第130話 夢の舞台から降りる時

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ゴールド、おはよう!」
「お、おはよ……。早いのな、まぁリビング行くか?」
「おーっ!」

 ポケモンリーグ決勝戦の翌朝、珍しい事にマイがゴールドを迎えに来た。
 朝、九時。ゴールドの母親に挨拶を済ませたマイが部屋に入って来た事に目を瞬きさせるゴールド。

「マイ、右腕……」
「え? あー、うん。なんか治った!」
「治ったァ!?」

 マイが両手でゴールドを布団から起き上がらせた事にひどく驚いたらしく語彙力を失う。

「こんなに回りますよ、ほらー!」

 わざとらしい敬語で右腕を振り回す。逆にゴールドがそれ以上動かすな、とストップを掛けて説明を要求。

「うーんと、昨日ゴールドが帰った後にお父さんと夕飯食べにレストラン行って、お風呂入って、リビングでテレビ見た後に寝て、それで朝起きたら動くようになってた!」

 視線を天井に向けて、昨夜の事を思い出す。左人差し指をグルグル回しながら説明するマイにゴールドは頷いて聞いていた。

「なんだそりゃ……はぁぁああ」
「深い深い。ため息深いよ。幸せ逃げちゃうよ!」

 あんなに落ち込んでいた自分は何だったのか、肩を落とす。そんな事つゆ知らず、マイは朝ご飯食べに行こうと階段へ向かわせた。
 マイは既に自宅で食べて来たらしくゴールドの食べる姿をニヤけた顔で見ている。

「なーにニヤけてんだよ」
「え? ふふふー、サインせがまれたりしたらどうしようかなぁって!」
「ないな。ないない。マネージャーを通してもらわねぇとなァ」

 その顔が気になったのか口に食べ物がなくなってからマイに尋ねると、くだらない答えが返って来た。しかし、それにちゃっかりノる男。

「マネージャーさん、早くポケモンリーグへ行こうよ」
「わーったよ。これだけ食ったら行くよ!」

 ゴールドの肩を揉みながらマイは甘えるように催促する。一応、昨日の事を気にしているのかもしれない。

「歯も磨くんだよ?」
「わーってるわァ!」

 気にしてないみたいだ。ゴールドに怒声を浴びせられてようやく日常が戻る。
 閉会式まではまだ時間はあるが早くいけばその分、気持ちも落ち着くだろう。

◆◆◆

 ポケモン協会による閉会式と表彰式はすんなりと幕を閉じて、最後は撮影会となった。

「えー、今回の優勝者のマイさんです」
「はい、写真撮るよー。笑って笑ってー。おーいいねぇ。ナイススマイル!」

 性格は難ありだが顔立ちは悪くないマイは写真を撮られる事は嫌いではない。むしろ好きな部類だが、こうも知らない大人達に囲まれると冷や汗が止まらない。

「ゴールドォ~助けてよぉ~」

 弱々しく金色の瞳が助けを呼ぶ。肩をすくめてゴールドが助け舟を出そうと、人混みの中を縫うようにして最前列まで来た。

「じゃ俺達用事あるんで!」
「さよなら! 後はコウちゃんの取材でもどうぞー!」

 手を繋ぎ、逃げるようにポケモンリーグから走って出てくるとまだ明るい太陽が浮かんでいた。
 そういえば用事って? マイは首を傾げて尋ねる。

「おー。その右腕について何か知ってるかもしれねぇって奴がいてよォ」
「本当!? あ、でも今日は全然痛くないよ? 気のせいだったかもしれないし」

 離した手でマイの腕を指し示すゴールドが悔しそうな表情をしながら言う。
 マイは喜んでゴールドの胸元に手を当てて目を輝かせるが、一瞬目を伏せて口ごもる。

「気のせいだァ? あんなに泣いて喚いたどこが気のせいなんだよ!」
「うううっごめんなさい!」

 胸元に置かれた手を握りしめて一喝。
 目をぎゅっと閉じて謝るマイは旅に出る前と何も変わっていない。そんな様子になんだか心が落ち着くのを感じた。

「シルバーが……あいつが何か知ってるっぽい事を言ってたからよ。今から行こうぜ。カントー地方のトキワシティに!」
「シルバーさんなら安心だね。うんっ行こう! レッツゴー! リューくん、空を飛ぶ!」

 シルバーに負けたような悔しそうな顔をしたゴールドに手を離されたマイは手首を摩りながら頷きながら聞くと、腰につけていたモンスターボールからカイリューを出した。
 慣れた手つきで背中の上にジャンプして乗ると、手を差し伸べてゴールドを乗せようとする。

(その行動……普通、俺がやるべき事なんだろうけど)

 マイがどこでそんな行動を覚えたのか知らないが、手を取ってゴールドはカイリューの背中に乗り、マイの細い腰に手を回す。

「それじゃーシルバーさんの所まで空を飛ぶ!」
「安全運転で頼むぜー!」

 カイリューの空を飛ぶスピードはポケモン界でもトップクラスだ。軽いおしゃべりをしている間にトキワシティに着く。
 トキワシティの人々はあまりお目に掛かれないカイリューに興味津々に近づいて来たが、ゴールドは「先を急ぐぞ」と急かしてすぐにモンスターボールに戻させた。

「シルバーさーん!」
「む、マイか。優勝おめでとう。早速連れて来たんだな。こっちだ、ついて来い」
「あ、ありがとうございます。えへへ」

 ポケモンセンターの前にいたシルバーを発見したマイは駆け足で近寄る。特徴的な赤い髪が夏の風に吹かれて気持ち良さそうだ。大会で優勝したマイをシルバーだってお祝いしたかったのか、さらりと言うとマイが照れくさそうな笑みを返した。
 内心ゴールドは、お前が明日トキワシティのポケモンセンター前に連れて来いって言ったんだろ、なんて思っていたが口に出す事はやめた。それは今、口喧嘩しても何も生まれないと感じたからだ。

「ここって図書館ですか?」
「ああ。ポケモン神話は知っているよな? それぞれのポケモンにそれぞれの神話があってもしかしたらカイリューの神話にお前の腕が痺れる原因があるかもしれないと思ってな」

 案内されて着いたのはトキワシティの図書館。ゴールドは暇そうに頭の後ろで手を組んでマイとシルバーがポケモン神話の本を探しているのを眺めていた。

「あった。これがカイリューの神話ページだ。読めるか?」
「えっと、漢字はあんまり読めないので読んでくれますか?」
「分かった。先に言っておくが、寝るなよ?」

 すぐに見つかったポケモン神話を手に取るシルバーは重そうに胸に当てながら席まで運んで行ってくれた。
 四人掛けの席にシルバーが座り、向かい側にゴールドが座ったので当然のようにマイはゴールドの隣へ座った。しかし、シルバーがそれだと見えないだろう、とぼやくので慌てて席を立ち、シルバーの横に移動する。

「カイリュー神話……古代よりカイリューは神聖溢れるポケモンとして崇められていた。ここまでは分かるな?」
「はいっ。カイリューはすごく偉いって事ですよね」
「まあそんな所だな。んだよ、シルバー。分かったよ、口出しはしねぇ」

 淡々と読み上げていくシルバーに頷いて聞いていたマイ。とりあえず確認するために聞かれた事をマイなりに答えてみたら、ゴールドがOKサインを出した。が、良く思わないシルバーに睨まれてしまったようだ。

「流星群という技が生み出された。しかし、これは選ばれし者だけが取得させれる技」
(選ばれし者……じゃないって事かなぁ)
「もしも、選ばれなかった者が流星群を使う時、対価の物が失われるだろう……」
「シルバーさん?」

 「流星群」その言葉に二人は大きく反応を示す。そして、感情が読み取れないままシルバーの声が止まった。マイは覗き込むように問う。

「すまない、これだけしか書いていない」
「ハァァ!? これじゃ何の解決にもなってないじゃねーかよ!」
「ゴールドここ図書館だよ。わたしならだいじょうぶだから」

 重い口を開けてシルバーは申し訳なさそうに顔を項垂れながら言った。ゴールドは怒りが沸騰していたのが沸きあがったように席から立ち上がって怒声を浴びせる。
 落ち着かせようとマイがなだめると深いため息をついてゴールドは再び席に座った。

「俺はもう少しここに残るが、お前達はどうする? こんな所に留まるような奴ではないだろ?」
「ああ。マイ、行くぞ」

 まだ調べるのかシルバーは残ると宣言。気を使って二人が出て行きやすいような台詞まで付けてくれた。
 素直に受け止めてゴールドはマイの手首を掴むと外へ出た。

「行くってどこに?」
「2の島!」

 ゴールドが言った「2の島」はマイ達がかつてフスベシティで出会ったキワメ婆さんが住んでいるという島だ。困ったら来い、来れたらな? と煽られてまで言われていた台詞を根に持っていたようだ。

「でもどうやって?」
「あ……」

 今までゴールドの後ろをひょこひょこ着いて来ていたマイが一歩ゴールドの前に出て首を傾げて聞くと口が開いたままのゴールドがいた。

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