第131話 さようならまでのタイムリミット

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 朝の日差しがカーテンから差し込み、眩しそうに目を細めると太陽とは逆の方向に身を傾け、ベッドのすぐ下に落ちていたポケギアを寝転んだ姿勢のまま拾い上げる。

 すると一つの新着メールが深夜に届いているのに気付いた。タップして開けば差出人の名前はマイと表示された。
 

「ハァ!? なんだよこのメールは!」


 寝惚けていた目がぱっちりと開く。その内容にゴールドは朝から大きな声をあげる。
 

『ゴールド、おはよう。わたし、2のしま には ひとりでいくことにしたよ。ゴールドにいったら きっと はんたいするって わかるもん、おこらないでね。だいじょうぶ、だって わたしチャンピオンだよ。ぜったい つよく なって かえってくる から しんじて まっててね。じゃあそれまで、またね』

 
 何度も読み返しても書いてある内容は変わらない。むしろ変わったら怖い。
 足音を立てながら階段を降りて洗面所に向かうと顔を洗って、歯を磨くと誰に言うまでもなく一喝。
 
「こんな平仮名ばっかのメールに安心できる訳ねーだろ! せめて漢字変換使えよ! 余計心配になんだろーが!」
「あらあら、そこ怒るポイントなの?」
 
 思春期の子供に嫌そうな顔一つせず母親がキッチンから覗いていた。

「おはよう! 母さん、この内容のメールを見てマイが心配にならねーのか? また右腕が動かなくなったら……!」
「おはよう。そりゃ心配するわよ? けど、女の子って案外強いのよ? たまにはマイちゃんを信じてみなさいよ。ふふ、心配性な所はお父さんそっくり!」

 怒りながらもキチンと挨拶を交わすのは教育のおかげだろう。
 朝ご飯をテーブルに並べ終わると母親は席に座りゴールドを待つ。 

「あー! こうしちゃいられねぇ! ウツギ博士の所行って来る!」
「朝ご飯は? まぁいいわ、行ってらっしゃい~」
「帰ってきてから食べる! あいつ、昨日の夜までは変わらなかったのに!」

 しかし、ゴールドは席に座ることなく玄関に足を運び、スケボーを手に取ると宣言通りの場所に向かう。
 焦る気持ちを抑えながら昨晩の出来事を思い返すことにした。
 


「わたし、もう行かなきゃ」

 夜八時、マイはゴールドの部屋でいつも通りベッドの上でくつろいでいたが時計を見ると立ち上がり、持ってきていた荷物をまとめると扉へと歩こうとする。

「ん? 泊まってかねぇのか?」
「んー、最近ずっとお泊まりさせてもらってるから今日はいいかなって」 

 ビリヤードを楽しんでいたゴールドの手が止まり疑問を投げかけると、目をつぶり理由を考えていたマイから答えが返ってきた。

「そうか? 俺も母さんもマイが泊まってくの楽しみにしてんだけどな。まぁ、ウツギ博士も恋しくなるか」
「そだよー! あ、ねえ。最後に一つお願いしてもいい?」
「お願い? おう、言ってみろ」

 変な所で律儀な奴、そう思った。そう言う所が好きだったりするのだけども。
 寂しい事を勘付かれないように茶化してやれば素直に受け止められたが、左手の人差し指をピンと立てたマイがウィンクしながらお願いしてきた。
 いつもはそんな事しないから内心戸惑いながらも受け答えする。

「頭、撫でてほしいなぁ」
「そんな事かよ。ほら、こっち来いよ」
「わーい! ありがとー!えへへ」

 たいしたお願いでもない。いつもと変わらないじゃないか、何となく安心するゴールド。
 大きくて骨張った手に撫でられるとマイは気持ち良さそうに頭と身体をゆっくり揺らす。

「変な奴だなお前はよォ。ほら、行くぞ。送ってくから準備しな」
「はーい!」
 
 すぐにリフレッシュタイムは終わらせ、ゴールドは自分の帽子を被ると玄関へ歩き出した。ウツギ宅まで送り届けるとマイの笑顔を見てゴールドも自宅へ戻る。そして、また明日が来て、なんてことない日常が始まるのかと思っていたのに。 

「あの行かなきゃってそう言う意味だったのかよ! 最後のお願いってなんだよ! クソ!」
「ぱむぅ?」

 昨日の会話を思い出して現実世界へと戻って来ると苛立ちに溢れていた。スケボーを蹴る足が荒く、モンスターボールから出て来たエテボーテに心配される。 

「あー、エーたろう。悪かったな、ごめんよ驚かせて。よっしゃー! お前らダッシュで行くぜ!」

 立ち止まりエテボーテスの頭を撫でてやると、気持ちを切り替えたようにゴールドはスケボーから降りて抱えて走り出す。
 

◆◆◆

 
「にゃにぃ~!? ウツギ博士も知らなかっただとー!」
「いやはや本当に突然過ぎてぼくも何がなんだか分からないんだよ……うう」
「オイオイ泣くんじゃねぇよ! 父親だろ!」 

 ウツギ宅に着くとウツギ博士が寝間着姿のままリビングに座り込んでいた。
 ゴールドが来た事にもはじめは気づかなかったらしく肩にキューを付けられてようやく分かったらしい。
 マイがいつ出て行ったのかも分からないと泣きながらウツギ博士に言われると思わず言葉を強く発してしまう。

「そ、そうだね。僕はマイちゃんのお父さんだ。信じないと、帰って来ると」
「おう! ってまぁ、そうなんだけどよ……心配じゃねぇのかよ」
 
 ウツギ博士が体育座りになっている日の当たる場所、ここはいつもマイが外を眺めている特等席だ。温もりが残っているのかカーペットを優しい手つきで摩るウツギ博士。哀愁が漂っている。

「そりゃ心配だよ。今すぐにでも連れ戻したい。けど、ルギアに乗っていたら探しようがない……」

 両手を強く握り締めて震えているウツギ博士にゴールドは目がそこから離すことが出来なくなる。自分以上にきっと不安なんだろう。 

「ルギア? リューくんじゃなくてか?」
「実は研究室に置いてあったルギアがいなくてね……」

 マイが所持しているメンバーで空を飛ぶポケモンはカイリューのみ。まさかルギアを利用するとは思わなかった。カイリューもポケモン界ではトップに君臨する実力派だがルギアとなれば話は別だ。

「盗まれた訳じゃなくて?」
「流石にそれはないよ。厳重に保管してあったからね。鍵は僕しか持っていないし、それに鍵のありかも僕しか知らない。だって、鍵は僕の部屋の鍵と同じだから……」

 元々はマイが捕獲したポケモンだが、扱う事が困難と判断しウツギ博士に預けていた。一度だけ言うことを聞かせたが、戻しに来たらしい。
 預ける際に「保管庫の鍵は僕の部屋の鍵と同じだから無くさないようにしないと、あはは~」なんて言ってしまったそうだ。

「まあ、ウツギ博士の部屋の鍵を持ち出せるのはマイしかいないけど……」
「これは大変な事になったよ……」

 男二人で肩を落とし、深いため息をつくしかなかった。 

「俺、レッド先輩に会って来る。あの人なら2の島について知ってるかもしれねぇから!」
「うん、行ってらっしゃい。何か分かったら連絡してね」
「ああ! 分かった! ちょっくら行ってくらァ!」

 ゴールドはマサラタウンに向けて、走り出そうとしたが立ち止まる。

「俺、空を飛ぶポケモン持ってねぇ! レッド先輩に来てもらうしか出来ないじゃねーか!」

 思えば旅は徒歩、何かあったらマイのカイリューに乗せてもらうかアヤノのギャラドスに乗せてもらっていた。
 空を飛べるポケモンを捕獲すればいいが時間が勿体無い。ポケギアでレッドに電話を掛ける。

「もしもし、レッド先輩! 実はマイが……!」

 ゴールドとマイの追いかけっこがはじまった。マイは今どこにいるのだろうか?

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。