【第014話】船上の狂乱、船内の孤闘

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



闇夜の海面をまたぎ、2人を載せたアーマーガアは風を切る。
コンテナ船のライトと月明かりのみが、彼の鋼鉄の身体に反射する。
「……もうすぐです。しっかり捕まっていて下さい。」
ジャックはどこか不機嫌そうにお嬢へ注意を促す。
本来ならば一人で乗り込むはずだったのだが、アーマーガアによってお嬢の身を気にしながらの潜入になったことに多少の懸念があるのだろう。
「……」
一方のお嬢は何も答えず、両手でジャックの裾を掴む。
いざとなれば自分自身にどんな危険が及ぼうとマネネを助けなくてはならない、と自責の念に刈られていたのだ。
「グアアアアアッ!」
やがてアーマーガアは翼をたたむと、高度を下げていく。
低空を高速で滑らかに飛行しつつ、撫で付けるようにお嬢とジャックを甲板へ下ろす。



「……アーマーガア、よくやった。」
「グアッ!」
着陸したジャックとアーマーガアは大きなコンテナの影に身を潜めつつ、周囲を伺う。
ひとまず甲板の上に人影らしきものは見当たらない。
となればあの暴力団の組員たちは船の内部にいると考えるのが自然だろう。



「……とりあえず中に行きましょう。」
そしてジャックは甲板の上にて通信機器をアーマーガアに渡すと、そのまま待機の指示を出した。
彼らの身に何かがあったときに外部に助けを求められるようにするためだ。
「……お嬢様、くれぐれも大きな物音を立てぬようお願いします。」
「分かってるわよ。」



やがて2人は甲板外の扉に立つ。
仰々しい鉄製の扉であり、ご丁寧にも電子式のオートロックの鍵がかけられている。
ドアノブにお嬢が手を伸ばそうとすると、ジャックは急いでそれを払いのける。
「ッ……!」
「……どんな罠があるかわかりません。十分お気をつけて。」
彼は険しい声と顔でお嬢へ注意を促し、お嬢も驚きつつ黙って小さく頷く。



ジャックはこの扉が力技では壊れないことを察すると、すぐに腰元からモンスターボールを取り出す。
「わんっ!」
中から飛び出したのは黄色い四足歩行のポケモン、パルスワンだ。
強靭な牙と丈夫な足を持つことが特徴である。
パルスワンはあたりを見渡すと、すぐに今置かれている状況を察知する。
「パルスワン、そこのドアノブに『ほうでん』だ。」
「わわーーーーーーんっ!」
ドアノブに照準を合わせると、凄まじい電圧の電流を一点集中で解き放つ。
やがてドアノブは小さな火花を散らし始め、すぐに短い音と共に爆発を起こした。
それを確認したパルスワンは、身体の側面を大きく扉にぶつけて扉を蹴り飛ばす。



中には真っ暗な吹き抜けと階段があり、下部に耳を澄ますと組員たちの足音や話し声が聞こえてくる。
パルスワンは周囲をの空気を嗅ぎ分けると、首を縦に振ってジャックへサインを送る。
間違いない、マネネたちはこの下のフロアにいるはずだ。
一行は足音を殺しつつ階段を下っていく。



やがて階段を下りきり、B1Fと書かれたフロアにたどり着いた時であった。
なんと組員の1人とすれ違ってしまったのである。
「あ……!?」
「……!」
すぐに危機を察知したパルスワンは、目が合うや否や組員に対して電撃を飛ばす。
組員はうめき声を上げる暇すらなく、感電してその場に気絶してしまった。



「……マズいですね。彼の姿を見られたら気づかれるのも時間の問題だ。」
ジャックとお嬢は急ぎ足で狭い廊下を歩き、パルスワンの進む方角へと歩いていく。
しかし次の角を曲がると、再び別の組員とすれ違う。
パルスワンは再びすぐに電撃を飛ばして組員を感電させる。
そうしたそばから、近くの廊下からまた別の組員たちの足音が聞こえる。
しかしこれではキリがない。
いずれは取り囲まれてしまうのがオチだろう。



ジャックは考えた。
確実にマネネたちを救出するには別行動をしたほうが合理的なのでは?と。
お嬢の安全面を考えても、隠密に行くよりもいい方法があるのでは?と。



そこでジャックは小さく振り向くと、お嬢に手短に要点を伝える。
「いいですかお嬢様。私の言うことをよく聞いて下さい。」
お嬢は再び小さく頷く。
「まず、マネネを助け出したらすぐに甲板のアーマーガアに乗って逃げて下さい。」
「……うん。」
「そして次。自分の安全を最優先に。」
「……?うん?」
お嬢は状況をしっかりは理解できていないが一応の同意のサインを送る。
「それでは頼みます。」
そう言い終えるとジャックは近くにあった扉を開け……



お嬢を突き飛ばすようにその部屋へと放り込んだ。
そしてすぐに扉を閉めて音を遮断する。
「!?ちょ、ちょっとジャック!?」
お嬢は中からジャックに呼びかけるが、既に彼の耳にその声は届いていない。



やがてジャックは息を少しだけ整えると、パルスワンとアイコンタクトを取る。
「……よし、行こうパルスワン。」
「わわん!」
指示を受け取ったパルスワンはあちらこちらに電流を放ち、縦横無尽に廊下を走って暴れまわる。
どう考えても隠密とはかけ離れた陽動の行動だ。
当然、中に居た組員たちはジャックとパルスワンの存在に気づき駆け寄ってくる。



「なんだテメェ!?」
「あ!こないだの事務所に居た銀髪野郎!」
そしてジャックは大声で叫ぶ。
「この船には爆弾を仕掛けました!あと30分で爆発します!ならず者のあなた達はここで海の藻屑と成って消えて下さい!!」
勿論この発言は完全なでまかせだ。
しかし海上という閉鎖空間ではそのようなでまかせも乗組員を動揺させるためには十分な材料となりうる。
実際、組員たちは焦った表情で慌て始める。



「なっ……!?」
「ざけんなテメェ!」
ジャックはすぐさま踵を返すと、船の外側の方へと走り去っていく。
組員たちは総出でそれを追いかけ、また甲板の方へと出ていった。
今にも船が沈むかもしれない恐怖心から正常な判断ができなくなっていたのだ。



その結果、そこに残されたのは密室の中で様子をうかがっていたトレンチ嬢だけであった。
「そんな……ジャック……」
お嬢はあまりに唐突な出来事に取り残されていたが、そこで何もできなくなるほどの軟弱なメンタルでもなかった。
「……いいえ、そうね。せっかく船には誰も居ないんだもの。アタシだけでもなんとかしなくちゃ!」
彼女は恐る恐る部屋を出ると、周囲の様子をうかがう。
狭い廊下には扉が無数に並んでおり、一体どの部屋に何があるのか一切検討もつかない。



お嬢はボールからスナヘビを呼び出し、手分けしてマネネを探すことにした。
「みしゃっ!」
「いい?スナヘビ。怪しいものを見つけたらすぐ報告!いいわね?」
彼女は的確な指示にて、スナヘビに探索を命じる。
スナヘビは体内のピット器官によって熱検知が可能なため、いち早くマネネを探し出すことが出来る。
まさに今の状況に適したポケモンと言えるだろう。



「みしゃ……」
スナヘビは廊下をスニーキングで進んでいき、一つ一つ扉を少しだけ眺めてはすぐに次の扉を見つめ始める。
やがて彼はB1F最後の扉に差し掛かると、そこでピタリと動きが止まった。
間違いない、マネネが囚われているのはこの部屋だ。
「でかしたわよスナヘビッ!」
お嬢はすぐに扉を開き、マネネを捜し始める。
実際、近く檻を叩くような音が聞こえており、そこに何かがいることは明らかだ。
真っ黒な部屋を手探りで進んでいき、やがて電源ボタンに手が触れる。



しかしそこに居たのは……
「みばばッ!?」
「えっ……?」
そう、あの群れのリーダーであるヒバニーだったのだ。

パルスワンがロゴのスポーツ用品普通にかっこよくて好きです。
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