第1章 第4話

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読了時間目安:25分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

彼岸女
(タイナ…災厄の魔女、か)


村の中で、私はずっと考えていた。
あのタイナというブリムオンは、少なくとも悪意が感じられなかったと雫は言う。
だが、村人にとってはそれは災厄の魔女と呼ばれ、蔑まれていたのだ…


守連
「…彼岸女さん」


守連ちゃんは村人から粗方情報を得たのか、私の方に近寄って来た。
彼女の表情は真剣であり、少なくともあまり良い情報は聞けなかったって所かな?


彼岸女
「何か解った?」

守連
「タイナって人の事ですけど、やっぱり災厄の魔女の事らしいです」


私は少し眉をひそめる。
やはり、タイナはブリムオン族を滅ぼしかけた魔女だと言うのだ。
しかし、私には彼女がそんな事をする女に見えなかった。
それとも、本当に二重人格か何かなのか?


守連
「その人は過去に何度も村を実験場にし、オーロンゲ族と共に何かを狙っていたみたい…」

彼岸女
「何かって…解らないの?」


守連ちゃんはコクリと頷く。
どうやら、ブリムオン族ですら知らない何かを魔女は知ってるって訳か。
それも、オーロンゲ族と結託して…ね。

だとしたら、かなり厄介な事になる。
タイナがオーロンゲ族と通じているなら、そもそも守連ちゃんの暴走は計算内。
もしかしたら、私たちを釣る為の餌だった可能性すら浮上してくる。

そうなると…もうオーロンゲ族には全ての情報が伝わっているのかも。



『予断は許されなさそうね』


雫は私の中でそう呟く。
確かに…悠長にしてる時間は無さそうだ。


守連
「…彼岸女さんは、タイナさんをどう思っているんですか?」

彼岸女
「…さて、ね」
「これが聖君なら絶対に信じるって断言するんだろうけど、生憎私は悪党だからね…」
「悪党は悪党らしく、まず疑う事から始めるんだ」


私が苦笑してそう言うと、守連ちゃんは少し顔を引き締める。
経緯はどうあれ、彼女は私たちを信じると言ってくれた。
その意志に変わりはないんだろう…例え何を言われても、彼女は彼女なりに自分で結論を出すはずだ。

だからこそ、私も安心して好きに発言出来る。


彼岸女
「タイナが私たちを騙していたとする…だったら、それは何の為に?」

守連
「えっと…? ???」


守連ちゃんは露骨に意味不明な顔をする。
おっと…2年経っててもこういう推理は苦手かな?
私は微笑しながらも、とりあえず自分の推測をこう述べた。


彼岸女
「…彼女が災厄の魔女として、オーロンゲ族と結託」
「目的としてはブリムオン族の滅亡とも思えるけど、どうも他に目的がある気がする」
「ブリムオン族ですら解らないという、『何か』…もしかしたら、それを私たちに知られたくないのかもしれない」

守連
「つまり…その『何か』が、1番重要な要素?」


私は頷かなかったけど、概ね同意見だ。
だけど、あくまでそれは今ある情報から推測出来る当たり前の予測。
確信には少なくとも至らない…ましてや、真の狙いが何なのかも。



『実験場って言ってたけど、一体何の実験をしてたんでしょうね?』


私はそれも考えていた。
実験…か。
もしかしたら、守連ちゃんの暴走は何かの実験だった?


彼岸女
「村人たちは、実験の事は何か知ってた?」

守連
「ううん、良く解らないって…」
「ただ、災厄の魔女が現れる度に村人が減り、その度にオーロンゲ族は攻めて来たって」


だとしたら結託は確定か。
だけど、やっぱり真の目的はハッキリしない。
これ以上は、ここで考えていても仕方無いか。
私は表情を変え、改めて守連ちゃんを見る。
私の覚悟が伝わったのか、彼女も顔を引き締めた。


彼岸女
「私は聖君とは違う、それでも…君は付いて来てくれるかい?」

守連
「もう自分で決めました…聖さんを救うって意志が本物なら、私は手伝います」

彼岸女
「なら、これからオーロンゲ族の根城に攻め込む」
「守連ちゃんには相当負担をかける事になるけど、それでもやってくれる?」


守連ちゃんは無言で頷く。
覚悟は出来てる…か、2年前の彼女ならきっと決断出来なかったろうね。
良くも悪くも、2年という月日は守連ちゃんを強くしてくれたのだろう。
私は、信じる事にした…少なくとも守連ちゃんの事を。

情報は少ない…だけど、それを推理する事が私たちの真の目的じゃない。
月並みだけど、こういう場合は…


彼岸女
「じゃっ、ありきたりな作戦だけど…強行突破してボスを倒しますか♪」

守連
「あはっ、RPG的で良いですね♪」


『謎を放り出してラスボス討伐とか、どんなフリーシナリオよ…』


確かに…でもまぁ、それはそれでプレイヤーの自由だ。
謎は確かに気になるけど、クリアに必須じゃないならそれはどうでも良い。
私たちの真の目的は、このステージをクリアする事なのだから…



………………………



彼岸女
「…このまま真っ直ぐで良いの?」

守連
「はい! すぐにオーロンゲ族の縄張りに入りますから、警戒してください!」


そう言った矢先、すぐに茂みから何者かが飛び出して来る。
私は反応が遅れるも、その頃には既に一筋の紫電…

すると、ドサッ!と地面に敵が落ち、プスプスと煙を噴きながら体を焦げ付かせていた。


守連
「ベロバーとギモーの兵隊です! 雑魚は私が蹴散らしますから、彼岸女さんは振り向かずに走ってください!」


守連ちゃんはそう言って縦横無尽に跳び回る。
木々と木々を踏み抜きながら、高速で敵の兵隊を次々と気絶させていくのだ。
そのスピードは尋常でなく、とても目に見える速度じゃなかった。
例え全盛時の私でも、捉えられるかどうか…

流石は…守連ちゃんだね♪


彼岸女
「しっかし、数が多いなぁ~」


『烏合の衆だけどね…守連からしたら本当に雑魚だし』
『後、兵隊たちに悪意はほとんど無いわね…』


私はそれを聞いて少し驚く。
だとしたら、兵隊たちはあくまで上に従っているだけの存在か?
私たちを襲うのは、あくまで防衛の為なのかもしれないね…



『真意はどうであれ、末端の兵たちは何も知らないんじゃない?』

彼岸女
(かもしれないね…あくまで本命はボスのオーロンゲって所か!)


私たちは、そのまま真っ直ぐオーロンゲの根城に向かって行った。
守連ちゃんは大して疲れる事も無く、出て来る全ての兵隊たちを迎え撃ってみせたのだ…
ただひとりの、死傷者も出さずに…



………………………



守連
「…!!」


ズザザザザザザァッ!!と、草木を撒き散らして守連ちゃんが着地する。
ここまで数え切れない程の兵隊を相手にしてたけど、どうやら打ち止めになったらしい。
守連ちゃんは周囲を警戒しながらも、まだ戦闘態勢は解いていなかった。


彼岸女
「…根城にはまだ着かないの?」

守連
「…後少し、ですけど」


守連ちゃんは頬を伝う汗を地面に垂らす。
守連ちゃんが、警戒している?
少なくとも守連ちゃんから余裕はあまり伝わって来ない。
ここまで圧倒的な戦力で兵隊を薙ぎ倒してきた守連ちゃんが、前方を警戒していたのだ…



『いる、わね…』

彼岸女
「…成る程、待ち構えてたって訳か?」

守連
「あれが…災厄の魔女!」


私たちの前方から、ひとりで近付いて来る女が現れる。
その女はタイナと全く同じ服装に身を包み、体格も全く同じ。
髪型や佇まい、顔付きですら疑い様が内程に同じだった。


彼岸女
「タイナ…まさか、君が災厄の魔女だったなんてね?」

タイナ
「災厄の…? ああ、ああ!」
「フフ、ウフフフフッ! アッハハハハハハ!!」


一瞬、何かを考える素振りを見せたタイナ。
だが次の瞬間、彼女は何が可笑しいのか急に高笑いし始めたのだ。
これには私も流石に疑問を感じる。
少なくとも、昨日見たタイナからは想像も付かない程に悪党の顔をしていたからだ。


タイナ
「そうですか!! まんまと騙されていたのですね!?」
「フフフッ! アッハハハハハハハッ!!」
「そうですよぉ!? 私が災厄の魔女!!」
「私を認めなかった同族を滅ぼし、オーロンゲ族と手を組んだハミ出し者!!」
「ですが、そちらから来てくれたのは好都合! これで私の研究は完成します!!」


タイナはそう言って、嫌な笑みを浮かべる。
まさか、あんな顔をするなんてね…どうして猫被ってたのか?
私たちを匿う振りをして、実の所時間稼ぎでも考えていたのかもしれない。
だとしたら、その研究ってのはかなり危険な臭いがするね…


守連
「…一体、何を考えているの?」


守連ちゃんは思いの外冷静にそう尋ねる。
ここで感情的になって突っ込むのは愚策だからね…
相手は1度守連ちゃんを利用している以上、守連ちゃんも相当警戒しているみたいだ。


タイナ
「何を…ですか? 私が考えている事はただひとつ!」
「私の研究が正しかったと証明する事です!!」


そう言ってタイナは目を光らせ、嫌な笑みのまま空間を歪ませ始める。
私は瞬時にそれを理解し、すぐに対応した。


彼岸女
「小細工はさせな……っ!?」


私は『挑発』すると同時、声を出せなくされた。
いや、正確には止められた!?
私は驚くも、相手に挑発の効果はかかっていないのだと悟る。
そして、あまりにもあっさりと『トリックルーム』は発動されてしまった…



『まんまとハメられたわね?』

彼岸女
(『マジックミラー』の特性!! 流石に読めなかったよ!!)


知らないというのは、ある意味罪だ。
今回の場合、完全に私の失策。
本来なら止められた相手の搦手を、いとも容易く通されてしまったのだから…



『そう言えば、一応言っておくわ…』


彼女がそこまで瞬間、私の目の前には拳が迫っていた。
いや、正確にはタイナの触腕の先端が拳の様に丸まっている状態…
それが私の顔面に向かって伸びて来ているのだ。
そしてそれは、考える間も無く私の顔面を真っ直ぐ打ち抜いた…
当然、私は思いっきり吹っ飛ぶ事に…



『今の彼女、悪意の塊だから』

彼岸女
(そういうのは先に言いなよ!?)


私は吹っ飛ばされて地面を転がる。
相手にとってはスローモーションで見えているはずだけど、追撃は来なかった。
だとしたら、守連ちゃんを狙ってる!?
守連ちゃん程の速度だと、それこそ時間停止に等しいレベルで遅く見えるはず!


守連
「………」

タイナ
「ふふふっ! 今なら赤子でも貴女を殺せますね!」


守連ちゃんは予想通り前に踏み込んでおり、飛び出す直前でほぼ止まっていた。
正確には異常な程遅いだけで、完全に停止はしていないんだけど…


彼岸女
(幸い、私はそこまでタイナが速く見えない…)


確かに速いけど、見えないレベルじゃ無いのは確かだ。
最初の奇襲は私が完全に油断していたのと、彼女の射程距離を見誤っていたから反応出来なかったに過ぎない。
だからこそ、追撃はしなかった…いや、出来なかった。


彼岸女
(つまり、今の私ならそこまで対応に困らない! 実力差は解らないけど、覆せなくは無いはずだ!)


ただ、雫が言った事は気になる…
今のタイナは悪意の塊だと言うのだ。
昨日までの彼女には、一切そんな感情は無かったというのに。



『本当に二重人格か、それとも…?』

彼岸女
(完全に良く似た誰かさんだとでも?)


あくまで可能性の話だ。
雫は相手の夢を見て感情を読み取れる。
つまり、その感情は絶対であり本性。
昨日のタイナは悪意など全く無く、今の彼女は悪意の塊。
ここまで正反対だと、同一人物とは思えない。
本当に二重人格でもなければ、雫の能力を欺く事など出来ないはずなのだから…


彼岸女
(とにかく…守連ちゃんを助けないと!!)


既にタイナは守連ちゃんの側まで移動している。
ルームの残り効果時間はおよそ3分…その間に守連ちゃんはほとんど動く事は許されない!
加えて、今の私は挑発状態で変化技がまだ使えない!


彼岸女
「この状況で出来る事は限られる! それならこれだよ!!」


私はリングから銃を取り出し、それで撃つ。
こういった実体弾はトリックルームの効果を受け付けない、つまり発射出来ればほぼ当たるって事さ!!

ダァン!と射撃音がし、私の銃から弾丸が飛び出す。
今度は両手でしっかりと構え、反動を受け止めていた。


タイナ
「………」


タイナは振り向く事無く、触腕を振り回して弾丸を弾いた。
私はそれにギョッとし、相手の能力を推察する。


彼岸女
(開幕から打撃、そしてあの触腕のパワー…間違いなく近距離パワー型!)


『でもタイプはまだ予測出来ないわよ?』


私は更に考える。
見た感じだとエスパーの類いに思える。
トリックルームを使ったって事も、可能性を高めているからね。
だけど、鈍足エスパーでそんな力自慢はあまり聞かない。
岩や鋼ならまだしも、あのランクルスですら特攻が高いのだから。


彼岸女
(とにかく、少しは時間稼ぎをする!! せめて後1分!!)


私はありったけの弾を連射する。
だけど全ての弾はタイナの触腕に弾かれ、彼女は傷ひとつ負ってはいなかった。
私は弾切れになった銃を捨て、自身の状態を確認する。


彼岸女
(いける…! これなら!!)


私はすぐに体を屈め、技を発動する。
すると、私は一瞬で守連ちゃんとの位置を入れ換えた。
タイナはすぐに驚いた顔をし、私に向かって突っ込んで来る。
かなりのスピードだけど、反応出来ない程じゃないね!


タイナ
「『サイドチェンジ』!? ここでいきなり姑息な技を…!」

彼岸女
「君に言われたくはないね! 騙し合いならこっちも負けないよ!?」

タイナ
「遅いですね! こちらが先に叩かせてもらいますわ!!」

彼岸女
「はいはい、これで私の勝ちだよ…」


私は新たに銃を構えながら、『守る』を使用した。
銃は所詮『持ち物』でしかない。
こんな物は技でも何でもないのだから、こんな芸当は誰でも出来る。
だけど、人の思考ってのは実に難しい。
出来ると解っていても、それを実行すると予測するのは当たり前に感じて実は難しいのだから…


タイナ
「!? 銃はブラフ…!!」

彼岸女
「正確には詰める為の駒さ、君にそれを予測出来なかった時点で詰みだ」


私はタイナの拳をフィールドで防ぎ、それが解除されたと同時に銃を発射する。
この距離なら弾くのは難しい、確実に命中させる!


タイナ
「ちっ!!」


タイナはそれに対応して、『守る』を使用した。
今度は逆に相手のフィールドが展開され、私の銃弾は弾かれてしまう。
私も舌打ちをし、次の手を考える事にした。
成る程、私も人の事は言えないね…相手もそれが使えるのは予想してたけど、実行に移すとは読んでなかった。


彼岸女
(ルームは後1分…このまま守って凌いでも良いけど)


『相手が許すかしら? あくまで、相手の方がまだ速いわよ?』


確かに…こうなった以上、ここからは互いに駆け引きだ。
私が守れば、ルームは確実に消せる。
だけど、その間に彼女は別の手を打てるだろう。

なら、連続で銃を撃つ?
それだと反撃される恐れもある。
つまり、どちらを選んでもリスクは常にあるって事だね。


彼岸女
(彼女のこの性格からして、恐らく相当な慎重派だ)


感情に流される事無く、あくまで確実な手でこちらを攻めて来る。
そんな感じが私には感じられた。
だとしたら、彼女が次に打つ手は何だ?
慎重な彼女が、確実にこちらを打倒する手を打つとしたら、一体何をする?



『知らないは、罪ね』

彼岸女
(全くもって同感だよ…)


今1番最悪なのは、私には相手の情報がほとんど無い事。
正確なタイプすらまだ判明せず、覚えている技も解らない。
ハッキリしているのはマジックミラーの特性である事と、トリックルームを使う程遅い素早さ。
そして、基本的には打撃で戦う戦闘スタイルって所かな?


彼岸女
(だとしたら、彼女はどうする? あくまで接近戦が得意なら、銃は嫌がるはず)


私は真っ直ぐにタイナの目を見た。
彼女は笑っている…余裕がある証拠だ。
なら、確実に勝てる手を持っているんだろう。
対してこっちは、未だ不明瞭な相手の戦力に対して、確実な手は存在していない。
詰みとは言ったものの、あれは実質ハッタリみたいな物になってしまったね。



『もう時間は無いわよ?』

彼岸女
(フィールドが消える…さて、どうなる?)


私もまた、ほくそ笑んでいた。
こういう時、ポーカーフェイスっていうのは重要だ。
相手にとっても、油断ならないと思わせなければならない。
こっちにも手があるのだと、気迫で思わせる。
実際には何も持っていなくとも、それを持っていると思わせるのがギャンブラーだからね!


彼岸女
「!!」
タイナ
「!!」


私たちは互いに攻撃の手を選んだ。
互いに守る事など頭に無い、確実に先手を取って相手を仕留める手。
しかし、それならこっちは飛び道具…相手の打撃よりも先にこっちが撃ち込める!

私はそう確信し、迷わず銃を撃った。
するとそれはタイナの目の前で停止し、空中で固定されてしまう。
私は瞬間…しまった、と思った。
表情には出さないものの、冷や汗は流れ出る。
相手は、恐らくエスパータイプ…だとしたら超能力を使うのは当たり前。
ここまで、相手は打撃に徹して、こちらにそれを予測させなかった…
私の選択肢から、『ソレ』は消えていたんだ…


彼岸女
(やってくれる…! ここまで、全部予測していたのか!?)

タイナ
「フフフフフッ! 思い込みというのは、本当に厄介ですね!」


タイナは触腕を動かし、そこから超能力を練る。
そして私に対して『サイコキネシス』を放ち、私の体は空間ごとねじ曲げられて吹っ飛んだ…

それと同時に、ルームは消えて時空が元に戻る。


タイナ
「…仕留め損ねましたか? 思ったよりも頑丈なのですね…」


私は全身を震わせながらも、何とか立ち上がる。
半減の威力でこれとはね…! 自分の今の弱さが恨めしいよ。
だけどこれでハッキリした…彼女はエスパータイプで、鈍足高火力ポケモン!
本当にランクルスとかと似たタイプだね…特性の厄介さも。


彼岸女
(ダメージは大きい…すぐには反撃出来ない)


『だけど賭けには勝ったわね』


私は、ああ…と呟き、笑う。
タイナはそれを見てほくそ笑むも、私にトドメを刺すべく更に『シャドーボール』を触腕で練り始めた。
同じタイプとすぐに理解したか…食らえば即死だね。


タイナ
「貴女は邪魔その物…なので、ここで死んでいただきます!」

彼岸女
「あっそ…なら、少し痛い目にあってもらわないとね~♪」


私はその後、一瞬で守連ちゃんと位置を入れ替える。
既に守連ちゃんにはテレパシーで作戦を伝えてある、後は任せるだけさ。


タイナ
「…!?」

守連
「ゴメンね…手加減は、しないから!!」


守連ちゃんは思いっきり右拳を握った。
そしてそこから電撃を放ち、凄まじい電力が守連ちゃんを中心に迸る。
タイナは笑っているものの、冷や汗をかきながらシャドーボールを投げ付けた。
守連ちゃんはそれを左手1本で弾き飛ばし、全力で前に踏み込む。
軽く地面を抉る程の踏み込みは、守連ちゃんの体を一瞬で前に押し出した。

僅か1歩で数mの距離を潰す。
タイナはそれに反応出来る訳も無く、守連ちゃんの拳を受けるしかなかった…


彼岸女
「なっ!?」

守連
「!?」


タイナは勢い良く顔面を弾かれるも、何と守連ちゃんの拳は止められていた。
タイナの顔面に向けられていた右拳は、当たる前に何かに遮られており、それが『リフレクター』だというのはすぐに気付いた事だ。
そしてそれは、この場にいる誰でも無い別の存在が使用した物…!


タイナ
「フフ…ウフフフフッ!!」
「アハハハハハハハッ!! 奥の手という物は、最後まで隠しておく物ですわ!!」


「………」

彼岸女
「あれは…!?」

守連
「オーロンゲの族長!?」


タイナの背後から、大きな体を動かしてこちらに近付く者がいた。
守連ちゃんはそれをオーロンゲの族長と言い、その存在を私に理解させる。
手下のベロバーやギモーの進化形といった感じが、確かにする。
そしてアレこそが、タイナの切り札!?


族長
「………」

タイナ
「フフフ…先程は危なかったですよ? 一瞬ヒヤリとしました」
「守連さんが手加減していなければ、大きなダメージを負っていたでしょう」


そう言ってタイナは口から血を滴らせる。
手加減、ね…しないって言ってたのに、守連ちゃんったら!
しかし、いくらリフレクターといってもダメージを無効化する技じゃない。
タイナもダメージは負っており、打撃自体は壁越しにしっかり食らっていた様だ。
とはいえ…これで2対2! 数的有利すら覆された!


守連
「族長! どうして災厄の魔女と結託したんですか!?」
「オーロンゲとブリムオンの一族が争っても何にもならない!!」
「お互い手を取り合って協力すれば良いじゃないですか!!」


守連の必至な説得を聞いても、族長は全く反応しなかった。
足元近くまで伸びる長い黒髪を靡かせ、黒い衣服に身を纏うその姿は筋骨隆々。
間違いなくパワータイプの見た目であり、接近戦が強いタイプなのだと予想出来る。
加えて確実な悪タイプ…私にとっては最悪の相性としか言えない相手だ。


タイナ
「フフフッ、族長はもう私の物ですよ?」
「さぁ、族長…この者たちを殺して森を支配するのです!」
「そして私と共に、更なる高みへと至りましょう!!」


タイナはそう言って高笑いする。
そしてタイナは胸元から何かの塊(?)を取り出し、それを輝かせた。
すると族長は急に呻き声をあげ、段々と体を震わせる。


守連
「な、何…この感じ!?」

彼岸女
「目の錯覚、か…!?」


私たちは目を疑っていた。
気が付けば族長の体は大きくなっており、身長は倍以上に膨れ上がっていたのだ。
同時に体格までも変わっている。
筋骨隆々のボディービルダーみたいな体格が一気に引き締まり、より理想的な体格へと変化したのだ。
まるで、進化でもしたみたいな変化!?


タイナ
「アッハハハハ!! これこそが、私の研究の賜物!!」
「この『願い星』から抽出した『ダイマックスエナジー』を使い、改良型の『キョダイマックス』を引き起こしたのです!!」

彼岸女
(キョダイ…マックス!?)


『族長からはほとんど感情を読み取れない…恐らく、何かされてるわね』


雫は冷静にそう語る。
巨大化した族長は咆哮し、こちらを見下ろして睨み付けていた。
その目からは生気を感じず、まるで暴走でもしているかの様な…?


タイナ
「本来オーロンゲのキョダイマックスですと、人化していても32m程まで大きくなりますが、私はこれを独自に研究し改良したのです!」
「その結果、今では2倍程度の大きさに留める事も可能となり、制御も安定しています!」

彼岸女
「32mって…○ーネロペー並の大きさじゃないか!?」


『その例え、解り難い…』


生粋のファンじゃないと把握してないだろうからね!!
どっちにしても、そのサイズを4m程度に圧縮してるってのかい!?


タイナ
「本来ダイマックスとは、巨大に見えるオーラを放つ物…」
「実際の本体は巨大化しているわけではありません」
「私の改良点は、そんな見た目を正常に見せたまま、ダイマックスの圧倒的パワーを振るわせる事にあります!!」
「フフフッ! さぁ、その恐怖を知りなさい!! 『キョダイスイマ』!!」


タイナが触腕を前にかざし、族長は技を放つ体勢に入る。
巨大化した族長は右手をこちらにかざし、そこから黒い気流を放ってきたのだ。
私は直感的にその場で守るを使い、まずは一撃を過ごそうと判断した。
守連ちゃんはすぐに飛び上がり、射程から逃げ様とする。

そして黒い気流はまず私を包み込む…


彼岸女
「ぐはぁっ!?」


私はバカな…と思いつつも、大きなダメージを負う。
守るの効果中だというのに、あの技はそれを貫通して来たのだ。
もちろん威力は減衰している…にもかかわらず、このダメージとは。


タイナ
「さぁ、もう1発!」

守連
「!?」


飛び上がって逃げた守連ちゃんも、すぐに捕まった。
あれ程の速度で動いているのに、それでもかわせなかったのだ。
まるで、気流自体が速度に関係無いかの様に…
私は薄れていく意識を繋ぎ止めながら、その意味を探った。


彼岸女
(守るを貫通し、回避も困難…)


『まるでZ技ね』


そう、性質だけで言えばソックリだ。
だが、相手は明確にそういうクリスタルを所持していなさそうだし、別の技と見るべきだろう。
キョダイスイマ…タイプ的には悪技っぽかったけど、一体どういう原理で?


彼岸女
(…っ、何だこの眠気は?)


私は意識を朦朧とさせていた。
この抗い様の無い眠気は、まさか『欠伸』の効果?
だとしたら…あの技は、そういう……

私の意識は検討虚しく、そこで途切れてしまった。
強制的に眠らされ、もはや動く事も出来ない。
守連ちゃんも同じ症状なら、もうダメかもしれない。
情けないけれど、どうしようもない…か。

私は夢へと誘われ、後悔も無念も解らずに、ひとり心地良い感覚を味わった。
それは果たしてただの毒なのか? それとも…?










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第4話 『魔女の研究成果』


…To be continued

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