第3話 ハウとハラ

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 たんぱんこぞうに別れを告げ、ボクたちはリリィタウンに向かって進んでいった。

「はー……バトル緊張した。でも、勝ててよかった!」
「ピッカ!」

 ボクも凄く緊張した。でも、それ以上に……。

「あぁ、楽しかった!!」

 そう。楽しかったんだ!技を繰り出して、相手と全力でぶつかり合うバトル……。こんなに楽しいものだったなんて。


 ……ボクは今までバトルと無縁だった。ずっと、影の中で生きてきた。街へ街へとさまよい続け、歩いていく……。そんな生活をしていた。
 そんな中見つけたのがサンタの村。名前もないちっぽけな村だった。華やかなサンタがこんなに小さい村で活動しているなんて知らなかった。そこに来たのがきっかけで、まさかこんな生活になるとは……。

「あのね、ピカチュウ」
「ピカ?」

 ……ふと、立ち止まりユウちゃんがボクに言った。

「私……ポケモンマスターになるのが夢なんだ」
「ピ……ピカ?」
「ポケモンマスターっていうのはね……とにかくすっごいの!」
「島キングよりもチャンピオンよりも強くて、優しいの!!」
「ピ、ピーカ……?」

 ポケモンマスター……? 強い、優しい……? 聞いたことがない……。けど、すっごいということは分かった。

「ポケモンマスターはね、パートナーのポケモンと心を通わせていないとなれないんだって……それでね……」

 ユウちゃんがボクの目を見る。

「これから……一緒に頑張ってくれるかな……?」

 パートナー、ピカチュウ。ボクのことだ。
 ボクが断るわけがない。ピカチュウとしてなのが少しつらいけれど……。
 ボクはユウちゃんと一緒に頑張りたい!

「ピッカァッ!!」
「……! ピカチュウ……!!」





「ピカチュウ、一緒に頑張ろうね!」
「ピカ……!」





 こんなわけで、ボクとユウちゃんのポケモンマスターを目指す旅が始まった。それがあまりに楽しく、そしてあまりに辛いものだとは、まだボクは知らなかった……。


「ほら、まずはリリィタウンに行こっ!」
「ピカッ……!」

 ユウちゃんが駆ける。その後をボクも駆けていった。





 ユウちゃんが足を止める。ここがリリィタウンのようだ。

「ハラさん、どこかなー?」
「アローラー! きみ、どこから来たの?」

 ボクたちの元に、緑色の髪の元気な少年が話しかけてきた。

「あなたは?」
「おれねー、ハウ!」

 少年はハウというらしい。

「ハウ! 私はユウっていうの。よろしくね!」
「ユウ! よろしくねー!」

 お互いに挨拶を交わした後、ユウちゃんが尋ねる。

「それで……ハラさんって見てない?」
「じいちゃんならねー、こっちにいるよー! ついてきてー!」
「ありがとう、ハウ!」

 ボクたちはハウのあとをついて行った。

「ユウはなんでじいちゃんのところに来たのー?」
「新しくトレーナーになったから、挨拶をしようと思って」

 ハウが足を止め、ボクたちに言った。

「それならー! ここの"試練"を受けていきなよー!」
「試練……? ここに試練なんてあったっけ……?」
「最近新しく出来たんだー! おれがキャプテンなんだよー!」

 "試練"。
 島巡りをする際、突破しなければならない壁。

「おーい! じいちゃーん!!」

 ハウが叫んだ。

「なんですかな、ハウ。おっと、後ろのトレーナーは?」

 と言いながらこちらに向かってきたのが、ハラさんだろう。

「ユウだよー! 新しくトレーナーになったんだって!」

 と、ハウに指され、ユウちゃんは挨拶をした。

「新しく島巡りに出ます、ユウとピカチュウです。メレメレ島の島キングのハラさんに挨拶に参りました」
「そんなにかしこまらなくてもいいですぞ。それと……そのポケモンは……」

 っ……! まずいっ!
 ボクは、ハウとハラさんに光線を浴びせた。

「……そのピカチュウ、いい顔をしておりますな」
「ほんとですかっ!? ありがとうございます!!」

 ふぅ……。今回も隠すことができた。

「それで……ユウは試練を受けるのですかな?」
「はいっ!」
「おれ、ユウの試練の案内してくるねー!」
「頼みましたぞ、ハウ」

 ボクたちは、試練をする場所へと向かった。

「ここだよー!」
「……何にもないよ……?」

 着いたところは、ただの森の中。ここでどのような試練をするのだろう……?
 ……と、その時。三匹のポケモンが森の中から飛び出してきた。

「このポケモンたちは……!?」
「アシレーヌ、ジュナイパー、ガオガエンだよー!!」

「レェェェエエエッヌッ!!」
「ジュッパァァァァアアアッ!!」
「グルルゥゥゥオォオオオオッ!!」

 三匹のポケモンが雄叫びをあげる。

「おれ、ハウの試練は……」
「この三匹のポケモンのうちから一匹選んで力を試す試練だよー!!」
「……力を試す……」
「勝てなくてもいいんだよー! ユウと、ピカチュウの力を試すんだー!」

 なるほど。これは勝つことが目的ではなく、島巡りへの心構えがあるかを試す試練なのか。
 ……と、三匹のポケモンがボクの元へ歩いてきた。

『……ねぇ、あなた……ミミッキュよね……?』
『何故、ピカチュウということになっているんですか?』

 アシレーヌとジュナイパーがボクに訊く。


『はい。ボクはミミッキュです……。色々あってピカチュウと偽っていて……』
『詳しく聞かせてくれないか……?』

 三匹がボクを見る。
 ……このポケモンたちなら信頼できるかもしれない。
 そう思い、ボクは今まであったことをすべて話した。



『なるほど。そんなことが……』
『クリスマスの奇跡……ですか。便利ですね』
『これから大変なことは沢山あるだろうが、応援してるぞ』
『ありがとうございます……!』

 三匹は、ボクの話を聞いて、ボクを励ましてくれた。

『実は、私たちも色々あって島巡りをしたんだけれど、まあ……大変だったわ』
『えっ、ポケモンだけで島巡りをしたんですか!?』
『はい。アローラを旅したんです。色々な"試練"は大変ですが、それ以上に様々なことを学べるんです』
『楽しいことばかりじゃないが、いい経験になるぞ!』

 島巡りの先輩方の言葉は、とても為になった。



「ピカチュウ、話は終わった?」

 ユウちゃんがボクを呼ぶ。

『……っと、まずはこの"試練"であなた達を試さないとねっ!』
『……頑張ります……っ!』

 アシレーヌに対し、ボクは答えた。

「それでー、どのポケモンを選ぶのー?」

 ハウがユウちゃんに向けてこう言う。

「えーっと……」

 ユウちゃんはアシレーヌ、ジュナイパー、ガオガエンを交互にジーッと見る。

「アシレーヌにします……!」

 ユウちゃんがアシレーヌを指した。
 ボクの前にアシレーヌが来る。

『よろしくね、ミミッキュ』
『はいっ!』

 初めての"試練"。頑張るぞ……!

 ユウちゃんがボクの元へ歩み寄る。

「アシレーヌは確か水タイプ。ピカチュウは有利だから選んだんだ!」
「ピカ……」

 ユウちゃんはボクに小さい声で言った。
 ……ボクは、いくらピカチュウと偽っていてもミミッキュだ。水タイプに有利かはわからない……。
 あれ? でも……。ヤングースのたいあたりが当たったということは、今ボクは電気タイプ……?
 もしかしたらいけるかもしれない……!
 そういえば、この前のバトルのときだって"10万ボルト"を放つことができた。
 クリスマスの奇跡があるなら……。
 いけるっ! ボクは、ピカチュウになれる……!

「それじゃ、やろっか。ピカチュウ!!」
「ピカピィカッ!」
「レェヌッ!!」

「それではー! ハウの試練、開始っ!」

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