【第003話】夜闇への油断、先立たぬ後悔

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読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ジャーーーックーーーーー!」
「まーーーーねねーーーーー!」
さて、無事トレーナーとしての備品一式を受け取ったトレンチ嬢一行。
ここで早速旅の最初の壁にぶち当たる。
そう、泊まる宿がないのである。
すっかり日も暮れており、ポケモンセンターも民宿も満室。
完全に野宿を強いられる状況となってしまったのだ。
というわけで、近くの小さな公園にて只今このようなやり取りが行われているのである。



「ねぇジャック!どうにかして頂戴!!」
お嬢は嘆き、ジャックの入った寝袋をゆする。
「まねね!」
マネネもそれに続き、同じような動作をする。
「駄目です。ご自身で宿を探して下さい。」
「それが無いから困ってるんじゃないのーーー!」
「ではここをキャンプ地とします。そこのベンチあたりでお休み下さい。」
「嫌よ!さっき座ったらお尻を痛めたもの!もう絶対座らない!」
「まね!」
ずっと柔らかい場所にしか座ったことがないお嬢にとって、公園のベンチはたいそう不愉快だったのだろう。



ジャックは後ろ髪を引かれつつも、なんとか無視を決め込む。
そう、何もかも手を貸してしまっては彼女のためにならないのである。
昼間はつい手を貸してしまったが、それでもやはりこれはトレンチ嬢の旅だ。
旅の問題は自分でどうにかするのがスジである。
「ねーーぇーーー!その寝袋入れてよーーー!一生のお願い!」
「まねね!」
「駄目です。大体『寝具を入れておいて下さい』とマニュアルに書いておいたのにそれを聞かなかったのはお嬢様じゃないですか。」
「だってかさばるんだもんアレ!!」
お嬢はゴネる。
そして加速度的に寝袋をゆする速度が上がる。



「……それに、お嬢様の寝相は『まるでルカリオのインファイトのようだ』と伺っておりますので特に嫌です。」
「そんなに酷くないもん!!」
寝袋をゆする挙動は更に激しくなっていく。
ジャックは寝袋の中で、一種の地震を味わっているかのような感覚に襲われる。
しかし彼は動じない。
凄まじい吐き気に耐えつつも、無心で非情を貫くのだった。



「……もういいわ!ジャックなんて知らない!バカ!アホ!う【自主規制】れ!」
「まねね!」
そう言ってお嬢はマネネを連れて公園から走り去り、どこかへと消えてしまった。
後にはほんの少しだけ後悔を引きずった寝袋入りの男が残るだけだった。





ーーーーーさて、一方お嬢はと言うと。
健気にも一般民家を巡り、泊めてもらえないかと訪ねて回ることにしたのである。
様々な家を回ったが、残念ながら彼女を泊めてくれる家はどこにも無かった。
というのも『人に物を頼む態度』がなっていない彼女は、行く先々で家主の反感を買ってしまったのである。
まぁ、民泊を試みる積極性自体は褒めてやって然るべきかもだが、肝心な人間性が未熟だったために怒った悲劇とも言える。
「うぅ……ホントに泊まる場所がない……」
「まね……」
トレンチ嬢は住宅街の隅でため息をつく。



既に時刻は日付をまたぐ直前だ。
普段ならばとっくにベッドインを決めているのだ。
それゆえ思考力も徐々に下がり、彼女の追い詰められた精神は限界を迎えつつあった。



「……となると残りはあの家かしら。まだ明かりもついてるみたいだけど……。」
トレンチ嬢は顔を上げて正面を向く。
そこにあったのは事務所風のプレハブであった。
中にはポツポツと人影が見えており、もしかしたら助けてくれるやもしれない。
そう考えたお嬢はプレハブの扉を勢いよくスライドする。



「たーーのもーーう!」
「まーーねねーー!」
「………。」
直後、お嬢は後悔をすることになる。



なぜならそこは暴力団の根城だったからだ。
怪しげな茣蓙にたむろする強面の男が4名、一斉に出口へ振り返る。
「……誰だァ、テメェ?」
「……あ、俺知ってる。超有名財閥・コートグループのトレンチとかいう奴だ。」
数秒ほど、強面の男たちは顔を見合わせる。



さて、こんなところに超有名財閥の令嬢が護衛もなく単身で真夜中に現れたら何が起こるか。
答えは明白だろう。
お嬢は本能的に身の危険感じたのか、すぐに踵を返してその建物を後にしようとする。
「ご、ごきげんよーーう!」
「まねねーー!」



しかしそうは問屋が卸さない。
暴力団の2人がすぐにモンスタボールを投げてポケモンを呼び出す。
「オラッ、行けアリアドスッ!」
「『クモのす』だ!!」
「しゃどっ!」
ボールから飛び出たアリアドス2匹は、必死で逃げるお嬢の足元へを粘り気のある糸を撃つ。
糸に足を取られたお嬢はその場で正面から転んでしまう。
そしてそこへ追い打ちをかけるように糸の攻撃が迫る。
みるみるうちにお嬢は糸で巻き取られてしまい、完全に身動きが取れなくなってしまった。





ーーーーー拘束をされたお嬢は、そのまま口にテープを貼られた状態で部屋の隅へと追いやられる。
「んんーーー!んんんーーーー!」
「まねねーーー!」
マネネは拘束をされているわけではないが、お嬢の真似をしながら腕を後ろに置いて同じ動作をする。
「うるせぇ、ちょっとは静かにしろ!」
「しゃどッ!」
アリアドスが睨みを効かせ、お譲とマネネを脅す。



「……あー、もしもし?えぇ、確かにコートグループの令嬢です。……いやマジですって、信じてくださいよ。」
暴力団の組員たちは、外部の人間へ電話を掛ける。
トレンチ嬢の身柄を使って一儲けしよう、という魂胆である。
「………ん……んんん……!」
段々とお嬢の威勢が失われていく。
それもそうだ。
ただでさえ心身が限界だったところに、こんな仕打ちを喰らったのだ。
やがてお嬢は抵抗の意思を失い、声を上げることすらやめてしまった。


「……ねっ!」
「んっ……!?」
お嬢を見張っていた暴力団の男とアリアドスが小さく悲鳴を上げた。
それもそのはず。
なぜならいつの間にか彼らは糸でぐるぐる巻きにされていたからだ。
あっという間にアリアドスと暴力団の男はつま先から頭頂までを、見る影もないほどに覆い尽くしてしまったのだ。



その犯人は誰か。
そう、なんとマネネである。
マネネは得意技、『ものまね』によって見たものを学習・模倣し、自分の技として習得する事ができる。
先程、アリアドスの『いとをはく』を学習したマネネはそれを使用。
一瞬の隙を突いて男とアリアドスを拘束したのである。



「まねっ……まねっ!」
マネネは裏口の方を指差す。
約3個のデスクを挟み、その先に扉がある。
男たちにバレぬよう匍匐前進で進み、扉を開けられればなんとか逃げ出せそうである。
加えて男たちの異変に、他の組員たちは気づいていない。
「………んっ!」
それを察したお嬢は、両手を拘束されながらも腹這いで扉を目指す。
胸から腹にかけてが床に痛々しく擦れ、綺麗なブラウスが擦り切れる。
それでもお嬢は必死に声を堪え、なんとかプレハブの出口を目指す。
「ねっ……まねねっ……!」
マネネが先行し、ドアをゆっくりと開けて待機する。
そしてお嬢は遂に、その上半身を屋外へと乗り出させる事に成功した。



だが残念。
そこまで長い時間、男たちがこの異常事態に気づかないわけもなかった。
彼らは全身を拘束された組員の存在に気づくと、すぐに裏側の出口へと目線を動かす。
そこには今まさに、このプレハブから逃げ出そうとしているお嬢とマネネが居たのである。
「おいッ、てめ何逃げてやがるッ!」
「しゃどーーーッ!」
アリアドスは糸を吐き、すぐに上から床にお嬢を縛り付けた。
身動きの取れなくなった彼女の元へ、彼らはじわじわと歩み寄る。
「んんっ………!!」
「ったく……こいつ放っておくと洒落になんねぇな。足の一本くらい撃ち抜いといたほうが良いんじゃねぇのか?」
組員の一人が拳銃を取り出し、引き金に手を当ててお嬢へと差し向ける。
「んんっーーーー!!?」
まさに絶体絶命。
お嬢は血の気が引いていくのを感じる。





ーーーーーーそこに一つ。
何かを蹴破る音が事務所を貫く。
窓を叩き割って侵入してきたのは漆黒の鳥ポケモン……そう、アーマーガアである。
「グアアアーーーーーッ!」
「なっ……!?」
「何だ何だ!!」
その直後、割れた窓からジャンプ&ドロップキックで突入してきたのはスーツ服の銀髪男……そう、ジャックである。
見知った男が現れたと知った途端、お嬢の顔が急に明るくなる。



「んっんーーー!」
「……ふぅ。あ、これは失礼。」
「だっ、誰だテメェはッ!!」
組員たちは唐突に現れた男に怯え、一斉にジャックの方を向く。
「うちのアホんだら……もといお嬢が大変なご迷惑をおかけしました。」
ジャックがそう言った直後、アーマーガアが咆哮する。
「グアアアアアアアアアアッ!!」
そして一つ大きく羽ばたくと、事務所の中に凄まじい風が吹き荒れる。
デスクが吹き飛び、書類やロッカーが四方八方に散乱する。
『ぼうふう』攻撃が狭い室内を駆け巡るのだ。
「おっ……ちょっ……!?」
「うわ飛ぶ飛ぶ飛ぶッ!!」
「ですがまぁ、流石にこれはおイタが過ぎるかと。少しだけぶっ飛びやがってて下さい。」



その混乱の最中、ジャックは空中を飛び交う物と暴風を掻い潜りつつ、お嬢を縛り付ける糸を引きちぎって抱きかかえる。
そしてその後、近くのドアを蹴り破ってプレハブの外へと脱出したのである。
ジャックはお嬢の口に貼られていたテープを剥がす。
そして抱えられていたお嬢は自力で飛び降りる。



「……ぷはっ……ジャック!」
「……アーマーガアをつけさせておいてよかったです。何でこんな所に……」
「だって……だってジャックが……!」
お嬢はジャックの胸に顔をうずめると、張り詰めていたものが急に弾け飛んでしまう。
ジャックは何も言わず、お嬢の頭を撫でる。



その直後。
殺気を感じたジャックはすぐにアーマーガアに指示を飛ばす。
「……!アーマーガアッ!!」
「グアアアアアアッ!!」
アーマーガアはジャックの一声で、すぐにジャックの元へと飛び込んでくる。
そして全身を剛金のように輝かせて硬化させた。
間もなく、そこには数本の毒針が飛んできたのである。
アーマーガアの『てっぺき』による防御によって、二人は危機一発で攻撃を免れたのだ。



「チッ、『どくばり』を弾かれたか……!」
「テメェ良くも事務所を……ッ!」
暴力団の男とアリアドスたちは、ジャックらの元へとじわじわ近寄ってくる。



「……なるほどな、よし。」
ジャックはそう呟き、パチンと指を鳴らす。
「グアアアアアッ!!」
そしてジャックは再びお嬢を抱きかかえると、そのままジャンプでアーマーガアへ騎乗する。
直後、アーマーガアは上空へと高く飛び上がる。
「なっ、てめぇら逃げる気かッ!?」
「えぇ。そうですね。私達じゃあアナタ達には勝てないので………んじゃ、お暇させていただきましょう。」
それだけ言い残すとジャックは西の方角へ指をさす。
本当であればこのようなチンピラはアーマーガアが本気を出せば一捻りだが、今はお嬢の安全が最優先だ。
アーマーガアはジャックの指した方角へと夜風を切って飛び去っていってしまったのだった。





ーーーーー近場の草原にて。
追手の有無を確認してから着地をした彼らは、ホッと一息ついていた。
「……ぐすっ」
「あの、私が悪かったですから、その……お嬢様……」
「まねね……」
あまりに色々なことがありすぎてしまい、お嬢はぐずりだしてしまった。
それをなんとか、ジャックとマネネがなだめようとする。



「ぐすっ………泊まるところが無いだけでこんなに辛いなんて……」
「……その、申し訳ありません。私もきつく当たりすぎました。」
ジャックは素直に謝罪をする。
「ぐすっ……でも分かったわ。宿の確保が出来ないときのために寝袋を持っておけってことね……。」
「……そうです。そうして一つ一つ覚えていきましょう。」



そう言うと、ジャックは自身の鞄から寝袋を取り出してお嬢へと差し出す。
先程まで彼が使っていたものだ。
「……お嬢様、こちらをお使い下さい。」
「……いいの?」
お嬢は涙目を拭いつつ、申し訳無さそうにジャックの方を見つめる。
「今晩だけです。……とりあえず明日は足りないものを買いに行きましょう。」
お嬢はマネネとともに寝袋に入り、入り口の紐を締める。
そしてその直後、すぐに寝息を立てて眠ってしまったのであった。

アーマーガアって実際背中に直接乗ると何人くらい乗れるんでしょうかね。感想・評価お待ちしております。

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