第7話 ~おわりのだいちシミュレーター・その1~

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読了時間目安:18分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

主な登場人物

(救助隊キセキ)
 [シズ:元人間・ミズゴロウ♂]
 [ユカ:イーブイ♀]

(その他)
 [チーク:チラーミィ♂]

前回のあらすじ
潮風の吹く町、シーサイド。そこで救助隊キセキは鞄を買ったり、遊んでみたり……一方、その裏では何者かが不穏な動きを見せていた。
ポケモンニュース 号外    XXX年 X月 X日 7時37分

 襲いかかる異常気象!救助隊は「悪意のあるポケモンによって引き起こされた」可能性を有力視

 きょうの3時30分ごろ、調査隊の夜間活動隊は気温の急上昇を確認した。その後も気温は上がり続け、6時現在では43℃にもなっている。この現象について、救助隊Rescueのスズキさんは「悪意のあるポケモンによって引き起こされたと考えるのが妥当だろう。技"にほんばれ"や特性"ひでり"による天候操作なら、夜間であっても気温が上げられるからな。それが救助隊協会の総意」とコメント。また、「しかし、ポケモンによる天候操作にしては範囲や温度の上昇幅が大きすぎる。おそらく集団での犯行」と付け加えた。


 カクレオン商店の耐水バッグが「飛ぶように売れる」水陸両方で活動できるポケモンへの需要急上昇か

 救助隊へ消耗品を提供するカクレオン商店の耐水かばんが、きょうの6時ごろから異常な売り上げを見せ、30分と経たずに売り切れてしまったようだ。これについてカクレオンさんは「本当に飛ぶように売れるんですよ~。水中で活動できるポケモンが熱中症対策に水中へ逃げていったと思うんですけど、その方たちが思い出の品を持ち込みたいとかで買っていったんじゃないでしょうか~?」と答えてくれた。












「チークさん。なに読んでるんですか?」
「ポケモンニュースだ、シズ。異常気象について書かれてるんだが、何か情報が無いかと思ってな……でも、目新しい事実は一切なし!救助隊協会で聞いたのとおんなじだぁ!」

ここは潮風の町、シーサイド。木製、レンガ製、様々な材質の建物と自然。そしてポケモンたちの活気であふれる場所。
……もっとも、今は高温に抵抗のあるほのおタイプ、太陽光をエネルギーにするくさタイプのポケモンと、強烈な日差しに焼かれながらも体に鞭を打って働くポケモンくらいしか居ないのだが。

「しっかしなぁーっ!!頭のおかしい暑さの原因調べるって言ってもなぁ……。ヒントらしいヒントと言えば、天候操作の事実くらい……」
「まさか、"にほんばれ"を町のど真ん中でやっているわけも無いだろうしね……適当に探してたんじゃ、一生終わらないよ。」

……なぜ、シズ、ユカ、そしてチークの三匹が、この干からびそうな高温の中で外を出歩いているのか。
それはもちろん、この何者かによって引き起こされた異常気象を止めるため。

「にしても、"緊急招集"なんて仕組みが存在していたんですね。あれだけ沢山の救助隊が、ただ黙って話を聞いていたのは……壮観でしたよ。」
「救助隊協会の建物を沢山配置して、書類とかそういった物を充実させて……そうした結果、ああいう芸当ができるようになったのさ。事務仕事は増えたが、高い統率力を持って緊急事態に対処できるのは真面目にありがたい」

これほどまでに急激な気候変動が起これば……体調を崩すポケモン、こじらせて医者の元に担ぎ込まれるポケモン。そういった危機に陥るポケモンが大量に現れるのは想像に難くない。当然、ポケモンとは違う植物や……最悪、地形までもが影響を受けてしまう。まさに緊急事態、救助隊総出で解決しなければならないのだ。
……そう。これは救助隊キセキの、二つ目の仕事。












「……あっ!シズ!チーク!あそこに様子のおかしいポケモンが……!」

何の当てもなく、ただひたすらに歩いて……そのまましばらく経った、そのとき。ユカが、何かに対して前足を差す。

「あれは……?桃色の花びら、黄色い顔の……」

その方向に振り向いたシズが見たのは……サクラポケモンのチェリム。花びらを大きく広げた、"ポジフォルム"。
もうひとつの形態"ネガフォルム"と比べて、元気いっぱい、うるささいっぱいの姿のはずだが……

「え……へへ。ひっ……おひさま……たいよぉぉぉ……"にほんばれ"ぇ……もっとおひさまぁ……」

"にほんばれ"……その単語を聞いて三匹は驚く。いや、驚くと言っても、ある程度は予想がついていたのかも知れない。
彼はまるでパッチールのようにふらふらしていて、はしゃぎまわる様子はどこにもなく……チュリムという種族にしては何かおかしかった。

「チュリムさん!ニュース見なかったの!?みんな困ってるんだよ?この気温で!なのに、"にほんばれ"って……シャレにならないよ!」
「……えぇ?特性"フラワーギフト"を知らないの?おひさまあるとこ元気あり、だよぉ……?」

チェリムに話しかけたユカは、この問答で確信する。コイツ、話が通じない!正気じゃない!やっぱり普通じゃない!
……なら、彼女はどうするか。

「こっちは真面目に話してるんだから……そっちも真面目に聞いてよ!!」
「ぐふぉあ!?」

"にほんばれ"を無理矢理やめさせる。拳で。ユカの出した結論はこうだった。
突然繰り出された右前足の攻撃に抵抗もせず、受け身すら取らずに木箱の山に突っ込んでいくチュリム。その場所から、がらがらと木材の山が崩れる音が流れはじめた。

「オイオイオイ……」
「……えっ?」

急に現れた相方の強烈な一面……いや、初めて出会ったときにも無理矢理引っ張られたし、"急に"というのは不適切か?とにかく意味が分からない……
……何にせよ、シズは突然の出来事に、ただただ唖然とした表情を浮かべることしかできなかった。

「だ……大丈夫ですか!?」

ユカの理解に苦しむ行動から数秒経って、シズはハッとする。
木箱の山に埋もれてしまったチェリムを介抱しに向かったのだ。

「いってて……うん?君たちは?」

シズに体を起こされたチェリムは……今起こった事を理解していないのだろうか。
普通、反撃を試みるなり、逃げるなり、助けをを呼ぶなりをするだろうに、そういったことは一切しない。

「何だろう、へんな夢を見ていたような……今日の早朝あたり……散歩してて……4時くらいから……記憶が無いんだけど……」

頭を抱え、首を横に振り、ただただ困惑しているチェリムの姿とセリフ……それを見て、聞いたチークは何かの可能性を閃く。

「"記憶が無い"……?おい、チェリム。最後の記憶を思い出せるか?めまいがしたり、へんな光を見たり、体や精神を乗っ取られるような感覚はあったか?」
「え?えぇ……めまいはしたような……あ。誰かに見られていたような気もしたような?」
「……そうか」

チェリムの返答を確かに聞き届けたチークは、静かに藍色のスカーフを直す。そのとき、布地の裏から一瞬見えたバッジがきらりと光を反射し……そして。

「このチェリム。操られていたな」

身だしなみを整えた彼は、確信に満ちた表情で、そんな一言を呟いた。












椅子に座ったポケモンに差し出されたのは、木の器に盛り付けられた1つのサラダ。
様々な木の実をこれでもかというほど詰め込んだ、七色の虹とでも表現するべきなそれに、赤いドレッシング……例えるならば、ルビーの輝きをそのまま液体にしたような物体がかけられる。

「いただきます」

このときを待っていた1匹のポケモンは、いい香りのする木の実の盛り合わせをフォークに刺し、そして、そのままそれを口に運んでいった。
……ぱくり。口を閉じた瞬間に植物性の軽い苦みと、ナナシの実の心地のよい酸っぱさが口の中に広がり……そしてモモンの実からやってくる余分な甘さは、ドレッシングの辛さと塩加減によって中和される。
美味い。ただただ、おいしい。

「……あの、スズキさん。あんまりしょっぱい物を食べ過ぎるとよくないですよ?ドレッシングのかけ過ぎです」

そして、食事にすべての神経を集中させていたポケモンは、仲間の言葉によって現実へと引き戻される。

「誰だよ、そんなことを言ったのは……」
「医者の言うことは聞いておいたほうがいいって、よく言うでしょう?それこそ、私みたいな」
「……むぅ」

救助隊Rescue……1匹のコリンク・スズキと、医師としても活動しているデリバード・フラッペ。彼らは昼食を取るために、シーサイドの町で有名な飲食店、"ハピナスレストラン"にいた。
モダンで暗めな雰囲気と、おいしい食事が大人気のたまり場だ。
普段ならば開店した瞬間席が埋まってしまうほどの繁盛っぷりだが……いまは異常気象のせいか、ひどく閑散としている。


「……キズだらけで倒れていたあなたを拾って、頑張って治療して、救助隊という仕事も用意して……」

しばらくの時間をおいて、フラッペがブツブツとしゃべり出した。
せっかく頼んでおいた食事に、手もつけずに。

「だから病気にならないで欲しいと?」

スズキは相手の言いたいセリフを先取りし、発言権を奪い取る。
そして、この言葉で切り返す。

「一番信頼できる男が誰かと訊かれたら、まず間違いなくお前だと答えるよ……だが、お前は……」
「気を遣いすぎ、だって?」

……切り返そうとするが、自分がやったのと同じ方法でフラッペに制されてしまった。
そして彼はため息をつき、そのまま言葉を続ける。

「どちらかというと、あなたがヤバすぎるんですよ。小さい体のクセして、酒瓶をラッパ飲みし始めますし」

"げ……"スズキの脳内で、そんなセリフが呟かれた。
そして、"あまりにも的を射すぎている……なら、話をまるっきり逸らしてやる"……とも、呟かれた。

「小さい体なのはお前もだろう?デリバードという種族を考えれば異常に小さい。たった0.65mだ」

参考資料……デリバードの平均たかさは0.9m。
それと比べてフラッペは、彼を子供として紹介しても100匹中100匹のポケモンが信じるレベルのサイズだろう。

「……四捨五入すれば0.7mです」

"効いてる、効いてる"。……このときスズキは、調子に乗りすぎたのかも知れない。

「それでもチビだろうが」

それでもチビだろうが。それでもチビだろうが。それでもチビだろうが……
シンプルながらも頭の中に響き続ける嘲笑・侮蔑のセリフの前に、フラッペの心の中で切れそうになっていた物が、ついに音を立てて崩壊した……

「あーあー!よろしくない!誰かのコンプレックスを刺激するのはよろしくない!スズキもそう思いますよね?ね!?」

翼が木製のテーブルに叩きつけられる。先ほどまでの優しい声と違う、威圧感のある声もする。
"まずい、やり過ぎたか!?"……誰がそんなことを思おうとも、この状況ではもう遅い。
スズキは少しずつ、フラッペにじりじりと詰め寄られて……ヤツは机越しとは言え、非常に恐怖を感じる表情で、こちらの返事をただただ待つ。

「わ……悪かった!さすがに言い過ぎた!」
「……」

怖い。何も言わないのが怖い。フラッペの沈黙が妙に恐ろしい……

「"ドリルライナー"は本当にやめてくれ……じめんタイプは弱点なんだ!」
「……わかればよろしい」

フラッペはそう言うと、椅子に座り直し、初めてスズキの物と同じサラダに手を付けた。
"赦された……"スズキはほっと、安堵のため息を漏らす。



「……そろそろ、真面目な話をしましょうか」
「そうだな。いつまでもだらだらしているわけにはいかない」

その後、2匹は黙々と食事を続け、そして器の内容物が半分になった頃……
2つの言葉とともに、彼らの顔つきは真面目で真剣な物へと変化する。

「……これは、救助隊"グランプリホワイト"のチークさんから得た情報をまとめた物です」

その説明とともに、フラッペの鞄から取り出されたのはメモ帳から切り取ったであろう一枚の紙切れ。
そこには、黒いインクで書き込まれた文字の羅列がびっしりと詰まっていた。

「このメモで最も重要なのは、"天候操作を実行したポケモンはすべて、超能力で操られていた"と言う文面でしょう。あと、操られた者たちは"あついいわ"を持っていたと言う情報も憶えるべきかも知れません」
「なるほど。もっと詳しい情報は?」

2匹で身を寄せ合い、机の上に置かれた文字列を前足や翼の先端でなぞりながら、会話は続けられる。

「それと、"おそらく単独犯だ"との記述もありますから……容疑者を"ニャオニクス"や"フーディン"など、1匹で強烈な能力を発動できるポケモンに絞る事ができます。まあ、操る方法によってはその限りではないかも知れませんが」

"ニャオニクス"……その名を聞いてスズキが思い浮かべるのは、昨日捕まえたアイツ。名も知らぬ、1匹の女性。
実はスズキ、同日に彼女を取り逃がしてしまっている。
"まさか、自分がミスを犯したせいでこんなことになっているのでは?"彼の脳裏にそんな不安が浮かぶが、すぐさま、"いやいや。ほぼ戦えないガキ3匹を守りながら、たった1匹で突然の襲撃を退けなければならなかったのだ。自分にはどうしようもなかっただろう……"と、自分の責任を否定する。
……そもそも、スズキの逃がしたニャオニクスが犯人だと決まったわけではない。

「……どうしたんですか?突然苦い顔して」
「いや……続けてくれ」

……どうやら、スズキの感じていた不安はいつの間にか顔に出てしまっていたらしい。
平静を装い、"深くは聞かないでくれ"という意味もかねて答えにならない返事を返す。

「はぁ……そうですか。まあ、で、次に……」

どうやら、メッセージは通じたらしい。
そのまま会話は続く。

「……あぁ。メモの情報はもう無いみたいです」
「うん?これで終わりか?もっと色々書いてあるだろ」
「それがですね……"救助隊キセキのユカさんが被害者のチェリムをぶん殴ったことで判明した"、とか"なぜ単独犯だと結論付けたか"、とか、そういったことが書かれているだけなんです。これらも重要ではありますが……」

"俺たちにとっては無意味"……
自分たちで情報を集めるしかないか、と考えたスズキは席を立つ。

「ハピナスさん」
「はいはい……」












現在、午後2時13分。気持ちのいい春風に見合わぬ、強烈な気温が3匹のポケモンを襲っている。

「……で。オレたちのやるべき事は覚えているか?シズ」
「はい。」

……ここは、草原。シーサイドから離れた、まだ建物ひとつ建てられていないまっさらな場所。
不思議のダンジョンとされる山の、その入り口でもある。

「チェリムの一件で、天候操作をするヤツらは何者かに操られていることがわかりました。」

まずはこれまでのおさらいから、と言わんばかりにシズは言葉を並べ出す。
そうした方が自分たちの目的もはっきりするし、事件に関する推理が間違っていた場合、それに気づける可能性もある。

「それで……えっと。」
「で、そのあやつられ状態は物理的なショックを与えれば一瞬で解除できる……つまり催眠術の仕業だって、あのデリバードは言ってたよね。フラッペ、だっけ?」

シズの一瞬何かを忘れたような様子を見かねて、ユカが助け船を出してくれた。
"記憶力を鍛えなくては"。そんな思考もほどほどに、会話は続く。

「……それで。ボクたちは、複数の操られていたポケモンから証言を貰えました。彼らは全員、ここで意識を失ったはずと言っています。」

情報は出し切った。
シズはゆっくりと息を吸い込み、そして結論を答える。

「"ポケモンたちは操られていた"。"操る方法は催眠術"。"ポケモンたちはみんな、ここで意識を失った"……この3つの情報から、チークさんは"この場所に催眠術的な効果のあるマーキングが施されている"と考えました。」

チークは頷く。その通りだと言わんばかりに。
……しかし。

「でも。」

シズには疑問があった。

「そのマーキングはあのダンジョンの中にあるはず。そう、チークさんは言いましたが……"入るたびに地形が変わる場所"で、そんな物が残るんですかね?消えそうなイメージがあるんですけど。」

不思議のダンジョンの中で救助隊バッジを使ったとき……使う状況によっては、持ち込んだ有用な道具がどこかへ消えてしまったり、消えてしまった物が永久に見つからなくなったり。
そういった現象を、シズは知識として知っている。あくまで聞いた話でしか無いが……
つまり。物が簡単に消えてしまう不安定な環境で、罠を仕掛けて放っておくことができるのか?地形の変化に巻き込まれて消滅するんじゃないか?そんな疑問をシズは持っているのだ。

「説明が難しいな。とりあえず今は、"不思議のダンジョンには、大切な物や場所が残り続ける性質がある"……と分かってくれればいい」

とてもアバウトな説明ではあるが、とりあえず理解はできた。
ただ、"催眠術の仕掛け"が大切な物に該当するかは……

「よし。突入するぞ、"輝き野山"へと」
「あっ、ちょっと……」

……シズが追加の質問をする前に、スズキは目の前の山へと歩いて行ってしまった。

「催眠術対策の"いやしのタネ"は……はいってる。いこう、シズ。」

いやしのタネ。食べることで、"やけど"や"まひ"、"どく"、"ねむり"をはじめとした肉体的なものや、"こんらん"、"ちょうはつ"、"アンコール"などの精神的な影響を含むあらゆる異常状態を治してしまう便利な道具。
ユカは、それが鞄の中に入っていることを確認すると、チークの後ろについていく。

「……ま、まってよ!ちょっと!」

シズもその後を追うのだった……
 次回予告

人間が居なくなったこの世界にたくさん存在する不思議のダンジョン……
そのひとつ、"輝き野山"にボクたちは突入する。
光を乱反射するカラフルな透き通った石に、まるでプリズムのように光を分解する透明な樹液……
なるほど、犯人がここに罠を仕掛けた理由が分かる。
ここの危険度はかなり低いし、綺麗な景色を求めてポケモンがいっぱいここに訪れるんだ。
そんなこんなで油断しきっていたボクとユカの2匹は……あ。

 次回 おわりのだいちシミュレーター・その2

そうか……あたりまえだ。ここに"居る"可能性が……わぁああーっ!?

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