File 18 -突発的燃焼-

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読了時間目安:17分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 創世主によって召喚されたヒトモシの模倣体は、次々に予測不能な行動に出てはえっこたちの出鼻を挫いていく。そんな中ユヅキが不意討ちにより戦闘不能となったことで、戦況はこちらの不利に傾いてしまう。
 幽閉塔の地下奥深くでえっこたちと対峙することとなったヒトモシの模倣体は、その無機質ながらも円らで黄金色をした眼差しを虚空に向けているように思えた。やがてゆらりと動き出した敵は、その身体を前に倒そうとしていた。


「一体何をするつもりだ……? まあ、何をしでかそうが構わずその後隙に地面タイプの技を叩き込んでやるぜ!!」
「ええ、炎タイプなんて呼んだのが運の尽きってもんでしょう。俺とスィフルさん、両方が有利なタイプですからね!!」

ヒトモシはゴーストと炎タイプを持つポケモンであるため、炎が苦手なユヅキを守るようにして、えっことスィフルが立ち塞がって口々にそう叫ぶ。えっこは水タイプ、スィフルは地面タイプの技を得意とするため、いつも通り着実に敵を処理していけば勝利は確実で難しくないものだろう。だがえっこたちのそんな確信を、敵の意外な行動が揺るがすこととなった。


「ちょっ、何なのコイツ!? 何もしてないのに……倒れた?」
「行動が理解できませんね……一体何を企んでいるんだ……!? スィフルさん、奴の行動から目を離さぬよう……何だかとても嫌な予感がします!!」
「言われなくても分かってるぜ。このロウソク野郎が何をやる気かは分からねぇが、その一挙手一投足は見逃さねぇ。確実に仕留めてやるぜ……!!」

相変わらず溶けて潰れたロウソクのように地面にうつ伏せになったまま動かない敵の様子を、えっことスィフルは全神経を研ぎ澄ませて注視する。ただ1匹だけ敵の本体を見つめていなかったユヅキは、あることに気が付いて動き出した。


「コイツ……ボヤッとしてたらヤバいよっ!!!! 私の読みが正しければ!!!!」
「うわっ!? 何するんですかユヅキさん……いきなり後ろに!!!?」

「おい離せお前!! これじゃあ相手を……っておわぁっ!!!!!?」

ユヅキが2匹を後ろに強く引っ張った直後、置き花火でも燃え上がったかのように、一気に周囲が明るくなって何かが飛び散る音がした。敵のいた方向をもう一度見ると、地面のあちこちに炎が飛び散って赤い光を壁に映していた。


「奴の炎が少しずつ青みがかって変化してるのが見えたんだ……。何もしてないふりをして、絶対に不意打ちをかましてくる、そんな気がしたから君たちを引っ張った。」
「ありがとうございます、ユヅキさん………危うくあの爆発に巻き込まれてしまうところでしたよ。」

「だが何だぁ? また自爆テロ野郎かよ、何ともバリエーションのない奴らだよな全く……。」
「いや、単に爆発したんじゃない……。もしかしたらこの敵は……!! クソっ、こんな閉鎖空間でそれをやられるとマズいっ!!」

飛び散った敵の残骸を見つめるスィフルに対し、えっこは何か致命的なことに気付いて焦りを見せているようだった。えっこはすぐにみずのはどうを部屋中に拡散する形で放つが、炎が素早く飛びのいてそれをかわしてしまった。


「マジかよ……あの炎全部が生きてんのかよ!! まるでクローンでも作るみてぇに増殖しやがったってことか……。」
「それだけじゃありませんよ、こんな地下の閉鎖空間で炎の数が増えた……。それと一緒に閉じ込められた俺たちが直面する危険……それは酸欠だと思います。」

「なるほどね、炎が増えたらその分より多くの酸素が必要になるってわけか……。しかも炎の色が変わってるってことは……さっき一度だけ青くなって、その後赤くなったってことは…………酸素を一気に消費して爆発的に燃えて、その後見事に部屋の酸素が減ったからより不完全燃焼に近付いた……。それを繰り返して炎を増やし、酸素を削られたら燃やされるよりも早く私たちは……!!」

ユヅキの言葉に無言で頷くえっこ。炎とは常に酸素を消費して燃えるものであり、消費量が多ければより高いエネルギーを得て青っぽく、逆に少なければ赤っぽく見える性質がある。最初青紫色だった敵の炎はより青く激しく燃えて拡散し、部屋の酸素を一気に消費したことで赤っぽい炎のクローンをたくさん生み出した。

炎に命を宿す相手とて酸素が完全になくなれば、炎が消えて生命活動を停止するだろう。しかしそれはえっこたちも同じ、いや寧ろより深刻な問題にあるといえる。生物は酸素が欠乏すると集中力の低下や頭痛や運動機能の衰えに始まり、例え酸素濃度が0でなくとも、最悪の場合は意識混濁や血栓による血管梗塞により死に至るケースもあるからだ。

深い地下空間の最下層で入り口も1つだけであるため、敵を倒さない限りは安全に逃げられない状況も完成しており、えっこたちが不利なのは誰が見ても明らかだ。


「んなら話は早いぜ、酸素を空にされる前に全員ぶちのめす!! 『だいちのちから』!!!!」
「援護します、『みずのはどう』!!」

「よし、スィフルが地面を攻撃してえっこが空中を固めた!! これならこの狭い空間で逃げ回るのは難しい!!」

スィフルのだいちのちからが地面を這うように広がり、それに合わせる形でえっこがジャンプし、空中への退路を塞ぐ形でみずのはどうを設置する。敵は逃げるだけならいさ知らず、頭の炎を二段攻撃から守ることは難しかったらしく、次々にその灯火を消してべっとりと地面に倒れ込んだ。

まるで溶けたロウソクのようになっているその身体は、多くがわずかに地面に溜まった水に触れているため、炎タイプの彼らにとっては大打撃と言えるだろう。


「何だ? 全くもって歯応えのねぇ奴らだな。それとも俺とえっこのコンビネーションが完璧すぎて手も足も出ませんでしたってか?」
「それにしても妙なくらいあっさりと倒せたね……。あの趣味の悪い特製模倣体がこんな呆気なく終わるかな?」

「念のため、水タイプ技で追い打ちを掛けますか……。スィフルさん、念には念を入れて、奴らが何かしてきそうならサポートを頼みます。俺が奴らに確実にとどめを刺せるように。」
「よし、任せろ!! お前も油断すんなよ。」

いとも簡単に壊滅した敵の様子に首を傾げながらも、えっこは確実にとどめを刺すべく追撃の準備にかかる。まだ模倣体の中身である黒い靄が外に出ていないため、戦況に関してはまだ完全に終了したと決めつけるのは早計というところだろう。


「よし、次は全身水に浸かってこれ以上何もできないくらいに叩き込んでやる!!」
「……ちょい待ちだえっこ!! あそこの奴の身体からブクブクと泡が出てる!! だが泡を出してる……? 息を吐き出してる感じの泡じゃねぇよな……それならもっとデカい泡がボコボコとゆっくり出てくるだろ……。」

「細かな泡が……? まさかアイツらっ!!!! やはり警戒しておいて正解だった!! みんな前方に防御を!!!!」

えっこが何かに気付いてそう叫んだ直後、軽い破裂音のようなものが聞こえた後、強烈な衝撃が身体を突き抜けていった。えっこに促されて咄嗟に防御体勢を取ったものの、一同は衝撃で壁に叩きつけられてしまう。






 「ぐっ…………大丈夫かみんな? 俺は何とか問題ねぇが……石の壁に思い切り叩きつけやがって…………。」
「俺も背中のケロムースと脚の重力装置で衝撃を減らしましたし、身体の質量は少ないから大した被害はありませんよ……。しかしユヅキさんが危険だ……あの斧を背負った状態で壁に叩きつけられてなら、その衝撃は相当なはず……!!」

えっこはすぐさまユヅキの元へと駆け寄った。ユヅキは手足こそ問題なさそうに見えるが、口から血を垂らしながら呼吸を荒げて倒れていた。


「肋骨……か…………何か……息が………………。」
「喋らないでくださいユヅキさん!! 簡易分析ビジョンであなたの身体をスキャンしていますが、どうやら斧の刃部分と壁に挟まれた左肋骨が折れているようです……傷は深くはないが、肺に刺さって出血しているのかも……。」

「くそっ、ユヅキが……!! このロウソク野郎共……もう許してくれなんて言葉は通用しねぇぞてめぇら……皆殺しだコラァ…………!!!!」
「スィフルさん落ち着いて、俺もこの借りは奴らにきっちり払わせるつもりです。でも焦っていいことなど何1つない。確実なタイミングで、そして一気に仕留めに掛かるのがベストです。必ず一網打尽にしてやる……!!」

ユヅキが手負いになったことで、ますますえっこたちの状況が不利になる。敵はいつの間にか身体を復活させており、先程よりは少ないものの4体のヒトモシがこちらをその作り物のような円らな目で見つめていた。


「奴らは電気タイプの技まで使える……恐らく『でんげきは』だったのでしようね。それで俺の作った水溜まりから水素と酸素を分離させ、それらを燃焼させることで爆発を起こした。」
「酸素を出してくれるのはいいんだがよ……すぐ消費するなら結局意味ねぇな。だが丁度殴り足りなかったことだし、もう一度お目見えできて嬉しいぜ。」

えっこの言う通り、敵は水溜まりに電気タイプの技を使用することで水素や酸素を水から分解して発生させたようだ。敵が再度分裂をしたら厄介だと判断したのか、スィフルは突然敵の目前に躍り出る。えっこが慌てて引き止めようとするも、一度飛び出したスィフルの勢いを止めることなど叶わなかった。


「分裂や攻撃をしてくる前に、こっちからサックリとぶっ飛ばしてやれば済むだけの話だよなぁ? 覚悟しろよてめぇら!!!!」
「なっ、何をしてるんですかスィフルさんっ!!!! この状況で敵の方へ突っ込むなんて……その位置は最悪だ!!!!」

スィフルが踏み込んだその先は、敵の射線が一点で交わる場所になっている。敵は何も考えずにただ攻撃を目の前に吐き出す、ただそれだけでスィフルの元へ吸い込まれるように攻撃が伸びていき、集中砲火になってしまう構図だ。


「ぐぅっ…………おわぁっ!!!!」
「スィフルさん!! そんな、いくら炎タイプに強いあなたと言えど無茶すぎる!! 引き返してください、今なら致命傷にならずに済む!!」

「そんなんで…………終われるかっ……!! くたばりやがれ!!!!」

スィフルはドラゴンタイプと地面タイプを併せ持つために、炎タイプにはとても強いと言える。そんなスィフルですら思わず怯んでしまう程の敵の集中砲火だったが、スィフルは踏みとどまってだいちのちからを放つ。その手は激しい炎を受け止め続けたからか、鈍く赤い光を放っているようにさえ見えた。


「なっ……!? 中央へ集まった!? マズい、スィフルさんの攻撃を避けつつ合体し、火力を結集してとどめを刺すつもりか……!!」
「…………だろうな。だがまんまと騙されやがったなこのロウソク野郎っ!! えっこ、奴の口に水弾をぶち込めーーーーっ!!!!」

敵はスィフルの渾身の一撃を回避して中央へ固まり、1体のヒトモシへと戻っていく。スィフルの目の前に次々組み上がっていくその炎は強く揺らめき、スィフルに最後の一撃を叩きこもうとしている様子だ。そんな状況に焦りを見せるえっこに対し、スィフルは突然冷静さを取り戻したように動きを止め、えっこに向かって叫ぶ。何かを放り投げるような動作の直後、スィフルは壁にぶつかりそうな勢いで真横に跳びのいた。


「えっ!? と、とにかくコイツでっ!!!!」
「撃ち込んだら魔法で防げっ!!」

えっこは若干うろたえながらも、スィフルの指示通り義手から水弾を発射し、敵の口を狙う。かえんほうしゃを吐こうとしていたのだろうか、大きく開けられた敵の口は赤みがかった黄金色に見えた。

スィフルが続けてえっこに防御を促す。えっこは液体を防ぐ『パラフルード』の魔導書を使い、水の防御壁を展開した。その直後、水の壁に何やら大量の白っぽいかけらが次々に打ち付けられ、べちゃべちゃと不快な音を立てながら張り付いていった。


「なっ、何だこれは……敵の身体が爆発した…………!? でも水弾で敵が爆発するなんてそんなこと……。」
「水なんかじゃああはならねぇよ……。もっと確実にバラバラにぶっ飛ばせる代物を使ったからああなった。助からねぇくらいに木っ端微塵にな!!」

辺りが静かになったことで、えっこは自分とユヅキを守るように展開していた防御壁を解除して部屋を見渡す。部屋の奥には白い絵の具を混ぜた水風船が割れたかのように、敵の白い体液がべったりと飛び散っている。そんな白塗りになった壁の前には黒い靄がわずかに漂っているのが見え、スィフルたちの勝利を確実なものとして証明してくれていた。


「凄い…………まるで内側から手榴弾で身体を粉々に吹き飛ばしたみたいな…………。」
「当たらずとも遠からずってかな、あのバカタレの言葉を借りるならよ。似たようなもんだぜ、金属片をバラバラに吹き飛ばして敵を爆破した。さすがにこれだけの細切れ状態になれば、分裂して再点火しようとしても、それぞれの欠片が小さすぎてあっという間に燃え尽きて終わっちまう。ま、そんな心配するまでもなくあっさりと消し飛んじまったみたいだがな。」

「なるほど、あれを使ったのか……。そこに固まって落ちている金属片で何を利用したかは察しが付きましたとも。」
「ああ、苦悩の梨とかいうとんでもねえゲテモノを食わせてやったのよ。大変だったんだぜ、あれをウェルダンに焼き上げて食わせるのはな。手の平を大火傷しちまったよ。」

えっこは金属片を拾い上げて呟いた。小さな欠片になっているものの、その半月型の筒のような物体の表面には螺旋状の溝が掘られていた。スィフルは牢獄のある階で拾った苦悩の梨を爆発させたらしく、敵が弾け飛んだ場所を中心にして、黒ずんで光沢を失った破片が落ちている。


「ある程度ネジを開いた苦悩の梨を敵の口に放り込む……そして俺の圧縮された水弾を叩き込めば、水が一気に沸騰して圧力への反発力と共に、外側へと押し出すような強い力を発生させる。」
「ああ、それであの拷問器具を破裂させた。固定された金属が一気に解き放たれた勢いは、まさに手榴弾みてぇに強力になるってわけだ。」

「そして無茶な特攻を仕掛けたのはわざとその身で炎を受け止めるため……。無理な攻勢に出て、敵の集中砲火を食らったと見せかけて隠し持っていた苦悩の梨を一気に熱した……。そうすれば水に触れた際に沸騰する体積も増えるし、熱によって膨張した金属が元に戻ろうとする力も加わり、より強力な爆発を生み出せるから……。」

手榴弾は内部の爆薬が爆発する勢いによって表面の金属片を広範囲に飛び散らせ、その勢いと鋭さで相手を貫くように攻撃する。スィフルは苦悩の梨を敵の集中砲火と、スィフルへのとどめに撃とうとした炎と、2段階に渡って熱することで一気に膨張させた。

そんな超高温の金属の精密パーツが圧縮された水弾に触れることで、或いは敵の口の中の燃え盛る炎に触れることで、一気に加熱と冷却を繰り返すと共に周囲の水を一気に沸騰させた。沸騰の途轍もない膨張エネルギーと金属が冷やされて元の体積に戻ろうとする力によって苦悩の梨は歪められ、水弾で吹き飛ばされた敵の中で一気に爆発、敵の身体を粉々に吹き飛ばしたというカラクリらしい。


「ユヅキさん、大丈夫ですか? 仇はスィフルさんが取ってくれましたよ、それにメディオキュールだってここに!!」
「そっか…………ありがと…………じゃあアークに帰ら……ないとね……って、あいたたっ…………。」

「怪我してんのに無茶してんじゃねぇよ、仕方ねぇから俺が運んでやる。えっこはComplusにそのバカデカい斧を入れておいてくれ……コイツ1匹の重さでも精一杯ってもんだからな。」

えっこは敵の残骸から白色のメディオキュールの瓶を見つけ、ユヅキの前に運んできた。それを見たユヅキは何とか自力で立ち上がろうとするも、やはり胸の怪我が大きいのか叶わない様子だ。スィフルは少し溜め息をつきながらもユヅキの肩を支えて歩き始めた。


「何だか、そういうとこがスィフルさんらしいですね。ユヅキさんに素直になれないけど、本当に心配しているし、何だかんだで守り抜こうとしてるんだなって。」
「そういうんじゃねぇよ……コイツがいなくなったら、同じチームの俺がやりにくくなんだろ……。」

「でも確かに俺は聞きましたよ、ユヅキさんを傷付けられて激昂してたあなたが、絶対にお前らは許さねぇって言い放ってたの。きっと、俺にとってのローレルみたいな存在なんだろうなって思いました。それを自分の身に代えてでも守ろうとするスィフルさん、とてもカッコいいし頼り甲斐がありそうだと感じましたから。」

スィフルは照れ隠しのようにぼそりと乱暴な言葉を吐き捨てたが、きっと本心ではえっこの言う通り、ユヅキのことを心から大切な存在だと認識しているのだろう。

次は必ず大きな運命の転換点が訪れる、そんな創世主の言葉に期待と不安を募らせながら、3つの温かな影は、この冷たき地下の塔を登っていった。

(To be continued...)

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