第3話 ~オレたちきゅうじょたい!!~

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読了時間目安:23分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

主な登場人物

 [シズ:元人間・ミズゴロウ♂]
 [ユカ:イーブイ♀]
 [チーク:チラーミィ♂]
 [レイ:ピチュー]

前回のあらすじ
怪しいヒトカゲからピチューのレイを救い出したはいいものの、大量のポケモンに囲まれ絶体絶命の状況に陥ってしまったシズとユカ。もうどうしようもないのかと嘆いていた二匹は、突然現れたチラーミィのチークに救われるのだった。
ここはとある森の中。"不思議のダンジョン"と呼ばれる超常現象の起こる土地、その近辺だ。
……突如、何もない空間から、青白い光の粒子とともに四匹のポケモンが現れる。

「うわっ!?……あぁっああ!?」

情けない叫び声を上げるシズ、それを見つめるユカ、自分を救ったヒーローの一匹の情けない一面をみてちょっと呆れるレイ、そして謎のバッジを掲げたチークだ。

「えっ!?な……"テレポート"?"テレポート"なの!?」
「落ち着けよおまえ。こういうの、初めてか?ほら、深呼吸だ……」
「……すぅー……はぁー……。い、意表を突かれましたよ……ここにいる全員、"テレポート"みたいなワザは使えないはずなのに……」
「……ん?ああ、"救助隊"知らないんなら……こっちも知らないか」

そう言うと、チークは掲げていたバッジをシズの目の前に持って行く。そのバッジは卵形で、下側はピンク、上側は白い色をしている。左右には翼のような飾りがついており、そして裏側には緑色のとても小さな結晶が埋め込まれていた。

「この"救助隊バッジ"にくっついてる、この"テレポートの結晶"がここまで運んでくれたのさ。ほら、緑色の」
「へえ……すごいですね……」

こんな砂粒みたいな大きさの塊がテレポートを発動させた……その事実にシズは感銘を受ける。

「……まあ、こんな小さい結晶じゃ、ダンジョンの外に運んでもらう程度が限界だけどな。こっからは徒歩でこの森を出る」

チークが肩から提げた鞄を開き、そこから地図とコンパスを取り出した。そしてそれを使って自分たちの進むべき方向を確認し始める。

「……シズ。キミ、"救助隊"のこと、知らないんだよね?今のうちに教えてあげようか。」

あ。そういえば、救助隊についてまだ聞いてなかったな。ユカの言葉を聞いたシズはそのことを思い出す。

「うん。おねがい。」
「……"救助隊"。みんなを自然災害の脅威から助けたり、悪いヤツを捕まえたりするお仕事って言ったら分かりやすいかな。この世界にはいっぱい救助隊のチームがいて、それぞれが……チークのだったら"グランプリホワイト"だね。そんな名前を持ってるんだ。救助隊バッジはその証だよ。」
「消防士とか警察とか……みたいなかんじ?」
「ワタシの知る限りではそうだと思う。警察も消防士も人助けをする、人間の仕事だったよね。」

仕事……ポケモンが仕事をするのか。ポケモンが仕事の手伝いをするっていうのはよく聞く話だけど、ポケモンが主導でするなんて話は聞いたことがない。それに、"救助隊"をボクは知らない。この仕事はポケモンにしかわからない……みたいなことだったりして。

「よし。こっちで間違いないな。全員オレについてこい!」
「はーい、です!」
「あっ!まってよ!」
「ちょ、ちょっと!?」

チークとレイが、チークの号令とともに歩き出す。シズとユカも、それについていった。












どのくらい、景色の変わらない空間を歩いただろうか。……突然、目の前がまぶしくなる。今まで木の葉に遮られていた日の光が、目に突き刺さったのだ。チーク以外の三匹はたまらず目を背ける。唯一太陽を直視しなかった一匹にはわかった、ここは森の外だ、草木の生い茂る草原なのだと。

「よーし。ジャストでオレの家近くに出たぜ。あれ、安かったわりに居心地がいいんだよなあ……とにかく、こっからは道なりに歩けばいいからな」

シズが目を背けた先には、1つの家……白い円形、青い屋根の小さめな家があった。シズが最初に目覚め、そしてユカと出会った場所だ。

「あれ、あなたの家だったんですね。……ユカとは、どういった関係なんです?」
「……ん?なんだ、急に。まあ、同居人ってところだが。コイツの身寄りがないもんでな」

そう言うと、チークがユカに指を指す。

「……まあ、うん。ははは……」

……指を指されたユカは苦い顔をする。"このことについては追求しないで"……そういった意味合いにもとれる顔だった。

「どうしたですか、ユカさん。たちどまって……おいてっちゃうですよ?」
「いや……なんでもないよ。」
「……悪かった」

……シズは今の会話に違和感を感じとる。最初にチークはこう言った。"あの家は安かった"と。あの家をお金で買ったということだろう。……ポケモンが家を買うなんて話は聞いたことがない。次に、シズの質問に対して彼はこう言った。"コイツの身寄りがないもんでな"。身寄り……こう言ってしまえばアレだが、まるで人間を取り扱うような言い回しをしている。ユカはポケモンなのに。

「シズさんまでたちどまっちゃったですよ。どうなっちゃってるですか?」
「……?シズだっけか。なにか思い出せそうなのか?」

悩みを抱えた二匹は顔を上げ、そして歩き出す。

「いや、そういうわけじゃ……うん、なにも思い出せませんでした。」
「まあ、そううまくはいかないか。記憶喪失……記憶喪失ねえ」

チークは顎に手を当て、"考えてます"と言わんばかりの表情をする……たった数秒間だけ。

「うん。よくわからんな。ま、とりあえず、さっきも言ったが、この道をまっすぐ進めばオレたちの目的地、"救助隊協会"の建物にたどり着く。バタフリーが飛んでたからってオレから離れるなよ?特にピチュ-」
「レイっていうなまえがあるです。」
「……特にレイ。気をつけろよ?」
「はーい。」

チークがあぜ道を先導し、それに三匹のポケモンがついていく。そんな構図でこの気持ちのいい風が吹く草原を進むのだ。……シズはこの土地を最初に見たときの感想を思い出す。ずっと暮らしたくなるようないい場所だ、ここは。

……しばらく、道に沿って歩いていた四匹。やがて彼らは1つの町にたどり着く。入り口に立てられていた看板には、"シーサイドへようこそ"と書かれていた。……潮風のにおいがする。"シーサイド"の名のとおり、海が近いのだろうか。

「ポケモンがいっぱいいる……」
「そりゃ、町だからな」

木製、レンガ製の建物が立ち並び、そして同時に自然にもあふれたこの町には、古今東西様々なところで見られるポケモンたちがたくさん歩いていた。中には店のように見える建物で会話していたり、アイスクリームを食べ歩きしているポケモンなんかもいる。

「あっ、あのコリンク、"キュウジョタイバッジ"もってるですよ。」
「ちょっと。チークに離れちゃダメって言われてるでしょ?」

……しかし、奇妙なことに人間の姿が見えない。ただの一人もだ。右を向いても左を向いても、ポケモンだらけ。ポケモンだけで町が回るなんてことなんてありえるはずもないのに、彼らは当たり前のように豊かそうな生活を送っている。

「こんなことでまようぼくじゃないですよ。ちょっとはなしかけるだけです。」
「もしもーし、レイくん?」
「……あっ。チークさん。」
「教えてやろう……先に用事を済まして後から遊ぶってのが賢い大人のやりかたなんだぜ?」
「なるほど……かしこいオトナ。いいひびきです……」
「だろ?ほら、行こうぜ。三匹とも」

やはりチークを先導に道をまっすぐ進んでいく四匹。彼らはそう時間もたたないうちに、赤いレンガで作られた大きな四角い建物にたどり着く。そこには"救助隊協会第一支部"と書かれた看板もあり、それがこの建物の名前を示しているのは容易に理解できた。そして、"救助隊協会"という名の通り救助隊のポケモンが多く集まっているのだろう、チークの持っている"救助隊バッジ"と同じものを持ったポケモンたちがこの建物の周囲で雑談を交わしている。

「……依頼人がいないな。建物の中で待機してるのか?」

しばらく周囲を確認するチーク。しかし依頼人とやらは見つからなかったのか、首を横に振る。

「あいつら、"救助隊協会の前で待ってます!"って言ってただろ……」

そう言うとチークは扉に手を掛ける。その扉はおおきさ0.3mのチラーミィが通るには少々……いや、かなり大きいが、特に問題なくガチャリと音を立てて開く。そしてチークはその中へと入っていった。

「あっ!!かえってきた!!レイは……?レイくんは!?」

……チークを追って建物に入った三匹。そこで見たのは、キャタピーに抱きつかれる……いや、まとわりつかれると言ったほうが正しいかもしれない。そんな、さっきまで自分たちを先導していたポケモンの姿だった。

「あの……"フライト"くん?そういうのはめいわくだとおもうよ?」

そして、フライトと呼ばれたキャタピーを咎めたのはムチュール。チークの言う依頼人というのは彼らのことだろうか。

「……マジで勘弁していただきたい。とにかく、レイという名前のピチューを連れてきたぞ」
「フライトくん!"ルージュ"ちゃん!しんぱいかけちゃったです!」

シズのちょうど後ろを歩いていたレイは、ルージュと呼ばれたムチュールとフライトの元へ駆け寄っていく。そして、ルージュとハイタッチ。フライトとも同じ事をした。

「チークさん、ありがとう!」
「ほら、フライトくん。わすれないうちにあれを!」
「あ!そうだった!ごそ、ごそっと。はい!」

これが感謝の気持ちと言わんばかりに、鞄からなにかを取り出すフライト。

「"きあいのタスキ"か!」
「おかねはもってないけど、かわりにぼくたちのたからものをあげるよ!」

きあいのタスキ。ダメージを受けていない状態なら、どんな攻撃でも一度は耐えられるようになる道具。あまり体が丈夫ではないポケモンに持たせるポケモントレーナーが多いそうだ。

「「「チークさん、ありがとうございました!!」です!!」」
「……あ。シズさんとユカさんも、ありがとうございましたです!!」

三匹一緒にお辞儀をするレイたち。そして建物の外へと走り去る。……お礼を言われたシズとユカは、なんだか、心が満たされるような感覚がした。

「これで"げんきさんびきしゅう"ふっかつだね!!」
「あ、そうだ!さっきキュウジョタイバッジをつけたコリンクをみつけたです!!さっそくとつげきしゅざいです!!」
「さんせーい!!」
「あの……フライトくん?レイくん?そういうのはめいわくだとおもうよ?」

……彼らは、ポケモンの人混み……略して"ポケ混み"の中へと消えていった。"元気三匹衆"……他人からそう呼ばれているのか、自分たちで名乗っているのか。どちらにせよ、名前の通りのヤツらなのは明白だ。

「次はああならないように気をつけるんだぞーっ!!……救助隊バッジをつけたコリンク……アイツか。災難だったな、ハハハ……」

苦笑いをするチーク。彼らに"突撃取材"されそうなコリンクに心当たりがあるのだろうか。

「……さて。少年少女集団が去って行ったところで、大真面目な話を始めようか」

元気三人衆と名乗ったポケモンたちを見送ったチーク。突然、彼の放つ雰囲気が変化する。さっきまでのおちゃらけた顔はどこにもない、いま彼にあるのは真面目な表情だけだ。

「……ボクの、記憶喪失についてですか。」
「そういうことだ。ま、立ち話もなんだろう。ついてきてくれ」

そういってレンガの地面を歩き出すチーク。シズとユカはそれについていった。……シズはこの建物、"救助隊協会第一支部"を見渡してみる。赤いレンガの壁に、四角い窓がついている。チークの家にある窓と違って、こちらには窓ガラスがはめ込まれているようだ。そしてテーブルと椅子がいくつか置いてあり、そこで救助隊バッジを持ったポケモンたちが会話をしている。また、たくさんの張り紙が張り出された掲示板があり、その前でもまた、ポケモンたちが会話を交わす。

「この扉の先だ。救助隊に救助の依頼を出したりする過程で、あまり誰かに聞かれたくない話をしなければならない事もあるだろう?そのために、個室が用意されているのさ……数は少ないが」

チークはそう言って、個室の扉を開く。そして、"入ってくれ"とハンドサインを送った。シズとユカは、それに従い……そしてまた、ガチャリと扉の閉じる音がした。

個室には、机といろんな大きさの椅子が用意されている。チークはその中からこの場にいる三匹にぴったりの椅子を選び出し、机の前に持ってくる。そしてそこに座るようシズとユカに促した。

「……よし。もし喉が渇いたら言ってくれ。お茶でも汲んできてやるぜ?」
「いまは大丈夫です……」
「ワタシも、いらないかな。」
「……そうか。なら、さっそく質問させてもらう」

今、シズ、ユカの二匹と、チークが机を挟んで対面するような形になっている。この、まるで面接のような構図はシズを強く緊張させる雰囲気を醸し出す。

「まず最初に。記憶喪失と言っても、いろんな度合いがある。1日分の記憶が抜け落ちているもの、一週間のもの、もしくは1年分……。どのくらいかはわかるか?」
「全部……です。」
「……全部。やっかいだな。じゃあ、記憶を失った状態で最初にいた場所は?」
「そこはワタシが。家の近くの森の中で倒れてて……多分、その時点でもう記憶をなくしてたんだと思う。」
「なるほど……じゃあ、おかしな言動をしていたりはしないか?手がかりになるかも」
「そこもワタシが。"ボクは人間だよ!!"って叫んでたよ。」
「……なるほど。錯乱状態になっていたのか。何らかの出来事に遭遇してそのまま記憶が……ってところか?オレは心理学の専門家じゃないからなんともいえないが」

チークは頭を抱える。今まで見せた悩むフリと違って、今回は本気で考えているようだ。

「……じゃあ、シズ。どんなにアホらしくて、どんなに非現実的なことでもいい。記憶を失ってから何か変わってしまったこととか、異常なことはないか?」
「異常なこと……ですか。」

異常なこと……自分がポケモンになってしまったことについては、ユカの発言への返答で、錯乱していたせいで飛びだした発想だと結論づけられてしまっている。これについて話しても、突き放されてしまうかもしれない。……アホらしいことと言えば、自分がポケモンになったこと以外に、もう一つある。

「この町には、人間がいませんけど……どうなってるんですか?」
「はぁ、なるほど。人間はすでに絶滅しているんだが……オレじゃ無理だな。やはり専門家に……」
「……"絶滅"?ちょっと……え?な……?」
「お、おい。どうしたんだ?」
「……シズ?」

絶滅……人間が……ぜつめつ?ぜ……え?……ボクに遺されたごくかすかな記憶……それは、自分が人間の学生であることを示していたはず……絶滅……未来の世界?タイムスリップ……?シズは動揺していた。とても強く、動揺していた。

「あ……だいじょうぶ、です。おかしな事にはなれてきてますから……」
「……めちゃくちゃだな、コイツの言ってること……」
「……チーク。ちょっといい?」
「なんだ?」
「多分、シズは……本気で言ってるんだと思う。自分が人間だって。錯乱したからでも、ウソで言ったわけでもない。」

ユカのその言葉を聞いたチーク……彼は、大きなため息をつき、首を横に振る。

「この慌てようはホンモノってか?それならオレも考えたさ。自分が人間だと知っていて、そしてそれ以外の記憶がない……そんな状態で自分の仲間が絶滅したと聞いたなら、あんな慌て方をしてもおかしくはない。だが……あまりにアホらしすぎる。人間がミズゴロウになったって事だろ?メタモンの"へんしん"でもあるまいし」
「そこも説明できるよ。シズ……鏡を見た瞬間、気絶しちゃったんだ。」
「ただの思い込みにしては、自分の正体を知ったときに強すぎるショックを受けていた……と?」
「うん。」

……その言葉を最後に、数十秒、数分間の沈黙が始まる。チークはその間、ずっと悩み続けていた。

「……仕方がない。わかったのは情報不足だって事だけらしい。シズ、ちょっと体を見せてくれないか?なんか特徴でもあれば、救助隊協会の資料と照らし合わせて身元を特定できるかも知れないからな」
「あ、はい……」
「特徴、特徴……不思議のダンジョンでついたであろうキズだけか。……だめだ、何もかもが平凡すぎる」

人間はもう、この世にいない……その事実を飲み込み事は、シズにとって難しすぎる。今日は厄日だ。本当に、とんだ厄日だ……シズにはもう、この異常な現実を恨むことしかできなかった。

「……今日は、オレの家に泊まってもらうことにするか。それでいいよな、シズ」
「シズ、どうする……?」

個室についていた窓をのぞいてみる。……夕日。そこにはただ、綺麗な夕日が浮かんでいた。それだけだった。

「……それで、お願いします。」












チークの家にたどり着いた頃にはもう、日が落ちていた。この周囲には明かりなんてない……そのおかげだろう、月の光がいつもより輝いて見えた。

「さ、入ってくれ」

ガチャリ。青い屋根の家、その扉が開く音がした。

「ただいまーっ……誰もいないけどね。」
「お邪魔します……」
「うわっ!?……木箱の中身がばらまかれてやがる」

……チ-クが家の中に入った瞬間、驚きの声を上げる。そういえばあれ、片付けてなかったな。チーク以外の二匹は思い出す。

「勘弁してくれよ……ろうそくは……あった」

テーブルの上からろうそくとマッチを取ったチーク。そしてマッチを使ってろうそくに火を灯すと、その明かりを元に飛散した木箱の中身を片付け始めた。

「あんたらは先に眠っててくれ。オレは……まあ、チラーミィとしてのサガかな。ここ以外にも掃除したいところがあるんだ」
「うん。いつも通りだね……シズ、わかってると思うけど、こっちだよ。」

ユカが寝室に入っていき、シズもそれについていった。そこには藁のベッドが2セットだけ敷かれている。

「シズはそっちを使ってね。」
「……これ、もしかしてチークさんの分じゃ?」
「気にしなくていいと思うよ。予備はあったはずだし。」
「……それじゃあ。」

自分が目覚めたときにも、この上で眠っていたんだっけ。この日の始まりのことを思い出しながら、シズは藁の上に転がってみる。……最初にこれを使っていたときにはわからなかったが、意外と快適だ。チクチクしたり、不快感を感じたりは決してしない。……横を見れば、ユカももうすでに藁の上で寝っ転がっていた。

「……ボクも、今はポケモンなんだね。」
「どうしたの?急に。」
「いや……今になって、自分がポケモンになったって、実感がわいてきちゃって。」
「ワタシ、何回かキミの"ボクは人間だ"っていう言葉を聞いたけど……やっぱり、ホントなんだね?」
「うん。絶対そうだって言える。確証はないけど……」

……その言葉を最後に、長い長い静寂が訪れる。聞こえる音といえば、チークが掃除をする音だけ。そのまま、3分ほどの時間が経った。……その後、突然ユカが口を開く。

「シズ。ちょっと……いいかな?」
「なあに?」
「……ワタシ、ずっと前から救助隊のチームを作りたい……そう思ってたんだ。」
「へえ。できるといいね。」
「いや、今すぐにでもできるよ。一緒に救助隊の仲間をしてくれるポケモンがいないとダメだけど。」
「……あれ?チークさんの"グランプリホワイト"は一匹じゃなかったっけ?」
「作るときは二匹以上いないといけないけど、作った後に一匹になるのなら大丈夫なんだよ。」
「へえ。」

また、誰の声もしない時間が生まれる。今度は十数秒ほどだ。

「シズ……ワタシと一緒に、救助隊をやってくれないかな?」
「……え?」
「ほら、ワタシ、シズに助けられたし……不思議のダンジョンにいたとき。だから一緒にやるならシズかなって。」
「あのときはなんとかなったけど……ボク、そんなに強くないよ?」
「あはは。ワタシだってそんなに強くないし、そこは気にしなくていいよ。……それに救助隊って、いろんなところに行くからさ。どこかでシズの記憶の手がかりが見つかるかも知れないよ?」

シズは悩む。確かに、自身についてわかるかも知れないというのは魅力的だ。"いろんなところに行くから手がかりが見つかる"というのは正直理解しかねるが、町で見た救助隊バッジを持つポケモンの数から考えるに情報面の恩恵が大きいのは確かだろう。しかし、やはり……シズを助けた救助隊、チークのように戦える自信がないのだ。まともに使えるワザといえば、"たいあたり"たった1つだけ。

「……うん。わかった。なるよ、救助隊に。」

悩んだ末に、シズは思い出す。レイがお礼を言ってくれたときの、あの心が満たされる感覚を。そのことを考えていると……いつの間にか、"みんなを助ける仕事"の救助隊になってほしいというお願いにYESと答えてしまっていた。

「……い、いいの?」
「うん。もちろん。」
「や……やった……夢じゃ、ないよね?」

ユカは自分の頬を思いっきりつねってみる……痛い。夢じゃ、ないんだ!!

「……やったぁぁぁぁぁーーーっ!!!!」
「もしもーし?」
「あっ」

藁のベッドから飛び上がり、全身でうれしい気持ちを表現していたユカだったが、ガチャリという扉の開く音を聞いてまるで凍ったかのように固まってしまう。チークが掃除を終えたらしい。

「ご、ごめん。」
「フフ、オレが救助隊になった時もこんな感じだったな。……それよりもだ、シズ。本当にいいのか?仕事に就いてしまったら、自分の身元がわかったとき、もとの生活に戻るのに苦労するかもしれないぞ」
「さっきのやりとり、全部聞いていたんですか?」
「隣の部屋なんだ、聞こえて当然だろ。……で、質問の答えは?」
「……もとの生活とかはもう、気にしてません。大丈夫です。」

気にしていないと言えば、ウソになるが……チークは、人間はもうすでに絶滅してしまっていると言った。記憶は取り戻せるかもしれないが……結局、もとの生活なんてどうせ取り戻せないだろう。そう割り切って生きていくしかないのだ。

「……そうか。さ、もう寝ようぜ。救助隊になると言っても、こんな真夜中に外を出歩くわけにはいかないだろう?」

チークはその手に、藁の塊を持っていた。それを床に敷くと、そのままその上に寝っ転がる。

「それじゃ、おやすみ」
「おやすみ。」
「……おやすみなさい。」

みんな……特に、シズとユカの二匹は今日の出来事ですごく疲れていたのだろう。そう時間もかからずに、全員眠りに落ちていく。
……救助隊。ボクはそれについて全く知らないけれど……でも、なると言ってしまったんだ。明日からがんばろう!

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