寝ぼけ眼で空を仰げば

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読了時間目安:3分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

リビングには、トーストとベーコンエッグの良い匂いが立ち込めていた。階段を降りている時から鳴り続けていたお腹の虫に拍車がかかる。そんな素敵空間を演出しているのは卵の様子を見ながらテキパキと洗い物をしている弟、カズヤだ。双子にも関わらずこの差はいったいなんなのか。
「おはよぉ~……」
眠いにしたって情けなさすぎるぞ、私。
半ばあくびを噛み殺した状態から放たれた姉の恐ろしく姉らしくない挨拶にもカズヤは
「おはよ。リンも早く着替えて、出発する準備整えてよ?」
と笑顔で返す。
いやあ、良い弟でしょ?我ながら良いお婿さんになると思うんだ、なにせコイツ料理はめちゃくちゃ上手いし掃除は完璧だし洗濯物はお日さまの匂いがするしで――――――
「なんでそんなにニコニコしてるの……?あと15分で出るんだよ?」
ほらね、こっちの心配も欠かさない。ほーんとに自慢の…………って、え?
「出るってどこにさ」
「忘れてたの?今日は出発の日でしょ」
「だから何処への」
「カロス一周」
「カロスイッシュ?」
「違うって、カロス一周!博士にポケモンもらって、ジム回りながらカロスを一周するんでしょ!」

……あ。







先ほどはのんびりと降りていた階段を、三段飛ばしで駆け抜ける。
図上ではヤヤコマが私の衣服やら歯みがきセットやらをくわえて運んでおり、羽音と足音が盛大に鳴り響いている。
「バッグOK、帽子OK、テントOK!!」
なんとか揃った荷物を玄関まで運ぶと、既に出発時間五分前。
走らなくては。私のベーコンエッグちゃんが待っている。
次の瞬間、玄関先から私の姿は消えていた。



弟が玄関に鍵をかけて戸締まりの確認をした時、私の息は上がるどころか止まりかけていた。
「し、死ぬかと思った……」
もとはといえば事前になにもしなかった私が悪いものの、ここまでしんどいと流石に堪える。
肩でなんとか息をしながら歩いていると見かねたカズヤが
「…こういうときは、深呼吸しなきゃだね」と立ち止まる。
その言葉に頷き、私は軽く仰け反って大きく息を吸う。
朝の澄み渡った空気が体内に入ると同時に、雲ひとつない青空が目に飛び込む。途端に「ああ、今から旅に出るんだなぁ」との実感が湧いてくる。

期待と予感を吸い込み、不安と疲労を吐き出して。
何度か繰り返すと、身体はいくらか軽くなっていた。
気をきかせてくれた弟に「ありがとね」と一言かけ、私達は再び足を動かす。


ああ、どんな冒険が私たちを待っているんだろうか。

そんなポエミーな文章が頭をよぎる。

今の私は知るよしもないが、この時博士の研究所で待ち合わせていた私の親友も同じようなことを考えていたらしい。

―――――きっと、あの青空のように綺麗で、何処までも続くのよ。

数日後に聞くことになる彼女の答えは、子役をやっているだけあってとても綺麗だった。

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