63話 2度目の勝負

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ヒビキとタイショーの勝負に割り込む形で関わることとなったアイトは、ヒビキの実家に泊まらずタイショーの家で明日の勝負について作戦会議を行うことにした。
 ヒビキの前であれだけの大口を叩いた以上、この勝負、負けるわけにはいかない。

「さっそくだが明日の勝負について作戦を練りたい。 お前の覚えてる技とか得意な戦術とかあったら教えてくれないか?」
「その前に1つ聞かせてくれ」
「なんだ?」
「なんでお前はヒビキの味方をしなかったんだ? ……その、俺が昔、ヒビキをいじめていたことは知っているだろ?」
「ああその事か。 もちろん、お前がいじめなんてくだらない事でヒビキを傷つけていたのは知ってるし、何ならその事について俺は許しちゃいねぇよ」
「じゃあ、なおさら何で俺側についたんだ?」
「別に。 大事な友達が間違った道に進もうとしているのを俺は止めたい。 だったら、同じ考えを持つ者同士で協力したほうがいいって話さ」
「……理由はわかった。 けど、俺はあいつを、ヒビキを止めたいなんて一言も言ってないのになんで、同じ考えだとお前は思ったんだ?」
「ただの勘だよ。 なあ、タイショー。 お前、ヒビキとの勝負に負けて相当悔しかったんだろ?」
「は、はぁ!? そんな事ねぇし。 大体、何を根拠に……」
「隠さなくてもわかるよ。 だって、お前の体、転んで擦りむいたような傷がたくさんついてるじゃん」

アイトが笑いながらそう答えるとタイショーは恥ずかしそうに目に見える範囲の擦り傷を隠すような素振りをした。

「俺も色んなスポーツの練習をがむしゃらにしてた時、よくすっ転んでお前みたいな傷を沢山つけてたからな。 それに今日、俺達と会った時のお前は土とか砂で汚れてた。 林の中であの2匹のイーブイと待ち合わせしてたとこから察するに、元々はバトルの特訓か何かをする予定だったってところか」
「な、何でわかったんだ?」
「わかるさ。 言ったろ? 俺も色んなスポーツの練習をたくさんしたって」

おそらくタイショーにとって、前回のバトルで下に見ていたヒビキに負けた事はとても大きな出来事であったのだろう。
油断していたとはいえ、格下だと思っていた相手に負けたのだ。
タイショーのプライドは相当傷ついただろうし、かなり悔しかったはずだ。
そして、タイショーの性格からして、悔しさを払拭するために、ヒビキが里に帰ってくるまでに少しでもレベルアップをしようと特訓する事は容易に想像できる。
 学生時代に色んな運動部の助っ人をしていたアイトは、敗者の気持ちも、負けた後にどんな思考になるのかも、一緒のチームになったメンバーの数だけ見て、聞いて、理解してきた。
そんなアイトだからこそ、タイショーが特訓をしていることに気づくことができたのだ。

「まあ、とりあえずお前はヒビキとまた勝負して勝つことを目標に特訓をしていた。 そんなお前が今のヒビキを見たら、当然戦う気も失せる。 事実、1度はヒビキの勝負を断っていたからな」
「ああ、その通りだ。 ……ヒビキをいじめていたことは悪かったと本気で思ってる。 けど、俺はあいつとの勝負で負けたのが悔しくて、悔しくて、たまらなかったんだ。 俺ってさ、自分で言うのもあれだけど、今まで勝負に負けたことなくて、あんな気持ち初めてだった。 だから、今度会った時は絶対に勝ってやるって、そう決めてたんだ。 けど、あいつは変わっちまってた。 ヒビキに何があったんだ?」

やるせない表情で問いかけてくるタイショーにアイトはジュエルペンダントの事、その力で一時的にイーブイの進化後の姿にヒビキがなれるようになった事など、シュテルン島での出来事を話せる範囲で話した。

「……そういう事か」
「キョウから忠告を受けていたんだが、俺も自分の事で精一杯でな。 ヒビキの変化をただ気持ちが舞い上がっているだけだと思ってたんだ。 すまない」
「いや、お前の話を聞く限りだとヒビキ以外も個別に特訓してたんだろ? そんな状況で、自分以外の奴の心境の変化に気づけって方が無理ある話だ」
「へぇー。 まさかタイショーがそんなふうに言ってくれるとは思わなかったな。 てっきり、「何で気づかなかったんだバカヤロー」って言われるもんかと思ってたわ」
「お前、俺をなんだと思ってんだ? あの日から俺だってちゃんと色々考えてんだ!」

茶化すような態度で話したアイトにジト目で文句を言うタイショー。
 確かに初対面の時と今こうして接しているタイショーの態度を比べると明らかに違っている。 勝負に負けて無理矢理いじめていた事を謝罪させられたなんて思っていたら、またとっちめてやろうかと考えていたが、どうやらその必要はなさそうだ。

「なに今度は笑ってんだ」
「いや、お前がバカのままじゃなくて安心しただけだよ」
「ああ? 俺は元からバカじゃねぇから!!」
「ああ、わかった。 わかったから、そろそろ話を進めよう」
「お前が茶化すから話が進まないんだよ! で? 俺の使える技と得意な戦術とか教えてほしいんだっけか?」
「ああ。 それをもとに当日は俺が指示を出す」
「……ったく、こんな調子の奴、ホントに信じていいもんか不安になってきたぜ」
「これに関しては信じてくれとしか言いようがない。 けど、お互いに目的は同じだろ?」
「ハッ。 そう言われたら頷くしかねぇな。 わかった。 元々、分が悪いとは思ってた勝負だ。今回ばかりはお前の指示に従ってやるよ」
「任せとけ!」

そこから2匹ふたりの作戦会議は深夜の時間まで行われた。

――――――――――――――――――――

約束の朝、アイトとタイショーが林に向かうとすでにヒビキがそこで待っていた。

「あっ、アイト君! タイショー君! 遅いです! わたし、勝つのが楽しみで早くからここで待ってたんですよー」
「……相変わらず勝つ気でいるようだな」
「わかっていたとはいえ、俺もずいぶん下に見られてるな」

昨日と変わらない態度のヒビキに少し呆れた口調で答えるタイショー。
そんなタイショーの反応などいっさい気にせず、ヒビキが駆け寄ってきた。

「さあ! 早く始めるです! さあ! さあ!」
「そう焦るな。 一応形式的にも勝負だ。 ルールの確認ぐらい必要だろ?」
「んー、それもそうですね。 じゃあ、アイト君お願いします」
「わかった。 勝負はヒビキとタイショーの1対1。 俺はタイショーに指示は出すがバトルに直接介入するようなことはしない。 んで、ヒビキが勝った場合は明日、リーブさんの目の前でもう一度勝負してタイショーと一緒にいたイーブイ2匹が華々しく負ける。 タイショーが勝った場合は、怪我をさせた2匹のイーブイに謝る。 これで間違いないよな?」
「ああ」
「です」
「よし! それじゃあ、位置について始めるぞ」

アイトの説明を聞き終えたヒビキとタイショーは距離を開けて向かい合い、アイトはタイショーの背後から少し離れた位置に移動した。

「バトル開始!!」

アイトのバトル開始の合図とともにヒビキはジュエルペンダントに手をかざすと、ペンダントに刻まれた星の模様が茶色から赤色に変化し、ヒビキの姿がイーブイからブースターへと変化した。
ブースターに変身したヒビキは大きく息を吸い込むと口から炎を発射する『かえんほうしゃ』を放った。

「『みきり』だ!」

アイトの指示通りタイショーは迫りくる炎の軌道をみきり、体をわずかに横に反らす事で『かえんほうしゃ』をかわした。
攻撃をかわされたヒビキはタイショーに接近しながら、牙に炎を纏わせた攻撃、『ほのおのキバ』を繰り出した。

「『でんこうせっか』でかわせ!」
「おう!」

アイトの指示に返事をし、タイショーは『でんこうせっか』の速さを活かして、ヒビキの背後に回り込んだ。

「『たいあたり』だ!」

『ほのおのキバ』を避けられたヒビキにタイショーの『たいあたり』が命中した。
ヒビキは攻撃の衝撃で後退させられながらも体勢を整えると再び胸のペンダントに手をかざした。
すると今度はペンダントの模様が赤色から青色へと変化し、ブースターからシャワーズへとヒビキの姿が変わった。

「なんだ? もうブースターは終わりか?」
「はい。 ジュエルペンダントの力を全て見せてこそ、わたしの強さは証明されるんです」
「へえー、そうかい。 でも、そのわりにお前の攻撃は俺に当たっていないぜ」
「フフッ、タイショー君にはアイト君がついています。 これぐらいは想定内です。 さあ、それでは、続き行くです」

ヒビキは後ろ脚にグッと力を込めるとタイショーに向かって駆け出した。
真っ向から攻めてくるヒビキを迎え撃つため、アイトは『シャドーボール』を指示し、タイショーは接近するヒビキに『シャドーボール』を放った。
するとヒビキは勢いそのまま高く跳び、『シャドーボール』をかわすと地面に向かって『みずでっぽう』を放つ。
しかし、『みずでっぽう』はタイショーに当たることなく、タイショーの目の前で大きな水しぶきを上げるだけにとどまった。

「ヘッ! どこ狙ってうってるんだ?」
「……いや、違う。 ヒビキの狙いは! タイショー! 早くその場から離れろ!」
「遅いです! 『みずでっぽう』!!」

まき上がった水しぶきに紛れて、タイショーの側面にまで接近していたヒビキは至近距離から『みずでっぽう』をタイショーにぶつけた。

「ぐわっ!」

小さな悲鳴を上げたタイショーはこの攻撃をまともに受け、木の幹に叩きつけられた。
ヒビキは攻撃の手を緩めることなく、吹き飛ばされたタイショーに『みずのはどう』を放つ。

「『シャドーボール』で相殺しろ!」
「……くッ!」

タイショーは何とか起き上がり、迫りくる『みずのはどう』に『シャドーボール』をぶつけた。
ぶつかり合った2つの技は相殺し合い、大きな爆煙を発生させた。

「煙に紛れて『ずつき』だ!」

その指示内容を聞いたヒビキは目の前の白煙の中から、いつタイショーが飛び出して来ても迎え撃てるように身構えるが、不意に足元に小さな穴が現れ、そこからタイショーが勢いよく飛び出し、そのままヒビキに『ずつき』を食らわせた。

「ッ!」

ヒビキはよろけながら胸元のペンダントに手をかざし、模様の色を青色から黄色に変化させ、自身の姿をシャワーズからサンダースに変えた。
そして、変身が完了すると同時に『ほうでん』を放ち、タイショーを吹き飛ばした。

「クッソ……!」

吹き飛ばされながらも何とか足に力を入れて立ち上がったタイショーの元にサンダースの足の速さを活かして接近するヒビキは牙に電気を纏わせた攻撃、『かみなりのキバ』でタイショーに噛み付こうとしている。

「左手で受け止めろ!」

その攻撃をみたアイトは回避するわけでも、迎撃するわけでもなくタイショーに受け止めろと指示を出した。
その指示に少し表情を歪ませながらも笑みを見せたタイショーはフラフラとしていた足に力を入れ、ヒビキの攻撃を真っ向から受け止める覚悟を決めた。

「いッ、ツ……!!」
「なっ!?」

痺れを伴う『かみなりのキバ』による噛み付き攻撃を歯を食いしばって耐えて見せたタイショーに目を見開いて驚くヒビキ。

「いけ! タイショー! お前の『とっておき』を見せてやれ!!」
「おうさ!!」

アイトの指示に力強い返事をしたタイショーは金色のオーラを身に纏うとそのオーラを巨大な星の形として変換させた。
ヒビキはこの攻撃を避けようと噛み付きを止めてタイショーから離れようとしたが、タイショーの『とっておき』による巨大な星の攻撃による爆風が命中する方が早かった。

「きゃあああ!」

悲鳴と共に強大なエネルギーの塊による攻撃を受けて吹き飛ぶヒビキ。
その光景を見届けたタイショーはその場にうつぶせで倒れた。
やがて、技の衝撃で舞い上がった砂煙が徐々に晴れていくとそこには息を切らしながらもなんとか立っているヒビキの姿があった。

「ハァ、ハァ。 ……ここまでやるとは思いませんでしたが、これで最後です!」

そう言うとヒビキはうつ伏せで倒れているタイショーに止めの攻撃を決めるべく、フラフラとした足取りで『たいあたり』を繰り出した。


「今だ!」

その声がタイショーの耳に届いた瞬間、タイショーはバッと立ち上がるとヒビキの『でんこうせっか』の軌道をみきり、体をわずかに横に反らす事で攻撃をかわした。
攻撃を避けられるなどとは夢にも思わなかったヒビキの驚愕した顔をよそに、タイショーはヒビキが首に巻いているスカーフを掴んで自分の元に引き寄せる。

「うおおおおおおお!」

タイショーは叫び声をあげ、ヒビキのおでこ目がけて思いきり『ずつき』をお見舞いした。
『ずつき』をもろに受けたヒビキは元のイーブイの姿に戻ると、そのまま気を失って地面に倒れた。
こうしてヒビキとタイショーの2度目の勝負はタイショーの勝利と言う形で幕を下ろしたのであった。
[24話 勝負]との対比を意識して書いた話ですので、24話を読み返して比べていただくと作者冥利に尽きます!!

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