第30話 再戦

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『グラードンを……操る!?』

 4人が耳にした言葉はあまりに衝撃的なものだった。ガバイト達の真の目的、それは大地の神・グラードンを操ることであったのだ。その表情を待っていたかのように、ガバイト達も微笑む。

「そうさ。グラードンさえ操ってしまえば、大地は原形を留めることなく壊れ、誰も住めなくなる。そう……“滅び”だ」

 ようやく掴んだ敵の目的だが、4人には気になる事がある。こんな大それたことをするのに、目の前にいる敵は2人。どう考えても後ろに誰かがついているような気がしてならなかった。

「おい、ひょっとしてお前らの後ろに誰かいるんじゃねぇか? だからヒトカゲが詠唱できるって知ってるんだろ?」

 思い切ってルカリオが自分の推測を口に出す。しかしその質問にとぼけた様子の2人。澄ました顔をして「どうだか」と言いながら話を逸らした。

「どうしても知りたきゃ、俺らに勝ってみることだな!」

 刹那、ボーマンダがヒトカゲに向かってきた。その巨体でヒトカゲをなぎ倒そうとするかのように勢いよく頭から突っ込んでいく。

「“ずつき”!」
「“ころがる”!」

 ヒトカゲが“ずつき”される直前に、サイクスが“ころがる”でボーマンダに直撃した。“ずつき”の軌道がずれ、ヒトカゲは難を逃れることができた。

「あ、ありがとう!」
「なんてことねーよ♪」

 ここは何としてでも止めなければならないと、2人はアイコンタクトで互いに確認する。ボーマンダが戻ってくる間に、ヒトカゲは久々の詠唱――混沌語(カオス・ワーズ)を唱える。


【紅蓮の炎を操る神よ 我ここに誓う 我と汝の……】


「させるかぁ!」

 突如、横からガバイトがヒトカゲに“ドラゴンクロー”を振りかざして詠唱を止めようとするが、それはルカリオの“ボーンラッシュ”で防がれてしまった。

「ふっ、俺らがいること忘れてもらっちゃあ困るぜ」
「ヒトカゲ、続けろ!」

 力比べ状態のルカリオとガバイト。そしてヒトカゲを庇うように自身が壁になるアーマルド。心の中でありがとうと言いながら、ヒトカゲは詠唱続けた。


【我と汝の力ここに集結し時 我の前に現る悪を持つものに 粛正の咆哮を与えん】


 体の周りが渦巻き、尻尾の炎が勢いよく燃え盛る。普段の倍以上の力を手に入れたヒトカゲは、サイクスと一緒にボーマンダを倒すことにした。

「“りゅうのいぶき”!」

 軌道修正したボーマンダが彼らに向かって来た。“りゅうのいぶき”をくりだし、ヒトカゲとサイクス2人を同時に攻撃する。しかし何を思ったか、サイクスはヒトカゲを脇腹に抱えだした。

「“あなをほる”!」

 次の瞬間、サイクスはヒトカゲを抱えたまま“あなをほる”で地中へと潜って攻撃を回避した。息吹を吐き続けているボーマンダにはそれが見えず、ずっとヒトカゲ達に技が当たっているものだと思い込み、余裕の表情だ。
 だが、数秒後にボーマンダの真下から勢いよくサイクスが姿を現し、アッパーを決める。さらにその勢いに任せてヒトカゲを宙高く放り投げた。

「“かえんほうしゃ”!」

 空中に投げ出されたヒトカゲは、狙いを定めて“かえんほうしゃ”を放った。ボーマンダもそれに気づき慌てて回避しようとするが、完全には間に合わず、翼の一部に炎が当たってしまう。
 その時、サイクスは不思議な光景を目にした。ボーマンダが負傷した翼の一部が、若干変色していたのだ。これにはさすがのサイクスも首を傾げた。

(何だ、あれ? 普通、火傷しただけじゃあんな色しねぇよな。ふ~む……)

 その理由を必死に考えながら、ヒトカゲに加勢する。ボーマンダも鬱陶しくなったのか、“はかいこうせん”で2人いっぺんに始末しようと企てる。2人に向けて大きく口を開いてエネルギーを溜めていた。

「散れ! “はかいこうせん”!」
「や~だね、“でんこうせっか”!」

 ヒトカゲを抱えたままサイクスは“でんこうせっか”で“はかいこうせん”を回避する。その間にも考え事をしていると、石に躓いてバランスを崩し、思い切りコケてしまった。しかしそのおかげで、サイクスはボーマンダの謎を解くことができた。

「おいボーマンダ!」
「……何だ?」

 サイクスの声で互いに一旦攻撃をやめ、睨み合いながら間合いを取る。その場にそっとヒトカゲを下ろすと、サイクスはビシッとボーマンダを指差してこう言った。

「お前、ボーマンダじゃないな?」

 ボーマンダに向かって、サイクスは「ボーマンダじゃない」と言い出した。何を意味しているのかわからないヒトカゲは頭にはてなマークを浮かべるが、当のボーマンダはどういうわけか目つきを変える。

「ボーマンダじゃない? はっ、貴様は何をバカなことを!」
「じゃあ、お前が怪我した右の翼、見てみろよ」

 言われるがままに自身の翼を見るボーマンダだったが、一気に顔が青ざめるのがヒトカゲにも見て取れた。ヒトカゲも彼の右の翼を見てみると、部分的にではあるが、明らかに変色していた。

「何で紫色になってるのかな~?」

 負傷した翼は紫色に変色していたのだ。それにどういうわけか、皮膚にしては弾力があるように見える。冷や汗を流すボーマンダをサイクスはさらに追求する。

「そんな色に変色するポケモンなんか普通いねぇよな~……ある奴を除いてさ」

 名探偵が犯人を暴く時のように、サイクスはうろたえているボーマンダの正体を明かした。

「そうだよな? ボーマンダ……いや、メタモンちゃん?」

 次の瞬間、ボーマンダの姿が一気に変化していく。スライムの如く形を変え、体がだんだん縮む。そしてサイクス達が目にしたのは、彼の予想通り、メタモンであった。

「そっか、わかった!」

 メタモンの姿を見たヒトカゲが、あの謎を解明することができたようだ。以前彼らの対峙した際にいたグラエナ、あれはボーマンダに変身する前にグラエナに変身したメタモンが“みがわり”を使った、彼ならではの作戦であったのだ。

「これですっきりしたよ。さて、正体がバレちゃったけど、どうする?」
「ど、どどどどうしよ~!」

 威勢のよかったボーマンダの時と違い、一気に弱々しくなったメタモン。正体がバレたことに衝撃を受けすぎたのか、慌ててルカリオ達と戦っていたガバイトの元へと戻っていく。

「ガバイト、どうしよう!」

 メタモンはガバイトにせがむように近寄るが、何故か彼は沈黙する。その場で微動だにせずただ佇んでいる。彼が沈黙を破ったのは、それからすぐのことであった。

「……お前がいると足手まといだ」

 次の瞬間、ガバイトは自身の腕にある鰭のような器官でメタモンを横一文字に掻ききった。仲間に手をかける行為を目の当たりにしたヒトカゲ達は驚愕する。
 悲痛の声を上げる間もなく、メタモンは地に倒れこむ。そして、メタモンの体から何やら黒い粒子のようなものが出始め、瞬く間にメタモンの姿がその場からなくなってしまった。

「な、何だこれは……?」

 初めて見る何とも奇怪な現象に4人は言葉を詰まらす。今目の前にいるのは、自分達に向かって平然と不敵な笑みで見つめているガバイトだけだ。

「な、何でメタモンが……」
「これが俺らのやり方だ。使えない者は排除し、その魂を冥界へ捧げるのみ。俺らが手をかける奴らはみんなああなる」

 その言葉に4人の怒りが込み上げる。彼らの表情を見て不思議そうな顔をするガバイトを見ると尚更怒りが心から湧き上がってくる。

「ふざけんな! 命を何だと思ってやがる!」

 珍しくサイクスが怒号を上げる。それほどガバイトの行いが非道であるということだ。

「はん。俺らはそんなもの、何とも思わねぇんだよ!」

 ガバイトは大声でそう言うと、胸を張り、体中のエネルギーを放出するかの如く雄叫びをする。迎え撃とうと4人はその場で身構えた。

「さっさとカードを渡せぇ! “がんせきふうじ”!」

 “がんせきふうじ”がくりだされ、ヒトカゲ達の足下の地面が隆起し、足首をがっちりと掴んだ。抜こうとしても抜けず、4人は身動きができない状況になってしまう。

「“だいもんじ”!」

 そこにガバイトは“だいもんじ”を放つ。大きな炎はたちまち4人を飲み込み、ダメージを与える。ヒトカゲとサイクスは炎タイプだが、ガバイトの炎が予想以上に強力なため、鈍い痛みをくらうこととなった。
 サイクスが怯んだのを見計らうと、最速スピードでガバイトがサイクスに近づき、“ドラゴンクロー”をお見舞いする。体勢が崩れたところでサイクスが持っていたブラックカードを奪い取った。

「今回は生かしといてやるよ。ありがたく思いな」

 台詞を吐き捨てると、ガバイトはその場から立ち去った。姿が見えなくなった頃にようやく4人の“がんせきふうじ”は解け、身動きが取れるようになった。

「お、追わなきゃ、グラードンが操られ……ぐっ!」

 かなりのダメージを負ったのか、ルカリオは立っているのも辛い状態だ。他の3人の足取りもおぼつかない。それでも追おうとするヒトカゲ達をサイクスが止める。

「大丈夫だ。一応カードにツメで傷をつけておいた。使いモンにならないはずだ」

 一同安心したのか、ヒトカゲ達はその場に座り込んでしまった。しかしサイクスだけは脇腹を押さえながらも歩き出す。その先にいるのは、彼同様傷ついている父親・バルだった。

「親父、大丈夫か?」

 サイクスは地面に伏せているバルの頭を抱え、そっと呼びかける。自分の息子の声を聞き、バルはそっと目を開けた。目線をサイクスに向ける。

「……ああ、何とかな……」

 弱々しい声ではあるが、バルは返事をした。サイクスはほっと胸を撫で下ろし、「病院に行こう」とみんなに言う。ヒトカゲ達は頷き、互いに支えあいながら街の病院へと足を運んだ。

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