最終話 ポケモンリーグ最終決戦! VSコウ[後編]

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 鳴らされたゴングに観客達は声を上げて、席を立つまでに興奮して二人を観戦。ここまで来たら勝者に男も女も関係ない。
 ゴールドはリュックからメガホンを取り出してマイを応援していて、いつもならシルバーやクリスが止めるが今回は止めるどころかメガホンを三人で取り合っている。

「バンギラス、砂嵐」

 バトルステージにある、チリ、砂、岩、全てのかたまりを持ち上げる爆風にマイは左腕で目を覆うようにして庇いながらカイリューに指示を出した。
 髪が風に吹かれて、乱れるがそんな事気にしてはいられない。

「リューくん、竜巻!」

 カイリューが尻尾を器用に回して風の渦を作りあげると竜巻は左回りになって踊り狂う。対するバンギラスの砂嵐は右回りに回っているように取られえた。

「コウちゃん……! もしかしてこの感じ!」

 目が慣れてきて腕を元の位置に戻したマイは目を輝かせ、声のトーンを上げた。

「ああ! この砂嵐とこの竜巻!」

 あのコウも子供らしく目をキラキラさせて息を飲んだ。

「「 初めて出会った、あの時のバトルと全く同じだ! 」」

 マイとコウが初めて出会ってバトルをしたのはウツギ博士の研究所。
 あの時とは随分と成長してポケモンの姿、形が変わってしまったが、まだミニリュウとヨーギラスだった時に起こした砂嵐、竜巻がまさにここに再現された。
 会場のモニターにはマイとコウがそれぞれ映し出されており、声もハッキリと聞こえる。そのため、メガホン合戦に勝ったゴールドとウツギは目を丸くして見つめ合った。

「こんな技のぶつかり合いをしてたってのか!?」
「通りで研究所が荒れた訳だよ……今ではいい思い出だけどね」

 二人の心臓はドクン、ドクンと力強く脈打っていて会場の声なんて届いていない。ただ、あの時を思い出して身体が震えてしまうのみ。

「今思うと、あの時からマイはぶっ飛んだ性格だったな! バンギラス、竜巻に気をつけろ! 砂嵐と重なったら爆発が起きるかもしれない!」
「ぶっ飛んでるってどういう意味!? リューくん、空を飛ぶ!」

 息が苦しくなる程の砂嵐にコウはパーカーを口元にはこんで口ごもり、マイは竜巻でまもとに立つ事すら出来そうになかった。
 一旦、空へカイリューを回避させて上からの見物になるとバンギラスは天をも貫きそうな怒号を上げた。

「バンギラス、冷凍ビーム!」
「リューくん避け……!」
「この嵐じゃマトモに飛べないだろ?」

 バンギラスの大きな口から全てを凍らしてしまう冷気が放たれるとカイリューの右側の翼を氷が覆ってしまい、バランスを崩したカイリューは地面へと落ちてくる。
 正論を言われてマイは顔を下に向けた、何も言えない。

「……ドラゴンダイブ!」

 と思われたが、再び正面を向いた顔はイタズラっ子の笑顔そのもの。
 カイリューの尻尾が瞬きする間もなくバンギラスの顔面に直撃。突然の攻撃にバンギラスは対応出来ずに、どしゃりと派手に音を立てて倒れこむ。

「その戦法はゴールドさんか? 俺だってなぁ、先輩に教えてもらったんだ! バンギラス、波乗りだ!」

 不意打ち戦法はゴールド譲りだと気付いたコウは抵抗するかのようにバンギラスに波乗りさせる。
 どこからともなく現れた大量の水にカイリューはマイを守るように腕を広げて波を受ける。

「リューくんありがとう。このトレーナーにも容赦ないのはシルバーさんからの教えだね!」

 波乗りを受けてダメージが溜まってきたカイリューに空を飛べばダメージを喰らわずに済んだと思ったのだが、翼が凍って飛べない事に気づき、何かを閃いたのか目が大きくなる。

「凍った翼に炎のパンチ! 溶かしちゃえ!」

 威力を弱めての炎のパンチは、あっという間に凍った翼を溶かして行く。何度か羽ばたかせて飛べる事を確認させる。

「……まだやるのか。バンギラス、破壊光線!」

 ステージの中央にいるバンギラスは端っこにいるカイリューを逃すまいと光のエネルギーを貯め始めた。
 その光の光線が放たれるのと同時に、砂嵐と竜巻がぶつかり合った。

「なんだこの風は!」
「風が……痛い……!?」

 右回りと左回りになっていたもの同士がぶつかり合う時、その威力はとてつもないものだった。
 どちらも消えるつもりはないと主張するかのように竜巻と砂嵐はトレーナーとポケモンを襲う。

「バウッ!?」
「リューくん!」

 何が起きたのか分からない。一瞬だけ地球上から全てがなくなったみたいに真っ白になった背景にカイリューの悲痛な叫び声がマイに届く。
――瞬間、全てに色が付いたようにハッキリとした風景が会場にいる観客含め、マイ達にも戻って来た。

「リューくん!! あ、ああ……もう……これ以上は、頑張らなくていいよ……だって、こんなに……ボロボロに……!」
(……マイが諦めた……? 俺は勝ったのか?)

 破壊光線をモロに受け止めたカイリューは両足を地面に付けて、腕だけで己の身体を持ち上がらせている状態。
 こんなカイリューはもう見たくないとマイはベルトに装着してあったカイリュー用のモンスターボールに手を掛けて、ボールをカイリューに突き出し、開閉スイッチを押そうとする。

「バウッ!」
「え!?」

 頭の突起物から小さな電流を飛ばして、マイからモンスターボールを弾き飛ばした。その行動にマイは目をパチクリさせて意味が分からないと涙を浮かべる。

「バウ、バウ!」
「上? 空? そんな身体で飛べないよ……」

 コウとバンギラスはもう立つ事すら難しくなったカイリューを見守る事しかない。頭の中では優勝した自分を思い浮かべて、ニヤつきそうな顔を抑え込むのに必死。
 そんな一人と一匹を他所に、カイリューはアゴを天に向けて何か訴える。

「バウッー!」
「もしかして流星群の事? そんな身体で出来っこないよ……ッ!」
「……ばうう」

 マイの言う通りだ。腕の力で身体を支えているのにどうしろと言うのだ。
 しかし、カイリューは諦めない。今度は器用に尻尾を使ってマイのパーカーの裏に付けてあるジムバッジをはたき落とす。
 散らばった八つに光るジムバッジを見て、頭の中でピンと弾ける音がする。

「そっか、そう言う事か! そうだよね、わたしだってジム制覇なんて無理ー! ってみんなから言われて反対されたけど出来たんだ! それなら、今のリューくんにだって流星群は出来るはず! わたしたちに出来ない事なんて、ない!」
「バンギラス、何か来る!」

 落とされたジムバッジを拾い上げて、空中に投げ放つ。それはまるでキラキラと宝石のように輝く星のようで。

「リューくん! 流星群!」

 こぼれ落ちるジムバッジと一緒にマイも喉が裂けんばかりに叫ぶ。全ての勝利を宣言するかのように。
 同時にマイの身体に変化が起きた。身体には波が打ち付け、稲妻が神経を走り回るような。声にならない痛みが現れる。

「バーウーッ!!」

 流れ星が光の線を描き、空をいくつも引き裂くように真っ直ぐに、厚くて熱い塊が、まだ明るい昼の夏空にも負けない星の輝きを持って、バトルステージに降り注ぐ。

「バンギラス!」

 流星群を受けたバンギラスはその場に倒れ込んだ。プライドが高いのか声を上げる事なく静かに目を閉じ、力尽きた。

『なんなんだ今の技ー!? おおっと! 勝者が決まったなぁ! 今回のポケモンリーグ・シロガネ大会を制した勝者は、我らがワカバタウンのマイ!』

 サイレンの声が響き渡る、湧き上がる観客。そして、コウは腕で涙を拭い払う。
 マイは右腕を摩りながら、段々と笑みを浮かべる。

「え……へへ、えへへ……やったー……! 優勝だァー!」

 ジャンプして喜ぶマイにカイリューがやりきった顔で振り向く。

「……! ありがとうありがとう! リューくん、ありがとうっ!」

 両手を使って撫でようとするが右腕が全く機能していない事に気付く、悟られない為に左手で目一杯可愛がってやる。

「マイ、最高の試合で最高の時間だった。ありがとう。お前は最高の……ライバルで友達だ!」
「コウちゃん……!」

 夢中になっているとコウがマイの所まで来ていて、右手を差し伸べて来た。
 右腕が上がらずにどうしようと混乱しているとコウが自虐風に笑ってこう言う。

「なんだよ緊張してんのか、チャンピオン?」
「う、うるさいなぁ。ほら、わたし達は握手よりこっちでしょ!」

 今度はマイが左腕を頭の位置くらいまで上げて、ハイタッチの構えをする。

「フッ、それもそうだな」

 鼻で笑ってコウはその手を叩いて、自分の出て来たゲートまで歩く。
 マイもゲートに戻ろうとした時、ふと上を見上げるとゴールドが手を振っていた。

「ゴールド! やったよ!」

 ピースサインを出してマイは最高の笑顔を見せると、ゲートを通り姿を消した。


(腕が……動かない……!)

 誰も見えない薄暗い通路場所まで歩いたマイはしゃがみ込み顔を膝に付けると涙を流す。
 ポケモン達はボールの中からそれを見る事しか出来なかった。

◆◆◆

 いつまで経っても控え室から出てこないマイにコウとアヤノは優勝した事を信じられなくて部屋の隅で丸くなってると思って呼びに行ったのだが控え室に入るのだが、誰もいない、無人の部屋になっていてそれをゴールド達に報告。
 するとゴールドがアゴに手を当てて、もう家に戻ったのかもしれないから今日はここで解散と皆に言う。
 本当ならば今頃は表彰式の真っ最中なのだが、チャンピオンがいないとなれば話は別だ。先程、活躍をしたアナウンサーの上手い話術で、問題が起こる事なく、後日表彰式をすると発表して、大会は終わった。
 そして、何も言わずに戻ってしまったマイに少しだけ腹を立てたゴールドは玄関を荒く開けて、階段を音を立てて登る。

「マイ! 帰るなら帰るって言えよ……っておい、どうした? 大丈夫か?」

 自室に入ると布団に丸くなって震えている事に目がいく。口調が途端に柔らかくなり、布団を剥ぐと、涙で濡れたマイの顔がそこにあった。

「……ゴー、ルド」

 何度も開いては閉じる口、かろうじて喉からこぼれた空気が声となる。何をそんなに怯えているのか分からずにゴールドはマイの上半身を起こして肩を抱いてやる。

「なんだァ? 優勝したのがそんなにビビる事か?」
「ち、がう……。そうじゃないの」

 落ち着かせるように頭を撫でてやる。頭、肩、そして背中に安心感を覚えてようやくマイは話せる状態まで戻った。右腕を摩る彼女を見てゴールドは勘付く。

「マイ、もしかして右腕が痛むのか!?」
「……たすけて、ゴールド」

 口がわなわなと震えている。たった一言にゴールドは崖っぷちに追い込まれたみたいに言葉が詰まってなかなか出てこない。

「動くのか?」
「動かない」
「痛むか?」
「痛くない」
「何も感じないのか?」
「うん……」 

 短い会話のキャッチボールが続くがすぐに終わってしまう。消え入るような声で「ごめんなさい」と項垂れる。先程までとは別人の、意気消沈したような暗い声。

「明日は表彰式だ。それだけは出席するよな? 今はまだ緊張してるだけで、そうしたら何か変わるかもしれ……すまねぇ、そんなはっきりしない事なんて言われたかねぇよな」
「ううん、ありがとう。明日の表彰式には絶対出るよ。ゴールドの言う通り、まだ緊張してるのかもしれないから。もうだいじょうぶだから、今日は……帰っていいよ」

 張りのない声でゴールドは謝るとマイが慌てて左手でピースサインをする。それはポケモンリーグでゲートを出る時とは全く違う意味になる。

(もしかして、あの時も痛かったのか? なんて聞けねェよ)
(ゴールドに気を使わせちゃったな……でも表彰式にはちゃんと出席しないと)

 無理矢理笑顔を作ってマイはゴールドを玄関まで見送ろうとベッドから出る。
 靴を履き終えた彼が振り返る。マイを見つめたと思えば突然、ぎゅっと優しくも、けれど強さも感じる力で抱きしめてきた。

「言い忘れてた、優勝おめでとう」

 マイの状況に忘れていたがゴールドはマイに「おめでとう」を誰よりも先に伝えに来たかったのだ。
 そして、おそらくマイがいま一番欲しかった言葉をくれる。

「よくやったよ、お疲れさん」

 身体を包み込む腕は震えていた。ゴールドは本当は怖かった。このまま腕が動かないままだったらどうしよう、もう二度と彼女に抱きしめられる日が来ないままだったらどうしよう、そんな不安が腕に伝わる。
 けれど、彼女の体温が伝わり、心音が聞こえると、まだ生きているから大丈夫、そんな事が脳裏に浮かぶ。

「うん」

 泣きそうな感情が一気に押し寄せてくるけれど、泣く訳にはいかない。ぐっと我慢する。
 何故ならば、マイは知っていたから、分かっていたから。ゴールドから伝わってくる恐怖心。けれど、それを表には出さない彼の強さ。
 動かせるはずである左腕をゴールドの腰に回せないのはバトルの疲労。それでもゴールドは分かってくれている、わたしのことを一番分かってくれているはずだから。
 だから今はこうして、大人しく彼に身を預ける。それが、彼にとっても一番伝わるマイの気持ちだから。

(ゴールド、ごめんね、ありがとう)

 二人はしばらくの間、黙ってその状態のままでいた――。

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