1st dungeon 『ガンセッキ』

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それは ある日の夜のこと
財宝と凶暴な野生のポケモンが潜む 迷宮が姿を表した

ポケモン達はその迷宮を “ダンジョン” と呼んだ

突如として現れたダンジョンに興味を示す者 財宝を手にしようとする者
多くの者が名声や財宝を求め ダンジョンへと旅立っていった
ダンジョンに惹かれた者達が集まり 入り口に小さな村も作られた

しかしダンジョンは 多くの帰らぬ者を生み出した
その危険さから 多くのダンジョンは封鎖された


それでも 一匹のポケモンは野心を抱いていた
全てのダンジョンを探検し 謎を解き明かすことを――




*****




 ―― ガンセッキ 奥の方にて



「はぁ…はぁ……ッ!?うわっ!?」
 何かに足を引っ掛けて転んでしまった。走りすぎて足が重たい…。ダメだ…もう、立ってすらいられない…。
 ピュイィーン!!
 背後から甲高い雄叫びのような鳴き声が聞こえてきた。…まだ、振り切れてなかったのか。まずい…このままじゃ……

 ― いや、ここで死ぬわけにはいかない…!

 バッグにある穴抜けの球を使おう…。早く、早くしないと…。
 背後から徐々に近寄ってくる音が聞こえてくる。どすッどすッと重い足音が聞こえる。急がないと…。
「ぐッ…!!」
 背中に重い何か巨大な物に身体を押さえつけられた。奴に踏まれたんだ。必死でもがこうにもそこまでの力もなかった。終わりだ。俺も、ここまでか…。

 …ふと、バッグから青い球のような物が転がってくるのが見えた。あれは、穴抜けの球だ!あれさえ取れれば…ダンジョンから抜け出せれる!目の前に転がってきた球に向かって力一杯、その球に手を伸ばす。
「ぐあッ!!」
 もがく俺を逃がさまいと、奴もさっきより強く踏んづけてきたみたいだ。
 …お願いだ…届いてくれ…!!
 目を開けている余裕などもはや無かった。意識が徐々に飲まれて行く。けど、穴抜けの球を握る感覚だけは感じ取れた。

 ― 薄れ行く意識の中、残った最後の力で、精一杯、球を握った。



………




……














「また君か。全く世話が焼けるよ、ほんと…」


「さ、村に帰ろうか」





*****






「うん?目覚ました?」
 見覚えのある部屋の間取りに見覚えのあるポケモン。そして聴き馴染みのある声が聞こえてきた。少し埃臭い部屋の中、小さな粒子のようなものが陽の光で舞っているのが見えた。― もう夜はとっくに更けてしまっていたようだ。
「ダンジョンの入り口で倒れてたから無理矢理運んできたんだけど…。あれでしょ。また無茶して奥まで突っ込んできたんでしょ?」
 そうだ。思い出した。確か、ダンジョンに潜っていって、途中、強い野生のポケモンにやられかけたんだった。最後、穴抜けの球を取り出して強く握りしめたところまでは覚えているが、どうやら無事、発動しダンジョンから抜け出したみたいだ。
 …とは言うものの、ランタの言う通り、奥にまで潜り込んだと言うのも事実。最悪、あのままダンジョンでやられてしまっていたかもしれない。
「はぁ…。いい?ゼノン。君はこのスターライトの店主だって言ってるでしょ?ダンジョンは危険だらけの場所。店主である君は取るものだけ取ってさっさとダンジョンから出るようにしないと…」
 ランタの言う通り、俺はこの村の、スターライトの店主。ダンジョンを探索して謎を解けるような冒険者のような力なんてない、言ってしまえばただのしがない商人。けど、俺は、ただダンジョンから物を取ってくるだけじゃ物足りない。何故ダンジョンができたのか、ダンジョン内の仕組みがどうなっているのかとか、そういうダンジョンの謎について知りたいんだ。長い間、誰も成し得なかったことを、俺はやりたいんだ。
「…まだ諦めてないみたいだね。いい?ダンジョンの謎を紐解くなんて夢のまた夢のお話。君もいい歳になったんだからそろそろ諦めたらどう?」
 ランタ、お前の言いたいこと分かるけど、俺だってもう子どもじゃないんだ。親代わりとはいえいつまでもお前の言うことばっか聞ける年でも無い。悪いけど、お前がいくら止めても、俺はまたあそこに行くからな。
「…何度言っても聞かないみたいな顔してるね。はぁ…そういう頑固なところ、ラドンと似てるよ。やっぱり血は違えないのかな。全く…」

「まあ、とりあえず、生身でダンジョンに向かうのは辞めたらどう?お金がないのは分かるけどあまりにも無謀すぎるからさ」
 確かに、今までずっと生身でダンジョンに向かってたけど、だからといって武器も買うお金なんて貯蓄してないし、それにあったとしても上手く扱える力もないと思うし…。
「仕方ないな。僕の昔使ってた装備があるから、それを使いなよ」
 ランタの使ってた武器?それ、俺に使いこなせるかな。と言うより、ランタサイズの武器だと俺には小さ過ぎるような気もするし、それに、ランタ、ドロンチなんだし、そんなひょろひょろした手で武器持ってたって言うイメージが湧かないんだが…。
「昔って言ってもほんと昔だからね。言っとくけどこう見えてもかなり歳取ってる方だからね。君からみたらかなりのお爺ちゃんなんだから、僕は」
 そういえばそうだった。ランタはこの村で一番の年長者、言ってみれば長老みたいなものだ。とは言ってもやはりランタが武器を持っているところはイメージできないな…。
「いいから、ちょっと待っといて。すぐ取ってくるから」

「はい、これ」
 ランタが持ってきた物、剣と盾だった。恐らく両方とも鉄製だとは思うが、両方とも少し錆び付いていて、剣の方は錆と一緒に刃先部分が所々欠けていた。盾の方は真ん中に赤い宝石のような物が埋め込まれていたが汚れや傷でくすんでいて輝く様子はなく剣同様、ボロボロな状態だった。こう見るとランタサイズにはとても見えない。むしろ俺にちょうど良いくらいのサイズ感だった。…余計、ランタがこれを使っていたと言うイメージが湧かなくなった。本当にこれ、ランタが使ってたのか?
「さっきも言ったけど、武器使ってた頃なんてほんと昔だからね。あの頃は普通に振り回してたけど、今じゃもう無理かな…」
 そうなのか。それで、これどうやって持てばいいんだ?普通に物を持つ時の要領で手のはさみで掴んで持てばいいのかな。
「まあそうだね。君だったらそれが丁度いいんじゃない?…と言うより、君、最近ハッサムに進化したばっかなんだし、ストライクの頃と違って身体の使い勝手とかに慣れてるのかって所が心配なんだけど」
 まあ、ストライクの頃と違って装甲で身体が少し重いっていうのもあって動かし辛い所とかもあったけど、飛ぼうと思えば前みたいに飛べるし、特別不便に思ってないから心配はいらないよ。というかホント心配性なやつだな…。まあ、心配かけるようなことばっかやってる俺も俺だけどさ…。それはいいとして、肝心の武器の持ち具合とかを見てみないと。

 …思ってたより持ちやすいな。武器の扱いとかには慣れてないけど、この感じ、何回か使っていけばすぐに慣れれそうだ。― よし、試し斬りにもう一回ダンジョンに―― いッ?!
 剣と盾を持ち、意気揚々と外に出ようとしたのだが、不意に脚の方に痛みが走った。ズキズキと麻痺しそうなほどの痛み、立つのでさえやっとな程だった。
「あーあ、もう、言わんこっちゃ無い。まだ怪我は治ったわけじゃ無いんだから、今日は安静にしときなよ」
 その方が、良さそう、だな…。残念だけど、試し斬りは明日にしよう。ここままじゃ、歩くのも儘ならないしな…。
 ― 新しく手に入れた武器に心躍る気持ちを抑えることは出来なかった。今はただ、ランタに支えられながら自分のベッドに歩いて行っていた。




*****




  ―― 1st ダンジョン 『ガンセッキ』


 黄土色の石段を積み重ねて作られた遺跡の一室のような空間。外に通じる穴も無いのに何故か目が効くぐらいには明るい。遠くから風が通り抜けるような音も響いてくるが、風が吹いている様子もない。― 非現実的な現実の空間。とても不気味だ。
 …やはり何度来ても、この気味の悪い感じには慣れない。ある意味、お化け屋敷に入ってきたかのような感覚だ。けど、お化け屋敷とは言ってもお化けに出会うというような怖さではなくどちらかと言うとダンジョンの罠や野生のポケモンなどの脅威に対しての怖さの方が大きい。とはいえ今いるのはダンジョンの上層部、序盤中の序盤だ。そこまで罠や野生のポケモンが脅威となることはない。が、警戒しておくに越したことはないだろう。

 ...と、早速お出ましのようだ。
 こちらに向かってくる何者かの気配。どすどすと歩く足音も聞こえてきた。灰色の身体をしたポケモン― “ゴローン”だ。身の毛立つ程の唸り声、赤く光った目からは異様なまでの殺意がひしひしと伝わってくる。野生のポケモンの特徴の一つだ。気性が荒く、ダンジョン内にいる者を見つけ次第、所構わず襲いかかってくる。

 野生のポケモンの対処は二つ。戦うか、逃げるかのどちらかだ。しかし野生のポケモンはダンジョンのあちこちに潜んでいる。当てもなくただ逃げ回っても別のやつに見つかってたりして追い詰められてしまう、なんてことも起こり得る。ダンジョン探索において野生のポケモンとの戦闘は避けては通れない道だ。
 昨日までの俺だったら振り切るまでの逃げるか、無謀なまでの戦力差を前にしてでも戦闘に挑もうとしていたことだろう。だが、今日はランタから貰った武器がある。扱いこそまだ慣れていないが、多少、戦闘を有利に進められるだろう。

 先に仕掛けてきたのはゴローンの方。重い岩石の身体に身を任せ此方にとっしんしてきた。しかし身体が重いとだけあって動きはそこまで速くはない。ギリギリで見切れば余裕で避け切れる。
 ―― ドンッ!!
 背後で激突する音が響いた。とっしんの反動で壁にぶつかったようだ。そのせいか若干動きに鈍りが見えた。攻撃を仕掛けるなら、今がチャンスだ!
 空中で剣を斬り、息を整える。そして足裏で地面を強く蹴り、身体を前に乗り出し、勢いを崩さず、やつに向かって剣を振り下ろした。― いわタイプのポケモンだけあって、剣の効果は抜群だ。かなりのダメージが入ったのか、相手のゴローンは既にフラフラな状態だ。しかし性懲りもなき再びとっしんを仕掛けようとしてくる。しかしフラフラなせいでさっきより動きが鈍い。とっしんをヒラリと身をかわし、すぐさま次の攻撃を仕掛けた。これ以上はオーバーキルなような気もするが、野生のポケモンに容赦など要らない。やつの頭上に剣を振りかざし、そして、真っ二つに叩き斬った。
 真っ二つに割れたゴローン。それと同時に薄黒い煙のような物を出しながら消えて行った。― これもまた。野生のポケモンの特徴の一つだ。倒すとあんな感じの煙を出して消えて行くのだ。どこに消えたのかは分からないけど、恐らく野生のポケモン自体、幻影みたいな存在なんだろう。ただ、幻影だかなんだか知らないけど、ダンジョンの外で暮らしているポケモン達とは違い、敵意剥き出しの奴らに容赦などしてはいられない。そうでもしなければ、昨日の俺みたいになって、最悪、殺られる。このダンジョンという場所はそうやって多くのポケモンの命を奪ってきたのだ。やられるくらいならやる、やられる前にやる。そういったある意味、弱肉強食を体現したかのような空間とも言えるかもしれない。

 …初めての武器を使った戦いだったが、やっぱり、素手の時と比べて断然戦い易かった。素手だと俺の場合、手のはさみを相手に叩きつけて攻撃するから、どうしても野生のポケモンに接触できるくらいの距離をつめないといけなかった。距離をつめすぎると相手からの反撃に対応しきれないのが痛手だが、今の装備だと、ある程度の距離もとれるし盾もあるから不意の反撃にも対応がしやすいのがとても良い。それと、俺がはがねタイプだということも、この剣の使いやすさに影響してるのかもしれないな…。
 …と、それはともかく、早めにこの部屋から移動した方が良さそうだな。ゴローンが襲ってきた以外、部屋には他に何も無いし、それに、さっきゴローンが壁に激突した音に反応して他の野生のポケモンが寄ってくるかもしれないしな。武器のおかげで戦いを有利に出来るとはいえ極力野生のポケモンとの戦闘は避けて体力の消耗を抑えたい所だ。

 ― で、次の部屋にやってきたわけだが…おっと、今日は運がいいな。早速宝箱のお出ましだ。ダンジョン内には血の気の多い野生のポケモンの他にこうやって至る所にアイテムなんかが落ちていたりするのだ。落ちているアイテムの中でも宝箱には珍しい物が多く入ってることがある。そういった物をポケモン達は財宝と呼び、それらを求めて沢山のポケモンがダンジョンに潜っていったのだ。かく言う俺もそういったアイテムを集めて売る商売をしているわけだが…。
 そんな宝箱を早々に見つけたわけだが、この場所…匂うな…。俺の勘がそう囁いていた。側にあった小さな瓦礫のような物を宝箱の近くに投げてみる。― やっぱりな…。落ちた場所を中心に巨大な大穴が地面に空いた。穴の底には鋭い針山が無数に張り巡らされていた。流石の俺でもこの針に刺さったら痛いじゃ済まされないな…。財宝ある所に罠あり。戦いは苦手だけど、アイテム回収のために何度もダンジョンに潜っているだけあってこう言った手の罠には慣れている。
 それにしても…この針穴の罠、綺麗に宝箱周辺に仕掛けられてる。これじゃ歩いて宝箱まで行くのは不可能だな…。仕方ない、少し体力を使うが、飛んで穴を越えよう。飛ぶとは言ってもなるべく高度を保って浮くホバリングみたいな感じだな。すいぃーっと平行に飛び、宝箱にまで飛んでみる。― ふうぅー…。やっぱり、前みたいに身軽に飛ぶってこともできないし、浮くってだけでも結構体力を使っちゃうな…。まあこれもいずれ慣れていくのかな。
 …それで、肝心の宝箱の中身は…っと、これは…本、かな?砂埃のような物を被り焦茶色をしたどこか古びた感じのする厚紙の表紙、めくって中身を見てみるも解読できそうも無い文字がズラリと並んでいて見ているだけでも頭が痛くなりそうな本だった。

 こう言った部類の、いわゆる、考古学的アイテムに巡り出会ったのは初めてだな…。如何せん、この類いのアイテムには疎いのだが、価値のありそうな物だと言うのは何となく分かった。と言うより、俺の道具屋としての勘がそう言っているような気がした。ただ、持って帰るには結構バッグを圧迫するのが痛いな…。今度、新しいバッグでも新調した方が良いかな…。
 もう一つの方は…これは、布、だな…。さっきの本みたいな物には見劣りするが、こう言ったどこにでもありそうな道具でもダンジョン産となると価値が増すのだ。と言うのも、ダンジョン内で取れる道具のほとんどは外では見られない素材や道具ばかり。そういった点から見てもこういうなんてことないただの布切れでも良い素材で作られていたりするから売りに出せばまあまあな値で売れたりする。それとこう言った物はさっきの本みたいな道具とかと違って需要が高い。あまり見かけない道具の方が高く売れるが、余裕があればこう言った普通の道具も回収していった方が良い。何より俺は、あまり手に入らないような道具ばかり手に入れて一攫千金を狙うよりも需要の高い道具を集めてちまちま稼いでく方が性に合ってるから、こう言った道具は積極的に集めるようにしている。今回は運良く本も手に入ったが、運が良くない時はバッグがその辺に転がってる金属スクラップや石ころだらけになったりもする。まあ、宝箱を開けて色んな財宝を手に入れてくってのも探検の醍醐味だしな。



 ― あれから結構探索を進めたけど、大きな収穫は最初の方で手に入れた本だけだった。その間、何度か野生のポケモンとも戦ったけど、武器のおかげでかなり楽に倒せた。まあ上層部のダンジョンってこともあって、そこまで苦戦してないだけなのかもしれないが…。

 ……?あれ、そういえば、この場所って行ったっけ?
 ふと、近くにあった部屋に目が止まった。入り口は岩石で塞がれ天然のバリケードのような状態になっていたが、隙間から微かだが空間らしきものが見えた。明らかに何かあるが、まだ探索していない場所だ。しかしこの岩が邪魔で入れそうも無かった。どうにかして岩を退けれないだろうか…。ダメもとだけど下の岩を動かせたら、上のも崩れていってくれるかもしれない。けど岩は俺くらい大きさだ。ただの体当たり程度ではびくともしないだろう。…そうだ!盾を使ってピンポイントに力を入れられれば、動かせられるかもしれない。
…近くに野生のポケモンの気配はない。やるなら今のうちだ。
剣を仕舞い、正面に盾を構えてゆっくりと岩から後退る。そして、力一杯、岩にぶつかった。ぶつかった反動で少し目眩がしたが、すぐに持ち直して岩の方を見てみた。
 ― 岩は動いていなかった。
 これだけ大きな岩だ。俺一匹の力だけじゃ動かせる代物じゃないのだろう。…やっぱり、無理か…。そう思って諦めかけた時だった。よく見てみると少しだけ動いた形跡が見られたのだ。…これは、もう少し押せば完全に退かせるかもしれない…!そう思って、もう一度盾を構え、岩にぶつかっていった、今度はさっきより強く力で。
 ― ドンッ、ガラガラ…
岩が動き、支えを無くした岩達が崩れていく音が聞こえた。完全に退かせたわけではないが、俺が通れるくらいには退かせられたようだ。さて、他のところと違って、封鎖されていた部屋だ。何かが凄いものが眠っている筈だ。どんなものが待ち構えているのかと言う高揚感と、恐ろしいものが眠っているかもしれないという怖さも入り混じった感覚を抱き、徐に中に入っていった。

 そこには、意外な空間が広がっていた。布で仕切られたテントのような物に、炭だらけになり燃え尽きた小さなキャンプファイヤーのような物、そしてその周辺には木の実の芯がまとめて置かれていた。野生のポケモンが蔓延るダンジョンの中だと言うのに、ここだけは異様に生活感があった。
よく見てみると、部屋の奥の壁に誰かがもたれかかっていた。声をかけようと近づいていったけど、近づいていった瞬間、その行動が無意味だと言うことに気づいた。
 ― そのポケモンはすでに息を引き取っていた状態だった。身体は所々錆び、穴だらけになっていた。亡くなってから大分時間が経っていたであろうそのポケモンの姿に、俺は見覚えがあった。
 俺と同じような赤色の装甲を身に纏ったポケモン― 俺の親父、“ラドン”だ。身体中が錆び、見る影も無くなってしまっていたけど、俺の目が間違えるはずなど無かった。このポケモンは、間違いなく、俺の親父だ。よく見てみると、親父の手の部分に紙切れのような物が握り締められていた。



  ―― やはり、俺の推測は正しかった。
     ランタも含め、村に奴らには信じて貰えなかったが、やっぱり正しかったんだ。
     奥の扉の向こうにこのダンジョン、ガンセッキの謎を紐解くものが眠っている。
     ダンジョンについて自分で調べていった結果だ。
     俺しか、このことを知らないのだ。
     底知れぬ高揚感、村の奴らに言い返してやりたいくらいだ。
     けど、野生のポケモンに穴抜けの球を壊されてしまった。
     村の奴らに伝える手段ももう無い。
     今はただ、ここにテントを張って
     野生のポケモンに襲われないよう過ごすことしか出来ない。
    
     ゼノンは元気にしてるだろうか。
     もうダンジョンに入ってから結構経っている。
     最後にゼノンと会ったのは…
     ダンジョンに向かう時に「いってらっしゃい父さん」って言われた時か。
     父さん、か。ゼノン。こんな父さんでごめんよ。
     俺はダンジョンのことしか考えてなかった。
     お前のこと、あまり気にかけてられなかったかも知れない。
     もしものことがあったらと、ランタに世話を頼んでおいているが
     俺が帰って来ないから心配して泣いてたりしないだろうか。
    
    
     このメモを見たやつにお願いしたい。
     このダンジョンの一番奥に閉ざされた扉がある。謎に包まれた扉が…。
     けど俺にはその謎を解く力はもう無いみたいだ。
     どうか、俺の代わりに、謎を、ダンジョンの謎を解いてくれ。    
     そして、謎を解き明かした時、村の奴らに言ってやってくれ。
     スターライト店主、ラドンの推測は当たっていたってな。



 メモと一緒に握られていたペンダントに嵌め込まれていた穴抜けの球は、真っ二つにひび割れていた。いくら強く握っても、それが発動する様子など無いことは一目見ただけでも分かった。


 ―― 親父……。

 分かっていた。分かっていたよ…。親父がダンジョンから帰って来なくなって、ランタが俺の世話をしてくれるようになって、もしかしたらと思ってたけど…。いざこうして目の当たりにすると、何とも言えない感情に襲われた。この感情が、親父を見つけたという嬉しさなのか、親父の死を目の当たりにした悲しみなのか、それとも、親父を死に至らしめたダンジョンという存在に対しての恐怖なのか、今の俺には分からなかった。けど確実に分かることはあった。


 親父はここに居た。長い間、誰にも見つけられずにいたけど。ずっと、ここに居たんだ…。


 親父……。
俺、行かなきゃ…。親父が目指したダンジョンの謎を解き明かしたいって気持ち、その気持ちは俺だっておんなじだ。今度は俺の番だ。親父の代わりは俺がやる。俺が、親父に出来なかったことを成し遂げてやるから。だから…今は、ゆっくり休んどいてくれ。


 …今日は、この辺で切り上げよう…。気づけばバッグも埋まってきていたし、何よりも、親父と再会できた、これだけでも大きな収穫だ。…一瞬、親父と一緒に外に出ようとしたけど、親父はこのダンジョンという存在に人生を捧げてでも謎を解き明かそうとしたのだ。死んでダンジョンから出るなんてまっぴらごめんだろう。生きていた頃の親父も、そういう変な所で頑固だったから、きっと今回もそう思っているのだろう。
 もう二度とこの場所に来ることはできないかもしれない。だから最後に、もう一度、これだけは言わせてくれ。
 ― さよなら、親父。ダンジョンの謎は俺が解き明かしてみせるから。だからどうか安らかに眠ってくれ…。

 最後に見た親父の顔はあの時と変わっていなかった。けど、もう動くはずのない親父の顔は、少し和んでいたように感じた。



*****



 …無事に帰って来れた。けど、なんだかすっきりしない気分だ。心に穴が空いたような感覚。多分まだ、親父の死を理解しきれない俺がいるのだろう。けど、親父に誓ったんだ。ダンジョンの謎は俺が解いてやる、って。こんな所でクヨクヨしてるわけにはいかない。
「…あっ、やっと帰ってきた。ゼノン、武器の調子はどうだった?」
 …ランタ、か。武器の方は大丈夫だったよ。思ってたより使いこなせたしな。けど、ちょっと切れ味があんまり良くないかなとは思ったけど…。― それと、ランタ、お前に言いたいことがあるんだけど……

「…えっ?ダンジョンの中でラドンの遺体を見つけたって?」
 流石のランタも驚いた顔をしていた。
「…そう。まあ大方そうだろうなとは思ってたけど…」
 ランタもランタで気づいていたのだろう。親父が死んでしまったことを。親父はもし何かあったらランタに俺の世話をして欲しいと頼んでいた。そして実際、親父が帰って来なくなって、その時点で死を悟ったんだろう。そして、もしそうだとしても、俺に悟られないように敢えて話してくれなかったんだろう。
 ― しばらくランタは黙り込んでいた。視線が落ち、どこか残念そうな、哀しそうな顔をしていているように思えた。初めて見る、ランタの暗い表情は俺の心にも響いていた。
「いい?何度も言ってるけど君はスターライトの店主。冒険家なんかじゃない。ダンジョンに潜ったら取るものだけ取って出てくるようにしなよ。君までラドンの二の舞になったら…目も当てられないからね。わかった?」
 “ラドンの二の舞”。その言葉に、ナイフが突き刺さったような感覚になった。親父と同じように、俺もダンジョンの謎を解き明かしたいって思っていた。けど、親父がダンジョンという存在にやられていたのを目の当たりにして、俺自身、初めてダンジョンという存在に恐怖を覚えた。いつも、ランタは親父の事を生き急いでいるやつ呼ばわりしてたけど、そんなランタの気持ちも、今初めて理解出来たかもしれないと思った。
 ― けど、そんな思いをしても、ダンジョンの謎を解き明かしたいっていう気持ちは今でも変わってはいない。ただ、ランタの言うように、あんまり無茶はしないようにしようと思った。俺まで親父の二の舞になったら、あの世にいる親父やランタに会わせる顔も無くなっちゃうしな…。

「…それで、ダンジョンから帰ってきたってことはこれから開店するんでしょ?」
 え、ああ、そうだな。色々あって忘れかけてた…。今日は結構いい物が取れたからな、良い売り上げが期待できそうだ。
「そう。店の中は軽く掃除しておいたからね」
 そうか。ありがとなランタ。いつも助かるよ。
「まあ、頑張りなよ。今の店主は君なんだからさ」



*****


 こじんまりとした簡素な店内。品物を置くための大きなテーブルと棚が一つずつ置かれている。その奥には店内を見渡せるレジカウンター、さらに奥の方にある扉の向こう側には倉庫兼俺の部屋がある。昨日は療養のため自分の部屋で、今日は朝からダンジョン探索に出かけていたから店内には手をつけてなかったんだが、見事に埃一つないほど綺麗にされていた。陰気臭い店内より多少清潔感があった方が良いのはわかるが、ランタのやつ…流石にやり過ぎじゃないか…?

 ― まあ、それはさておいて、まずは道具の分別からだな。金属スクラップや岩石はまとめて箱に入れて棚に並べて、本や布みたいなの大きめの道具は見えやすいようにテーブルの方に並べておく…と、今日取ってきたやつはこの辺かな。けどテーブルの方にはまだ品物がおけそうだな…。こういう時は前に売れ残った道具で埋めてこう。こういう時に売れ残った在庫商品が役に立つ。どうせ売る物だし取っておいてもなんの益にもならないしな。
 それで、値段の方は、大まかな部分は決めておいてから、最終的に客や手に取ってもらった品物の良し悪しで決めている。単一に決めると品物の良し悪しによってコスパが疎らになるし、だからと言って細かく値段を精査しているととんでもなく時間がかかる。だから俺はその場その場で値段を決めている。店の中に値札を置かないのはそういう意図もあったりする。

 準備は整ったな。あとは入り口のオープンプレートをひっくり返すだけだ。

 ― さあ、開店の時間だ。



……




 カランカラン―

 早速客がやってきたみたいだ。客がやってきても何かあるまで俺はレジで待機しておく。何かあるまで、とは言っても値段の精査をするのが殆どだが…。あとは、万引きされないように見張っておくっていう意味でも店全体を見渡せるレジになるべくいるようにしている。
 一見サボっているようにも見えるけど、値段の精査に万引きの監視、他には商品の補充などもあるし、そう言ったことをやってたりするから決してサボっているわけでもないし暇というわけでもない。

 それで、さっきから気になっているのが、テーブルの前をうろちょろしている一匹のポケモンだ。魔法使いが身につけていそうな帽子が特徴的な紫色のゴーストポケモン。あまり懐疑的になるのはいけないとは思うが、さっきからどうも気になってしょうがない。
 ― あの、すいません、さっきから行ったり来たりして、どうしたんですか?
「あらっ、店主さん?少しねぇ、この本が気になっててねぇ」
 泥棒、ではなさそうだが…なんだろう、少し話し方に変な感じがした。見た目はメスだけど声のトーンはオス、だけど話し方はメスっぽさがあるような…。いや、やめておこう。あまり気にするのも失礼だろうし…。
 それで、問題の本だが、今日取ってきたばかりのあの本だ。解読不明な文字がずらりと並んだ古びた本、俺には分からないが恐らく何かしら歴史的価値があるのだろう。そこを考慮してちょっと高めに見積もって、1000ポケって所でどうだろうか。
「あらっ、ほんとぉ?じゃあ折角だし買っちゃおうかしら」
 …意外な反応だな。これだったらもう少し高めに見積もっても買ってもらえたかもしれないな。商売上、提示した値段を下げることはできても、上げることは出来ない。当たり前だが、提示した値段以上に値段を上げるなんてことしたらまず間違いなく買っては貰えないし、最悪、店の信頼にも関わってくる。…まあ、こういうのは完全に結果論だし仕方がない。売る側でもある俺も妥当な値段を提示するために客と道具、両方ともに目利きできるようならないといけないしな。まあ、これも一つの経験だ。最初から全部上手く売れるやつなんて居ないさ。
「あのっ、すいません!これ、幾らですか?」
 側にいたまめぐまのようなポケモンに声をかけられた。提示されたのは薄手の青い布切れだ。ダンジョン内で手に入れたせいか所々砂埃をかぶっているが、外で取れるような簡素な生地に比べると、意外としっかりとした繊維に上質な布触りをしている。ここまでのものは普通のポケモンじゃそうそう作れないだろう。とはいえ砂埃で汚れてるのが少しマイナスだな。店頭に出す前に少し汚れを落としておくべきだったと思ったが今更そんなことを気にしていても仕方がない。汚れの分は少し値引くとして、一枚150ポケでどうだろう。
「150ポケ、かぁ…うーん、それだったら許容範囲、かな…あっ、これ、3枚セットでお願いしますっ!」
 3枚セット、450ポケだな。毎度あり。

 ― それにしても、今日はいつにも増して客の出入りが多い。品が売れた棚に次売る品を手際良く置いてかないと客波に間に合わないな。少し今売れなさそうなこと物は棚から下ろしておくか。
「おーい、店主よ。コイツぁ幾らだ?」
 水色と灰色のコントラストが特徴的なガタイの良いポケモンに呼び止められた。そいつが手に取っていたのは鉄のような合金のような物体。傷だらけで所々錆び付いていて鈍く光を反射させている。何処となく、見る者によっては価値のある宝石か何かにも見えなくもない。ただ、こんな錆びた金属のスクラップなんてよっぽどのマニアか変わり者じゃないと買い取らんだろう。とは言っても高過ぎても誰も買い取ってはもらえない。しかも、この金属スクラップっぽい物だったらダンジョン内で結構見かけた。恐らくだが集めようと思えば然程簡単に手に入るだろう。だったら安価で売っても問題ない。大体、こういった細々した品は纏めて売るような物だ。安価でそこそこの値になれば此方としても上等な物だ。
よし、そうだな、一欠片で10ポケってところだな。
「おっ、案外やっすいのな。じゃあ5箱分買い取るわ」
 5箱分?!多過ぎないか?いや、まあ、此方としても大量に売れて万々歳だが。5箱分となると総量で50キロ超え、値段で言えば4桁は軽い。そもそも、その量を一匹で持ち運べるのだろうか。良ければ俺も運ぶのを手伝うが…。
「あー大丈夫大丈夫。一匹で問題ねぇわ。俺ぁ鍛冶師なもんでな。肩には自信があるってもんよ」
 なるほど、そういう事か。それならその大量の金属スクラップを買い取るのも納得できる。恐らく、錆を取っ払って精錬して武器か何かに使える金属を抽出するのだろう。俺は鍛冶業についてそんなに知識はないから分からんが、そういうものなんだろうきっと。

 ― 開店してから大分時間が経った。時間帯としては夕方前くらい、だろうか。大体の品は売り捌けたことだし、今日は早めに切り上げることにしよう。売り上げとしてはノルマ以上。あの金属スクラップがまとめて売れたのが大きいかったな。
 カランカランッとドアベルの鳴る音が聞こえて来た。また誰か入ってきたようだ。
「調子はどう?ゼノン」
 ランタか。丁度今店仕舞いの準備に入ろうとしてた所だ。
「そっか。…あ、そういえば、村に新しく店が出来るみたい。らいむすとーん?って名前だったっけ、広場の隣側だから時間があったら寄ってみたらどう?」


 広場の隣側って言ってたけど、これだろうか。昨日までなかった建物、恐らくここが新しくできた店なのだろう。
「らっしゃーせー!」
 丁度良く店主も居るみたいだし、軽く挨拶でも…。と、うん?水色の頭にガタイの良い灰色の図体の大男、この店主、何処かで見かけたような…。
「って、誰かと思えばさっきの道具屋の店主じゃあねぇか。さっきは世話になったな」
 そうだ。こいつ、大量に金属スクラップを買い取って客じゃないか。驚いた。まさかこの辺鄙な村に出店しに来ていたとは。それで俺の所に材料を大量に買い取っていたのか。なんだか、パズルが解けた時のように全てが繋がった感覚だ。
「今日からここで店開くことんなったからよろしくな」
 ああ、よろしく。もう知ってるとは思うが、俺はゼノン、道具屋の店主だ。そっちは…?
「俺か?俺ぁアルゲン、見ての通りここ鍛冶屋ライムストーンの店主だ」
 鍛冶屋か、そういえば、この村に鍛冶屋って無かったな。ダンジョンの入り口に作られた村で冒険者が集まる場所なのだから鍛冶屋の一つくらいあっても別に変な話ではないはずだ。というより、今までいなかった方がおかしいのかも知れないな。まあ大方、ダンジョンが封鎖されてダンジョンに向かう冒険者が減ったからこの村から居なくなったってだけなのかも知れないが。
「まあまあ、そういうこって、最初の客がお前さんってこった。どうだ?さっきの礼ってわけじゃあねぇが、何か修繕したい武器とかねぇか?」
 武器、武器か…。そういえば、今使ってる剣、切れ味があんま良くなくてな。それ、修繕出来ないか?丁度今背中に背負ってるこいつだ。
「なんじゃあこりゃ!ボロッボロじゃあねぇか!よくこんなんで使えてたな」
 そこまで酷いのか。確かに刃先はボロボロ、所々錆び付いている状況。こんな状態で使っていた方がおかしいのかも知れないな。まあ、昨日ランタから貰った物だから仕方ないのかもしれないが。しかも使っていたのは相当昔だって言ってたし、その間、充分な手入れとかされてなかったんだろう。
それで、これ、直せるか?無理だったら無理で別に構わないが…。
「あー大丈夫大丈夫。こんくらいだったらすぐに出来んぜ。そうだな、陽が沈む頃までには出来っかな、ついでだから盾の方もやってやるぜ」
 そうなのか。よほど酷い状態らしいからもっと時間が掛かるものだと思ってたんだが…。それで、盾もやってくれるのか。ありがたいが、大体幾らぐらいになるんだ?
「あー金は良いって。初回サービスってな訳で気にしなくていいぜ」
 気前が良いんだな。とてもありがたいよ。とは言っても何もしないのも悪いし、これ、チップ代として受け取っといてくれ。こっちもこれから武器と一緒にダンジョンに潜っていくだろうから、今後ともよろしく頼むよ。

 それにしても、珍しいな、ラムパルドが鍛冶師をしてるなんて。ダンジョンにある開かずの宝箱に頭突きして無理やりこじ開けるような仕事をしてるようなイメージだったんだが…。
「そりゃあ、同じ種族のポケモンにも色々いるってもんよ。俺ぁ手先が他の奴らより器用な方だから鍛冶師になったってだけだ」
 そういうものなんだな。まあ、俺も他の奴らのこと言えるような立場じゃないが。
「は〜打って〜打って〜打ち込んで〜カン、カン、カン、カン、真っ直ぐ打てや〜ズラすんじゃねぇぞ〜♪」
 …少し気になってたんだが、その変な歌はなんなんだ?さっきからカンカン打ちながら口ずさんでるが…。
「これかッ?…鍛冶ッ、ってのはなッ、金属をッ、打ち込むッ、タイミングがッ、重要ッ、なんだよッ、そのッ、タイミングをッ、歌のッ、リズムでッ、取ってるッ、ってわけだッ」
 …なんか、俺、邪魔しちゃってるかな。どっか行ってた方がいいかな。
「んあ?そんなことはねぇが」
 いや、やっぱり、時間かかるだろうし…とりあえず、お暇させていただくよ。それに、夜はダンジョンに潜りに行かないといけないし、修繕の方は、夜までには出来上がるんだっけ。それまで仮眠でも取っとこうかと思う。
「そうか、じゃ、また後でなー」



*****



 ………? 

 部屋が暗い。窓からの陽の光も差し込んでいなかった。― いつの間にか夜になってしまっていたようだ。…どこか身体が変な感じがする。気分もあまり良くない。昔からそうだが、やはり寝起きほど気分が優れない時はないな…。しかし、こんな時間まで寝ていたとは…。月影も見えないほどの時間帯、日が沈んでから大分経っているのだろう。…夜にはダンジョンに向かうはずだったんだが、まだ準備すら出来ていない…。まあ色々あったし、疲れでも溜まってのかもしれないな。
「おーい、ゼノーン!いるかー?」
 聞き覚えのある声、けどランタじゃないな。この声は…アルゲンだ。何か俺に用事でも…って、ああー!そういえば武器の修繕を頼んでいたんだった。夜までに出来上がるって言ってたのに、俺としたことが…完全に寝過ごしてしまったみたいだ。
電気を付け、急いでドアを開けてみる。やっぱり、アルゲンだった。手には俺が修繕を頼んでいた剣と盾を持っていた。
「すまんすまん。夜までには出来上がるって言ったんだが大分時間掛かっちまった」
 そうか。いや、こっちもさっきまで寝てたもんでな…。色々あって疲れが溜まってたのかも知れない。それで、武器の方はどんな感じなんだ?
「ああ、ほら見てみろよ。さっきまでボロッボロだったのが…こうだ!」
 アルゲンの持っていた剣が部屋の光に反射しキラリと光った。見事なまでの光沢だ。刃先もしっかり整えられている。とても切れ味が良さそうだ。盾の方も所々ボロボロだったのが、今では見違えるほど綺麗に仕上がっていた。くすんでいた真ん中の赤い宝石も光を浴びてキラキラと輝いていた。両方とも、まるで新品かのような出来だった。流石鍛冶師だな。短時間でここまで仕上げられるなんて。ほんとに凄いな。
「そうだろそうだろ?それと直すついでに耐久性の高い金属でコーティングもしてあるぞ」
 そこまでしてくれたのか。いやぁほんとにありがたいな。初回サービスとはいえ、ここまでやってくれるなんてな。
「大した事じゃねぇさ。お前さんから買い取ったのに混ざってたやつを使っただけだからよ」
 そうなのか。あんなゴミのような金属スクラップにも使える金属が混じってたりするのか。…鍛冶業について詳しくはない身だが、凄いなそれは。
「それで、そいつと一緒にこれからダンジョンだろ?夜は強ぇ奴らが増えるって聞くし、気をつけて行ってこいよ」
 そうだな、ありがとう。それじゃあ俺、準備してから行ってくるよ。…あ、そうだ、アルゲン。もし今度ダンジョンで良い金属素材見つけたら、お前に譲るよ。今回の礼って事でな。
「そりゃあ、ありがてぇな。そんじゃ頑張ってきなよー!」



*****



 さて、本日二度目のダンジョンだ。と言っても、もう夜も遅いし日付ももう変わってしまっているだろうけど。
 …まあ、それはさておき、今回はもっと奥に進んでみよう。前の探索で上層部くらいだったら余裕を持って攻略できることが分かったし、それに親父が言っていた奥の扉っていうのも気になるしな。
 ただ、夜のダンジョンは昼間と比べて多少難易度が高くなる。というのも、アルゲンも言ってたけど、夜は昼間に比べて野生のポケモンが何故か強さを増し、罠の数も増えるからだ。簡単な上層部だからと言って油断すればすぐにやられてしまうだろう。しかしその代わり、道具もそれなりの物が落ちていたり宝箱に眠っていたりする。財宝狙いの多くの探検者はこの夜の間ダンジョンに出向くことが多いのだ。
ただ、今回の目的はあくまでダンジョンの奥に向かうこと。財宝も出来れば手に入れたいが、財宝に目をやられて野生のポケモンに襲われたり罠にかかったりしては本末転倒で目も当てられない。財宝は二の次で戦闘も極力避けて奥に進むことに注力しよう。まあ、奥に進んで行くうちに一つくらいは財宝とも巡り合うだろうしな。
 最初に降り立った部屋からは今のところ野生のポケモンの気配は感じられなかった。遠くから岩か何かを引き摺るような音こそ聞こえてくるが音的に大分遠いし、恐らく俺のことには気づいていないだろう。今の所、この周辺は安全だな。

 ……?
 よく見ると部屋の中央に落ちてるな。ダンジョンの道具か何かかとも思ったが、どうやらそうでじゃないみたいだ。
 これは― メモの切れ端か。ダンジョンの外でもよく見る何処にでもある普通の紙に黒いインクで文字が書かれたメモ、結構癖の強い筆記体で書かれている。親父が残したメモじゃ無さそうだな。内容は、ダンジョンについて書かれている。多分親父みたいにダンジョンの謎について探ろうとした先駆者の物だろう。


 ―― ダンジョンには多くの財宝が眠っている。
    だが、そこら中に道具が落ちているのは変な話だ。
    誰かがダンジョンに道具を置いているのか、それとも誰かの落とし物なのか。
    ただ、今わかっていることは…
    ダンジョン内に落ちている道具は
    外では見かけない物ばかりだと言うことくらいだ。


 ダンジョン内の道具、か。そういえばそうだな。ここに落ちている道具はどれも外では見かけない物ばかりだ。遺跡には似つかない高品質な布や解読不明な謎の本…。あのどこにでもありそうな金属スクラップでさえもそうだ。アルゲンが言うには鉄なんかの普通の金属に混じって特殊な金属も混じってるんだと。俺の剣と盾に施した耐久性の高い金属もその特殊な金属の一種なんだとか。

 確かに変だ。だからと言って誰かが置いているというのも、また変な話だ。そもそも、ここにある物は外では見られない物ばかりだ。わざわざ誰かが持ってきているとは到底考え切れない。ダンジョンに入ってきた冒険者や俺のような商人、もしくはかつてダンジョンで息絶えていったポケモン達が落とした道具なのかもしれないとも思ったが、さっきも言ったようにこのダンジョンで見つかる道具は外では見られない物、言い換えれみれば貴重な品ばかりだ。そんな物をダンジョン内に持ってくるような奴なんていないだろう。
 考えれば考えるほど謎が深まる。…よそう。今考えても答えなんて出るはずがない。底の分からない沼に無作為に手を突っ込みすぎるのも考え物だな。…俺としては、別に今すぐダンジョンの謎を知りたいだなんて思ってないさ。すぐに解ける謎に魅力やロマンなんて生まれるわけがない。ダンジョンそれは俺や親父、そして、多くのポケモンを魅了してきた場所だ。すぐに解けるような謎が眠っているなど側から思ってないさ。ただ、こういった先駆者達のメモは、今後ダンジョンの謎を解くために役に立つかもしれない。折角だから、道具と一緒に持って帰ろう。紙だからバッグに嵩張らないし、道具の回収に邪魔になるなんてこともないだろうしな。

 …と。まずいな。さっきまで遠くで聞こえてきた音が近づいて来ている。音的に隣の部屋にいるようだ。今音を出せば音に気づいて一直線に俺のいる場所に来るだろう。奴が遠くに行くのをじっと待つのも手だが、奴らは音に敏感だ。だったら逆に音を利用するのも一つの手だ。幸いダンジョン内には音を発せれる物が沢山落ちている。丁度そばに落ちている石ころを拾い上げ、そして奴がいるであろう部屋とは違う別の部屋の通路に向かって勢いよく投げる。それと同時に奴がいる部屋と石ころを投げた部屋とは違うもう一つの部屋に向かって走っていった。そしてすぐさま、部屋の死角に身を潜めた。
 ドサドサッ、と部屋を駆ける音が聞こえてきた。方角的には俺が石を投げた方向、どうやらうまくいったようだ。今まで道具屋として戦うのを避けてきたから、このくらいの目眩しはお手の物だ。

 今俺はいるところは奴がいる部屋まで吹き抜けになっている。やつ以外周囲に野生のポケモンの気配は感じられなかった。今だったら一応安全だし折角だから、少しだけやつの姿を確認してみるか…。
 茶色の体に白い頭蓋骨のような物を被ったポケモン、手には巨大な骨のような物を持っていた。あれは、確かガラガラというポケモンだったはずだ。ガラガラは確かじめんタイプのポケモン、俺にとったらあまり有効打がないポケモンだ。有効打のないポケモンとは極力戦いたくはないな…。しょうがないがやついるところとは反対側から進んで行くことにしよう。



 やっと中層部の入り口に辿りついた。どうやらガラガラを撒いた部屋の方に次の入り口があったらしくかなり長いことこの層を探索する形になってしまった。今のところ野生のポケモンとの戦闘はかわしてきているが、無駄な探索が多かったせいでそれなりに体力を消耗してしまったのが痛い。
 途中、宝箱から陶器のような物を見つけたんだが、あれを持って行くにはバッグに入らないし、手で持とうにもあれだけデカい物を持ち歩いていては先の階層で野生のポケモンから逃げるのに支障が出てしまうから、今回は持ち帰るのを断念することにした。そういうわけで現段階ではダンジョン内で拾い集めた金属スクラップが大きな収穫だ。金属スクラップもアルゲンが大量に買っていったから在庫がほとんど無くなってしまっているのだ。そういうこともあって今の俺には凄い高値で売れそうな陶器よりも大きな収穫になっているわけだ。

 それで、次の中層部に繋がる入り口についてだが、見た目はどこにでも空いてるような底無しの穴。しかしよくみると奥から光が少し漏れ出しているのだ。それこそが次の層に繋がる入り口の目印なのだ。同じような他の穴に入っても永遠に暗闇が続いていたり、同じ層の別の部屋に出たりするため探し出すのは一筋縄ではいかないのだ。

 中層部に繋がる穴、そこを無計画に勢いよく飛び込むことは俺には出来ないな。まあ、勢いよく飛びこんだら普通に地面に叩きつけられて痛そうだし、何より着地した時結構な音が響くから野生のポケモンが寄ってきやすい。幸い、俺には羽があるから滑空する感覚でゆっくりとおりられるからその辺は心配ないんだが。しかし、俺みたいに空を飛べるポケモンはいいが、空を飛べないポケモン達はどうやって穴の下まで降りていっているんだろう。やっぱりそのまま身を任せて穴の中にダイビングしているのだろうか…。何というか、こればっかりは俺が空を飛べるポケモンでよかったのかもしれないな…。


*****


 中層部、そこは上層部と打って変わって違う景色が広がっていた…ということもなく普通に構造的にも上層部と何ら代わり映えしない空間が広がっていた。多少違うところと言えば、壁の色が上層部より濃い黄土色をしているくらいで、それ以外は本当に代わり映えしない部屋だった。小説とかで言う変化が少ないせいで読者に視覚的描写を伝えにくい作者殺しの場所ってことだ。ただ、見た目こそ代わり映えしていないが野生のポケモンの強さは段違いに変化している。上層部では出なかったポケモンが出てきたり単純にこっちに突っ込んできたりせず技を放ってきたりする為ここからは本当に用心して行動しないとあっという間にやられてしまう。上層部との難易度の違いにここでやられて行くポケモンも少なくはない。

 …それで、今回はあまり状況が芳しくないな…。周囲にかなりの数の野生のポケモンがいるみたいだ。
 正面の隣の部屋に二匹、横の部屋の方に二…いや、三匹か…?正確な数は分からないけど、周囲にかなりの数の野生のポケモンがいるのは確かだった。もう一方の部屋には居なさそうだけど周囲に野生のポケモンがいる状況であまり動くのも得策ではない、さっきの層みたく石かなんかで釣ろうにも上層部の奴らと違って多少の賢さを持ってるせいで石程度では簡単に釣られないし、逆に釣ろうとしたのがバレる可能性すらある。音を立てずにじっと待とうにもこの数のポケモンがいては一匹くらい俺のいる部屋に入ってきてもおかしくはない。一匹にでもバレれば周囲にいる奴らが纏めて襲いかかってくるだろうからここは慎重に奴らが居ないもう一方の部屋に移動するしか方法はなさそうだ。

 ゆっくり、音を立てずに、奴らが居る部屋の入り口を見張りながら、足を動かして行く。



……


 コツンッ―

 ―― ッ!?ま、まずい…ッ!!
 入り口の方に目を配りすぎたせいで足元の石ころに気がつかなかった。音に気が付き此方に向かってくる大量の足音が部屋に響いてきた。
 クソッ、やるしか無いか…!
 背負っていた剣の柄を握りしめ、戦闘に備える。入り口から飛び出し目の前に姿を現した野生のポケモン達、それだけでなく奴らに釣られて奥にいた野生のポケモンもぞろぞろとやってきてしまったのだった。ざっと見ただけで軽く十匹以上はいる。グルル…と唸り散らかす大量の野生のポケモンは、一斉に俺に向かって襲い始めてきた。
 まずい…!こんな量相手にしてられない…!!今は戦うより逃げるが勝ちだ!!
 奴らが来る反対方向に向かって全走力で走っていった。背後からは大量の足音と共に獰猛な唸り声が耳元に響いて来た。
 何処か…撒ける場所は…!!
 そう思いながら走って行った部屋の先に、巨大な大穴が見えた。それ以外は何もない行き止まりの場所。万事休すか…。いや、羽で大穴を飛び越えれば奴らを撒けるかもしれない!
 一か八かだ、やるしか無いか!
 そう思い、穴に向かって全力で走り、そして崖っぷちギリギリで穴の上を大きくジャンプし、そして空中に浮いた瞬間に羽を動かし、穴上を飛んだのだった。ジャンプで高いところを飛んだお陰で奴らがここまで手を出せる様子はなかった。グガァ!と悔しそうな何とも言い難い叫び声をあげながら俺の方を見てくる。
 はぁはぁ…なんとか奴らの猛攻から逃れることはできたけど、このままじっと穴の上を飛んでいるのも正直体力的にキツい…。丁度奴らが居る対岸に別の部屋への入り口らしきものが見えた。あそこに降り立ってちょっと休憩しよう…。そう思って対岸に向かって羽を動かして行った。背後にいる奴らは飛んでる俺を撃ち落とそうと石か何かを投げて来ているが奴らの遠投能力的とエイム能力的に俺の方まで届く様子がなかったのが幸いだった。

 何とか対岸に着地するや否や、崩れるように床に倒れ込んだ。
 クソ…今日はついてないな…。奴らからの全力疾走後の逃走飛行のせいでとんでもなく体力を持っていかれてしまった。対岸の奴ら以外、野生のポケモンの気配が感じられなかったのがせめてもの幸いだな…。
 大きく深呼吸をし、息を整えようとする。
 …ゴホッゴホッ…
 ダメだ…。思うように落ち着いていられない…。バクバクと心臓の音が聞こえるくらいの息切れ、身体から滲み出る汗も全く止まる気配がなかった。いくら今が安全だとは言っても大量に消耗した体力をすぐに回復できるはずがなかった。本当はすぐにでもここから動きたいんだが、仕方ない…。ここで休んでからにしよう…。



 どれくらい経っただろう。
 さっきと比べたら幾分かマシになったとは言えまだ少し息が乱れた状況。走り過ぎたせいで身体の節々も少し痛みを感じていたが、体力的には半分は回復し切った頃だろう。流石にそろそろ動かないと別のポケモンに目をつけられるかもしれない…。重い身体に鞭打ち、何とか立ち上がる。
 ふうぅ………よし、行くか。
 深く息を吐き、そう決め、先へ進むことにした。奴らが群がっていた対岸は数匹がまだ残ってなんとかこっちに渡ろうとしていたものの、殆どのポケモンは諦めて他の場所に移動していったようだった。

こっち側の部屋の入り口に入るとその奥にはまた大きな穴が開いていた。それ以外は何もない普通の部屋、要は行き止まりの部屋だった。けど、よく見てみると、奥の方で小さく光が漏れているのが見えた。間違いない、この穴は下層部の入り口だ。大量の野生のポケモンに追われ、逃げ込んだ部屋の先が次に繋がる入り口…。全く、運が良いんだか悪いんだか、よくわからないな。
 下層部の入り口に気を取られる最中、一瞬だけど白い何かが視界に入った。これは― メモか。癖のある筆記体、さっき見つけたやつと文字の癖が似ている。多分同じ奴が書いた物だろう。


 ―― 少しずつだが、ダンジョンの謎に近づいていっている気がする。
    まず、ダンジョンには一匹でしか入ることができないということだ。
    ダンジョンに入る度、各々のダンジョンが形成されているからだと俺は考えている。
    仮に、それぞれにダンジョンが形成されているとするのなら…
    もし、ダンジョン内に誰も存在しなかった場合、
    果たしてダンジョンは存在すると言えるのだろうか。


 何度もダンジョンに潜ってきたせいかあまり疑問にも思っていなかったが、ダンジョンに入る度に地形、構造が変化しているのは、このメモを書いたやつが言うように、それぞれダンジョンが形成されているからなのだとしたら納得がいく。けど、1匹でしか入れないというのは初耳だ。多くのダンジョンが封鎖され、全盛期のように多くのポケモンが訪れることはなくなったわけだけど、未だ俺のようなダンジョンに興味を示しているポケモンも少なからず存在しているはずだ。しかし、そう言ったポケモン達とダンジョン内で出会うことがなかったのも、この仮定の下で考えてみれば納得がいく。
 だが、原理が分からなさすぎる。同じダンジョンなのに入る度に構造が変化するダンジョン。今更だけど明らかに不自然だ。何らかの、それこそ、ダンジョン内に空間の歪みのようなものが存在しているように感じる。空間の歪み、そんな物が自然にできるのか…?
もしかしたら、誰かが、このダンジョンという存在を作り上げた、とか……。

 …いや、話が飛び過ぎている。

 そう仮定するには、証拠というか情報が足りなさすぎる。仮にそうだとして、誰が、何のために、どうやって、作ったのか謎すぎる。そもそも、こんな大規模な物を作れるポケモンが果たしているのだろうか。仮説を立ててもその上にさらに仮説を立ってしまい妄察じみた物しか考えきれない。…あー、もうやめやめ、ここで考えてたって何にもならない。
 今は、とりあえず、先に進む事にしよう。今考えたって分かるはずが無いんだしな。


*****


 下層部、そこは中層部に来た時同様、あまり代わり映えしない場所…と思いきや、壁の色が濃い黄土色から薄い灰色に変化し、石室というよりも、岩石をくり抜いて作った歪な洞窟のような場所になっていた。正直、一気にここまで来るのは初めてなものだったから下層部の変わり様に驚いたのが半分、これまでとは違った空気感に何があるのかワクワクしている気持ちもあった。
 幸い、周囲に野生のポケモンの気配は無く、遠くの方からも野生のポケモンらしき反響音は聞こえてこなかった、文字通り静かな空間、ダンジョン内を吹き抜ける空気の流れる音だけが不気味に響き渡る異質な場所に思えた。

 ……?あれは、もしかして…?
 壁や床がさっきまでと違って薄い灰色に変わっていて、なおかつ元から白味がかった配色をしてるせいで一瞬見逃しそうになったが、いつも見つけるあれが落ちていたのだった。


 ―― 何故なのだろう。何故、僕の作ったものはいつもこうなのだろう。
    僕はただ、みんなの役に立つものを作りたいだけなのに。


 ― またメモか。けど今までのものとは毛色が違うような気もする。今まではダンジョンについて書かれたものが主だった。けどこれは、なんだろう、ダンジョンについてでもなければ、誰かに向けて書いたものでもなさそうだ。ただ自分が思ったことを述べた感想のような、そんな感じがする。文章越しからでも伝わる悲壮感。きっとこのメモの主は何か嫌なことでもあったのかもしれない。ただ、ダンジョンについて書かれていない時点で俺にはいらない代物のような気もする。けど、一応これも取っておこう。きっと何かの役に立つかもしれないし。

 それにしても下層部にしてはやけに大人しいような気がする。ここまで来たのは初めてとは言え、中層部での猛攻がまるで嘘のような静けさが広がっていた。この静けさが逆にゾワゾワと恐怖を掻き立ててくるのがとても気持ちが悪い。




 やっぱり、そうだ。ここには野生のポケモンが居ないみたいだ。四方に通路の存在する部屋のど真ん中でこうも寝転がって一休みしていてば一匹くらい他のポケモンに見つかってもおかしくないんだけど、ここだけは野生のポケモンが存在しない安全区域なんだろう。その代わりと言ってはなんだが、音も何も聞こえないくらい静かな空間、俺の持つ剣と盾が地面にぶつかり合う反響音と風の吹く不気味な音だけがその場にこまだしていた。今まで殺伐とした空間で過ごしてきたからこういう空間はありがたいんだけど、逆に何も無さすぎて違う意味で気が狂いそうだ。
 ふと、身体を起こし、部屋の中を眺める。本当に何もないただの空間。しかし、今いる部屋の奥の方に奇妙な物があることに気づく。
 解読不明な記号符や絵のようなものが一面に描かれた物。全くもって何なのか分からなかったが、ポケモンが通れそうなくらいの大きさの一枚岩と壁の境界に妙に空いた隙間があるそれは、まるで何かを封印するかのような、扉のような物がそこにあったのだ。
 扉…親父が言っていた奥の扉は、これのことだったのか。しかし扉には謎の記号のような絵のようなものが彫られているだけで取手のような扉を開けるための仕掛けが一切見当たらなかった。
 親父が言うには、この扉の奥にダンジョンの謎を紐解く物が眠っているそうだけど、それと出逢うにはまずこの扉の謎を解き明かさないといけないみたいだ。そして親父は、この扉の謎に挑戦する最中、命を落としたのだろう…。忌々しい扉が目の前に鎮座している。けど謎を解こうにも明らかにピースが足りない。扉に描かれた記号のような絵も何を現しているのか皆目見当もつかないし、この扉を開けるためのヒントも全くない状況だ。親父が生きていれば、直接何かしらのヒントを聞けたかもしれないけど、それはもう無理な話だ。

 …とりあえず、今回はこの辺で帰ろう。扉の謎を解くための情報を集めないといけないし、何より、今日は体力を酷使し過ぎたせいで俺自身ボロボロな状況だ。これ以上、ここに居てもどうにもならないし、これ以上無理をしてはまたランタに怒られそうだしな。
 いつものようにバッグから青く丸い球を取り出し、そしてそれを強く握りしめた。






*****





 あれから何日か経った。道具屋としてアイテムを集めながら、ダンジョンの謎について探っていっていたけど、謎はおろか、親父の言う奥の扉の謎さえも解けずにいた。

 今日は営業も終わり、ダンジョンの探索も一通り終えて、今はダンジョンで拾ってきたメモなんかを元に、ダンジョンについて思考を巡らさせていた。夜も遅い時間帯、ダンジョンで拾ったメモや俺が思考を巡らさせて書いた考察メモで無造作に散らばった机の上は机の模様が見えないくらいに埋まっていた。側にある蝋燭ランプは淡いオレンジ色の光を放ちながら辺りを照らしていた。
 ― ダメだ…いくら考えても分からない…。今あるメモだけじゃ明らかにピースが足りない。先駆者が残したであろうメモを求めてダンジョン内に道具回収のついでに集めて回っていたりもしたのだが、メモのほとんどは関係ない内容だったり、同じような内容が書かれていたりと、核心に迫るような物は見つからなかった。
メモを元にいくつかの仮説も立ててみたりもしたけど、学者でもない俺が上手いように纏めれるはずもなく、全部中途半端な所で止まっていた。いくら、こうなのかもしれないと考えてもそれを証明する根拠もない状態。このまま当てもなくダンジョン探索に行っても答えが出てくるとも思えなかった。

 ― もう、諦めた方が良いのかもしれないな…。学者のように知識があるわけでもなく、冒険者のような強さがあるわけでもない俺が挑んで良いような謎では無かったのかもしれない…。それもそのはずだ。これまで多くのポケモンが挑んで、誰一匹として解き明かすことができなかった、閉ざされた永遠の謎。俺みたいな能力もない普通のポケモンが解けるはずなど無い代物なのだ…。


 ― けど、どこか諦めきれない自分がいた。だって、諦めちゃったら、道具屋としてただダンジョンで道具を集めるだけの生活になってしまうかもしれない…。そんなつまらない生き方を、俺はしたくはないんだ。…それにあの時、親父にも誓っただろ、ダンジョンの謎は俺が解いてやるって。


 気弱になるな 俺!
 諦めちゃ駄目だ!!


 諦めかけてたけど、そう思い聞かせて気合を入れ直す。弱気になった時はいつもこうやって自分に思い聞かせるようにしている。何度も諦めかけたけど、それが出来るってことは俺の心はまだ折れちゃいない筈だ。
 気合充填のために一度椅子から立ち上がった。その時だった。立ち上がった衝撃で蝋燭ランプが倒れてしまった。
 ― ぼうっ、と、音を立てながら蝋燭の火は机のメモに燃え移っていった。

 …って、やばいやばい!冷静に燃え移る瞬間まで見てたけど、このままじゃ他のメモにまで燃え移ってしまう!!
 咄嗟に手のはさみで火を押さえつけようとした。

 ― あっつい!!
 火は俺にとって弱点のタイプであることを忘れていた。まずい…パニックで頭が上手く働かない。火を消す何か、何でも良い、何かないか…?そう思い、周りを見渡していると、ふと、近くにあったベッドが目に入った。…この際なんだって良い。ベッドの布団で押さえつけて火を消そう!― そう思ってすぐに布団を机の上に被せ、上から強く叩きつけた。


 ― あぁ、燃えてしまった…。すぐに鎮火したとはいえ、拾ってきたメモの大半は読めないくらい黒焦げになってしまっていた。ほんと、やめてくれよな…。諦めそうになった所に俺が十分に気合を入れて頑張ってみようって思っていた所だったのに、こんなことはされちゃ、折角入れ直した気合も抜けちゃうだろ…。

 幸いにも燃え移ったのが拾ってきたメモだけで良かったものの、さっきのボヤ騒ぎのせいで少し萎えてしまった。…仕方ない、とりあえず、黒焦げになったメモは捨てておこう…。拾ってきたメモの内容は別のに纏めてあるから、捨てても問題ないだろう…。
 ― ……?あれ、なんだろう、これ…
黒焦げになったメモの中に、一つだけ違和感のあるものが混じっていた。

 ― これは…まさか…!



*****


「……?って、ちょ、ちょっと!ゼノン!?こんな時間にどこ行くの?!」
 ランタか…。というかなんでこんな時間に外出てるんだ?もう夜遅いのに…。
「それはこっちの台詞だよ…。僕は村の見回りの兼ねていつもこの時間に外に出てるの。ゼノンこそどうしたの、ほんとに」
 俺か、今からダンジョンに行こうって思ってな。
「えっ!?駄目だって!もう夜も遅いんだし、日が明けてから行きなよ。別にアイテムに困ってるわけでもないでしょ?」
 ごめん、ランタ。悪いけど今すぐにでもダンジョンに行きたいんだ。無茶なことはしないって約束するからさ、頼むよ…。
「…分かったよ。けど本当に気をつけて行ってきてよ?」
 分かってる。お前に迷惑かけるようなことはしないさ。― じゃあ、行ってくるよ。日が登る時までには帰ってくるようにするからさ。




*****




 勢いでダンジョンにまで来てしまった。さっきまでボヤ騒ぎとか色々考え事とかしてたりしてたせいであんまり頭が働かないな…。やっぱり、ランタの言うように、日が明けてから突撃すればよかったかもしれないな…。
 まあ、今更そう思っても遅いし、それに、中にまで入っちゃったものはしょうがない。とりあえず、扉のある奥の方まですっ飛ばして行こう。今の俺の目的は財宝でも野生のポケモンでも無いしな。


流石、親父だな…。こんなの、パッと見ただけじゃ誰も気づかなかっただろう。まさか、メモに細工を施してあったなんてな。



 …あれ、これだけ全然焦げてない…?
 あの時、一枚だけ燃えていなかったメモがあった。親父のメモだ。他のメモが蝋燭の火で黒焦げになっていたというのに、これだけ、全くと言って良いほど燃えていなかったのだ。しかも、よく見たら、下の方に文字が浮かび上がっていたのだ。



 正直、あれを見た時は本当に驚いて開いた口が塞がらなかった。比喩でもなく、本当にそうなったらからそれに関しても驚いた。突拍子のないことが起こるとポケモンってほんとにああなるんだなって思った。親父のメモに使われていた紙、見た目も紙触りも普通の紙にしか見えなかった。けど、これは普通の神より燃えにくい素材で作られた紙だったのだ。親父はそれを見抜いて、メモを書いていたんだ。そこに謎を解くためのヒントを巧みに隠して…。もう、流石、としか言いようがなかった。流石、道具屋スターライトの“前”店主だな、と。
 まあ、親父のことだ。ただで答えを教えるような野暮なことをしたくはなかったのだろう。このくらいの細工に気付けるようなやつじゃないと教えられない、みたいな感じで。

 それで紙に書かれていたのは“扉の謎はレジが封印している”という文章だった。
 つまりは、レジという物が扉をロックしているということだな。けど、それが分かったところで、という話になってくる。そもそも、“レジ”ってなんだ?俺が店番する時に使っているレジ、ではないだろう。前店主の親父のことだからもしかしたら、とも考えてみたけど、そんな単純な話なはずがないし、扉の謎なのにそのレジでどうこうできるような物でもないだろう。…何かが足りない。謎を解くために、まだ何かが足りないような気がする。何が、足りないんだ…?もしかして、この文に何か隠されていたりするのだろうか…。

扉はレジがロックしている…
レジがロックしている…
レジが…ロック…
レジ、ロック…

レジロック…?


 ふと、聞いたことのある言葉が思い浮かんだ。レジロック、確かそんな名前のポケモンがいたような気がする。姿かたちこそ知らないが、この扉の謎と無関係には思えない。きっとこのワードが次に繋がる何かなのかも知れない。根拠らしい根拠はないが、これで間違いないという自信だけは何故かあった。
 それで、だ。このワードをどうすればいいのだろうか。このワードを元に謎を解いていかなければならないが、皆目検討がつかない…。もしかして、そのレジロックとかいうポケモンを連れてこないといけないのだろうか…。

 ……っと、よく見たら扉に文字のような物が描かれたボタンのような物があることに気づいた。もしかして、このワードを打ち込んでみればいいのか…?
ボタンに描かれている文字、恐らくアンノーンというポケモンで形作られた文字だと思う。昔、ランタからちょっとだけ教えてもらったからワードの打ち込みは出来るとは思うが、この文字に関しては自信はあんまりない。とりあえず、ダメもとでもやってみるだけやってみよう。


……



 ――カチッ
 何かが外れるような音が響いた。
 正解だったみたいだ。なんだか呆気に囚われた謎解きだったような気がする。多くのポケモンはここまで辿りつけずにダンジョンの中で朽ちていったのかも知れない。それこそ、俺の親父のように…。今回、俺が扉の謎を解けたのは親父のメモがあっての成果だ。もし、あれがなかったら、俺も親父みたいに路頭にダンジョンの中を彷徨い続けることになってたのかも知れない。最悪、俺も親父の二の舞を踏んでいたかも知れない。
 親父…今更言ったってもう伝わらないかも知れないけど、ありがとうな。親父のおかげで俺は、先に進めるよ。親父が出来なかったことを、俺が継いでやるから、だから、安心してくれよ。

 扉の向こうは先が見えないくらい真っ暗だった。
 扉の謎は解けた。だが、ダンジョンの謎に繋がる物は、親父の見立てが正しければ、この先にあるのだ。先に何があるのかという興味と好奇心のほかに恐ろしい物が待ち受けているのではという恐怖がいる混じった不思議な感覚だ。けど、ここまで来たら覚悟を決めて進むしかない。前のようにならないように、穴抜けの球は取り出しやすい場所に入れておこう。危なくなったらすぐに脱出できるように備えておかないと…。ランタの言うように、俺も親父の二の舞になるようじゃ目も当てられないからな。

 一歩一歩、慎重に歩みを進める。流石に罠のような物はないとは思うが、何があるか分からないダンジョン、増しては親父ですら辿り着けなかった未知の場所だ。警戒するに越したことはないだろう。
 暗く無機質な狭い廊下を抜けると、そこには先程まで見てきたダンジョンのような一室が広がっていた。しかし、これまでのダンジョンの部屋に比べ妙に広く感じる。敵らしい敵も居なければ、財宝らしきアイテムや宝箱のようなものもない。強いて言えば、部屋の中央に見たことのない巨大な石像のような物が鎮座しているくらいだろうか。

 とりあえず、中央にある如何にもと言った石像らしきものに何かあるのだろう。敵はいないとは言え、最大限に警戒しつつ、石像に近づいていこう。
 …見た感じ、本当にただの石像にしか見えないな…。手や足など、とても巧妙に作られている様子から相当器用なポケモンが作ったのだろう。少し変わった所といえば、身体の真ん中に規則的に配置された6つの大きな点が描かれていることくらいだろうか。それ以外はどこにでもありそうな至って普通の石像に見えた。
 ただ、身体のパーツ部分に使われている岩石について少し気になる…。オレンジ色がかった岩に薄い黄色染みた岩…手や足に至るまで全てと言ってもいいほど、全く異なる岩石で身体が作られていたのだ。まるでパッチワークで組み合わせたかのような不自然さに感じた。岩石について詳しいわけではないが、素人でもすぐに分かるくらいあからさまに違っていたのだった。これを作ったやつはなんでこんな面倒臭いことをしたのだろう…。普通、石像を作るんだったら同じ岩石で作った方が作りやすいはず…。わざわざ違う石材で作る方が変な話だ。もしかすると、アートとかいうやつなのかもしれないが、俺には到底理解し難い代物だな…。

 というか、待てよ…。殆どの部位が違う岩石で構成されているのなら、この石像はどうやって作られたんだ…?普通、石像は岩石を切り出して作っていく物なはずだ。切り出す際、岩石の成分が違っている、なんてことは起こり得るはずがない。起こったとしても、それは切り出す際、地層の境目を切り出してしまった時くらいだろう。全ての部位の材質が異なる石像など作れるはずがない。銅像などであればパーツごとに成型して作っていく方法もあるだろうが、これは明らかに岩石でできた石像だ。明らかに、普通のポケモンが作れるような代物ではない。接着剤の線も考えてみたが、腕の部分とか完全に重力を無視した異次元的なくっつき方をしているし、なによりも、身体の部分の材質の違う部分の境界面がなさすぎる。削ったとしてもここまで綺麗にくっつけることなどまず不可能に近いし、あまり有効な線とは考えられないな…。

 おかしい…明らかにおかしいぞ、この石像…。
 懐疑的に思う一方、急に嫌な予感がした。ゾワゾワと這い寄るかのような感覚…。そう感じたその瞬間、石像が光輝き出したかと思えば、爆風にような物が周囲に広がっていった。
危なかった…。嫌な予感がしてから石像に異変が起きるまでの一瞬の隙に盾に意識を持っていけていたことが幸いだった。盾に身を潜め、なんとか爆風から守ることはできたものの、一体何が起こったんだ…?爆風が収まり徐に盾から身体を乗り出して見る。
 …ッ?!なんだ、あれは…ッ?!
 石像のあった場所に蠢く何かがあった。ポケモン、か…?いや、あれは、さっきの石像だ。石像が動き出したんだ…!腕の部分を勢いよく振り上げズドンッと床を叩きつけ俺に威嚇しているようにも見えた。よく見ると、身体の真ん中にある6つの小さな点々に光が灯っていた。

 ― ざざ ざり ざ…


 その直後のことだった。不意に頭上に大きな影ができたのだった。
 …ッ!?
 ― ドゴォォォン!!
 大きな岩が落ち、耳元で砕ける音が聞こえたのだった。



 ― あっぶない…。咄嗟に避けれたとは言え、はがねタイプの俺でもあれに当たったら完全に潰されていた…。こいつ、殺意が並のそれじゃない。確実に俺を殺るために攻撃してきている。しかも攻撃を止ます事なく、ずっと俺に向かってこうげきを仕掛けて来てくる…。まるで暴走ロボットのようだった。大量の岩石が降り注いぐ中、奴の攻撃を避け続けているのだが、ずっと避け続けてるだけじゃ、いずれはやられる。なんとか隙を見つけて攻撃をしないと…!何かないか…奴の隙は……

 …ダメだ、隙が見つからない…。
 絶え間なく攻撃を仕掛けて動き続ける奴の隙を見つけることはほぼ不可能にも近かった。だからと言ってこのまま攻撃を避け続けるのも体力的に無理がある。…こうなったら、攻撃の合間に徐々に近づいていって攻撃できる範囲に入る他ない…。奴が仕掛けてくる岩落としをかわし本体から放ってくる謎の光線のようなものもギリギリで避け、徐々に近づいて行き、そして攻撃が届くギリギリの範囲内に入り、奴に向かって大きく剣を振りかぶった。力一杯剣に込め、そして剣先が触れる、その直前の事だった。奴が動き出し、攻撃が大きく空振ってしまい、剣先は地面に突き刺さってしまった。
 まずい…外した…!早く抜いて動かないと、岩で潰されてしまう…!
 俺が動けない状況を見て、奴も急に動きを停止させたのだった。様子を見ている、というより、次の攻撃に向けたポーズか何かだろう。止まっている俺は奴にとっては格好の的だ。早く、早く動かないと、奴の攻撃が直撃することになる…!そうなってはまずい…早く、剣を抜かないと…!
 己の持つ力をこれでもかと使い、そして、やっと剣が地面から抜けたその時、奴が攻撃を放ったのが見えた。
 まずい…何処から来る…?上か…?…いや、下だ!!
俺のいた地面が強く震え、そして地面から無数の岩の柱が飛び出してきたのだった。
 …うっ、ぐぁ…!!
剣を抜く一瞬の隙を突かれ、奴の放った攻撃をモロに受けてしまった。しかもその、衝撃で持っていた剣は吹っ飛んでしまい、遠く俺から離れた場所に落ちてしまった。
 …ぅ…ぐっ、がッ……!
声にもならない声が出てきた。体力はもう瀕死と言っても良いくらい、もう残ってはいなかった。身体を動かそうにも動けないし、頭も働かすことも出来なかった。

 もう…ダメ…か…
 俺も…親父みたいに…ここで………





………



……








 …いや、こんな所で…こんな所で……!

 俺は…諦めない……!親父にも誓ったんだ…!

 謎は…俺が解き明かすって……!!

 それまで、くたばって…たまるかぁぁッ!!



 グ、グオォォァァァアアッッ!!!!!


 けたたましい唸り声が響いた。もう身体も体力も全部ボロボロな状態、正直身体中痛くてしょうがないくらい傷だらけで立ってられないほどだった。だけど、俺の内に宿る獰猛で、諦めきれない、死に損ないの力が俺を立たせてくれた。
 そして、自分でもあり得ないくらいの速さで剣が落ちた場所に向かっていった。その勢いで素早く剣を拾い上げ、剣を再び握った。今度は絶対に離さないと、強く剣に誓って、強く握りしめた。装備は再び取り戻した。あとはアイツに一撃を叩き込めるタイミングを測るだけだ…。奴が仕掛けてくる岩落としを何とか避けつつ、全力の一撃を叩き込めるタイミングを身計った。意識が朦朧とする中、ハッと、その瞬間に気がついた。

 落ちてくる岩を利用できないだろうか…。奴からの攻撃を避けつつ岩を弾き返して、奴にぶつけることが出来れば、瞬間的に隙を生むことができるはず…!けど、剣で跳ね返すには面が圧倒的に足りない…だったら盾を使えば跳ね返せるはず…!
奴に近づき、降ってきた岩と奴が重なった瞬間、岩に向かってぶつかっていった。重力に従って落ちて行くはずの岩は軌道を変え、奴に向かって綺麗な弧を描いていった。
 奴が岩にぶつかった瞬間、衝撃で一瞬身体が揺らめいたのが見えた。

 今だ…!!
 奴に向かって、剣を、一気に叩き込むッ!!

 羽を素早く動かして奴の懐に潜り込む。剣を大きく振りかぶった。奴を一撃で沈めるには剣を思いっきり奴の脳天めがけて振り下ろさなければいけない。けど、こいつは岩でできた巨大なポケモン、差し詰め、岩の巨人といってもいいだろう。そんなやつの身体を俺一匹の力だけで叩き斬れるのか…?やれるのか、やれないのか、そんな迷いの気持ちが剣を握る手を震えさせる。俺はただの道具屋の店主。冒険者じゃない。増して英雄や勇者と呼ばれるような強さを持ち合わせている訳でもない…。そんな俺が、こいつを、仕留め切れるのか……?






 いや…やるッ!!
 弱気になるなッ!!
 やれると信じろッ!!!


 俺は こいつを 叩き斬るッ!!!

 うおおああぁぁーッ!!!!

 剣を振り翳した。力一杯、これ以上出し切れないほどの力を出し、奴に向かって剣を振り下ろした。…気づいた時には、剣先は地面に突き刺さっていた。目の前に奴の姿は無かった。ふと、背後から奴の気概を感じた。しかし攻撃をしてくる様子は感じられなかった。徐に奴を見る。…奴の岩の身体は真っ二つに分断されていた。俺が、剣で叩き斬ったのだ。
 やった、のか…?
 身体を斬った断面が生々しい見えた。奴の断面、それは何処にでもありそうな岩を切断した時にみる物と同じだった。無機物なタイプのポケモンは大抵がそうなのだろうが、やはり叩き斬っても内部から血や体液のような物が吹き出してくる様子はなかった。しかし、普通のポケモンのように、ここまでやればもはや動くことなどないだろう。そう思っていた、その時だった。突如、奴の身体が輝き始めたのだった。
 これは…まずいッ!!
 俺の中で何かがそう囁いたように感じた。思わず盾を構え身を潜める。次の瞬間、耳を塞ぎたくなるほどの騒音と爆風に襲われた。
 ― “だいばくはつ”だ。
 あいつめ、最後の最後に自爆技で俺もろとも吹き飛ばす気だったみたいだ。幸い盾で防げたからかダメージはそこまでない。とはいえ、余りの爆風の強さに背後に吹き飛ばされてしまった。鋼の鎧でできた俺を吹っ飛ばすほどの爆発だ。もろに食らっていたらそれこそ致命傷では済まなかっただろう。だが、俺の危機管理能力の方が一枚上手だったみたいだな。

 奴の身体はバラバラに砕け散っていた。身体のパーツだけが無造作に転がっていた。
爆発で粉々に散ったみたいだ。もう動くことはないだろう。

 はぁ……はぁ……
 視界が歪み、意識を朦朧としていた。もう今は何も考え切れなかった。身体は剣と盾を持ったまま、重心を支えきれず、そのまま地面に倒れ込んでしまった。












 どれくらい経っただろう。いつの間にか、眠ってしまっていたようだ…。身体こそ動かせるようにもなり、意識もはっきりとしているものの、傷だらけのせいで身体中がまだ痛かった。
 今回の戦闘、正直、どの野生のポケモンとの戦いよりも一番苦戦したと思う。アイツが野生のポケモンかどうかは分からないけど、そもそもアイツが何者なのかさえ分かっていないんだけど、恐らく、アイツが例のレジ何とかって奴なんだろう…。気づけば、散り散りになった奴の身体の岩石はなくなってしまっていた。

 けど、親父の言うようなダンジョンの謎を解き明かすような物は何一つ見つかってはいない。アイツとの戦闘に勝つことで何かしら分かるのかとも思っていたんだけど、そんなことも無く、ここには俺以外何もない部屋が広がっていた。やはり、親父の見立ては間違っていたのだろうか。



 ……?
 あれ…そういえば、こんなのあったっけ…?

 爆発四散した岩石の破片があった場所に、巨大な鍵のような物があったのだ。扉の鍵にしては随分大きすぎるサイズ、材質は周囲にある岩石と同じような物で作られていた。
 この鍵を、見つけたはいいけど、これをどうすれば…。
そう思っていた時、部屋のの奥底にある壁が光り輝いていたのを見つけた。
さっきまで光ってなかった場所が突如として光出した…。しかも光の出心は壁ではなく壁にあった巨大な鍵穴のような場所からだった。
 巨大な鍵に、光り輝く巨大な鍵穴…これはつまり、こうすればいいってことかな。
 さっき拾った巨大な岩石の鍵を光り輝く鍵穴に差し込み、そして鍵を開ける要領でカチッと回した。

 暫くして、地面が急に揺れ出し始めた。敵か、地震か、と思ったが直ぐに止んでしまった。
 …周囲には何も変化は無かった。鍵穴にも変化は無く、鍵が刺さった状態で淡く光り輝いていた。

 なんだったんだろうか…。少なくともここでは何も変化してないみたいだし、とりあえず、外に出てみよう…。ちょっと休んで動けるようになったとはいえ、体力はまだ万全に回復してないし、早めに療養しないといけないしな…。
 バッグから穴抜けに球を取り出す。鍵穴の淡い光に照らされて球も少し光り輝いているように見えた。そして、いつものように強く、生き生きと、それを握りしめた。


*****

 
「ああ、良かった。無事みたいだね」
 その声は…ランタか。どうしてここに…?
「急にダンジョンの入り口が光出したもんだから、君に何かあったのかと思ってね。けど無事みたいで何よりだよ」
 いつにも増してランタの目が安堵に満ちていた。相変わらず、過保護な奴だな。まあちょっと怪我しちゃってる程度だが、前に比べたら全然どうってことないさ。いちいちお前に面倒かけるわけにもいかないしな。
「そう…。ところで、ガンセッキ以外のダンジョンの扉が開いてたんだ」
 ランタの背後、ガンセッキの入り口の近くの閉ざされていた扉が開いていた。間違いない。あれがあの鍵が示していた次のダンジョンなんだ。あの奥で捻った鍵は、あのダンジョンの扉を開けるためのものだったんだ。それを見た瞬間、俺の中でふわふわと漂っていた物が確信へと変わっていった。
「……君が、やったんだね…?…無茶してないって言ってたけど、やっぱり無茶して来たんでしょ?ちょっとの怪我とか言ってるけどよく見たら身体中傷だらけだしさ」
 何も言わずともランタにはお見通しだったみたいだ。そうだな。俺が、あの扉を開けたんだ。ダンジョンの奥で巨大なポケモンと戦って、そして鍵を手に入れた。その鍵で奥にあった鍵穴を捻ったから、次のダンジョンの扉が開いたんだ。でも、俺だけの力じゃ無理だった。親父の、親父の残したメモのお陰で出来た、謎が解けたんだ。…ランタは親父のこと、どう思ってるんだ…?
「…さあね。生き急ぎすぎたやつのことなんて知らないよ、僕は。けど、ラドンは間違ってなかった。そう思うんでしょ、君は」
 そうだな。親父のメモで謎が解けた、ここまで来れたんだ。ランタの言う通り、親父は生き急ぎすぎたのかもしれない。けど、少なくとも、俺は親父は間違ってなかったんだって思ったよ。あれが、親父の生き様だったんだなって。俺はそんな親父の子どもだ。親父が出来なかったことを、俺が、親父の代わりにやりたいんだ。だから、ランタ、次のダンジョンにも行かせてくれないか?無茶はしない、って言ったら嘘になるかもしれないけど、少なくともランタに面倒かけるようなことはしないからさ。
…けど、これだけは、お願いしてもいいかな…。親父と同じこと頼むことになるかもしれないけど、もし、俺に何かあったら、店のこと、頼んでもいいかな…。
「はぁぁ…。君ら親子は揃いも揃って…ほんと、世話が焼けるよ、まったく…。けど、ここまで来たら、僕も君のこと信じてみることにするよ。どうせ止めたって行くんでしょ?…行って来なよ、ゼノン。でも死なないでよ。無駄死にはラドンだけで十分なんだから」
 …ランタお前、なんか変わったな。前までは俺がダンジョンに行く度に奥まで行くなって言ってたのに…。うん、分かってる。俺だって色々学んでるんだし、中途半端な所で死んじゃいられないさ。

 気付けば夜空は消え失せ、山の奥から、輝かしい日の出が顔を出していた。日に照らされ、暗かったダンジョンの入り口に、光が差した。暗くてあんまり見えなかったランタの顔も、今では明るく透き通って見えた。

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