箱を開いたのは。ボクも不思議になって彼女の姿を除きこむ。するとその目的のアイテムを見つけることが出来たのか、チカは嬉しそうに満面の笑みを浮かべてこう言った。


 「見て!前にバタフリーさんから受け取った“あかいグミ”と“きいろグミ”だよ!これで少しはお腹も満たされるし、このあとの救助活動もやりやすくなるよ!」
 「グミか~。そういえばあったね、すっかり忘れていたよ。確かタイプによって好きな色のグミがあるって言っていたよね?」
 「そうだよ♪ユウキはヒトカゲだからほのおタイプ。だから“あかいグミ”を食べると良いよ♪はい!」
 「ありがとう!」


 炎のように真っ赤なグミ。それを嬉しそうな笑顔のチカから受け取ったボク。なぜだかわからないが、彼女のその笑顔を見ると自分まで幸せな気分になった。“きいろグミ”はきっとピカチュウを始めとするでんきタイプが好きな味なんだろうと、そんな風に思いながら。


 「いただきます………?チカ、食べないの?」
 「え…………//////?その……………、ユウキに合わせて食べようかなって思って………」
 「え!?」
 「だって………ユウキの笑った顔、凄く良いなぁって。ほら、私たちっていつも言い合いばかりして、悔しくて泣いてばかりで。こうやって笑ってる姿………あんまりなかったなぁって………」
 「そういえば…………」


 そういえばそうだ。ボク自身こんな素直な気持ちで笑ったのって久しぶりの気がする。“リーダー”だからと一人で抱え込まなくて良くなって、肩の荷が降りたような感覚になっている結果なのだろうか。初日のときのような気持ちの余裕が戻ってきた感じがする。ボクにとっては随分と久しぶりな感覚に思えた。


 (このままボクたちの関係が悪化することなく、チカみたくみんなに優しい存在になれたら良いな…………)


 “きいろグミ”を美味しそうに食べるチカの横で、“あかいグミ”を頬張るボクはそんなことをうっすら考えていた。


 「さぁ………頂上まであと少しだよ。がんばっていこうね、ユウキ♪」
 「うん!」


 しばし休憩をしたボクとチカは再び前へと歩き出した。次の7階、そして頂上に向けて。


 「あ!アイテムが落ちてるよ!?」
 「え?…………あ、これは“ピーピーマックス”だね!」
 「“ピーピー…………マックス”?」


 ここにきてまた聞き慣れない単語を口にするチカ。目の前に転がってる手のひらサイズの小ビンのことを指していることはすぐに理解できたけど、“元人間”なボクはその効果を当然ながら知らない。反応に困っていると、いつものようにチカがニコッと笑いながらボクに説明をしてくれた。


 「これは私たちポケモンが繰り出す技の元気の源、“パワーポイント”を回復させてくれるアイテムなんだよ?その“パワーポイント”を略した“ピーピー”をマックスまで回復するアイテムだから“ピーピーマックス”って呼ばれているんだよ」
 「な…………なるほど……………」


 急に頭が痛くなるような知識の登場。思わずボクは苦笑いをした。彼女は相変わらず楽しそうにニコニコとしているけど。やっぱり好きなことは自然と楽しい気持ちが出てくるのかもしれない。


 「カクレオンのお店だと結構良い値段がするから、なかなか手に届かないんだよね。だけどたくさんバトルをすればするほど“PP”って減っていくから、ホントは常備しておきたいアイテムなんだ」
 「そっかぁ。じゃあ大事に使わないといけないね。1本しか無いってことはどっちかしか回復出来ないってことだし…………」
 「うん」


 そっかぁ、ポケモンの技のエネルギーって無限に使える訳じゃないのか…………。チカの話を聞かなかったら何も考えずにドンドン技を繰り出していたかもしれないな。これからはちゃんとペース配分考えながら救助活動していかなきゃ。ボクはそのような事を考えながら“ピーピーマックス”をチカの提げる道具箱の中へと入れるのであった。


 「あっ!階段だよ!!」
 「やったね!!」


 それから少しして、ボクたちは次の階段を見つけた。つい嬉しくなって自然と笑顔も溢れてくる。ああ………なんて幸せなんだろうか。チカの笑顔を見てるとついこんなことを考えてしまう。そういえば何とも言えない感情のとき………いつもチカの優しさとか笑顔なんかがそれを打ち消してくれた。そんな気がしていた。


 (笑顔って良いよね…………。ボクもたくさん笑顔になれるように頑張らなくちゃ)


 ボクはまたチカから学んだ。彼女みたいな“パートナー”に出逢えて良かったと、心からの幸せを噛み締めつつ…………共に次の7階へと進む階段を昇ったのである。







 「よし、がんばるぞ」


 ボクはチカに聴こえぬように小声でつぶやいた。一昨日は自らの不甲斐なさもあって失敗した救助活動を、今は彼女と一緒に出来ている。だけど大分くたびれてきているのも事実で、一歩一歩の足取りが重くなってきてるのも確かだった。さっきグミを食べて多少小腹が満たされた部分もあるけれど、それだってどこまで持ってくれるかわからない。道具はチカがある程度買い物をしてるとはいえ、こちらも最後までキチンと持ってくれるかはかなり不確かな部分があった。だからこそ、今一度粘りが必要なときが来てる。ボクはそのように思った。


 「あ、ユウキ………」


 背後にいるチカも何かを感じてくれたかも知れない。スタスタと急に歩くスピードが上がったボクの姿を哀しそうな目付きでしばし見送っていた。でもそれも束の間の話。すぐにブルンブルンと左右に頭を振って、その背中を追った。


 (またユウキのことだから、抱え込んじゃうかも知れない。そうならないように私が支えてあげなきゃ………!!)


 だがそのときである。チカが背後から襲撃されたのは。ドカッと鈍い音がして彼女の甲高い悲鳴が聴こえてきたのを、ボクは聞き逃さなかった。これまでも幾度なく背後から襲撃されるこのパターンはあったけれど、それでもこうして同じようにやられてしまうことを考えると、やはりダンジョン内に住むポケモンたちのバトルの上手さが、まだボクたちよりも勝っているって事なんだろう。悔しいけれどまだまだボクたちは未熟者なんだなって痛感させられてしまう。でも………今はそんなことを言っている場合ではない。チカを助けなければ………!


 「チカ、ボクの後ろに下がって!あとは任せて!!」
 「う…………うん。ありがとう、ユウキ…………」


 さっきまでの自信に揺らぎが出てきたのか、チカは黙ってボクの指示に従ってくれた。涙目でなんとなく顔が赤くなっているような気もしたけど、うつむいていてよく確認できなかったから何とも言えない。


 「なんだお前!?そいつの仲間なのか?…………あ、そのスカーフは…………さては救助隊だな!?追い払ってやる!!」
 「出来るものならやってみろ!」


 ボクは目の前で闘争心をメラメラと燃やしているけんかポケモン、バルキーの言葉に反論する。それもかなり強い口調で。するとそれまで会ったポケモンたちのように、バルキーも「なんだと!生意気なぁ!!」と応戦してきて“たいあたり”をしてきたのである!!


 「危ない!!ユウキに攻撃しないでよ!!」
 「チカ!!」


 そのやり取りを見ていたのだろう。ボクの背後にいたはずのチカが飛び上がり、そのままバルキーに向かって突撃したのである。まるでボクが存在しないかのように駆け抜ける突風のごとく。しかも直後に相手の「ぐわっ!」という声が聞こえてきたことから、パワーも精度も中々のものだと感じた。


 (これは…………“でんこうせっか”か!!)


 気持ちでは「元人間」だと思っていても、感覚的にはすっかりポケモンだ。すぐにチカの技の数々なんかを把握できるようになってきたところを見ると、チカ以外のポケモンからは「元人間」だと言うことをそうそう見破られはしないだろうな…………と、ボクは思った。


 それにしても………彼女はなんて頼りになる“パートナー”なんだろうな。結局攻撃を受けて相手が怯んでる隙に、「ユウキ!行こう!」と一声かけて手を引っ張りつつ、駆け足でその場を離れたのである。確かに相手が倒れない程度に自らのピンチを掻い潜るにはこの方法が無難だろう。またしてもチカの機転によってボクは助けられたのである。


 「はぁ………はぁ………はぁ………もう大丈夫だと思うけど…………」


 かなりの距離を全力で走ったこともあってボクも、それからチカも息が上がっている。せっかく気持ちが落ち着いてきたのに、これじゃ台無しである。だからといってのんびりするわけにもいかない。完全に倒していない以上またバルキーが追いかけてくる可能性はあるし、そうでなくてもその他のポケモンと出会すかもしれない。


 「早いところ階段を見つけなきゃ…………!行こう、ユウキ!」
 「あ………うん!そうだね…………」


 チカもそんなことを感じたのかもしれない。覚悟を決めたように表情を引き締めたと思うと、彼女はそのままボクの手を引いてまた歩き始めたのである。このときにボクが一瞬ドキッとしたのは内緒。なんでかって?彼女のことがこれまで以上にカッコよく感じたからだよ。


 (これじゃあ本当にどっちが“リーダー”か、わからないや。まぁいいか………チカはやりがいを感じてるみたいだし、変にでしゃばらないようにしよう…………でも、)


 チカがピンチになったら有無を言わずにボクがガッチリと助けるんだ………………なんて、握ってくれる黄色い小さな手から温もりを感じながら思っていたそのときである…………!!!


 「階段だ!!ユウキ、いよいよ頂上は近いね!!」
 「うん!あともう少しだ!がんばろうね、チカ!!」
 「うん!」


 ………これだ!この感覚。この弾ける笑顔が欲しかったんだ。先が見えなくて物凄い心細くて不安が募るこのダンジョンの中での数少ない癒されの場面。チカのこの嬉しそうな笑顔を見たくて………だから頑張れる自分がいるんだ。


 (6階のときにも感じたけど、やっぱり笑顔って良いよね………。ボクもチカみたく心の底から笑えるように………もっと肩の力を抜きたいな…………)


 がむしゃらに全力尽くすことならボクは出来るけど、リラックスした状態で救助活動をこなすのはなかなか出来ない。だからついカリカリしてしまうんだろうなって、自分でも原因はわかってるから…………だからこそチカのような底抜けの明るさを見習っていこうと思い始めていたのである………。


 実現するまでの時間は長いかも知れないけど…………。 








 「この階を越えたら………いよいよ頂上か…………」
 「そうだね…………ここまで長かったね」


 感慨深そうにチカが呟く。確かに。一度は心がバラバラになって、チームの解散の危機もあって、救助依頼を失敗して………虚無感や一言では片付けられない挫折から立ち上がってここまで来た…………そうやって振り返ると、彼女がそんな感情になるのも何だか納得出来た。


 「でも、まだ終わりじゃないんだよね。この先にいるディグダとダグトリオ………その父子を助けない限りは………」
 「そうだよ、チカ。むしろそれが本当の戦いになるんだ。負けないように頑張らないといけない………」
 「うん、そうだよね。頑張っていこうね、ユウキ!!」
 「もちろんさ!」


 不安そうな表情を浮かべたチカ。でもそれも一瞬のことで、まるで夜明けの朝日のようにパーッといつものような明るい表情へと変わっていく。そんな彼女を見ていると自然と自分まで笑顔になっていった。そして元気や「勇気」がみなぎってくるのだった。


 (よーし!頑張るぞ!)


 意を決して足取り強く先へと進む。感情を表現するしっぽの炎もメラメラと大きく燃え盛っているところで、きっとチカもボクのそんな気持ちを察してくれているだろう。何も言わずにボクの後ろをついてきてくれた。


 しかし物事はそんな簡単にはいかない。もう大丈夫だと思ったこの8階でも、ボクたちへの襲撃は収まることはなく、そればかりかむしろ酷くなったような気がする。疲れも重なっていることもあって、もうウンザリというのが正直な気持ちだった。だからと言って襲撃されっぱなしと言うわけにもいかず、投げやりな感情で次から次へとボクたちはポケモンたちを倒していった。


 「ふぅ…………。なんとか倒すことが出来たな」
 「そうだね………。おかげで体力も使ってしまったけれど………」
 「……………」


 チカが不安そうに呟く。いつもならこんなてき、きっと明るい表情で返事をしていたと思う。やはり頂上を前に一層緊張感が出てきているんだろう。ボクだって出来れば万全の状態を保ちたかったところだったけど、こうなってしまったからには仕方ない。


 「悲観的になるのは良そう、チカ。どのみちもう後戻りは出来ないし。綺麗事を並べちゃうかも知れないけど、今出来ること………ベストを尽くしていこう?」
 「ユウキ…………」


 自分でもこの助言にはしっくり来てなかった。でもこれ以外の発言が出てこなかったのも事実。ボク自身自分にも言い聞かせたくて、こんな発言になったんだと思う。そんな頼りない言葉を贈られたもんだから、ますますチカには不安が生まれることになった。でも、だからと言って歩みを止める訳にはいかない。


 「さ、早いところ頂上への階段を探そう?」
 「////////!!?」


 ボクは半ば強引に彼女の手を取って歩き始めた。飛びっきりの笑顔を見せながら。



 …………心の準備が出来ていなかった私はビックリして返事も上手く出来ませんでした。だってあんなに言い合いになったり、落ち込んでばっかりだったユウキからまさか…………こんな温かみの感じる誘いを受けるなんて思いもしなかったから…………。照れくささと嬉しさと色んな気持ちが絡まっているせいで顔が赤くなってないかなと心配でしたけど、なぜだかこのときは幸せな気分だったことをよく覚えています。……………考えてみたら、エーフィさんに追い出されてから、ユウキに嫌われたくないって背伸びしていて疲れていたのかもしれません。


 (色んなこと言われて言い合いになったりしたけれど、ユウキは私のこと嫌いじゃなかったってことだよね?良かった…………)


 安心感が出てきたおかげなのでしょうか。良い意味で緊張感が抜けていくのを感じました。そしてそのとき私は、改めてユウキの目の前では笑顔を忘れないようにしようって心に決めたのです。


 「“いっしょにいこう”?チカ」
 「うん…………ありがとう//////」


 ですが私はまだ恥ずかしさが抜けず、上手に笑うことが出来ませんでした。ユウキから笑顔を向けられても、俯いて小さく頷いて返事をするのがやっとでした。それでも良かった。こんなに幸せな気持ちになれたのっていつ以来かわからなかったから。


 (ようやくユウキと気持ちがひとつになれた気がする。守ってくれそうな感じもするし……………嬉しいな。幸せだな……………)


 ……………でも、この時間も決して長くは続きませんでした。






 「え!?…………なんだ?手が離れていく!」
 「いや!!どうして!!いや!!離れたくない!!ユウキ!!ユウキ!!」
 「チカ!!」


 しっかりと握っていたはずの私の手とあなたの手。それが勝手に離れていきました。だからと言って反発しようとしても、全く体が動かせない状態。まるで誰かに身動きをコントロールされてるみたいでした…………え?


 (これってあのときに似てる………!もしかして“ねんりき”!?)


 そうです。エーフィさんから良いようにやられて追い出されたあの日と感覚が似ていました。だとしたら必然とこの近くにポケモンが潜んでいる証拠。恐らく私たちの存在を知って動き回っている住民の仕業でしょう。更に!


 「これでもくらえ!!!」
 「え!?まぶしい!!?」
 「ユウキ!!?」

 
 気がついたら私たちはめいそうポケモンのアサナン、それからくわがたポケモンのカイロス………この2匹のポケモンに道を塞がれていました。きっと自分たちに向けて“ねんりき”を送っていたのはアサナンなのでしょう。しかも、それだけでは終わりませんでした。彼はおもむろに“ふしぎだま”を取り出すと、それをユウキに向けて投げたのです!するとどうでしょう…………。ユウキは目の前から消えてしまったのです!


 「消えた!?………違う!バッジがまだ光っているってことは、この階のどこかにいる…………!!もしかして…………“ワープだま”!?」
 「ハッハッハッハ!そうだよ!気に入らない救助隊を潰してやろうかって思ったけど!お前らのイチャイチャっぷりに、なんだか無性にイタズラしたくなってさ!!」
 「イチャイチャって…………違うよ///////!!勘違いしないで!私とユウキはそんな関係じゃない!同じチームの仲間だよ!変なこと言わないで!離してよ!!ユウキを探させてよ!!」
 「させるかよ!!“はさむ”!!!」
 「いやああああああああああ!!!」


 アサナンの“ねんりき”が解かれてようやく身動き出来るようになったのも束の間、私はすかさずカイロスに襲撃されることになったのです。しかも先ほどと違って今度は激痛を伴いながら。思わず動かせる部分を精一杯利用してカイロスに「やめてえぇぇ!!痛いいいいいい!!離してえぇぇぇ!」と叫ぶように訴えかけたのでした。勿論彼には全くその声は届いていなかったでしょうけど…………。


 (ユウキ…………ユウキ!!!)


  ______助けて……………!!



 「イテテ…………なんだかよく分からないところに飛ばされちゃった…………」


 一方でその頃ボクは自分がどこにいるのか全くわからないでいた。周囲を確認してもアサナンやカイロス、それからチカのいる様子は感じられない。唯一希望を感じたのはバッジが輝きを放ち続けていたこと。これはチームの仲間…………つまりチカが同じ階にいることを意味していた。


 「早いところ………合流しないとな!!」


 ボクは急ぎ足でダンジョン内を動いた。本来ならば気持ちが折れそうな場面かも知れないけど、そんなことは言ってられない。それに決して悪いことばかりではなかった。チカから受け取ったものとは異なる色だけど、“しろいグミ”と“だいだいグミ”という二色のグミを拾ってみたり、“ピーピーマックス”を見つけたりすることも出来た。それだけでなく“オレンのみ”だったり、“ばくれつのタネ”、“しばられのタネ”などを見つけることもできた。


 (これだけあればチカのこと安心させること出来るぞ………!)


 あまりにも予想外の好材料を得たことで、ボク自身も嬉しさが込み上げてくる。あとはチカと合流するだけだった。道具箱はチカが所持してるので、見つけたアイテムは両手で抱えていくしかなかったけど、それでも足取りは軽かった。恐らく何度か他のポケモンに出くわしたのだろうけど、口やしっぽから“ひのこ”を四方八方に放ちながら走ることで難なく切り抜けていった。


 (早いところチカに合流しなきゃ!)



 そんなときだった。遠くからチカの「きゃあああああ!」という悲鳴が聞こえてきたのは!ボクは慌てて声がした方へと向かう!


 「チカーーーー!」


 途中いくつかアイテムは落としてしまっただろう。でもそんなことはどうでも良い。今はチカのピンチを救うのが先なのだから。


 「絶対ボクが助けるから!!」


 …………そこからの記憶はボクには無い。気がつくとチカが背中にしがみついて泣いていただけだった。ただただ、「怖かった…………。怖かったよ、ユウキ………」と小さく呟きながら。


 「独りにさせてごめん…………でも安心して。約束したもんね、“いっしょにいこう”って。だから大丈夫」


 ……………ボクはキミがどこにいようと、必ず戻ってくるから…………。


         ……………メモリー38へ続く。

 

 

 


 







 








 




 


 










 







 
 次回は5月8日(土)投稿です。お楽しみに。

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