第4話 ~なれるさ みんなのヒーローに~

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読了時間目安:17分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

主な登場人物

 [シズ:元人間・ミズゴロウ♂]
 [ユカ:イーブイ♀]
 [チーク:チラーミィ♂]

前回のあらすじ
"救助隊連盟第一支部"……その建物で、人間の絶滅を知るシズ。なぜ、どうして?理解ができない。途方に暮れていた彼は、ユカに"ワタシと一緒に救助隊にならないか"と提案される。情報面の恩恵によって、記憶を取り戻す手がかりが見つかるかもしれないというのだ。その提案を受け入れたシズだったが……しかし、外はもう暗いので今日はチ-ク(とユカ)の家で泊まらせてもらうことになった。
「シズ…ん、き……ます…?」

……また、少年は誰かの声を聞く。……なんとも形容しがたい、不思議な空間が広がっている。やはり、ここは夢の中なのだろうか?

「前回よりは……よく聞こえる。でもやっぱり、所々途切れて……」
「……さん。時間…ありま……。要点だ…伝…ます。」
「え?要点だけ……伝える?」

……この声の正体は、何なのだろうか。ただひとつ言えるのは……普通の存在ではないこと。それだけは、直感的に理解できる。

「シズ……の、やるべ…こと。……を、続……くだ…い。」
「やるべきこと……?それって、いったい……」
「この……の、…事、"救助隊"……。時が…れば、私が使命…導き……。」

その言葉を聞いた瞬間……視界が白く染まってゆく。そして……

「救助隊……使命?導く?君は一体……あっ!待って!聞きたいことが!……うっ……だ、だめだ……意識が……」












「シズ……起きてよ。ねえ、シズ。」
「あぅ……お?おは……?」

ある日、ことりポケモンの綺麗なさえずりがきこえる朝。藁のベッドで、一人の少年……シズが目覚める。

「おはよう、シズ……って、どうしたの。顔色悪いよ?いやな夢でも見た?」
「お……おはよう。」

顔色が悪い……多分、あのへんな夢のせいなんだろう。得体の知れないヤツに、おかしな指示を一方的にされて普通でいられるわけがない。"救助隊を続けろ"。まだ救助隊になってないのに、なぜああいう言い方をしたんだろうか。まあ、言いたいことは理解できるけど……でもなぜ、あの声はボクに救助隊をやってほしいんだろう。

「お、シズ、ユカ。起きてたか」

……ガチャリ。扉の開く音とともに、リンゴの入ったかごを持ったチークが部屋に入ってくる。

「シズ……顔色が悪いな。記憶喪失の事を気にしてんのなら、あまり深刻に考えすぎるなよ。精神がボロボロになっちまうぞ?……とにかく、リンゴでも食べて落ち着くといい。ほら」

チ-クはそう言って、シズにリンゴを投げ渡した。

「うわっ!?」

いきなり何の前触れもなくリンゴを投げられたシズだったが、なんとか両前足にそれを納める。

「あ、ありがとうございます……」
「ほら、ユカの分もあるぞ。ほいっ」

ユカにもリンゴが飛んでいく。シズと違って、特に取りこぼしそうになることもなくキャッチに成功していた。

「ありがとね。」
「どういたしまして。……食い終わったら出かける準備をしておけよ?外で待ってるからな」

そう言葉を残して、チークは部屋から出る。そのとき、藍色のスカーフの裏側に救助隊バッジがチラリと見えた。

「……なんか、わくわくしてきた。今日、救助隊になれるんだね……ワタシ。」

そのバッジを視界に捉えたユカの言葉には、"救助隊になりたい"……その夢が叶う喜びの大きさが垣間見える。……シズはリンゴをかじる。昨日食べたリンゴと同じ、酸っぱい味がした。













"救助隊協会第一支部"……その看板の後ろに立つ、赤いレンガで造られた大きな建物。そこに三匹はやってきた。

「何度か来たことがあるのに、なんだか……今だけこの建物が、三倍くらい大きく見えるよ……」
「ふふ、プレッシャーにやられたか?」
「目的が違うってだけで、こんなに変わるんだね……」

ユカはとても緊張している。少し前足が震えているのがその証拠だ。

「……ユカと違って、シズは余裕があるらしいな?」
「はい。なんと言うべきか……。まあ、記憶喪失のショックに比べればなんのそのですよ。それに、なんだかこうなることがわかっていたような気がするんです。」

自分が救助隊になる事がわかっていた……シズは、自分で口に出したことがアホらしくなってくる。救助隊の存在でさえ、昨日まで知らなかったというのに。

「ほう?新事実だな……あ!シズの記憶喪失ってよ、もしかしたらエスパータイプとかが意図的に引き起こしたものかも知れないぜ!?」
「いや多分、それはないと思います……ちょっと待って。あれは……やっぱりありえるかも。」
「……冗談のつもりだったのに、真面目に答えられちまった……」

ちょっとしょぼくれた表情になってしまったチークは、建物に入っていった。……扉が開いた瞬間、たくさんの話し声が飛び出してくる。

"救助隊協会"……そこにいる救助隊のポケモンたちの数は、前回来たときより明らかに多かった。そして、特に数が多いのは掲示板の周囲。そこにいるポケモンたちはみんな、掲示板に貼られた紙を見つめている。

「チークさん。あそこにポケモンだかりができてますけど、何かあるんですか?」
「……ああ。あの掲示板には救助の依頼が張り出されている。救助隊はあそこで実力にあった仕事を選ぶのさ」
「へえ。」

三匹はそんな会話を交わしながら、受付台へと向かっていく。

「……どうも」

木材で造られた、よくあるカウンター。そこでなんだかげっそりとしたポケモンが、大人びた男性の声で話しかけてきた。彼は、四足歩行で青い体毛に包まれていおり、しかし首元と、お腹から後ろは黒い色をしている。特に後ろは、まるで黒いタイツをはいているかのようだ。そして大きな丸い耳の模様と明るく光らせることができるしっぽの先、そして前足首が黄色いのも特徴的なでんきタイプの……せんこうポケモン、コリンクだ。

「よう、"スズキ"。今日はあんたが担当か?」
「見てわかんねえのか?頼むからさっさと済ませてくれ。疲れてんだよ」

"スズキ"と呼ばれたコリンクは、見るからに機嫌が悪そうだ……。

「おぉ。やっぱり"元気三匹衆"に絡まれたのか」
「ご名答。で?」
「……要件っていうのは、こいつらが救助隊になりたいって感じのことなんだが」
「さいですか。んじゃあ、そこのミズゴロウとイーブイ。コイツにいろいろ書いてこい」

そう言ってスズキは三枚の紙を取り出す。そして、その紙をシズに手渡した。

「あんたら、新しく救助隊を作るんだろう?一枚は救助隊結成の書類、二枚のほうがあんたら自身の書類だ」
「よくわかりましたね、ボクたちが救助隊のチームを作るって。」
「当たり前だ。チークは自分のチームにほかのポケモンを入れることはしないだろうからな。消去法だよ、消去法。……ほら、そっちのテーブルが空いてるぞ」

スズキが教えてくれたテーブルに向かう三匹。そしてシズはそのテーブルの上に書類を置く。

「……えっと、なにを書けばいいんですかね?これ。」

……ポケモン自身について記入する書類にざっと目を通してみたシズ。名前と自分の種別を書き込む欄については理解できるのだが、しかし"住処""特徴""経歴"……この3つについてはどうすればいいのかわからなかった。

「どこがわからないんだ?」
「こことここと……あとそこです。」
「なるほど。じゃ、まずは特徴から書き込もうか。で、そのためにこんな物を用意したんだが……」

チークがごそごそと鞄をあさり始め、そこからいくつかのスカーフを取り出す。青色、黄色、緑色の3つだ。

「……それは、なんです?」
「そうだな。おまえは際立ってイケメンだったりブサイクだったりはしないし、目立った傷跡もなけりゃおかしな話し方をするわけでもない。特徴欄に書くことに困るんだ。だから、コイツで特徴をつけてもらおうと思ったのさ。好きなのを選んでいいぜ」
「なるほど……なら、緑がほしいですね。」

その言葉を聞いたチークはシズに近寄って、その首にスカーフをつけてみる。

「……うーん。水色と緑色のコントラストがいい感じだな。特徴の欄には、"平凡な容姿。首元に緑のスカーフ"って書いておけ」
「わかりました。」

シズはテーブルの上に備え付けられた万年筆を取り、チークに言われた通りに書き込む。……万年筆の使い方を知っていてよかった。

「よし、できたな。次は"経歴"だが……これは"記憶喪失"って書いてしまえばいい」
「……そんなのでいいんですか?」
「いいんだよ。人間みたいに国籍があるわけじゃないからな。ほとんど意味のない、形式的な物さ」

万年筆が、紙にインクの跡を残す。それが終わった後、ユカの方を確認してみるともうすでに自身に関する資料を書き終わっているようだった。

「よし。最後に"住処"の欄だが……オレが書いておく。オレの家を住処に設定しても問題はないな?」
「え……?問題はないですけど。それってつまり……」
「ユカと同じ場所に住んでいたほうが便利だろ?そういうことだ」
「……ありがとうございます。」

この瞬間、しばらくチークのお世話になることが決定した。……いや、そんな軽率に自分の家に他人を住まわせる判断をしていいのか?お礼を言いながらも、ちょっと困惑するシズであった。

「ねえ、シズ。書き終わった?」
「えっと、書き終わったというより、残りの分はチークに任せた……っていうのが正しいかな。」
「そうなんだ……うん、そのスカーフ似合ってるよ。」
「……ありがとう。」

ユカに話しかけられたシズは、彼女の近くにおいてある救助隊結成の書類にざっと目を通す。それは、ポケモン単体についての物より圧倒的に簡素だった。救助隊の名前と、救助隊のメンバー。記入すべき事柄はたったそれだけ。……ほかに特筆すべきことといえば、メンバーの記入欄に書かれた自分たちの名前が震えた字になっているくらいか。ユカは平気そうな顔をしているが、内心はこの建物に入るときと同じ、緊張した状態のままなのだろう。

「それで……こっちの救助隊結成の書類なんだけど、後はチーム名を決めるだけなんだ。一緒に考えてよ。」
「……え、決めてなかったの?」
「一緒に救助隊になってくれるポケモンと一緒に考えようって思っててさ。ほら、そうしたほうがみんなの意見が取り入れられた名前になるでしょ?」
「なるほど……」

救助隊の名前……チークの"グランプリホワイト"という名前を見るに、そこまで難しく考える必要はないのだろう。直感だ。直感で思いついた物を、とりあえず言ってみよう。

「……キセキ。キセキっていうのはどう?」
「"救助隊キセキ"……?すごくいいよ。かわいいし、かっこいい!ついでにわかりやすい!!」

……すごく気に入ってもらえたみたいだ。シンプルなのが一番いいのかも。

「おう、シズ。こっちは終わったぞ。そっちは……」
「終わりましたよ。ついでにユカの資料も書き終わってるみたいです。」
「わかった。じゃ、提出しに行こうぜ」

チークはそう言って書類を集めると、受付台へと歩いて行く。残りの二匹もそれについて行った。

「……書類は書き終わったか?」
「ああ。バッチリだぜ」

チークから書類を受け取ったスズキは、それに目を通し、記入漏れがないことを確認する。

「問題なしだ。んで……ちょっと待ってろ」

スズキはそう言うと、カウンター裏の扉を開きそこに入る。そして、しばらくした後。

「ほら、救助隊バッジだ。受け取れ」

扉から出てきた彼の前足には、書類の代わりに2つのバッジが握られていた。卵形の、ハピナスのような配色のバッジが。

「ゴクリ……」
「緊張してるね、ユカ……」

ユカは恐る恐るバッジに前足を伸ばし、それを受け取ると拳を強く握りしめた。シズも同じ物を受け取る。

「二匹とも、バッジをもらったな。晴れて救助隊"キセキ"の結成ってわけだ。今からでも仕事が受けられる」
「やった……やったぁぁーーーっ!!」

救助隊の結成……スズキからの言葉を確かに聞いたユカは、全身で喜びを表現し始める。昨日も同じような光景を見た気がするなぁ……そう、シズは思い返す。

「オレからお祝いを言わせてもらうぜ。おめでとう!!」
「ひゃっほーーーっ!!」

……そのまましばらくの間、ユカははしゃぎ続けていたのだった……ついに、チークからの注意を受けるまで。












「……で。救助隊としての初仕事に挑戦してみるのはどうだ?」

ユカの行動が咎められた後、しばらく雑談を交わしていた三匹。話の流れでチ-クからこんな提案が飛び出してくる。

「今からですか?」
「今からだ。救助隊になっただけで満足して帰ってしまうのもアレだろ?なら、なにか簡単な依頼をこなして経験を積んでみるのもいいんじゃないか……ってことさ。フフッ」

"そうと決まれば"……といった様子で、突然椅子から立ち上がり、掲示板の方へ向かうチーク。

「あっ!ちょっ、ちょっと!?」
「ち、チークさん!?」

残された二匹もそれについて行く。

「あの、チークさん。ボクたち、チークさんの提案に乗るなんて、一言も言ってないんですけど……」
「……お前たちに受けてもらうのは、コレだっ!!」
「話聞いてよ!?」

掲示板の前にやってきたチークは、そこから一枚の紙を引っ剥がす勢いで回収し、ほかの二匹につきつけた。

「えーと……

"難易度D 依頼主:バタフリー 場所:炎の洞窟 

依頼内容:つい去年に発見されたばかりの炎の洞窟というダンジョンで、"あついいわ"という道具がよく見つかるという話を耳にしました。急に30個ほど、それが必要になる用事ができたので、集めてきてほしいのです。よろしくお願いします"

……って書いてありますけど。」
「なにかおかしいところでも?……ああ、なるほど。水筒と鞄がほしいのか!!」
「いやどっちも必要そうですが……」
「オレのを貸してやる。依頼を終えたら、その報酬で自分の物を買えばいいさ。これはそんときに帰してくれよな」

チークはそう言って、自分の持っていた水筒と鞄を突き出してくる。なんだかチークさんの調子がおかしい……そう思いながら、シズは差し出された物をそっと受け取った。

「オレの鞄の中に地図とコンパスが入っているからそれで目的地は分かるだろ?手続きはオレがしておくからな。じゃ、いってらっしゃいッ!!」
「「えっ……うわーっ!?」」

シズとユカは、無理矢理建物の外に放り出されてしまった……チークの手によって。

「いてて……意外と乱暴なんだなぁ、チークさん。」
「普段なら、あんなめちゃくちゃなことはしないはずなんだけどね……」
「とりあえず、行ってみようか……"炎の洞窟"って所に。」

二匹はチークの鞄から地図を取り出し、それに従って"炎の洞窟"へと向かっていく。どんなメチャクチャな形であれ、せっかく受けた仕事なのだ……とにかく頑張ってみよう。自分たちの、救助隊としての初めての活動を。












一方、その頃。救助隊キセキの二匹を一方的に放り出したチークはシズたちの依頼の手続きを行っていた。

「……おい、チーク。難易度Dの、しかもダンジョン関連の依頼はあいつらにはキツいんじゃないか?」

受付台にだらしない格好でへばりついているスズキは、"救助隊キセキが受けたことにしといてくれ"という言葉とともに渡された依頼書を凝視する。

「ま、大丈夫だ。もし何かあった時にはオレがなんとかするからさ」
「そういう問題じゃない。難易度D……ダンジョンの場合、そこそこの戦闘経験が必要になるレベルだと定義されている。んで、俺にはあいつらがそんな経験をしているようには見えないんだな、これが」

不思議のダンジョンと言う場所は、実力にあっていないダンジョンに潜ってしまい、結果そこのポケモンたちにボコボコにされてトラウマを抱えてしまう新米救助隊がたまにいたりするけっこう危険な場所だ。幸いなことに死者が出る事はそうそうないのだが……

「ほら、ポケモンっていうのは戦いの中で成長するもんだろ?いっぱい経験を積んでさ。それに炎の洞窟にはその名の通りほのおタイプのポケモンがよくいるから、みずタイプのシズがタイプ相性を学ぶいい機会になるしな」
「……そんなに強くなってもらいたいなら、お前が稽古をつけてやればいいじゃないか。リスクを負わせてまでやってもらうことじゃない」

"自分で稽古をつければいい"……その言葉を聞いたチークは、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする。

「……なんだその……何の顔だ、その顔は。"エッ、マジ!?"……みたいな。馬鹿なのか、ん?」
「いや、気がつかなかったんだ、その方法に。何でそんなことも思いつかなかったんだろう?」
「お前……エスパーに精神干渉でもされたのか?全く……」

スズキは頭を抱える。チークのやつ……いつもなら、こんな馬鹿みたいなことはしないはずなのに。ああ、問題が起きませんように。スズキの願いは切実だった。
※ちなみに、"炎の洞窟"というダンジョンはポケモン不思議のダンジョン本編に登場していません

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