File 19 -蒼き夜の帳-

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読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 大怪我を負ったユヅキをプルヌスに託して家に戻ったえっこは、レヒトから明日にでもメディオキュールに関して話をしたいと誘いを受けた。そんな夜、えっこは夢の中である人物と再会を果たす。
 幽閉塔から戻ったえっこは、誰もいないアパートの部屋の明かりを点灯させる。プルヌスに検査してもらった結果、ユヅキは肋骨2本が折れて肺にわずかに刺さっている状態らしく、手術と入院のために彼女が預かる運びとなったのだ。


「んほぉ……こりゃまた派手にやられたねぇアンタら、肋骨をパッキリやっちまってる。5mmくらいの深さだと思うが、肋骨の端が肺に刺さって肺出血も起こしとるな……ようこんな状態でまともに意識保ってるねあの子。」
「呼吸困難状態を見せていたと思ったらやはり……。どのみち酸素が削られた環境下だから関係がなかったのかも知れませんが、ユヅキさんは呼吸がほとんどできない状況下で何とか持ち堪えてたってわけですね。」

「それに下手に動かしたら肋骨がナイフみてぇに深く突き刺さって、肺がすっぱり切断されてたかもな。紙粘土に包丁でズバーンと切れ込み入れるようなもんさね、そうなったらさすがの私もお手上げだったわいな。」
「んで、ユヅキはちゃんと治るんだろうな? アイツは何とか必死で生き延びてここまで命を繋いできたんだ、それがもし力尽きちまったら、俺はてめーを細切れにしちまうだろうよ。」

怪我の具合を分析するプルヌスとえっこに対し、スィフルはドスの聞いた声でプルヌスにそう詰問した。やはりユヅキのことは誰よりもかけがえのない相手だと思っているのだろう、その言葉には本当にプルヌスを惨殺しかねない勢いすら感じられた。


「ちょっ、スィフルさん……!! プルヌスさんは彼女を治療しようとしてくれてるんです、そんなこと言っては……!!」
「あん、もちろんだ。私も生半可な気持ちで研究者や医者やってんじゃあねぇわ。約束するよ、アンタの大切なパートナーは絶対に助ける。万が一ミスったら、マジで私を細切れでもみじん切りでも輪切りでも、好きにぶった切ってくれて構わんよ。」

「……ああ、頼りにしてるぜ。必ずユヅキを救ってくれると信じてる。毎度毎度、厄介になっちまってすまねぇな。後はよろしく頼んだぜ。」

スィフルの言葉に対し、プルヌスはこれまで見せたことのない声のトーンでそう返答した。そこまでのことを言い切るプルヌスの覚悟を確認できたスィフルは、彼女に穏やかな笑みを見せた後深々と頭を下げ、研究室を立ち去っていった。


「ま、俺が心配して何か進むこともないしな。ユヅキさんが戦線復帰してくれるまで、色々とやれることや次の戦いへの準備も済ませとかなきゃならないし、忙しいのは変わりなし……かな。」

そう呟いた瞬間、えっこのComplusにメッセージ通知が入った。送り主を見るとサーチャーギルド会長のプクリン・レヒトからの連絡であり、宛先にはユヅキとスィフルも含められていた。


「レヒト会長が直接俺たちに? 一体何だろう……。」
『突然の連絡で失礼、みんな元気にやっているだろうか? 実は君たちが収集しているメディオキュールに関して色々と調査していった結果、分かったことがあるので是非とも会いたいと考えているんだ。押し付けがましくて申し訳ないけれど、明日の午後2時、サーチャーギルド本部7階のB-17会議室へ来てくれると嬉しい。予定が合わなさそうなら、スケジュールを伝えてくれればこちらから調整しようと思う。それでは、よろしく頼むよ。 レヒト』

「メディオキュールの情報か……レヒトさんが直接ってのも珍しいけど、確かプルヌスさん曰くあのポケモンも元同僚の科学者だったらしいし、きっとユヅキさんの治療で忙しいプルヌスさんの代わりにってとこだろうな。まあ予定なんて特段ないし、俺は問題ないって返信するかな。」

どうやらレヒトはえっこたちに対して伝えたい調査結果があるらしく、それはメディオキュールに関する新たな情報なのだという。この手の話はプルヌスが自信満々に語ってくるイメージがあるのだが、今回はユヅキの治療のためレヒトが代役として真実を伝えようとしているのだと考えたえっこは、レヒトが指定した日時に訪問できる旨を返信した。

スィフルも同様に予定が空いているらしく、2匹はサーチャーギルド本部の駅で落ち合ってレヒトの元へ向かうこととなった。






 午後10時。普段ならばユヅキの溜め込んだ家事の数々をえっこがこなしている時間だが、その日は昼間の疲れもあって、えっこは既にベッドで深い眠りへと落ちていた。今日のアークの空模様は若干の曇り空で、天井に投影された仄かな月明かりを薄い雲が遮っているために、少しだけ青みがかったような夜の闇が街を包み込んでいるように見えていた。


「えっこ、えっこー!! また会えて嬉しいな、昼間の戦いは上手く切り抜けられたみたいで何よりだよ。」
「んあ……ってローゼンさん!? 何だこれ……また夢の中ってことですか?」

「そうだね。首を突っ込むようで悪いけれど、少しばかり話さなきゃならないことが出てきちゃったんだ。ま、そんなにルール違反なことは伝えないつもりだから、創世主ちゃんのゲームを破壊するつもりは全くないけどね。」

一面の青い薔薇が咲き誇る平原に立つ2つの小さな影。ケロマツの姿で佇むえっこの前に顔を覗かせていたのは、見覚えのある軍服を身にまとったエモンガだった。


「また曖昧な情報にのみ留めるってことですね……。でも俺の方こそ、またあなたにお会いできて嬉しいです。それに何だかんだで、この姿が一番しっくり来る感じもありますね。」
「でしょー? そう思って敢えてこの姿にセットしておいたんだ。で、本題に移りたいんだけれど、少なくとも君が理解しているのは、この世界の人間も何かの理由で滅びたこと、そしてこの世界とあっちの世界には接点があること。」

「そして、俺と俺がこの世界で出会ったユヅキさん……2人の間にはまるで平行世界の同一人物の如く、他人とは言えない共通点があること……。全くもって真相が見えてこなくて、謎ばかりで面倒なもんですよ。」
「相変わらず面倒臭がりだね、はは。でもやっと相手も譲歩せざるを得ない状況になってきたみたいだ。これ以上ゲームマスターの独断場を続けると、プレイヤーが万に一つもマスターに一矢報いるチャンスが来ないと、プレイヤーは興醒めしてゲームから降りちゃう。だからゲームを攻略したら真実が見えてくるみたく、少しずつこの世界の真相を与えていかなきゃならない。」

「冒険物のゲームって奴はそうみたいですね。セレーネがそんなことを言ってたのを思い出しましたとも。まあ、こちとら奴を少しずつ追いかけ、追い詰めていく実感があるんで、何もないよりはありがたい限りですけどね。」

あくまでローゼンは最低限のサポートに留めるつもりらしいが、それでもえっこは考える。さながらパズルのピースのような細切れの情報の数々を繋ぎ合わせれば、パズルが1枚の大きな絵を見せるように、いつかは真実を見出すことができるのだと。


「俺の中で1つの疑惑があります…………。でもあくまで想像の域を出ない。それが真であるか儀であるか、ゲームオーバーにさえならなければいずれは明かされることなのは分かっています。それでもはやる衝動を抑えられない……俺は少しでも早く次に進みたい、一刻も早くローレルに再会できるように!!」
「なるほど……。それは案外あっさり叶うのかもね。」

「それは一体……? まだ創世主は余裕綽々な様子でしたし、てっきりこのイタチごっこも当分続くものだと思っていましたが……?」
「そうじゃないんだ、でも気にする必要はない、今はね……。それより話題を変えようか、どうして人間がこの世界から消えたのか……その原因のヒントくらいはあってもいいかなと思ってね。」

えっこが心に抱えたある仮説、そしてローレルに再会できるように一分一秒でも早く真実へ到達したいという思い。そんな強い思いを聞いたローゼンは意味深なリアクションを覗かせるが、急にえっこへ1つの質問を返した。


「どうしてって……確か謎の病で消えていったんですよね……。その病に更に元凶でもあるって言うんですか?」
「ご名答、元凶がいるんだ。そう、あれは自然に起こった出来事なんかじゃない。誰かが引き起こした出来事だ。それくらいはヒントとして言っても構わないよね、ははっ。」

「まさかアイツっ……!! やれやれ……自分でいくつもの世界を作っておいて、気に食わない仕上がりになればゴミ箱行きってことか…………。本当に醜悪で腐った奴ですよ。まるで理解ができませんね。」
「うーん、そこまで彼女のこと悪く言わなくてもいいと思うよ。じゃないと後々色々と大変な思いすると思うからね。」

えっこはローゼンの言葉を聞いて確信した。この世界の人間を作り、そして滅ぼしたのは紛れもなく創世主なのだと。その極悪ぶりに溜め息をつくえっこだったが、ローゼンはまたもや意味深な発言をえっこへ向ける。きっとローゼンなりに、ゲームを覆すというタブーを犯さないようにえっこに語りかけているため、何かと引っかかる不自然で曖昧な物言いとなってしまうのだろう。


「どちらにせよ、次は1つの転換点になる……。あの創世主、無言実行にして有言実行ですからね。大きなヒントを出してやると言ったからには、次に俺たちが奴に遭遇したそのときは、巨大な釣り針と餌を垂らして待ち構えているんでしょうね。」
「なら、その釣り針ごと分捕ってやればいいさ。でもきっと、次の対峙は君たちにとってショッキングなものとなる……僕はそう思えてならない。」

「ええ……あの性悪女がわざわざお膳立てして、大々的に予告宣言したからには、とんでもない真実が明るみになるのでしょうね…………。でもそれだけは……俺のあの嫌な予想だけは外れてくれ………………。」
「さてと、そろそろ時間みたいだ。僕はいつでもいつまでも、君の魂や心と共にいる。その痛みも苦しみも、全て今の僕には分かち合うことができる。だから決して諦めないで、そして負けないで生き延びるんだ。」

「言われるまでもなく。ローゼンさんが傍にいてくれるのに、そんな無様なマネは晒せませんよ。今日はありがとうございました、またきっとこんな風に、この青い薔薇の咲き乱れる中で会えることを祈ってます。」

ローゼンの言葉に勇気付けられたえっこは、ローゼンに強く見据えた眼差しを送る。ローゼンが黙って頷いてそれに応えた後、風と共に青き花びらが散っていき、目の前に広がる花畑と共にえっこの意識もフェードアウトしていった。


「ん…………ローゼンさんっ!? そうか、夢から醒めたのか……。でも間違いない、ローゼンさんは俺の魂へと語りかけていた……。俺の心が見せた夢などではなく、夢という場所を借りてローゼンさんが俺に言葉を伝えた……。」

時刻は朝の5時27分、外の人工太陽がわずかに顔を覗かせて朝焼けを投影するこの時間にえっこは目を覚ました。夢の中とはいえ、間違いなくローゼンがえっこの意識に訴えかけてきた。彼の意識が確実にそこにはあったのだとえっこは再認識してその身を起こす。

今日は午後にはスィフルと共にレヒトの元を訪れ、メディオキュールの新たな情報を聞き受けることとなっている。少し朝食には早いなと思いながらも、えっこはベッドから飛び起きて大きな伸びをしてみせると、台所のある方向へと足を動かしていった。

(To be continued...)

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