???「結果発表だよぉ~」
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どちらが先にゴール出来るか。最早俺達には分かりようもなかった。だけど、それでも。
その瞬間は、ついに訪れる────
ピカチュウ「……っ!」
イーブイ「……?」
──な、なんだ?
ピカチュウ(体が、止まった……?)
ゴールの旗目掛けて投げ出した体は、屋根の上に衝突する事なく、ピタリと空中で止まった。俺は何が起きたのか分からないまま顔を横に向けてみると、イーブイも同じように前足を伸ばしたまま空中で静止していた。
ピカチュウ「なんだ、どうなってんだよ?」
イーブイ「あとほんの少しでゴールなのに! 勝負は!?」
静止した体は全く動かす事ができず、俺達はただ困惑の声を上げる。そこに、とある一匹のポケモンが姿を現した。
バクフーン「ふっふっふ……お前ら……ゲームセットだッ!!」
ピカチュウ「なっ……!?」
イーブイ「バクちゃん!?」
ど、どっから出てきたんだ!?
俺達の前に仁王立ちするようにして現れたのはバクフーンであった。ゲームセットって……勝負はもうついたのか?
バクフーン「このデスマッチ戦に限っては公平な勝敗結果を下す為、誰かがゴールの旗に触れた時点でランナー全員の体がストップするようにケーシィに頼んでおいたッ!」
ケーシィ「すとップした体はワタシがサイこぱわーを解除スルまで動かせまセン」
バクフーンの後ろからスッとケーシィが現れてそう説明を続けた。なるほど、急にバクフーンが現れたのはケーシィのテレポートの効果って訳か。
……って、そうじゃなかった! 今、ゴールの旗に触れた時点って言ったか?
イーブイ「待って! そ、それじゃあ勝ったのは……」
バクフーン「あぁ。イーブイ、お前はついさっきなんて言った?」
イーブイ「……『あとほんの少しで、ゴールなのに』……」
ピカチュウ「っ!!」
俺ははっとして自分の伸ばした手に視線を向けた。大きく開いた手はまだ旗を掴んではいない。しかし、その指先をよーく確認してみると────
ピカチュウ「触れ……てる……?」
ほんの僅かに、人差し指の先が旗の布に触れていた。触れているという感覚もほとんど無いぐらいに僅かだが、それでも確かに、俺はイーブイよりも先に旗へと到達していた。
……ということはつまり。
ピカチュウ「俺の……勝ちか!?」
バクフーン「ああッ! おめでとう!! お前こそがこのゲームを制した勝者────Ultimate ピカチュウだッ!!!」
────────────────
こうして、10回に渡る競争は終了し、ゲームの勝者は俺という事で決まった。ゲームが終了した後、バクフーンの指示で俺達は一度スタート地点に集まることになったのだが……
イーブイ「おめでとう、Ultimateピカチュウ! 悔しいけれど、私の完敗よ!」
ナエトル「おめでとうございます、Ultimateピカチュウさん。まさかあそこから逆転するなんて、思ってもいませんでした」
ピィ「ぴぃ、ぴぅいぅ! ぴぃ!(ホント、流石はUltimateピカチュウだね! お見事しか言いようがないよ!)」
セレビィ「あっぱれやで、Ultimateピカチュウ!」
ピカチュウ「いちいち名前の前に『Ultimate 』って付けるのをやめろお前ら!!」
究極的にダサいわッ!! 本当に面倒な称号が付いてきたなぁ!!
ピカチュウ「ていうかバクフーン! こんなダサい称号じゃなくて、早くもう一個の方の景品! 『おうごんのリンゴ』を寄越せよ!」
バクフーン「まぁまぁ落ち着け。慌てずともちゃんと用意しているッ! それじゃあ……もう出てきてもいいぜ、カモンッ!!」
? 何だ、もう出てきてもいいって……
不思議な発言と共にバクフーンが手を大きく振り上げると、俺達の後ろの草むらからガサガサ、という音が聞こえてきた。
俺はすぐに後ろを振り返り、その音の正体──草むらの中から飛び出してきたポケモンの姿を捉えた。
ピカチュウ「……あれ!?」
イーブイ「あなた、もしかして……」
俺が驚くと同時、イーブイも信じられないといった様子でそのポケモンに話しかける。
そいつの姿には見覚えがあった。いや、正確には初めて見る姿だったが、そのにへらとした表情は俺達にとって懐かしい面影を残している。
イーブイ「キモリちゃん……!?」
ピカチュウ「お前、ジュカインまで進化したのかよ!」
ジュカイン「えへへ……ピカチュウ、イーブイ、久しぶり~」
鋭い葉っぱの刃が付いた腕をゆらゆらと揺らしながら挨拶をするそのポケモンはジュカイン。俺とイーブイの昔の幼馴染みが最終進化を遂げたそいつであった。
ピカチュウ「お前……トレーナーに捕獲されて森を出て行ったんじゃ……」
ジュカイン「あぁ~それに関してはごめんねぇ。ボールの中に用意されてたポフレが美味しすぎてつい……」
イーブイ「それなら仕方ないわね!」
ピカチュウ「許すんかい」
うんうんと首を唸らせながらそう赦すイーブイに俺は思わずツッコミを入れた。
──その昔、俺とイーブイとキモリは幼馴染みでありとても仲の良い親友同士で、一生森の中で暮らす事を誓った仲間であった。しかし、ある日キモリは森にやってきたとあるトレーナーに捕獲され、それから今日までずっと会えないでいたのだ。
誓いを守ろうとする気持ちが本当にあるなら、ボールに入る事も抵抗できたはず、と当時の俺は憤慨していたものだが……
ナエトル「あ、初めまして、僕はこの森で暮らしているナエトルと言います」
ピィ「ぴぃぴぃ~(初めまして、ピィだよ~!)」
ジュカイン「初めましてぇ。ボクはジュカイン、とある男性トレーナーと旅をしているんだぁ。長も久しぶりぃ~」
セレビィ「お~久しぶりやな! 相変わらずのんきなんはキモリの頃から全然変わってへんなぁ」
……まぁ、今更森を出て行った事を怒ったって仕方ないか。
ピカチュウ「……それで、久しぶりに会えて嬉しいのは嬉しいが、何でお前がここに居るんだよ?」
ジュカイン「あ~それはねぇ、『Ultimateの名を賭けたレースゲーム』? に勝ったポケモンにこれを手渡してほしいってあのバクフーンから言われててぇ」
そう言いながらジュカインが差し出した右手には、金色に輝く奇跡のリンゴ──おうごんのリンゴが掴まれていた。その光沢は思わず見とれてしまうほど美しい。
ピカチュウ「……この為だけにジュカインを呼んだのか、バクフーン?」
バクフーン「ああッ! 俺はそのジュカインのトレーナーとも顔見知りでな! お前らが喜ぶと思って呼んできてやったのさッ!!」
ピカチュウ「ありがたいけどジュカインのトレーナーと顔見知りならもっと早く教えてほしかったわ!!」
それだったら別れの挨拶の一つぐらい言えたかもしれねぇのに! ていうかバクフーンの人脈の広さ舐めてた!!
ジュカイン「ピカチュウがゲームに勝ったの? それなら、はいっ! どうぞぉ」
ピカチュウ「お、おぉ……? ありがとう?」
ごく普通にジュカインからおうごんのリンゴを手渡されて、俺は少し困惑しながらそれを受け取った。
おうごんのリンゴは極めて希少価値の高い幻のリンゴだ。見た目の美しさもさながら、その味は果実の中でも頂点に君臨するという程の珍味だという。まさかこんな日にお目にかかれるとは思ってもいなかったが……
ピカチュウ「……あれ、ちょっと待て? なんか、一口囓られた形跡があるんだが……」
ジュカイン「あっ、ごめんねぇ~。あまりにも美味しそうなリンゴだったから、我慢できずに一口食べちゃったぁ」
ピカチュウ「おいぃ!!」
──食べるなよ、景品をッ!!
まさかの食べ残しを手渡されるという事態に、怒ったら良いのか、あるいはコイツらしいなという妙な納得感で締めてしまえば良いのかよく分からなくなっていると、いつの間にかイーブイやナエトル、ピィが俺の周りを囲んでいた。
ピィ「ぴぃ~……(じ~……)」
ピカチュウ「な、なんだよお前ら……」
ナエトル「それ、美味しそうですね?」
ピカチュウ「は、はぁ?」
イーブイ「Ultimateピカチュウなら、一口ぐらい分けてくれるわよね?」
ピカチュウ「分けねぇよ!!」
勝負は俺の勝ちって事に決まっただろ──ってうおわっ!? こいつら飛び掛かってきやがった!
ピィ「ぴぃうい~!(待て~! 一口寄越せ~!)」
ピカチュウ「やめろ、来んな! ゲームはもう終わっただろ!」
セレビィ「あ、ウチにも一口頂戴や!」
ピカチュウ「長は混ざってこなくていいですッ!!」
あちらこちらからイーブイ達に追いかけ回され、俺は盗られる訳にはいかないと急いでリンゴに齧り付いた。
あ、めっちゃ美味ぇなコレ!!!?
イーブイ「あ~!? ピカチュウがリンゴを全部頬張っちゃったわ!!」
ピカチュウ「んむむ……んっ。はぁ~~! どうだ、もうおうごんのリンゴは無ぇぞ!」
ピィ「ぴぃぅ、ぴぃ!(一気食いなんて勿体ない!!)」
ピカチュウ「うるせぇよ、お前らが奪おうとするからだろ!! めっちゃ美味かったわ!!」
ナエトル「そこはちゃんと感想を述べるんですね……」
なんとかおうごんのリンゴを死守しきり(死守というか食べてしまったのだが)、俺はふぅ、と安堵の息をついた。その様子を見たイーブイ達は落胆しているが、別に俺は悪くないので気にしないことにする。
バクフーン「まぁまぁそう落ち込むな! 何も勝者だけが景品を貰えるとは言ってねぇぜ?」
その時、バクフーンが少しニヤリとした表情でこちらに歩いてきながらそう言った。その意味深な発言に落胆していた全員がバクフーンの方へと向く。
イーブイ「え、それはどういうことバクちゃん?」
バクフーン「元よりこのゲームを始めることが出来たのはお前らのおかげだッ! だからその感謝の印としてこれを送らせてもらうぜ! ケーシィ、カモンッ!!」
バクフーンがそう力強く叫ぶと同時、ケーシィの[テレポート]が発動したのか、何もない空中から大きなテーブルが現れて、どすんと地面の上に落ちた。そしてさらにその上から、大量の木の実やポフレなどのお菓子が現れてテーブルの上に降り注いでいく。
──お、おお……食べ物が山のように積み上がっていくぞ。
バクフーン「体を動かしたら腹も減るだろうッ!? お前らで好きなだけ食うといいぞ!!」
ピィ「ぴぃ!? ぴぃぅ~い!?(え!? ホントに!?)」
ナエトル「僕達も食べて良いんですか!?」
バクフーン「勿論だッ!!」
イーブイ「やった~!! バクちゃん大好き!!」
バクフーンの大盤振る舞いにイーブイ達一行は歓喜の声を上げてご馳走に群がっていく。
え、待ってずるくない? 俺も普通に食べたいんだけど。
バクフーン「長も遠慮せずに食べてくれッ! ジュカイン、ケーシィ、ボーマンダ、お前らもな!」
セレビィ「ええんか! それなら是非とも頂くわぁ!」
ジュカイン「やったぁ~! 僕もまたお腹空いてたんだよねぇ」
ケーシィ「それでハわタシも頂きまス」
ボーマンダ「……いただきます(ボソッ)」
長、ジュカイン、ケーシィ、ボーマンダも続いて大量に積み上げられた木の実やお菓子の元に向かっていった。たくさんのポケモンが集まって、テーブルの周りはすっかりパーティ騒ぎだ。
しかしバクフーンはさらにPARTY BOXからハイパーボールとヒールボールの二つのボールを取り出したかと思うと、それを勢いよく上に放り投げた。
バクフーン「グレイシア、サーナイト出てこいッ! お前らもお疲れ様だぜッ!」
グレイシア「グレィ! はぁ~い♪ 私達もゲームに協力したから、あのポフレもいっぱい食べて良いのよね♪」
サーナイト「サーナ♪ ……それでは遠慮なくご馳走させて頂きますね」
ボールから飛び出したグレイシアとサーナイトも嬉々としてテーブルに向かっていく。あぁ、あれだけポケモンが居ればさすがに山積みの木の実もあっという間に無くなってしまいそうだな。
ピカチュウ「……なぁバクフーン。俺もちょっと貰って良い?」
バクフーン「ピカチュウはおうごんのリンゴあげたからダメ」
ピカチュウ「酷っ!? 俺だけハブられんのかよ!!」
バクフーン「ハハハッ! 冗談だッ! ピカチュウも好きなだけ食っていいぞ!!」
ピカチュウ「やったーバクフーン様最高ッ!!」
全く、これだからコイツは憎めないんだよな! 俺達が全員現金な奴だって理解してる訳だから!!
ピカチュウ「よぉーし! じゃあ皆!! バクフーンの厚意に甘えてパーティといこうぜ!!」
全員「「「「イェ~~~~!!!」」」」
──そんなこんなで、俺達の全力で妨害しあう競争ゲームは終わりを告げた。ゲームの最中は互いの意地の悪さが顕著に表れていたが、昨日の敵はなんとやら、終わった後はまたイーブイ達とも仲良く森で過ごしている。ただ、あの後暫く俺の事を『Ultimate ピカチュウ』という名前で呼び続け、最終的に森全体のポケモンに知れ渡ってしまった事だけはまだ許していない。
そして、ある日。俺達四匹はまたバクフーンに連れられて、森の全く知らない場所へとやってきていた。
バクフーン「よしお前らッ! 今から『Ultimateの名を賭けたレースゲーム』の第二回戦を始めるぞ!!」
四匹「「「「もう結構です!!!(ぴぃ!!!)」」」」
……懲りない奴だ。
その瞬間は、ついに訪れる────
ピカチュウ「……っ!」
イーブイ「……?」
──な、なんだ?
ピカチュウ(体が、止まった……?)
ゴールの旗目掛けて投げ出した体は、屋根の上に衝突する事なく、ピタリと空中で止まった。俺は何が起きたのか分からないまま顔を横に向けてみると、イーブイも同じように前足を伸ばしたまま空中で静止していた。
ピカチュウ「なんだ、どうなってんだよ?」
イーブイ「あとほんの少しでゴールなのに! 勝負は!?」
静止した体は全く動かす事ができず、俺達はただ困惑の声を上げる。そこに、とある一匹のポケモンが姿を現した。
バクフーン「ふっふっふ……お前ら……ゲームセットだッ!!」
ピカチュウ「なっ……!?」
イーブイ「バクちゃん!?」
ど、どっから出てきたんだ!?
俺達の前に仁王立ちするようにして現れたのはバクフーンであった。ゲームセットって……勝負はもうついたのか?
バクフーン「このデスマッチ戦に限っては公平な勝敗結果を下す為、誰かがゴールの旗に触れた時点でランナー全員の体がストップするようにケーシィに頼んでおいたッ!」
ケーシィ「すとップした体はワタシがサイこぱわーを解除スルまで動かせまセン」
バクフーンの後ろからスッとケーシィが現れてそう説明を続けた。なるほど、急にバクフーンが現れたのはケーシィのテレポートの効果って訳か。
……って、そうじゃなかった! 今、ゴールの旗に触れた時点って言ったか?
イーブイ「待って! そ、それじゃあ勝ったのは……」
バクフーン「あぁ。イーブイ、お前はついさっきなんて言った?」
イーブイ「……『あとほんの少しで、ゴールなのに』……」
ピカチュウ「っ!!」
俺ははっとして自分の伸ばした手に視線を向けた。大きく開いた手はまだ旗を掴んではいない。しかし、その指先をよーく確認してみると────
ピカチュウ「触れ……てる……?」
ほんの僅かに、人差し指の先が旗の布に触れていた。触れているという感覚もほとんど無いぐらいに僅かだが、それでも確かに、俺はイーブイよりも先に旗へと到達していた。
……ということはつまり。
ピカチュウ「俺の……勝ちか!?」
バクフーン「ああッ! おめでとう!! お前こそがこのゲームを制した勝者────
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こうして、10回に渡る競争は終了し、ゲームの勝者は俺という事で決まった。ゲームが終了した後、バクフーンの指示で俺達は一度スタート地点に集まることになったのだが……
イーブイ「おめでとう、Ultimateピカチュウ! 悔しいけれど、私の完敗よ!」
ナエトル「おめでとうございます、Ultimateピカチュウさん。まさかあそこから逆転するなんて、思ってもいませんでした」
ピィ「ぴぃ、ぴぅいぅ! ぴぃ!(ホント、流石はUltimateピカチュウだね! お見事しか言いようがないよ!)」
セレビィ「あっぱれやで、Ultimateピカチュウ!」
ピカチュウ「いちいち名前の前に『
究極的にダサいわッ!! 本当に面倒な称号が付いてきたなぁ!!
ピカチュウ「ていうかバクフーン! こんなダサい称号じゃなくて、早くもう一個の方の景品! 『おうごんのリンゴ』を寄越せよ!」
バクフーン「まぁまぁ落ち着け。慌てずともちゃんと用意しているッ! それじゃあ……もう出てきてもいいぜ、カモンッ!!」
? 何だ、もう出てきてもいいって……
不思議な発言と共にバクフーンが手を大きく振り上げると、俺達の後ろの草むらからガサガサ、という音が聞こえてきた。
俺はすぐに後ろを振り返り、その音の正体──草むらの中から飛び出してきたポケモンの姿を捉えた。
ピカチュウ「……あれ!?」
イーブイ「あなた、もしかして……」
俺が驚くと同時、イーブイも信じられないといった様子でそのポケモンに話しかける。
そいつの姿には見覚えがあった。いや、正確には初めて見る姿だったが、そのにへらとした表情は俺達にとって懐かしい面影を残している。
イーブイ「キモリちゃん……!?」
ピカチュウ「お前、ジュカインまで進化したのかよ!」
ジュカイン「えへへ……ピカチュウ、イーブイ、久しぶり~」
鋭い葉っぱの刃が付いた腕をゆらゆらと揺らしながら挨拶をするそのポケモンはジュカイン。俺とイーブイの昔の幼馴染みが最終進化を遂げたそいつであった。
ピカチュウ「お前……トレーナーに捕獲されて森を出て行ったんじゃ……」
ジュカイン「あぁ~それに関してはごめんねぇ。ボールの中に用意されてたポフレが美味しすぎてつい……」
イーブイ「それなら仕方ないわね!」
ピカチュウ「許すんかい」
うんうんと首を唸らせながらそう赦すイーブイに俺は思わずツッコミを入れた。
──その昔、俺とイーブイとキモリは幼馴染みでありとても仲の良い親友同士で、一生森の中で暮らす事を誓った仲間であった。しかし、ある日キモリは森にやってきたとあるトレーナーに捕獲され、それから今日までずっと会えないでいたのだ。
誓いを守ろうとする気持ちが本当にあるなら、ボールに入る事も抵抗できたはず、と当時の俺は憤慨していたものだが……
ナエトル「あ、初めまして、僕はこの森で暮らしているナエトルと言います」
ピィ「ぴぃぴぃ~(初めまして、ピィだよ~!)」
ジュカイン「初めましてぇ。ボクはジュカイン、とある男性トレーナーと旅をしているんだぁ。長も久しぶりぃ~」
セレビィ「お~久しぶりやな! 相変わらずのんきなんはキモリの頃から全然変わってへんなぁ」
……まぁ、今更森を出て行った事を怒ったって仕方ないか。
ピカチュウ「……それで、久しぶりに会えて嬉しいのは嬉しいが、何でお前がここに居るんだよ?」
ジュカイン「あ~それはねぇ、『Ultimateの名を賭けたレースゲーム』? に勝ったポケモンにこれを手渡してほしいってあのバクフーンから言われててぇ」
そう言いながらジュカインが差し出した右手には、金色に輝く奇跡のリンゴ──おうごんのリンゴが掴まれていた。その光沢は思わず見とれてしまうほど美しい。
ピカチュウ「……この為だけにジュカインを呼んだのか、バクフーン?」
バクフーン「ああッ! 俺はそのジュカインのトレーナーとも顔見知りでな! お前らが喜ぶと思って呼んできてやったのさッ!!」
ピカチュウ「ありがたいけどジュカインのトレーナーと顔見知りならもっと早く教えてほしかったわ!!」
それだったら別れの挨拶の一つぐらい言えたかもしれねぇのに! ていうかバクフーンの人脈の広さ舐めてた!!
ジュカイン「ピカチュウがゲームに勝ったの? それなら、はいっ! どうぞぉ」
ピカチュウ「お、おぉ……? ありがとう?」
ごく普通にジュカインからおうごんのリンゴを手渡されて、俺は少し困惑しながらそれを受け取った。
おうごんのリンゴは極めて希少価値の高い幻のリンゴだ。見た目の美しさもさながら、その味は果実の中でも頂点に君臨するという程の珍味だという。まさかこんな日にお目にかかれるとは思ってもいなかったが……
ピカチュウ「……あれ、ちょっと待て? なんか、一口囓られた形跡があるんだが……」
ジュカイン「あっ、ごめんねぇ~。あまりにも美味しそうなリンゴだったから、我慢できずに一口食べちゃったぁ」
ピカチュウ「おいぃ!!」
──食べるなよ、景品をッ!!
まさかの食べ残しを手渡されるという事態に、怒ったら良いのか、あるいはコイツらしいなという妙な納得感で締めてしまえば良いのかよく分からなくなっていると、いつの間にかイーブイやナエトル、ピィが俺の周りを囲んでいた。
ピィ「ぴぃ~……(じ~……)」
ピカチュウ「な、なんだよお前ら……」
ナエトル「それ、美味しそうですね?」
ピカチュウ「は、はぁ?」
イーブイ「Ultimateピカチュウなら、一口ぐらい分けてくれるわよね?」
ピカチュウ「分けねぇよ!!」
勝負は俺の勝ちって事に決まっただろ──ってうおわっ!? こいつら飛び掛かってきやがった!
ピィ「ぴぃうい~!(待て~! 一口寄越せ~!)」
ピカチュウ「やめろ、来んな! ゲームはもう終わっただろ!」
セレビィ「あ、ウチにも一口頂戴や!」
ピカチュウ「長は混ざってこなくていいですッ!!」
あちらこちらからイーブイ達に追いかけ回され、俺は盗られる訳にはいかないと急いでリンゴに齧り付いた。
あ、めっちゃ美味ぇなコレ!!!?
イーブイ「あ~!? ピカチュウがリンゴを全部頬張っちゃったわ!!」
ピカチュウ「んむむ……んっ。はぁ~~! どうだ、もうおうごんのリンゴは無ぇぞ!」
ピィ「ぴぃぅ、ぴぃ!(一気食いなんて勿体ない!!)」
ピカチュウ「うるせぇよ、お前らが奪おうとするからだろ!! めっちゃ美味かったわ!!」
ナエトル「そこはちゃんと感想を述べるんですね……」
なんとかおうごんのリンゴを死守しきり(死守というか食べてしまったのだが)、俺はふぅ、と安堵の息をついた。その様子を見たイーブイ達は落胆しているが、別に俺は悪くないので気にしないことにする。
バクフーン「まぁまぁそう落ち込むな! 何も勝者だけが景品を貰えるとは言ってねぇぜ?」
その時、バクフーンが少しニヤリとした表情でこちらに歩いてきながらそう言った。その意味深な発言に落胆していた全員がバクフーンの方へと向く。
イーブイ「え、それはどういうことバクちゃん?」
バクフーン「元よりこのゲームを始めることが出来たのはお前らのおかげだッ! だからその感謝の印としてこれを送らせてもらうぜ! ケーシィ、カモンッ!!」
バクフーンがそう力強く叫ぶと同時、ケーシィの[テレポート]が発動したのか、何もない空中から大きなテーブルが現れて、どすんと地面の上に落ちた。そしてさらにその上から、大量の木の実やポフレなどのお菓子が現れてテーブルの上に降り注いでいく。
──お、おお……食べ物が山のように積み上がっていくぞ。
バクフーン「体を動かしたら腹も減るだろうッ!? お前らで好きなだけ食うといいぞ!!」
ピィ「ぴぃ!? ぴぃぅ~い!?(え!? ホントに!?)」
ナエトル「僕達も食べて良いんですか!?」
バクフーン「勿論だッ!!」
イーブイ「やった~!! バクちゃん大好き!!」
バクフーンの大盤振る舞いにイーブイ達一行は歓喜の声を上げてご馳走に群がっていく。
え、待ってずるくない? 俺も普通に食べたいんだけど。
バクフーン「長も遠慮せずに食べてくれッ! ジュカイン、ケーシィ、ボーマンダ、お前らもな!」
セレビィ「ええんか! それなら是非とも頂くわぁ!」
ジュカイン「やったぁ~! 僕もまたお腹空いてたんだよねぇ」
ケーシィ「それでハわタシも頂きまス」
ボーマンダ「……いただきます(ボソッ)」
長、ジュカイン、ケーシィ、ボーマンダも続いて大量に積み上げられた木の実やお菓子の元に向かっていった。たくさんのポケモンが集まって、テーブルの周りはすっかりパーティ騒ぎだ。
しかしバクフーンはさらにPARTY BOXからハイパーボールとヒールボールの二つのボールを取り出したかと思うと、それを勢いよく上に放り投げた。
バクフーン「グレイシア、サーナイト出てこいッ! お前らもお疲れ様だぜッ!」
グレイシア「グレィ! はぁ~い♪ 私達もゲームに協力したから、あのポフレもいっぱい食べて良いのよね♪」
サーナイト「サーナ♪ ……それでは遠慮なくご馳走させて頂きますね」
ボールから飛び出したグレイシアとサーナイトも嬉々としてテーブルに向かっていく。あぁ、あれだけポケモンが居ればさすがに山積みの木の実もあっという間に無くなってしまいそうだな。
ピカチュウ「……なぁバクフーン。俺もちょっと貰って良い?」
バクフーン「ピカチュウはおうごんのリンゴあげたからダメ」
ピカチュウ「酷っ!? 俺だけハブられんのかよ!!」
バクフーン「ハハハッ! 冗談だッ! ピカチュウも好きなだけ食っていいぞ!!」
ピカチュウ「やったーバクフーン様最高ッ!!」
全く、これだからコイツは憎めないんだよな! 俺達が全員現金な奴だって理解してる訳だから!!
ピカチュウ「よぉーし! じゃあ皆!! バクフーンの厚意に甘えてパーティといこうぜ!!」
全員「「「「イェ~~~~!!!」」」」
──そんなこんなで、俺達の全力で妨害しあう競争ゲームは終わりを告げた。ゲームの最中は互いの意地の悪さが顕著に表れていたが、昨日の敵はなんとやら、終わった後はまたイーブイ達とも仲良く森で過ごしている。ただ、あの後暫く俺の事を『
そして、ある日。俺達四匹はまたバクフーンに連れられて、森の全く知らない場所へとやってきていた。
バクフーン「よしお前らッ! 今から『Ultimateの名を賭けたレースゲーム』の第二回戦を始めるぞ!!」
四匹「「「「もう結構です!!!(ぴぃ!!!)」」」」
……懲りない奴だ。
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