第一章【首刈三日月】5

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:4分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 セリアが盗賊の長に連れられて辿り着いたのは、お世辞にも綺麗とは言えないみすぼらしい船だった。広さはそこそこあるようで違法の商品を隠しておく物置の広さは十分にあった。彼女はそこで一人膝を抱えて縮こまっていた。
 ここから外に通ずるのは入ってきた扉と頭上に開く穴を開けただけの小窓のみであった。その小窓も随分高い位置にあり、少女の背では届きもしない。そもそも今の彼女に脱走を試みる気力はなかった。
 蹂躙され尽した自宅から連れ出され、知らない場所に一人になった途端、今まで冷静であれと抑えつけていた感情がごった返す。さっきまで当たり前にあった幸せが突然奪われた絶望感、これから何をされるのかという恐怖、そして自分はどうなるのかという不安……そして何より、両親を目の前で殺された悲しみと憎しみで彼女の涙は留まる事を知らなかった。
 小窓から申し訳程度に差し込むぼんやりとした月明かりが照らす物置に、セリアの小さな嗚咽だけが聞こえていた。

 ぎぃ、と遠慮気味に扉が開かれる音にセリアは反射的に顔を上げた。警戒してそちらに目を凝らすと、盗賊の一人であろう痩せ細った不潔な男が入ってきた。彼はセリアを見つけるとにたぁといやらしい顔で笑う。その顔にセリアは背筋が凍るようだった。身の危険を感じ、縛られた手を胸に抱え込み距離を取ろうと後ずさる。しかしその小さな背中はすぐに壁に当たってしまった。逃げ場を失った彼女に盗賊の男が迫る。
「ちょっとくらいつまみ食いしてもバレねぇよなっ」
 男ははやる気持ちを抑えられないといった様子でセリアを壁に押さえつけた。セリアは彼の言った意味をはっきりとは理解できなかったが、このままでは危ないと全身で感じた。逃げようと身を捩り抵抗するが、いくら細いとは言え相手は男、セリアは手一つ振りほどく事はできなかった。
「活きがいいな、ぐふふ、虐め甲斐がある」
 男は鼻息荒くセリアを床に押し倒した。興奮気味の男の手が彼女の腿を掴みあげるように撫でつける。セリアは助けを呼ぼうとするが、痛みを伴う恐怖と男の手つきの気持ち悪さで喉の奥から絞り出た声は呻き声にしかならなかった。
 体を床に押さえつけられどうしようもなくなったセリアは、せめて自由のきかない身体から意識を遠ざけようと小窓に目をやった。小さな丸い枠組みに淡く光る三日月がぴったり嵌っている。全てを優しく照らす月も今の彼女には無慈悲に見えた。セリアはぼんやりと思考の海へ落ちていく。

 ああ、誰か、誰でもいい、誰か助けて。
 この悪夢から目を醒まして。
 神様、もうこの際悪魔でもいい。
 私に力を下さい────


























 ──────汝、我の力を求めるか──────
























 セリアは頭に響いた美しく静かな声に夢見心地で頷いた。その目はもはや煌々と輝く三日月しか映していなかった。
 突然大人しくなったセリアを不思議に思い、盗賊の男は彼女の顔を見た。あまりに暗く虚ろな瞳に彼は思わず息を飲んだ。自分よりもか弱い小さな少女に何故か畏怖の念を抱き、そんな自分が可笑しくて大袈裟に笑い飛ばそうとした。しかしそれを許さぬ雰囲気に呑まれ、彼はなんとか半笑いを作っただけだった。男は恐る恐る彼女の顔に手を伸ばそうとするが何故か金縛りにでもかかったように上手く動けない。ひたすらに焦点の合わない空色の瞳に捕らわれていた。何かがおかしい、気味の悪い状況に男は声を漏らす。
「どうしたって」
 男の言葉はそこで途切れた──。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。