HR35:「単純思考で熱くなれ!?」の巻

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 お待たせしました!きょう(2021.4.25)から再開です!カゲっちと仲間の物語をぜひ楽しんでくださいね!
 やっぱり9つもポジションがあるせいか、それぞれの守備のことを色々覚えるのも大変そうだな。6月に「カントリー・リーグ」が始まるわけだけど、それまでにはなんとか足を引っ張らないくらいには上手になりたいな。


 (あとはセカンドとファースト、キャッチャーとピッチャーにボールが飛んできてないことになるんだな。どんな動きになるか見ておかないとね)


 まだ僕の出番がある訳ではない。それでもセカンドを守っているリオの方へと打球が飛んできたら即自分とチェンジするわけだから、決して気を抜ける状態でもない。今のうちに少しでも周りの経験者のプレーを見て学ばないと、酷く後悔しそうな感じがした。


 「次、行くぞ!!」
 『こーーーい!!』


 キュウコン監督はグラウンドからの元気の良い声を聞いて、小さく頷く。そうしてからボールをポンと垂直に放り投げ、そしてタイミングを合わせてこれまでと同じようにバットをスイングしたのである!


    カーーーーン!!!
 「しまった!!ライナーだ!」


 鋭い打球が飛んできた瞬間、リオは叫んだ。まっすぐ勢いよくこのような打球は“ライナー”といって、バウンドする前にキャッチすることが出来ればふわりと高く上がる“フライ”と同じようにアウトという扱いに出来るのだが、何せ“タネマシンガン”のような勢いだ。その打球が飛んでくる場所を瞬時に予測して行動を判断しなきゃいけない。このときはセカンドのリオとファーストのルーナのちょうど間を抜けようかって感じだった。叫んだ瞬間に間に合わないと感じていたのだろう。悔しそうに歯を食い縛っているような姿が、僕にも確認できた。


 「抜かせるかよ!おらぁぁぁぁ!!!」
 『!?』


 気合いの入った声がしたのはその直後だ。ファーストのルーナが目一杯左手を伸ばしながら右方向…………つまりセカンド方向へと横っとびしてきたのである!!しかしタイミング的にはかなり微妙だったし、何よりボールは彼の赤いファーストミットよりも高いところを通過していってしまったのである。


 「ちくしょう!!捕れなかった!」
 

 ライトを守るラッシー先輩の前でボールが弾むのを目撃しながら、ルーナは悔しさを滲ませていた。何しろこれは守備練習で初めてアウトに出来なかったことを意味しているのだから、仕方ないだろう。それでもエースのヒート先輩からゲキを飛ばす声が容赦なく飛んできた。


 「お前ら悔しがっている場合じゃねぇだろ!まだプレーは続いてるんだ!早く中継に入れ!ランナーが走ってくんぞ!」
 「は、しまった!すみません!!」


 そう。本来ならライト前に打球が弾き返されてしまったら、ランナーの余分な進塁を阻止しなければならない。既にキャッチャーであるラプ先輩からの指示でショートのピカっちは慌てた様子で二塁ベースに入っていたのだが、ライトからの送球をキャッチしてピカっちへと送球へとつなぐ“カットマン”と呼ばれる役目を担わなければならないリオの姿がなかった。それだけでなくルーナも一塁ベースへと向かう必要があるのに、それさえも出来ていないのだから、ヒート先輩が怒り出すのも無理はなかった。


 「野球の基本だろうが!!?審判がファールって言うまでプレーが続くのは!!くだらねぇミスしてんじゃねぇ!!それでも経験者か!?だらしねぇ!!」
 「まぁまぁヒートも落ち着きなさいよ。ルーナもリオちゃんも反省してるみたいだし」


 予想外のプレーもあり、ランナー役を担う“みがわり”はあっという間に二塁へと到達してしまった。別に試合では無いとはいえ、やはりランナー二塁以降のピンチの場面となると、緊張感がより一層強くなる。というのもこの場面、下手をしてしまえば一気にランナーがホームインして失点につながる可能性もあるし、失点に繋がらなくても更なるピンチを招く危険性があった。だからこそ余計にミスは防がないといけないのだ。


 「ちくしょう。アイツら余計なことしやがって………」
 「まあまあ、そんなカッカしないの。覆水盆に返らずよ。それよりも大事なのはこれ以上のミスをしないこと。変にヒートの顔色伺って、みんなの動きが悪くなったらどうするつもり?」
 「そりゃそうだけどよ………」
 「6月まで時間は無いんだから、余計なプレッシャーを与えないようにしなさい。良い?」



 キャッチャーのラプ先輩が、マウンド上で怒りを抑えきれないヒート先輩をなだめる。昨日の15球勝負のときもそうだったが、どうもこのヒート先輩は完璧主義者的な雰囲気を持っている。ポケモンバトルでもきっと同じだと思うんだが、ピンチを迎えたとしてもやり方次第でいくらでもそのピンチを拡大せずに済んだり、或いはピンチの芽そのものを摘むことだって出来るはずだ。野球にはそんなことが出来ないのだろうか?…………僕は疑問を感じていた。


 「しっかり集中しろ!ほら、次!!」
 『来ーーーーーい!!』


 周りが落ち着いたところを見計らって、キュウコン監督がバットを振った。直後にカーーンという音が再びグラウンドに響いたのである。





 「また一二塁間だ!今度はしっかり捕れよ!」


 ヒート先輩がマウンドから降りて一塁ベースへと走る!一、二塁間での打球ではピッチャーがファーストの代わりに「ベースカバー」と言って、ボールをキャッチしたファーストかセカンド、どちらかの送球に備えなければならないからだ。翼を使えばより速いのではという意見もあるが、羽ばたきながらベースカバーをするとどうしても周りのメンバーとテンポが合わず、それでエラーを引き起こす可能性もあるため、彼は自重しているとのことだが。


 「そんな何回もエラーなんてするかよ!!そりゃあ!!」
 「ちょっ!!僕が処理しようとしたのに………!」
 「うるせぇよ!ルーキーは黙ってろ!経験者だからっていい気になってるんじゃねぇぞ!」
 「そんな!!」


 監督からノックされた打球の行方を先に予測したのはリオである。彼女はバウンドにタイミングを合わせつつ、ボールを後ろに逸らさないようにするために体の正面でキャッチするイメージで移動させていた。しかしそこへ自分より体の大きいルーナが、自分より迅速に打球を処理してしまったことに気分的に盛り下がるのを感じていた。


 (…………仕方ないや。僕も久しぶりにやるポジションだから、感覚を思い出さなきゃいけないし。それにカゲっちくんにも動きを観察する時間を作ってあげたいし)


 自分の背番号である「16」が刻まれた帽子のつばをキュっと動かすリオ。そうしてから茶色のグローブをはめた左手の甲へドンと軽くパンチをした。そうして彼女は次のノックに向けて気持ちを入れ直しているんだろうなって、まだ野球選手になったばかりの僕にも伝わってくる。


 (僕も失敗とか引きずりやすいし、リオの切り替えとか見習うようにしよう)


 自分にとってはひとつひとつのプレーが勉強だ。そのおかげで不安感もわずかながらではあるけど、減りつつある。逆に気持ちが高まっているんだなぁってしっぽの炎がそうやって言ってくれた。


 さて、ルーナがキャッチしたということでファーストは次の選手へと交代になる。その選手とは……………、


 「ようやく私の出番ね。頑張るわよ!!ルーキーだからって何も出来ないじゃ恥ずかしいからね!!」


 そう、チコっちである。彼女の元気の良さはもしかしたら1年生メンバーの中では一番かもしれない。なんとなく先輩たちの目線も不安よりも期待しているって印象を受けた。


 「良いなチコっち。元気の良さで周りを盛り上げるのは凄く大切なことだからな。その気持ちを忘れないように練習に臨んでくれ」
 「は………はい、監督!ありがとうございます!」


 ほんの一瞬だけだったけれどキュウコン監督が目を細めているのが見えた。それだけ彼女が野球に興味を持ってくれたことに嬉しさを感じていたのだろう。それを感じとった僕はますます気持ちが入っていくのを感じた。


 (ピカっちもチコっちも自分のポジションを守り始めているんだ。自分も早く一緒に練習したいな!幼なじみ同士約束したんだしね………!)


 その為にはリオが次こそ良いプレーを出来るように応援するしかない。彼女には申し訳なさを感じたけど、このときばかりは早く自分の出番が来ないかとウズウズしていた。


 (せっかくの初めての守備練習なんだ。どうせならピカっちとチコっち、二人と一緒にグラウンドに立って僕たちの大切な思い出にしたいな)


 だが、このときの僕はまだ自分が気持ちを見破られていることに気づいていなかった。キュウコン監督によって。やはり「しっぽを触ると1000年は祟られる」という言い伝えもあるほどの種族だからなのだろうか?表面での気持ちの裏にある内部での本音。それを見破ることによって、もしかしたら彼は野球部のメンバーをより活動しやすくしてるのかもしれない。


 …………同時にその本音を見破れるからこそ、彼は苦悩に苛まれている訳だが。


 「さ、まだまだ練習は続くぞ!2年生や3年生も新入生に負けないようにな!!ぼやぼやしてるとあっという間にレギュラーが決まっている可能性もあるからな!」
 『げっ!!!』


 キュウコン監督のこの発言には、先輩たちも動揺を隠すことが出来なかった。つまり自分たちの立場は一切約束されたものではないってこと。手を抜いたことは出来ないことを意味していた。


 (冗談じゃねぇよ。昨日初めて野球を知った新入生にレギュラー獲られてたまるかよ!)
 (このマウンドは俺のものだ!絶対渡せねぇよ!)
 (キャプテンなのにベンチなんてゴメンだ!!)
 『うおおおおおおおおおお!!』
 「何勝手に熱くなっているのよ…………。単純思考ね、うちの4番にエースにキャプテンは………」


 急に気持ちが燃えてきたのか、より一層張りきり出したラッシー先輩、ヒート先輩、ラージキャプテンの姿に呆れてしまうラプ先輩。それまでの緊張感が切れそうになってうまく笑えなかったけど、こういうお茶目なところになぜか僕は安心するのであった。







    カーーーーーーン!!
 「来たわ!!」


 次に飛んできた打球はチコっちの元へと向かってきた。キュウコン監督に褒められたこともあって、気持ちもノリノリに張り切っているためなのか彼女の動きがやけに軽やかな気もする。なんて単純なんだろう。昨日あんなに繊細な姿で周りを振り回していたのに、今じゃ誰よりも熱心になっているような気がした。まあ、それでも良いのか。チコっちにとってプラスになっていると言うならば。


 (いや…………良くないよ!!チコっちがキャッチしちゃったら幼なじみ3匹で同じ場所に立ちたいって僕の気持ちはどうなるのさ!!!)


 こんなささやかな願いですら叶えることは許されないのか…………。なんて厳しいシナリオなんだ。普通ならここで心温まるようなシーンが出てきても不思議じゃないと思うんだけど、やっぱりダメなのか……………なんて考え込んでいた…………そのときだった!!


 「邪魔だ!!俺が捕る!ルーキーなんかに任せていられるかよ!!」
 「えっ!!?えーー!?」


 なんとヒート先輩がマウンドから降りてきて打球を赤いグラブでキャッチしてしまったのである。本来ならファースト方向への打球ならば一塁ベースががら空きになることから、ピッチャーはそのベースカバーに向かってファーストからの送球に備えないといけないのだが、このときの彼はそのセオリーを完全に無視したことになる。もちろん状況判断と言ってしまえばそれまでかもしれないが、経験が全くないチコっちにとって見れば咄嗟の判断など出来るはずがなかった。その結果、彼女はその場で右往左往する事になってしまったのである。


 「おい!?なんでベースカバーに入ってないんだよ!?」
 「そんなこと言ったって!!」
 「ちっ!!」


 ヒート先輩も誰もベースカバーにいなければその場から送球することは出来ない。もちろんセカンドのリオや、ライトのラッシー先輩によるフォローもあったけれど、それも時既に遅し。あくまでも「ファーストゴロの際はピッチャーがベースカバー」ということが体に染み付いている経験者でも、それ以外の動きをされてしまったらその対応は遅くなってしまう。


 結果的に二塁にいた“みがわり”はそのまま三塁へと向かい、今回のイージーミスによって余計にランナーが一塁にもいることになってしまった。


 (う~ん………。やっぱりヒート先輩やルーナは僕ら新入生のことを邪魔な存在って考えてるのかな。なんだか上手くいかない感じする。こんなことで“カントリー・リーグ”までにひとつのチームとして機能できるのかな?)


 皮肉なことにチコっち、それからショートのピカっちの二匹が離れることはなかった。僕の望みが叶う結果になったのだ。けれど、段々雰囲気が悪くなっていくのをヒシヒシと感じた。多分キュウコン監督の「レギュラー白紙」を感じさせる発言がその原因に繋がっているのかもしれない。このままじゃ僕たちは本当に邪魔者扱いされてまともな練習も出来なくなるんじゃないのか……………みたいな不安が必然と襲いかかってきた。


 「大丈夫だった?」
 「まあ、なんとか。ビックリして尻餅つきそうになったけど…………」
 「何かムカついてくるね。こうも一生懸命にやっていることを邪魔されると」
 「マジでそれね。周りに言われていること全然わかっていないんだもん、ヒート先輩。一発私の“つるのムチ”でひっぱたいてやろうかしら」
 「ダメだよチコっちちゃん!そんなことは逆効果になっちゃう!」
 「どうして!?なんで止めるのよ!?」


 リオがチコっちのことを気遣って駆け寄り、このようなやり取りをした。チコっちの気持ちを彼女がわからないわけがないだろう。むしろ理解していたハズだ。自らの拳でヒート先輩だけでなく、理不尽なことをしてくる先輩たちをぶつけたいところだった。でも相手が先輩である以上、不用意な反応は出来ない。更なる理不尽さを受けるリスクもある以上、悔しいけれどここ一旦我慢しようとリオは考えた。


 「そうね。下手に反論して野球部を追い出されたりしたらまずいものね。分かった。ガマンするわ」
 「ゴメンね、チコっちちゃん」
 「良いのよ。気にしなくても」


 申し訳なさそうに振る舞うリオのことを気遣うチコっち。ウインクしてまた気持ちを入れ直し、次のノックを待つ。


 同じ頃。マウンドにはキャッチャーマスクを外してヒート先輩に詰め寄るラプ先輩の姿があった。



 「アンタ!いい加減にしなさいよ!昨日監督に言われたこと、もう忘れたの!?馬鹿なんじゃないの!?」
 「あぁ?だったらお前、自分の立場を失っても平気だって言うのかよ?」
 「それは…………」
 「良いか。よく聞けよ。監督はレギュラーを白紙にするつもりでいる。ということは、俺らが必死になって練習に打ち込んできたその時間も無意味になるんだぞ?それも野球のことをよく知らない輩に奪われるなんて………誰が納得出来るんだよ?」
 「そうね……………ヒートの言いたいことも確かだわ…………」


 ラプ先輩も彼の言葉に納得せざるを得なかった。もちろん願いとしてはレギュラー組が新たなメンバーと気持ちをひとつにして練習に打ち込んで欲しかっただろう。でも新入生や新入部員が技術を向上させていけば、確かにそれはヒート先輩の言うように自分たちが掴んできた立場を脅かすことにもつながる。仮にその立場を奪われてベンチに座ることになったときに、自分は成長した新入部員や新入生を応援出来るだろうか…………そんな不安が彼女の心の中に出てきてしまった。


 (ダメよ、私。そんな簡単に気持ちがブレたら。)


 ラプ先輩は自分にガッカリしていた。ヒート先輩の考え方を否定できなかった自分に。動揺も感じている自分に言い聞かせながら、キャッチャーボックスへと戻っていくのであった。










 「どうした?さっきから内野の連携ミスが目立つぞ。しっかりしろ。これが実際の試合だったら致命的な失点になるかも知れないんだぞ?練習だからって気を抜くなよ?」


 お粗末なプレーに感じたのだろう。キュウコン監督の言葉がキツく感じる。ギッと横目でバックの内野陣を睨み付けるヒート先輩。うつむき加減で自信なさげなラプ先輩。納得出来なさそうな表情を見せながらも、気持ちを入れ直そうとふ~っと息を吐き出すチコっち。ピョンピョンと軽くジャンプするリオ。特に表情を崩さず集中力を保っているララ。動揺が収まらないのか不安そうにしているピカっち。


 外野のラージキャプテンやジュジュ先輩、ラッシー先輩にはそこまでの変化は見られなかったが、決して他人事ではないと気持ちを引き締めていた。


 「みなさん、頑張ってください!!まだまだ時間はありますからね!焦らないでひとつひとつのプレーを大事にしていきましょうね!」
 『がんばれー!!!』


 ベンチからシャズ先輩、ピッチャーとして出番を待つランラン先輩、ロビーの声援が聞こえてくる。


 (そうだよね。練習でもこれだけ盛り上がれるんだから、きっと悪い場所じゃないんだよね。まだ僕たちが知らないことだらけで不安を抱えてるだけで。一生懸命練習を続けて、先輩たちとの壁を少しずつ無くして………信頼してもらえたら良いな)


 僕は心の中からモヤモヤとした歯痒い感覚が消えていくのを感じた。もちろんまだ自分に出番が来たという訳ではないけれど、少しでも気持ちを前向きに出来たのは良いことだと思う。 


 (チコっちやリオがさっきの出来事を引きずらずにいてくれたら良いけどなぁ。ピカっちやララはまだ打球が飛んできてないから、先輩たちと何かトラブるって感じもなさそうだけど…………何事も無ければ良いな)


 キュウコン監督の言葉やベンチからの声援でこの重苦しい雰囲気が変われば良いな…………と、僕は願わずにはいられなかった。



   カーーーーーン!!
 「次は私のところ!!頑張らなくちゃ!!」


 一旦停止時間をおいて再開された守備練習。キュウコン監督がスイングしたバットから放たれた打球は、勢いのあるゴロとなってサードのポジションを委ねられたララの方へと向かっていく。


 ちなみにではあるが、現在はランナーが一、三塁という状況ということでバッテリー以外の内野手の守備位置が若干変更されていた。ファーストのチコっちは、ヒート先輩からの牽制球に備えて一塁ベースを踏みながら守っていたわけだが、キュウコン監督がボールを高く上げた瞬間にそこから離れてベースから数歩前へと移動した。サードのララも同様の理由でベースから数歩前へと移動していた。こうすることで三塁ランナーが本塁突入することを阻止出来たり、二塁へ送球してからの一塁へ送球という形でのダブルプレー(ゲッツー、併殺とも言う。1回のプレーで2つのアウトを奪うこと。これとは別に1回のプレーで3つのアウトをまとめて奪うことを、トリプルプレーまたは三重殺と呼んでいる)を狙えるという理屈なのだ。


 セカンドのリオ、ショートのピカっちにも守備位置に変更があった。二塁ベース寄りに移動しているのだ。これもダブルプレーを狙うことが理由である。既に話がかなり専門的になっていて、ややこしくなってきていたらすみません。


 ダブルプレーは“フォースプレー(封殺)”といって、「ランナーに直接タッチしなくても、ベースを踏むだけでアウトが成立する」プレーが理由である。ちなみにこのフォースは「無理に押し付ける」という意味の英語らしい。ではなぜランナーに直接タッチする必要が無いのか。その理由は至ってシンプル。打者を含めてランナーにはゴロやバウンドの場合、新しく走ってきたランナーのために塁を空けて必ず次の塁へと走らないといけない…………“進塁義務”というルールが存在するからだ。先ほどの「無理に押し付ける」が指しているのは、この“進塁義務”をことなのである。


 (同じ塁には二人のランナーがいることは出来ないからね。言い方はよろしくないだろうけど、元いたランナーが新しく進んでくるランナーに“弾き出されて”次の塁へと進まなきゃいけない………そんな感じかな。塁を島としてイメージして、その間は海とか溶岩みたくずっとその場所にいると危ないゾーンとしてイメージしたら分かりやすいかな?塁を踏んでいればアウトになることは無いから。安全な島から弾き出されたランナーが、次の安全な島に移動しなきゃいけないみたいな)


 なんだか例え方が上手く出てこない。こういうときに僕は自分の無力さを痛感してしまう。もっと頭が良かったらどんなに救われることか。


 気を取り直すことにして…………それでは、どんなときにその“進塁義務”が発生するのかも見ておこう。


 ①一塁ランナーがいるとき。このときは打者が一塁へと走ってくる。そのときに一塁ランナーが進まないと一塁に二人存在することになるため、一塁ランナーはゴロやバウンドのときには二塁へと進まないといけない。

 ②一塁ランナー、二塁ランナーがいるとき。このときは打者が一塁へ走って来るため、一塁ランナーは二塁へ、二塁ランナーは一塁ランナーが走って来るため三塁へそれぞれ進まないといけない。

 ③満塁のとき。このときは打者が一塁に走ってくるため一塁ランナーは二塁へ、二塁ランナーは一塁ランナーが二塁へ走ってくるため三塁へ、三塁ランナーは二塁ランナーが三塁へ走ってくるため、本塁(ホーム)へ…………といった感じでそれぞれ進まないといけない。

 ④一塁ランナー、三塁ランナーがいるとき。このときは一塁ランナーだけ。打者が一塁へ走って来るため。二塁ランナーがいないので、三塁へと走ってくることはないから三塁ランナーには進塁義務はない。


 以上の4パターンのときである。つまり「今いるランナーのひとつ手前の塁にランナーがいる」とき、その塁のランナーはゴロやバウンドの時に必ず次の塁へと進まないといけないってことなんだろう。ようやく僕もイメージが出来てきた。



 …………とは言うものの、僕自身もラプ先輩から教わっただけでまだ全然理解してないから、偉そうには説明できる立場では無いだろうけど、そこはどうか勘弁してほしい。


 
 余談だが、今回のダブルプレーを狙って多少内野手がズレた守備位置(シフトと呼んでいる)のことを「中間守備」と呼んでいる。この守備位置を更に前進させて二塁ランナーや三塁ランナーのホームイン(生還とも言う)を防ぐ内野手や外野手の守備位置を「前進守備」、逆に内野手が際どい当たりを防いだり、外野手が後ろを越されないように後退する守備位置のことを「深めに守る」、それから送りバントをさせないように極端に内野手が前進する守備位置を「バントシフト」なんて呼んでいる。


 (まあ、これもラプ先輩が教えてくれただけで、シャズ先輩はちんぷんかんぷんな僕たち初心者専用にテキストブックを作ってくれるって言ってくれた訳だけど、きっとこのあとの練習の中でも実際に観ることが出来るよね?)


 僕はフ~ッと息を吐いて、一旦頭の中を整理することにした。






 さて、プレーに戻ろう。キュウコン監督から放された打球はサードのララの方へと向かっていた。…………でもカラカラが守備をするのにグローブと骨を一緒に持っていたら厳しいのでは………と、読者の皆さんは感じていることだろう。しかしその心配は僕らにはない。なぜなら僕らの世界の貴重品はすべて「ガルーラ像」というガルーラの形をしたハイテクな倉庫によって守られていているのだから。


 「ポケモン不思議のダンジョン」のことを知る読者さんたちならわかるだろうけど、それとシステムは同じだ。ただ、僕らの世界にも存在してる一般ポケモンが足を踏み入れるのが危険な箇所…………不思議のダンジョンに配置された救助隊連盟や探検隊連盟らが取り扱う「専門ガルーラ像」とは違い、一般ポケモンが使う「ガルーラ像」は人目のつきやすい場所にあるため、さらにシステムが強力だ。道具を預けた本人と特徴が一致しないと、強力なバリアによって弾かれてしまう………窃盗を防止するための防犯システムがあるのだ。


 (もちろん“専門ガルーラ像”も救助隊や探検隊、調査団、それからパラダイス建設を目指してる冒険協会がそのチームの正式な証として配布しているバッジをガルーラの顔部分に掲げないと作動しないシステムらしいから、どのみちシビアって言えばシビアだよね)


 余談だが僕も小学校のときピカっちやチコっちと一緒に不思議のダンジョン付近へと遊びに行ったことがある。けどいつまでも帰宅しないことが原因で、全員が自分のお父さんやお母さんにこっぴどく怒られたのは言うまでもない。それほど不思議のダンジョンは一般ポケモンが足を踏み入れるのがかなり危険なのだ。






 さて話が脱線してしまったが、ララはしっかりと腰を落として飛んできた打球を茶色いグローブでキャッチした。そこから右手でボールを握り直し、二塁へと送球した!


 この一、三塁にランナーがいる場合、ゴロやバウンドが弱いときや一塁ランナーが打った瞬間にスタート(ランエンドヒットと呼ばれている)しているときを除けば、一度にアウトカウントを2つ増やして、更にランナーをいなくするって方法が守備をしているチームにはやりやすいからだろう。それに三塁方向の強い打球であれば三塁ランナーは飛び出してタッチアウトになることを防ぐため、まず動いてくることはない。そうすればホームに向かって突入することも阻止できるからである。


 (よし、キャッチ出来た!あとは落ち着いて投げるだけ!!)


 果たしてこのプレーの行方はどうなるのだろうか。守備練習はまだまだ続く!!




 













 
 


 


 







 

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