Film6-1 もうバレちゃった!? コウジとスダチと夜の学校!

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「__もうすぐ、プレイヤ学園きっての一大イベント、学園祭が開催されます。勉学に励みつつ、みんなが楽しめるような学園祭にしましょう」

 朝イチで行われる全校集会の名物・生徒会長のありがたいお言葉。この時だけは、マドカは壇上に上がっている自分の兄・コウジのことを、知らない人のように感じる。脇には側近のごとく、ちょっと前に激戦を繰り広げた副会長のエイコをはじめとする濃ゆい生徒会メンバーがずらりと並んで立っている。
 マドカが入学した時から副会長として生徒会役員を務めてきたコウジだが、今では中等部の顔的存在。そして秋に差し掛かろうとしている今、その役目を終えるまでのタイムリミットが迫ってきている。最後まで生徒会長としての仕事を全うしようという意思が、コウジの目の奥から見え隠れしていた。

「……なぁ、マドカ。そろそろ降りてくんねぇ? 肩が痛くなってきた」
《はいはい》



★ ★ ★



 全校集会が終わった後、すべての生徒がはやあしで教室に戻るワケではない。全体的にスロースターターな中等部の生徒は、ゆっくりとおしゃべりをしながら教室に戻っていた。マドカとライムもその一部であり、アキヨ&オウリンコンビと一緒にゆっくりとした足取りで階段を登っていく。

「同じ姿勢で1時間もじっとしてるなんて、身体が痛いっての」 
「でも、朝から会長のお姿が見れて、ラッキーだなぁ……」

 アキヨがふいに漏らした言葉を、マドカとオウリンは聞き逃さない。にやにやしている親友とパートナーの顔が近づいてくるものだから、アキヨは顔を真っ赤にして焦っている。ライムはというと、「おいおい」という困ったような冷めたような顔をするにとどまっていた。

「ち、違うよマドカちゃん、リンちゃん! そんな顔しないでよぉ!」
《アキヨちゃん、めっちゃ照れてる!》
《ずーっとコウジくんにうっとりしてたの、ぼく見てたよ》

 わちゃわちゃとマドカ達がはしゃぐ中、「入れて」と言わんばかりに1人の男子生徒が割り込んできた。
 柔らかさの中に、少しごつごつとたくましさをのぞかせる手のひらは、ライムの頭を鷲掴みにする。振り返ると、3年生の印でもある深緑のネクタイをした男子生徒がそこにいた。知っている顔なものだから、ライムは思わず彼の名前を呼びかける。

「コ__お兄ちゃん!?」
「ずいぶん元気だな、お前。集会の時はヘバってたのに」

 コウジがスダチを従えて、そこにいた。イブキとギンの部長コンビも「やっほー」とコウジの背後からにょきっ、と登場する。
 コウジを目の前にした途端、アキヨの顔つきがガラッと変わる。妙に緊張しているというか、ガチガチになっているというか。しかし、すぐ傍にはイブキがやたら距離を詰めてきており、素直に喜ぶことができなかった。いわゆるジェラシーなのだろうが、自分達の部長に攻撃的な感情は抱けない。イブキに掲げられた部長の肩書きが、アキヨの暴走しそうな恋心をセーブしていた。

「か、会長! さっきはお疲れ様です!」
「アキヨちゃんもお疲れ。イブキから聞いてるよ、衣装のこと。スゲーのができたんだって?」
「あ、えっと、その……はいっ!」

 こういう展開、少女マンガで見たことある。なんて甘酸っぱいこと。アキヨの恋路は、マドカとオウリンからすれば見ていて楽しい。実の兄ではあるが、コウジがアキヨの思いに気付いているかどうかは、マドカには分からない。
 コウジは母譲りのクォーターらしいはっきりした顔立ちをしており、スポーツ万能。成績もどちらかといえば優秀で、教師達からの信頼も厚い。いわゆる絵に描いたようなパーフェクト中学生だ。しかし、中身の性格は恋愛とは無縁であることをマドカはよく知っている。恋愛事に疎いライムでさえ、コウジは「ちょっと変わっている」と思っているくらいだ。

「そうだ、アキヨちゃん。ちょっとマドカのことで聞きたいことがあるんだけど……」
「は、はい? 何ですか?」

 イブキとも話してたんだけどさ、と前置きをしたうえで、コウジは一気に深刻そうな顔を作る。お兄ちゃんがこんな顔するなんて、廃部騒動の時ぐらいじゃん__マドカは密かに珍しさを感じていた。

「ここんとこ、マドカとライムが家だと部屋でコソコソしてることが多いんだ。ご飯中にわざわざ席立って、何か話してるような感じもあったし」

 ギクリ。 
 マドカとライムの心臓が跳ね上がったのがよく分かる。アキヨもこれには少しばかり、顔を引きつらせている。生徒会長だからか、きょうだいだからか、その両方かは分からないが、何と鋭いこと__そんな一同の思いも知らずに、コウジは続けた。

「しかも様子が変なの、あの嵐の日からなんだよな」
「そうそう、私も思ってたんだ。運動神経のいいライムが、何日か部活休んだだけで空飛べなくなっちゃってんの。妙っていうか、ここまで鈍るモンなのかなーって」
《それは本当ですの、ライム様!?》

 イブキとスダチもさらにおいうちをかけてくる。スダチに至っては、マドカに食って掛かる勢いで、ちょっと品がないがツバまで飛ばしていた。
 もうやめてくれ。これ以上突かれると自分達の身が持たない。なんとか切り抜けないと。ライムはとっさに思い浮かんだセリフで、その場を切り抜けようと試みる。

「お、お兄ちゃん! 早くしないと、授業遅れちゃうよ!」

 近くの教室に掛けられている時計を見れば、もうすぐ次のチャイムが鳴る時間ではないか。
 生徒会長たる者、授業に送れるのはマズい。コウジは「やべっ、そうだな」とギョッとすると、すぐにその場を立ち去った。こういう時、生徒会長の肩書きは便利だと、マドカとライムはホッとする。
 しかし同時に、コウジに入れ替わりのことがバレてしまうという危機感も生まれている。コウジは勘が鋭い。ただでさえ頭の回転が速く、生徒会長を務めているだけある。ましてや実の家族ということもあり、些細な変化に気付いていても不自然ではない。
 もし入れ替わりのことがバレてしまえば、周りの人達に迷惑をかけてしまうかもしれない__そんな理由から、マドカとライムはアキヨ&オウリンコンビ以外の者には入れ替わりのことを秘密にしていた。その思いは、今でも変わらない。

《ああ見えてお兄ちゃん、変なとこ鋭いから気を付けなきゃね》
「そうだな」



★ ★ ★



「やべっ、理科のノート学校に忘れた!」

 家に帰って来て、ご飯も食べ終わり、いざ宿題をやろうと思ったその時。スクールバッグを目の前にして、ライムは固まっていた。心当たりはある。帰りのホームルームが長引き、急いで部活に行った時。ノートを机の中に置き去りにしてしまったのだ。
 今日出された宿題を、明日提出しなきゃいけないのに。これは夜の学校に立ち入り、ノートを取りに行くしかなさそうだ。

《ライム、学校行くの?》

 読み途中の台本から目を離し、マドカは部屋を出ようとするライムに尋ねる。

「仕方ねーだろ。理科明日の1限だし」
《ひとりで平気?》

 マドカの言葉には何か含みがあるように聞こえる。ライムが「何だよ?」と首をかしげると、マドカはバツが悪そうに「知らないのか」とつぶやいた。ますます何なのか気になるではないか。
 ライムがもう一度尋ねる前に、マドカは重い口を開いた。

《ライムは聞いたことない? プレイヤ学園の七不思議》

「七不思議ぃ?」と疑い混じりで言うライムだったが、その顔には動揺の色が強く表れている。あぁやっぱり知らなかった、でもここまで話したからには言わなければいけない。マドカは仕方なさそうに、話を続けた。

《プレイヤ学園って、ママの代の前後でいじめがすごい代があったんだって。その時いじめられて自殺しちゃった子の幽霊が出るって話が一番有名なんだけど……》

 幽霊。そのワードはライムにとって効果バツグンだったようだ。現にライムの顔が動揺から無へと変わっていくのが分かる。

《他にも、家庭科室で何かを煮込んでいる音がするってのもあるんだって。あ、でも美術室で血まみれになってるように見える名画は、アケビくんがパレットひっくり返したやつだから大丈夫。それから、誰もいないハズの音楽室でピアノが__》
「マドカ、一緒に学校行こう」
《素直でよろしい》

 昔からライムは、幽霊だとかお化けだとか、そのたぐいの話が苦手だ。ポケウッドで公開されていたアンデッド系の映画でさえも、ビビッて涙目になってしまうほどに。
 そんなライムが、ウワサとはいえ七不思議が言い伝えられている夜の学校に行くのは、いろんな意味で心配だ。事前に話しておいて、自分もついて行くことになったから結果オーライだったかも。ライムが「エモ」と3回手のひらに書いて飲んでいるのを見ながら、マドカはそんなことを考えていた。



★ ★ ★



 さぁ、いよいよマドカとライムが夜の学校に入っていくこととなる。
 高等部の校舎はまだ電気がついていたりするが、中等部は職員室にうっすらとした灯りが灯っている程度。下校時間の制約もあるのか、中等部の校舎はほぼ真っ暗と言っても差し支えなかった。
 時間は19時30分。そこまで遅い時間ではないが、何が起こるか分からない。時折自分達を突き刺す風は、ずいぶんと冷たかった。ライムはマドカに肩に乗るよう促すと、学校の敷地内へと入っていった。いつも朝に学校に入っていく手順と同じく、ローファーから上履きに履き替える。ぺた、ぺた、ぺたという廊下を叩く湿った音が、ライムにとってはやけに大きく感じた。

《肩、重くないの?》
「今は心の方が重いわ」
《入院してた時の方が、もっと怖かったんじゃない? 病院だし、幽霊の話とかあってもおかしくなさそう》
「病院は他のポケモンやドクターがいたから、そんな怖くねぇよ。消灯時間の時には寝てたし」
《へぇ》

 いつものように叩き合っている軽口も、今のライムにとっては大きな気休めだ。
 2年生の教室は、5階あるうちの4階。意地悪なことに、エレベーターが夜間は省エネで稼働していないものだから、階段を登って教室まで行くしかない。ますます気が重くなるライムだったが、今自分達がいる場所から一番近い階段へと向かうために、廊下を歩き続ける。
 毎日来ている学校だが、こんなにも怖く感じてしまうのは何故だろうか。七不思議の話を聞いてしまったからか、自分が単にビビりだからか。校舎はしぃんと静まり返っているのに、今ここにいるのはマドカと自分だけのハズなのに、別の誰かやナニカがいるかもしれない__静かな空間の中で、ライムはただひとりで切羽詰まっていた。

《えっ!?》
「ぎゃっ!?」

 急にマドカが驚いたような声を上げるものだから、ライムもつられて喉から声を上げる。マドカの視線は窓__から見える中庭に続いており、ライムも恐る恐る、一緒になって窓の向こう側に目をやる。
 よくよく目をこらして見てみると、野生のズバットやコロモリが中庭を横切って飛んでいくのが見えた。一瞬でも張り詰めた気が抜けたのか、ライムははぁ、と大きく息を吐く。もしここが公共の場でなかったら、へなへなと崩れているくらいだ。

「なんだ、ズバット達かよ……。ビックリするじゃねぇか」
《ごめんごめん、だって外からキィキィ音がするからって__》

 言葉を交わしている最中であるにも関わらず、マドカとライムはもう一度窓の向こうを凝視する。
 マドカ達がいる廊下と中庭を挟んで見える、反対側の廊下。遠くて暗いためによく見えないが、ふよふよと白く光る玉のようなものが宙に浮いていた。

「……あれも、七不思議のひとつなのか?」

 そうでないと言ってくれ__震える声でライムは尋ねるが、マドカの答えはライムにとって残酷なものだった。マドカはこくりと小さく頷くことで、七不思議を肯定してしまう。
 
《中等部の校舎の各地に、火の玉が現れるんだって。1年の時からクラスの子達が言ってた、結構有名な話だよ》
「は、早く2階に上がろうぜ。あれ、こっちにも回って来るんじゃねーか?」
《そ、そうだね》

 学校に入る前は落ち着いていたマドカだったが、七不思議を目の当たりにして明らかに動揺している。凸凹なコンビは意見を一致させ、早足で階段へと向かい、すたすたと2階へと上って行った。



 プレイヤ学園中等部の階段は全部で3ヶ所。東端、西端、そして校舎の中央部。マドカとライムが使った階段は、このうち東側の階段だ。
 マドカのクラスの教室は、東側の階段から見て反対方向__西側にある。2階の廊下を突っ切って、西側の階段を駆け上がるか、ここから4階まで上がってから、西側の教室まで全力疾走するか。

《どっちの方が早い?》 

 マドカの不安げな吐息が、ライムの頬にかかる。さっきの火の玉で高まった恐怖心にブレーキをかけながら、ライムは頭をフル回転させる。あまり考えている時間はなさそうだ。

「そうだな、4階は教室に行くまでに家庭科室があるから、こっから西側まで突っ切った方が安全かと__」

 ガタン。
 おもちゃみたいな物音に、ライムは言葉を中断させた。この音、かなり近い。むしろ、自分達のすぐ後ろから聞こえてきたように思える。
 ここでマドカは、重大なことを思い出した。東階段のすぐそばには、科学室がある。そして、科学室にもよく騒がれている七不思議があるということを。
 何もいませんように、自分達の背後には何もありませんように。すがるような思いで、マドカとライムは後ろを振り向く。凸凹コンビの背後には、まるで待ち構えているように大きな人影が立っていた。人の身体の中身がむき出しになっているような人体模型と、小学校の時はガイコツって騒いでいた骨格標本。片やプルプル小刻みに震えながら、片やガチャガチャと四肢から軽い音を鳴らしながら、2つの無機物はマドカとライムににじり寄ってくる。まるでそれに合わせるかのように、ライムは後ずさりしていた。

「……マドカ、いいか? せーので行くぞ?」
《うん。そのつもりだよ》

 いい覚悟だ。マドカとの気持ちのシンクロにちょっと嬉しさを感じたライムは、すぅっ、と音を立てて大きく息を吸う。

「せーのっ__」  

 合図を口にすると同時に、ライムは人体模型達に背を向ける。マドカはぐっと力を込めて、ライムの肩にしっかりと掴まる。そして。

「ぎゃあああぁああああああああああ!」
「エモォオオオオオオオオオオオオオ!」

 悲鳴を合唱させた凸凹コンビは、いちもくさんにその場から逃げ出した。
 しかし、恐怖はこれだけで終わらない。なんと人体模型と骨格標本の無機物コンビが、マドカとライムを追いかけてくるのだ。人間の足の速さと大差ないどころか、素のスピードはライムより速いかもしれない。息が詰まりそうになりながらも、ライムは無我夢中で逃げ続ける。緊張からか、あるいはまだ慣れ切っていない人間の身体だからか、心なしか体力が削られるのが早く感じた。
 ライムがへろへろになりかけている間にも、無機物コンビと凸凹コンビの距離は縮まる。そしてついに、恐れていたことが起こってしまった。

《ひぇっ!?》

 ライムの肩から、マドカが離れてしまう。ライムに追いついた骨格標本が、マドカを尻尾からつまんで捕まえてしまったのだ。
 ライムはすぐにばっ、と振り返る。ぜい、ぜいと乱れた呼吸を整えて、改めて無機物コンビと対峙するが、正直怖かった。人体模型も骨格標本も、何かに取り憑かれたかのように目が青白く光っている。

「お前ら、一体何なんだよ! マドカを放せよ!」

 いくらライムが声を荒げても、無機物コンビ達は言葉で返すことはない。まるで楽しく踊っているかのように、カタカタ身体をゆすることで、ライムに返事をしているかのようだった。
 もちろんその意図は、マドカにもライムにも汲み取れない。だからこそ、底知れない不安や恐怖がさらに短時間で加速していった。
 
《ライム! ライムだけでも逃げて!》

 つままれたままのマドカの声が、辺りに響き渡る。

「何言ってんだよ! お前だけ置いていけるワケねーだろうが!」
《でもこのままじゃ、ライムまで危ない目に遭うかもしれないよ!》

 ライムだけでも無事でいて欲しいと願うマドカと、どうにかしてマドカを助け出したいと強く思うライム。お互いの気持ちが相反するのは、今に始まったことではない。
 しかし、この緊急事態。どうするのが一番正解なのだろうか。
 迫ってくるオバケモドキは怖い。でも、マドカが危ない目に遭うのはもっと怖い。逃げるにしたって、足がすくんで動けない。どうすればいいんだ__ライムが万事休すかと思ったその時。



「ピーカ~……チュゥウウウウウウウウ!」



 どこからともなく、強い電撃がライムの隣を走っていった。電撃は人体模型と骨格標本に狙いを定めていたようで、しっかりと無機物コンビの隅から隅まで浴びせる。この威力、クセはライムもよく知っている。実力のあるでんきタイプのポケモンがたいていは覚えているワザ、『10まんボルト』だ。
 ほどなくして、電撃をひとしきり浴びた無機物コンビ達は、ガラガラと音を立ててその場に崩れる。解放されたマドカは、すぐにライムの元へと戻っていった。

「マドカ、大丈夫か!?」
《な、なんとか! でも、一体何が起こったの?》

 状況が整理できていない中、マドカとライムの背後から意外な登場人物が現れる。ピンクのリボンを耳につけた、女の子のピカチュウを従えた、緑のネクタイを締めた少年。ライムにとっては家族、マドカにとっては実の兄であるコウジとそのパートナー・スダチがそこにいた。
 コウジは「よくやったな、スダチ」とパートナーの頭を軽く撫でると、すぐに崩れた無機物コンビに向き直る。

「ダメじゃないか、お前達! また夜の学校でイタズラしてんのか?」

 叱りつけるような厳しい口調でコウジがそう言うと、崩れた人体模型達のから、すぅっと何かが姿を現す。ヒトモシ、カゲボウズ、ゴビット__どれも小さなゴーストタイプのポケモン達ではないか。
 彼らはおずおずとマドカ達の前に姿を現すと、シキジカのような目をこちらに向ける。なるほど、だんだん話が読めてきた。ライムはこの七不思議のカラクリに気付きつつあった。
 きっと、この人体模型達はゴーストポケモン達の力によって動かされたのだろう。そしてコウジの言葉から察するに、これはイタズラ。しかも初めてではないようだ。

「こいつらは俺の家族なんだ。ごめんなさいできるか?」

 コウジに諭され、ゴーストポケモン達はごめんなさい、の意でマドカとライムに頭を下げる。

《いいよいいよ。イタズラだって分かったんだから》
「そういうことだ。マドカも無事だったんだし。でも、もう驚かせんなよ?」

 彼らが反省しているのはよく分かった。それだけで、マドカとライムは十分だった。許しを得たゴーストポケモン達は安心したような顔をすると、踵を返してマドカ達の前から姿を消した。
 これにて一件落着。マドカもライムも力が抜けたのか、その場にぺたんと座り込む。

「なぁんだ、ゴーストポケモン達のイタズラだったのか」
《でも、本物のお化けとか心霊現象じゃなくてよかったよね》
《その通りですわ。マドカ様が捕まっているのを見た時は、どうしようかと思いましたわ!》
《えへへ、めんぼくない……》

 自然な形でスダチが会話に混じっており、マドカも何も気に留めずに返している。一方で、ライムはスダチの言葉に凍り付いたような顔をしていた。

「あの、スダチ、ちゃん。今なんて?」

 スダチはライムに振り返ると、ちょっと強気に目を細めた。マズい。これは完全に感づかれている。ライムは自分の顔が引きつっていることに自覚症状があった。

《マドカ様が捕まっているのを見て、っておっしゃいましたのよ?》

 マドカもスダチの言葉の意味をようやく理解したのか、「ヤバい」と両手で口元を抑える。そもそも、コウジ達から見たマドカが、ポケモン同士の会話についていけているところから、もうおかしいと思われていても自然なことだ。絶体絶命の状況で、マドカもライムもお互いを演じることを忘れてしまっていた。もう引き返せないところまで来ていることは、よく分かっていた。

「いや、マドカはあたしで、そこにいるのはライムで__」
「もう分かってるぞ、マドカ」

 弁解しようとするライムの言葉を、コウジが無理やり中断させる。ライムが顔を上げると、すべてを見透かしたかのようにコウジが見下ろしていた。何故だか元の身体の時よりも、ずいぶんと大きく見える。
 兄の鋭くくろいまなざしに囚われ、マドカもライムも身動きが取れない。コウジは不敵な笑みを浮かべると、少し言葉を溜めて、改めて『ライム』に問う。

「いや、ライムって言った方がいいかな?」

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