コトブキシティ

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読了時間目安:23分
コータスをはじめとする、ポケモン達と旅をしながらマイペースに生きている少女の話。※このエピソードは別サイトに投稿していたものを加筆・修正して投稿しています。



 コトブキシティ。

人が集う幸せの街。

 シンオウ地方の中心部であり、地方を代表する大都市である。この街を語る上で、テレビコトブキ、ポケッチカンパニー、GTSは外すことのできない名所だろう。

 現在はアプリケーション化され、場所を問わず利用することのできるグローバル・トレード・システムだが、この街にはその先駆けであるグローバル・トレード・ステーションが存在している。

 意外にも、GTSがアプリとなった現在でもその利用者は絶えない。シンオウ地方の外から来た観光客や、この施設を愛好している者が少なからずいるためである。

 GTSの待合室の一角、ベンチに腰かけている少女も、そんな観光客のひとりだった。

 旅立つ前からの付き合いのコータスを横に、コトブキシティの観光ガイドを眺めている。愛用の白いキャスケットは膝の上、着慣れた青いフード付きトレーナーはそのままに、さっき食べたハンバーガー、別のフレーバーにしとけばよかったなぁ、などと考えている。






「今日は、見知らぬどこかの誰かと、ポケモン交換をしちゃおうかな、と思って参りました」

「こぉっ!?」

「いや、少なくとも手持ちの君らを送り出すつもりはないよ?」

「ただせっかくだから、ボックスに預けてそれっきりになってるポケモン達を、誰かと交換してみようかな……と」

「……扱いきれないなら捕まえすぎるなって話なんだけどね、恥ずかし」

「まぁそれはともかく」

「参りましては、グローバル・トレード・ステーション!」

「8月……長期休暇の真っ最中だからか、人が多い。ミーハーな人たちだなぁ」

「君もね」

「整理券を取って待っています」

「今252番で、私は510番。遠いのでのんびり待とうかな……ん?」






 整理券の裏に注意書きが書いてあることに気づき、読んでみる。

・混雑が予想されるため、長時間の利用はご遠慮ください。

・機械が故障するおそれがあるため、手続きターミナル内での飲食はご遠慮ください。

・サーバーの負荷上昇に伴う処理速度の低下により、他のお客様のGTSご利用に支障をきたす可能性がございます。そのためポケモンを交換用クラウドに預ける際、入手困難と思われるポケモン(※後述)を「ほしいポケモン」に設定できない仕様になっておりますので、ご注意ください。

・GTS利用の際に発生したトラブルに関しましては当事者で解決するものとし、当社は一切の責任を負いません。

・一度交換されたポケモンをもう一度お手元に返却するサービスは当社では扱っておりません。ご注意ください。

※入手困難なポケモン一覧
このリストは当社独自の定義であり、GTSを快適に利用していただくためプログラムに設定されているものとなります。そのため、入力しても不当な入力として扱われ、手続きの処理は実行されません。
サンダー・フリーザー・ファイヤー・ミュウツー・ミュウ・ライコウ・エンテイ・スイクン・ルギア・ホウオウ・セレビィ・レジロック・レジスチル・レジアイス・ラティアス・ラティオス・カイオーガ・グラードン・レックウザ……






「長ッ!!」

「……道理で整理券なのにチケットみたいなサイズのわけだよ」

「てか、"交換したポケモンを返してくれー"なんて言う人、今でもいるのかよ」

「物理的に無理でしょ。常識的に考えてよ」

「だからこんなバカみたいな注意書がダラダラ書かれることになるし、私が冒頭から文句垂れるような展開になるんだよ!」

「もはやこれ読んでる人いないでしょ」

「注意書をいちいち真面目に読む人なんていないよ」

「あぁ……そういう"読まない"人がトラブル起こして、イチャモンつけてくるのかな。そういう人向けの予防線って側面もある? 書いてありますよ? っていう理論武装」






 不特定多数の人間が利用する場所の管理運営とは大変なのだな、と知りもしない裏方事情へ、とりとめのない思索を巡らせつつ、彼女はコータスをボールに戻した。人口密度のせいかホールは少し暑い。ほのおタイプの彼を出したままにしているとトラブるかもしれない、と思ってのことだった。

 それに、コータスが隣にいると思わず口が軽くなってしまうのも事実だった。とりとめのない、中身のない、前頭葉に浮かんできた言葉がそのまま垂れ流されるような、そんなくっちゃべりを気づくとやっちまっているのだ。

 ただでさえ独り言が多い方の人間なので、そういう悪目立ちはしたくない、と思って生きている彼女だった。

 でも、ラプラスの背中に乗って波に揺られている時は気にしていない。だいたいの場合、近くに人がいないから。






「とりあえず、待ちに適した座る場所を確保しました」

「ふわぁ……ちょっとくらい眠ってもこの待ち人数だし、大丈夫でしょ)





 彼女自身は言葉を口にしているつもりだったが、睡魔が相当に強かったのか、途中から頭で思うばかりになってしまっていた。

 そして、それに気づくことなく、環境音や視覚情報が自然にするすると遠ざかっていくのにも気づくことなく、彼女はいつのまにか意識を手放していた。

 



「ロトムに後攻でんじは連打するなァァァアアア!! はっ……夢か」

『510番の方。10番ターミナルへどうぞ』






 ちょうどよく呼ばれたので、これ幸い、とベンチを離れる。





「へぇ、普通にパソコンが置いてあるんだ……そういえば、前に預けてたポケモンどうなったかな」






 ミラクルボックスに1匹預けていたはずだ。もう交換されているはず。

 どんなポケモンがやってくるかわからないミラクル交換(マジカルだっけ?)。びっくり箱を開けるようなドキドキ感を味わえる。ガチャのインスタントギャンブル感に似たものもある……のかもしれない。ガチャはあまりやらない方だ。この子は。






あずけていた ポケモンが こうかんされました!





「さてさて、どんな子が来たかな……」

「にーはお!」





 モンスターボールを開けたはずだったのだが。なぜかオリエンタルな挨拶をされた。

見たことのないポケモンだ。こんなに腕の可動域が自由なやつを見たら忘れないと思う。






「なんだこいつ」

「こんちはアル。フーパです」

「出会い頭にあれなんだけど、夏だからネ。怖い話をひとつ喋ろうかなと思うアル」

「え、いや、結構で……」

「実はネ? 今のGTSは数年前に、核心的に一新されたものなんだよネ。大きな区切りで言うと、今は最新第8世代サーバ。1番大きな変化があったのは第6世代サーバに移行した時だネ」

「聞いちゃいねぇ」

「それでネ。第6世代サーバに移行するときに、移行期間っつってね」

「それ以前のサーバのサービス終了と、互換切りを敢行したんアル」

「……どういうこと?」

「第5世代以前の旧型GTSのネットワークは一切使用不可になり、第5世代サーバのポケモンと第6世代以前のサーバのポケモンは交換できないようにしたんアル」

「要するに、みんなが新しい方に乗り換えるように仕向けたんだヨ」

「当然、さっきも言った通り、移行期間はあったんだヨ。半年くらいかナァ。その間に、預けっぱなしにしてるポケモンを引き取って、GTSのバージョンをアップデートしろよ?ッテ」






 寒気がした。







「で、第5世代以前のGTSは完全に消滅して、ずっと便利になった現在、第8世代サーバが使われてるってわけアル」

「ランダム交換のミラクルボックスは10匹まで預けられるし、クラウドに保存されてるボックスにアクセスする端末も自由に選べるようになったしネ」

「操作はより体感的になったし、まとめてにがすこともできるアル」






 フーパの話は同意できる。一方で、便利になった半面、いいのかそれで?と思う機能もついたような気がしているし、あともう一声、と痒さを感じる場面もある。






「でもネ」






 生唾を飲む。そうだ、こいつはうんちくを垂れるためしゃべっているのではなかった。

 怖い話をするため。ここまではあくまで、その導入に過ぎない。






「第5から第6……最新世代サーバへの移行期間を設けても、めんどうがりな人はその作業をしなかったり、互換切りを知らなかった人が移行期間終わっちゃってからあわてふためく、なんてことが、実はあちらこちらでたくさんあったんアル」

「果たして今」

「預けっぱなしにされちゃったポケモン達は」









「どうなっちゃったんだろうネ?」






 寒気に震えが止まらない。






「実はフーパ、知ってるアル」

「フーパにはこのリングがあるからネ。そのポケモン達を探し出すのなんて簡単アル」

「いや、待って」

「くるりんっと」


「知りたいでしょ?」




「嫌」

「知りたくない」





「見たいでしょ?」

「見たくないッ」





「そーぉれっ」



「知りたくないってば!」

「オ デ マ シィ……」






「すんなァァアアア!!!!!」

「……夢?」





 
 跳ね起きて、自分の見ていたものが現実ではなかったのだ、と少しずつ認識していく。脂汗と震えが止まらない。内容が断片的で、たしかに夢だったが、あんなポケモンは知らない。見たことがない。あるいは実在しないものを見たのかもしれないが。

 震えが止まらない、と周りを見回すと、強めの冷風が吹き付けられていることに気付いた。どうやら冷房が強くなっていたらしい。そういえば、眠りにつく前は少し暑いくらいだった。ここ、風が直撃するじゃないか。

 体を取り巻く状況の変化から嫌な夢を見るのはよくあることだ。もしかしたら、そばで誰かおしゃべりしていたのが聞こえて、あんなおしゃべりポケモンを見たのかも。






『番号札510番でお待ちのお客様。大変お待たせいたしました』

『70番ターミナルをご利用ください』

「そっか、よし……行こ」






 立ち上がろうとしたが、夢で見たものが脳裏をよぎって、すっと足に力が入らない。根拠もなく、部屋に行くのが怖かった。だが、自分の後に待っている人もいる。行かねば。

 一抹の不安を拭えないまま、足取り重く、自分にあてがわれた部屋に向かう。さほど歩くことはなかった。5分足らずで70番の部屋に到着する。






「夢で見た部屋とレイアウトが違う」






 そりゃあそうだ。実際の間取りなど知らない。ほっとしてログイン操作を進めるも……手が、止まった。






「マジカル交換、何来てるだろ」









「ざり?」

「どりゅ?」

「すごいよねー!ドリュウズー!シザリガー!」

「君たちと一緒に部屋にいても、全然狭く感じないもん!広いね!!」






 ならば何故しがみついてくるんだ? と疑問に思うドリュウズとシザリガーだった。広く使えばいいのに。






「そもそも」

「あんなポケモン知らないし、来るわけないよね!」



あずけていた ポケモンが こうかんされました!



 固唾を飲んで、転送されるポケモンを見守る。そんなわけない、そんなわけない。あんなのがくるはずない。と思いながら、一抹の不安を拭いきれず、シザリガーとドリュウズにしがみつく手に力が入っていく。












「くえ?」






 ボールから出てきて、間抜けに首をかしげたあひるポケモンを凝視。4秒静止。






「よ」

「よかったぁ……」

「くわ?」

「このなにも考えてなさそうな顔を見ると、とっても安心するよ」

「かわいいかわいい」





 手がちゃんと体にくっついている。地に足もついた普通のコダックだ。心底安心してコダックを撫ですさる。コダックは状況が何も分かっていない様子だが、ご満悦だ。ドリュウズがちょっと撫でてほしそうにしている。お、ここがええのか?ここがええのんか?

 と、シザリガーがコダックの背後を覗き込んでいるのに気付く。






「ん? どうしたの?」

「え? 背中……」







「ファスナー?」






 GTSを出た。






「まったくもう、なんでこういうことするかな」






 できるだけゆっくりと剥がしたのだが、背中が痛むらしい。コダックは目を潤ませ背中の様子をしきりに気にしているようだった。






「ごめんね、ひっぺがしちゃって」

「まさか、ファスナーを背中に貼り付けるなんて……そういう人のとこに私のポケモン送っちゃったのかと思うと、後味悪いなぁ」

「でも、GTSで交換しちゃったらもう、どうしようもないのも事実なんだよな」

「あの嫌な夢も合わせて、気分最高にガン萎えだよ」






 プチ傷心の彼女の前に、ぬっと人影があらわれる。ピエロだった。






「おわっ」






 ピエロは見てろ?と言わんばかりに含みのある笑顔を浮かべると、風船を取り出し、手際よく膨らませていく。慣れた手つきでねじり、玉を作り、ゴム風船の棒をひとつの造形物へと変化させていく。

1分と経たないうちに、彼の手の中には(おそらく)トリミアンのバルーンアートができあがっていた。得意げにそれを差し出され、うけとる。






「私にくれるの?」

 うなずくピエロ。

「うわぁ、すごい!」

「ありがとう!」

(たぶんコレ、ピカチュウだよね。良くできてるなぁ)

 ピエロ、ジェスチャー。

「"沈んでいる人を笑顔にするのも、ピエロの仕事です"か」

(こういう人もいるんだなぁ)






 なんだかあったけぇ気持ちになっていると、ピエロはくるりと周り、手看板を取り出した。何事?と思いつつ、読む。






「"突然ですがここでクイズ"?」



『問題1……ポケモンは ポケモンをたおすことで けいけんちを えて つよくなる? Y/N』



「YES」

 答えた瞬間、ガビーン!とオノマトペが見えそうなくらいのオーバーリアクションをして、ピエロはがくりとうなだれた。

「え?"即答かよ……なんてこった"?」

うなだれたまま、ピエロは何かを差し出す。

「……引換券?」

 彼女の疑問の視線に答えるように、ピエロはどこからともなく別の手看板を取り出す。

『この街には私の他に、2人のピエロがいます』

『その2人の出すクイズに正解すると、同じように引換券をもらうことができます』

『3枚の引換券を揃えたら、コトブキシティ北西部にあるポケッチカンパニーを訪れてみてください』

『何か良いことがあるかも?』






 見ればこのピエロ、ポケッチカンパニーの社員証を首から下げていた。

 どうやら、期せずして催しものに参加してしまったようだ。どうせなら、完走してみるのが吉か。






「わかりました。捜してみます」






 引換券片手に去っていく少女の背中を見送ったピエロは、振っていた手をするりと耳元に当てた。







「もしもし……俺だ」

「コードQAの適用を頼む……あぁ、クラス2でいい」

「白い帽子に青いトレーナー着てる女の子だ。頼んだぞ」






「さすが都会……10分近く歩いてるけど、全然見つからないや」

「ぴいぃぃ!」






 空からピエロを探していたムクホークが戻ってきた。居場所のヒントももらえなかったことだし、ひこうポケモンを使うくらいルール的には大丈夫だろう。






「おっ、見つけたんだね。グッジョブ」






 ムクホークの案内してくれた場所に2人目のピエロはいた。だが、今はどうやら先客の対応中のようだった。ピエロの前で7、8歳ほどの男の子が首を傾げている。






「お、やってるやってる……て、問題見えちゃってるんだけど」



『問題2……ポケモンだけでなく ポケモンのわざにも タイプが ある?』



(そういえば、簡単な問題ばっかりだ。クイズに答えることじゃなくて、クイズに答えて"回る"ことに重きを置いてるってことなのかな)

(テレビ番組でお馴染みの電話抽選みたいな。回答よりも抽選の方がウェイトが重い……ちがうか)

「わかった!」

「答えは"はい"!」






 男の子が答えると、ピンポンピンポーン、と高らかにSEが鳴り、ピエロは引換券を男の子に差し出した。やはりそういう感じだ。答えて回ることが肝要。

 男の子を見送ったピエロと視線が合う。






(……ん? なんか、さっきのピエロより視線鋭いな)

(白い帽子の女の子! こいつが……そうなんだな、1号)

(クイズという、いちエンターテインメントにおいて一切の面白味を両断する……即答!)

(それをやりやがったのが、このお嬢ちゃんだという)

(このポケッチカンパニー広報部道化師科所属、通称"ピエロ2号"……容赦せん!)



『問題2……パワーアンクルを持たせたフカマルで、ブイゼルを10匹倒しました。ところが、その途中でフカマルがポケルスに感染していたことがわかりました。フカマルが入手した基礎ポイントは117ポイントでした。ブイゼルを倒した時に得られる基礎ポイントは1。パワーアンクルはそこにプラス8。ポケルスの効果で最後に2倍になります。フカマルは何匹目のブイゼルで感染したのでしょうか?』



(どうだ!)

(これは、ポケッチカンパニーの入社試験で出される非言語分野の問題を、少ぉし簡単にしたものよ!)

(さぁ悩め!悩むがいい!)

(そして難問に悶える姿を俺に見せるのだ!)

「7匹目で感染して3匹倒した」

「ぴんぽーん……」

「よし、3人目を捜そう」

「ピィイ!」







 ピエロから引換券を受け取り、少女は何事もなかったかのように去っていく。ムクホークもばさりと飛び立つ。






「ぢぐっ・・・・じょ゙ぉ゙ゔっ」







 悔しさに咽び泣く。少女が立ち去るまで、泣き崩れるのをこらえた自分を褒めてほしかった。誰に、というわけではないのだけれど。






「2号もやられたか」

「なるほど……相当の手練れのようだ」

「だが、この3号(の問題)を倒すことができるかな?」

「この俺、ピエロ3号は……仲間内でいわゆる"ガチクズ"のレッテルを貼られている」

「解答者の眉間のシワを見るためならば、卑怯卑劣と言われるような真似も平然とやってのけるからだ。ドン引きされても気にはしねぇ。それが俺の仕事だ。趣味も兼ねてる」

「どんな問題でもドンとこい、と余裕をカマしていた理科系の男に古文の問題を出してやったこともあるし、ジムバッジを何個も持つトレーナーに基礎ポイント割り振りの問題を出し、廃人の道に叩き落としてやったなんてこともしょっちゅうよ」

「解答者の苦手分野にメタを張る俺の問題は! 昨今話題にされ、ただ山と積まれるだけに終わる社会問題よりも困難を極めるぜ!」

「問題3!!」

(私の苦手分野って、たかが2問で絞れるのかな? てか、ピエロのくせにペラペラ喋っちゃってんじゃん……いいのかな)



『相手の場に《邪神ドレッドルート》が2体と《ブラック・ガーデン》が存在する状態で召喚し効果が適用され、攻撃力が下がった《カードを狩る死神》がいます。自分が新しく《ダークゾーン》を発動し、《BF-疾風のゲイル》の効果を《カードを狩る死神》に使いました。《カードを狩る死神》の攻撃力はいくつになりますか?』

(もはやポケモンなど関係無い!)

(ステータスの知識、カード効果の計算タイミングの知識を要求され、且つただただ繰り上げ計算を繰り返すだけの作業!)

(さぁ!ちんたらと暗算を重ねるがいい!)

(そして俺に、眉間の醜い山脈を晒すのだぁ!)

「17」

 ぴんぽんぴんぽーん。

「さぁ、ポケッチカンパニーに行こう」

「ぴぃーるる」






「……ひぐっ」






 なんだか熱いものが頬を流れ落ちていく。こうなりゃ経費でヤケ酒だ。






「道中のテレビコトブキでIDクジをやったら4等のモーモーミルクが当たりました。……んまい」






 舌がとける……そんなことを思いつつ、少し残念な気持ちもあった。今日は公開収録をやっていたらしい。

 『金曜こそ朝シャン』。コメディアンのお兄さんと豊満なオネエさんが司会のバラエティ番組だ。街頭で素人にインタビューをして面白い人をゲスにピックアップして司会2人の反応を見る。そういう番組だ。見る分にはおもしろい。

 事前予約できれば観覧できた可能性があったとのことだったが、もちろん知るよしのなかったことだ。仕方ないこと。

 残念、とは思うもののスッパリ諦める。彼女はミーハーを自覚して生きていた。






「そしてやって来ました。ポケッチカンパニー!」

「ぴいぃぃ!」

「ムクホークはホントに優秀だねぇ……空は飛べるし、飛行ユニットだし、高いところから捜し物を見つけてくれるし」






 結局飛べるってとこばっか誉めてるな、と思いつつ、別にそんなことに異議申し立てするほどちっちぇえ男じゃねえんだな俺は、とクールにボールに戻る(自分のアイデンティティが誉め倒されているので満更でもない)ムクホークだった。






「さぁ、ポケッチをもらいに行こう」






「はい、引換券を3枚。確かにお預かりしました」

「ピンクとブルーのモデルがありますが、どちらになさいますか?」

「ブルーで」






ポケッチ を てにいれた!



 さすがに最新式モデルではなく、現行の3世代ほど前のものらしい。ポケッチカンパニーが本格的にスマートウォッチの開発に着手しはじめた最初期のもの、とのこと。

 




「さぁてさて。どんな機能があるのかなぁ」

「ふむふむ」

「ふむふむ」

「なるほど」






 説明書に目を通しながらポケッチをピトピトと操作していく。モードを切り替え、機能を試しに動作させ、実際の使用感におぉー、と感嘆しつつ5分ほど。






「とりあえずは、フツーに腕時計として使おう。機能はまぁ……使える場面もある……でしょ。どっかで」






 このモデルの評判をざっと調べたところ、売れ行きは芳しくなかったようだ。最初期のものとしては、仕上がりは悪くなかったようだが。さすがはポケッチカンパニー。






「なにか目を引く機能でもあれば、もっとハジけたかもしれないよね。トモダチ召喚できるとか、ゾウも30分眠る麻酔針が撃てるとか、エイリアンヒーローに変身できる、とか」






 知的財産が伴うようなものだったら無料配布なんかされない。キャラクターコラボ商品であればそのぶん値が張る。そういう仕組みを彼女は知らない。とはいえ本気では言っていない。妄言の類だ。

 その点ハロー○ティってすごい。仕事を選ばないスタンスであるがゆえにコラボもたくさんこなし、積極的な活動スタイルだから世界中で人気だ。投稿している動画から彼女自身の徳の高さもうかがえる。






「だからと言って、キ○ィ全開のデザインじゃ買わないかな」

「キャラクターがそのまま描かれているようなものより、その子のコンセプトを踏襲したようなデザイン性だったり、その子を象徴するシンボルがさりげなーくあしらわれている……そんなグッズだったら欲しい」






 誰に言ってるの?と突っ込まれてただの妄言だよ、と返す。どうせ必需品以外はそんなに手にしない主義だ。お土産とて買ってもせいぜい消え物ばかり。

 それで言えば、今回のポケッチは必需品の部類に入る。時間など確認する手段は手近な場所にいくらでもある時代だが、ただ左手を見たらわかる、という早さもなかなかどうして馬鹿にできない。






「次は、どこに行こうかな」

「ここぉ」

「おっ」

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