第45話 最後の番人

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 無事にバカップルを打ちのめし、4人は『氷の勾玉』を手にすることができた。これで残る勾玉は『霊の勾玉』と『水の勾玉』の2つだけとなった。嬉しそうに彼らはその場を後にした。

「よーし、あと2つになったね! 早く集めちゃおう!」

 一層やる気の出てきたヒトカゲはすぐにでも次の島へ向かおうと、ゼニガメ達を見ながら坂道を下ろうとして、コケた。旅をしてきても、その子供っぽいところは変わってないようだ。みんなは楽しそうに笑いながら彼を起こしてあげた。

「お前は進化してもこのままなんだろうな」
「失礼なっ! 僕は……?」

 いつものように会話をしていた時だった。突如、ヒトカゲを激しい頭痛が襲った。頭を抱えてうずくまってしまうと、彼の頭の中に声が響いた。


≪お前は、この世界中のポケモンの敵だ……≫

≪何故……の味方なんかするんだ?≫

≪仕方ない、ならば私がお前を葬るまで……≫


 聞こえてきたのは、旅の途中で1回も聞いたことのない、威圧感のある低い声。だが間違いなく聞き覚えがある。頭痛が治まってもその声の主が誰なのかを必死に思い出そうとしていた。

「おい、大丈夫か?」

 ドダイトスの声でヒトカゲは我に返った。彼が顔を上げると、突然うずくまった姿に驚き心配している3人の顔が目に映った。

「あ、うん。なんか……」

 大丈夫だと返事をした後、ヒトカゲは脳内にフラッシュバックした内容をみんなに説明した。話している最中に、自身の記憶の一部なのだろうと彼も感じていた。

『この世界中の敵?』

 当たり前だが、3人は自分達の耳を疑った。ヒトカゲがこの世界中の敵であるはずがないだろうとみんな思っているが、この言葉はかなり気になった。

「一体どういう事? ヒトカゲが敵だなんて」
「声の主もカイリュー達ではなさそうだしな」

 はっきりと過去の出来事と断定したわけではないものの、彼らは親身になって考えている。チコリータとドダイトスが唸っていると、珍しくゼニガメが適格な発言をした。

「いずれにせよ、記憶喪失になる前のヒトカゲは、厄介事に巻き込まれていたようだな」

 全員が現状を認識する。とはいえ、今さら勾玉集めをやめるわけにはいかない。この先何かヒントが現れるだろうと期待しながら、彼らは足を進めた。
 それからジュラの家へ向かって1泊することにした。この日はデリバードも帰ってきていて、遊び相手になってどっと疲れたのは言うまでもない。


 次の日の昼頃、ジュラ達にお礼と別れを告げて家を出た。何回も「頑張って」と言われ、さらにやる気を出した4人は駆け足で港へ向かった。

『ま、待ってくれ……』

 足の遅い2人、ゼニガメとドダイトスは元気いっぱいのヒトカゲとチコリータについて行けず、しばらく走った後に座り込んでしまった。息を切らして休んでいると、2人の背後に1匹のポケモンが現れた。

「お前達に聞きたいことがある」

 バテ気味に首だけゆっくり振り向くと、2人は目を丸くした。何故ならそこにいたのは、エンテイとライコウに次ぐ3人目のアイランドの番人・スイクンだったからだ。
 慌ててヒトカゲ達を大声で呼び戻し、戻ってきたところでスイクンが彼らについて尋ねる。

「お前達が、勾玉を集めて島中を転々としている者達か?」
「は、はい! そうです!」

 息を切らしながらヒトカゲが答えた。その後しばらくスイクンはヒトカゲを、次にゼニガメといった具合に全員の目をじっと見ると、ようやく口を開いた。

「そうか。早速なんだが、勾玉は集め終わったのか?」
「いえ、あと2つ、『霊の勾玉』と『水の勾玉』が残ってます」

 ヒトカゲは自分の持っている勾玉をスイクンに見せる。その1つ1つが淡い輝きを放っているのを確認すると、スイクンは真剣な顔つきで話を始めた。

「勾玉を集め終わったら、私がたまに寝泊りしている場所、つまりアスル島の神殿に持って行くのは聞いただろう?」

 仮にも番人が護るべき神聖な場所であるはずなのに、神殿のことを「たまに寝泊まりしている場所」というのはいかがなものだろうかとみんなは思ったが、今はスルーして話に頷く。

「私が話したいのは持って行った後の事なんだが、神殿の床や壁、全部で7ヵ所に正確に勾玉を納めなければ意味がない。もし納める場所を間違えれば、勾玉は再び各島に散らばる」

 スイクンの説明を受けた4人は息を呑んだ。一歩間違えれば全てが台無しになってしまうほど、この話が重要なのだと再認識する。

「それで、どんな順に納めればいいんだ?」

 いつになく真剣なゼニガメが聞くと、スイクンは目を瞑って何かを念じ始めた。すると突然、4人の頭の中にどこかの場所が映し出された。

『これは?』

 頭の中に映し出されたのは、所々荒れている建物の中。少しくすんだ白色の柱が立っていて、中は何もなくて殺伐としている。その光景に見覚えがあったのは、ゼニガメだった。

「ここ、神殿の中だよな?」
「そうだ。今お前達が見ているのは、アスル島の神殿の中だ。それを私の思念波で伝えているのだ」

 ヒトカゲ達はまるで夢を見ているような感覚だ。鮮明に見えるその光景を頼りに、スイクンは細かく説明を始めた。

「よく聞いておけ。まず、この中央にある穴が『水の勾玉』。そこから右斜めにある壁の穴が『炎の勾玉』だ。次に……」

 早いペースで勾玉を納める場所を伝えていく。ヒトカゲはこういう事を覚えるのが得意なようだが、それとは逆にゼニガメは2つ覚えるだけで精一杯だった。

「最後がここで、以上だ。この順に……」
『もう1回』

 4人はこの後、確認を含めて3回暗記した。事が事だけに、絶対に全員が完璧に暗記するまでは繰り返すべきだという認識でいたからであろう。さすがのスイクンも説明に疲れが見え始めていた。

「も、もういいか?」

 暗記し終えると、頭の中から神殿のビジョンが消え、4人の目には再びセレステ島の景色が広がった。

「ここに勾玉を納めれば、海の神……ルギアは助かるんですよね?」

 ヒトカゲは念を押すようにスイクンに言うと、黙って首を縦に振った。そして続けるように彼らにエールを送った。

「お前達なら大丈夫だ。必ずできると信じているからな」

 それを聞くと、彼らは次の目的地へ向かうためにお礼を伝えスイクンの元から立ち去ろうとした。だが1人だけ気になったことがあったのか、足を止めて再びスイクンの方を振り向いた。

「あの……」

 口を開いたのはチコリータだった。その声にスイクンが気づき、彼らの元へ戻ってきた。

「何だ?」
「番人の皆様はご存知なんですよね? 私達が勾玉を集めている理由を」
「もちろんだ。だからこうして伝えに来た」
「じゃあ、何故何もしようとしないのです?」

 そういえば、とヒトカゲ達は気づかされた。エンテイにしろライコウにしろ、勾玉こそ渡してはくれたものの、この件にあまり関わろうとしていない。ヒトカゲ達に全てを任せている感が否めない。
 答弁を考えているのか、しばらくの沈黙の後、スイクンは落ち着き払った言い方で応じた。

「ルギア様がお前達を指名したのだ。そうでなければ、私達が指名されていただろう」

 確かにと頷く4人。ルギアはわざわざヒトカゲにテレパシーを送って助けるように言ったのだ。きっと何か理由があるに違いないとヒトカゲは感じたようだ。
 失礼な発言をして申し訳ないと謝罪すると、彼らは再び次の島へ向かおうと歩いた。しかし、今度はスイクンに呼び止められた。

「お前達、次は“ビオレタ島”に行くのか?」
「そうですが、ビオレタ島に何か?」
「気をつけろ。最近、何だかビオレタ島から変なオーラを感じる。もしかしたら邪気を持つものがいるかもしれん。勘違いであってほしいが」

 スイクンは彼らの身を案じ、十分注意するよう言葉をかけてくれた。ヒトカゲ達は改めてお礼を言うと、駆け足で港まで向かって行った。


 4人の姿が見えなくなってもしばらくその場に立っているスイクン。その後ろから誰かがやって来たようで、スイクンに声をかけた。

「行ったか」
「なんだ、お前達も来てたのか」

 そう言いながらスイクンが声の主の方を振り向くと、見慣れた顔があった。スイクンと同じポケモンアイランドの番人である、エンテイとライコウがいたのだ。

「ルギア様があいつらを指名したんだ。なら俺らが出て行かなくてもそんなに心配ないってことだな」
「そういうことだ。しかし、あのヒトカゲが……」

 ライコウとエンテイは、ヒトカゲの事を思い出しながら考え事を始めた。彼らがヒトカゲについて知っていること――特にその能力については、番人達の中でしか共有されていない。

「私も信じられないが、今はそれどころではない。ルギア様が私達の方を優先してくれたのだ。時間的余裕はあるかもしれないが、早くしなければ……」
『わかっている』

 スイクンの言葉にエンテイとライコウが応じると、3人はそれぞれ別の島へと向けて駆け出していった。

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