File 15 -黒中夢-

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 総合ホールでの戦いから1週間、えっこたちは『天文台』付近で感知された模倣体の強い反応を手掛かりに、朝のひんやりとした空気の中廃墟の街並みを進んでいくのだった。
 前回の戦いから1週間程、朝の日差しの中で次の目的地へ向けて歩みを進めているえっこたちの姿が見える。

「それにしても、あれだけのダメージがたった1週間で治ってしまうなんて……。アークの科学力には未だに毎回驚かされますよ。」
「失血してた俺も、骨折してたお前もやるこたぁ同じだもんな。細胞増殖装置で血液や骨を作っちまう、それで全部片付くわけだ。」

「君が時々使ってる人工肉の培養装置、あるでしょ? あれも再生医療とか細胞増殖の技術を応用して作ったものらしいし。」
「ああ……あの台所にある……。この世界じゃ肉が手に入らないんであれを使うしかないですが、結構グロテスクなんですよね……。あの装置も未だに慣れない感じがありますね。」

どうやらアークの科学技術で細胞増殖と体組織再生を行ったらしく、スィフルもえっこも以前のように何も問題ない様子で探索に参加していた。今回は街の東側にある『運河地区』エレベータを使用して地上へ出て、そこから最終目的地まで向かっているようだ。


「ここは今までの街並みとは違って、高層ビルが立ち並ぶ景観だったんだろうな……。建物そのものはボロボロに朽ち果ててはいますが、この街が栄えていたことは鮮明に脳裏に浮かぶようですよ。」
「この周辺は、7年前にメディオキュールを見つけた例の塔……『キュウリの塔』ってのがあったでしょ? あの界隈に匹敵する程の金融街が広がってたって、学校の歴史の授業で習ったっけか。だからえっこの想像は正しいと思うよ、人間が生きてた頃は、きっと全面窓ガラス張りの高層ビルが運河に囲まれるようにして並んでたんだろうね。」

朝靄がかすかに残るこの静寂の時間帯に、窓ガラスが風化して鉄骨や基礎も露わになっている高層ビルの残骸たちが風景に混ざり、どこか心の内に寂しさと虚しさを残してくるような、そんな独特の廃墟の街の景色が出来上がっていた。

ユヅキによるとここはえっこが最初のメディオキュールを7年前に発見した場所、キュウリの塔のある川辺と並んで街の二大金融都心だったらしく、目を閉じればかつての栄華が瞼の裏に浮かんでくるのは、えっこたちだけでなくここを訪れた誰にだって起こる現象なのかも知れない。


「おお、何だか開けた場所に出てきましたね。ここが例の『天文台』のある公園なんでしょうか?」
「だな、元々はさっきの金融街の外れに、運河を伝って外部に物を運ぶ商船会社なんかがあって、その経営者の豪華な屋敷もちらほらあったらしい。そこのバカでかい神殿みたいなのも本来はそうなんだとさ。まあ、後に海軍の施設として使われるようになったとか聞くけどな。」

運河地区から橋を渡ると、神殿のような太い柱が立ち並ぶ回廊を携えた建物が姿を現した。スィフルが語るには、この海運御殿とも言うべき経営者の屋敷は大航海時代の栄華の後、立地を活かして海軍施設として生まれ変わったようだ。それを象徴するが如く、付近には朽ち果てた船の模型や大きなボトルシップのモニュメント、大砲などが飾られているのが見える。


「この辺りだね、敵の反応っぽいのが出てたのって。全く、私は朝はあんまし強くないからやめて欲しいってもんだよ……。このムカつきは全部斧に込めて、敵に叩き込んでやろうかって思ってるとこ。」
「この間のホールでの戦闘で何もヒントを出さないと思ったら、今度はドデカい生体反応ときた。まあこれも見え透いた囮なんだろうけどよ、それでも今はリスク覚悟でチマチマと奴から情報を引き出してくしかねぇわな。」

どうやら先程話題にあった『天文台』に大きな生体反応が確認できたらしく、創世主の仕業だと踏んだえっこたちは、この場所へと足を運んだようだ。海軍施設の裏手には大きな芝生の公園が広がり、公園の小高い丘には、巨大な赤い虫ピンのような物体が刺さった小さな天文台が見えた。

えっこたちは一度顔を見合わせるが、覚悟を決めて公園の芝生に足を踏み入れ、丘の上へと一歩一歩近付いていく。







 「うーん、この間のホールも広くなかったけど、今回のはめちゃくちゃ小さな建物だよね……。こんなんじゃ普通のサイズのポケモンでもまともに戦えっこないレベルだよ。」
「まさかこんなクソ小せえ小屋みてぇなとこに敵が潜んでるとも考えられねぇしな……。だがあの創世主のことだぜ、いつ何時どこからやって来るかも分からねぇ。或いは、もう既に模倣体を呼び出してるのか……。」

「これは……!! お二人とも、その可能性が高い!! 既に敵は目の前にいる、戦闘準備を!!」
「えっ!? 目の前って言われてもそんなのどこにも……。」

ユヅキがそのように口にした瞬間、えっこは蒼剣を構えてユヅキの方へと振り返った。すると、何やら靄のようなものがユヅキの近くからするりと遠ざかる感覚があった。


「あれはっ……!! 今確かに見えた、敵の正体はゲンガーだったよ!!」
「危うく不意討ちをもらうところでした、やはりゴーストタイプだから気配を消しながら移動し、気付かれないように攻撃することを得意としているのかも知れません。みんな固まって警戒を……!!」

ユヅキが間近で捉えた敵の正体は、ゴーストタイプの筆頭とも言えるシャドーポケモン・ゲンガーだったようだ。一同は再び敵の気配が近付かないか周囲を見渡すが、思ったよりも長い間敵に動きがなく、緊迫した空気がえっこたちを疲弊させていく。


「まずい……敵はこちらをじっくりと追い詰めて、俺たちの気の緩んだところを狙いにくる算段か……。」
「だとしたらやることは1つだぜ、敵が動かねぇなら、こっちが先に見つけてぶん殴る!!」

えっこたちは一層集中力を働かせ、敵が潜んでいないか周囲の様子を探る。スィフルの言う通り、敵が待ちながら長期戦に持ち込むつもりでいるならば、こちらが先にその居場所を捉えて素早く仕留めるのが、一番効果的な戦法といえるだろう。


「とは言ったものの、隠れられそうなとこなんてこの天文台くらいなわけだがな……一体この建物のどこに消えやがった……?」
「隠れるとしたら建物の表面か物陰だろうか……。或いはゴーストタイプならば、壁なんかを透過して内部にも自由に出入りできるのかも知れない……。…………くそっ、全く見当も付かない……!!」

「……ん? 何か妙な感じが……この時計って動いてるんだっけ? 時計の針ってこんなんだっけ……?」

ユヅキは天文台に備え付けられた時計を眺めて呟く。針は文字盤の7時と50分を指しており、現在時刻の8時50分からは1時間遅れだ。ユヅキは必死に時計を眺めながら考え、違和感の正体を探る。


「ああっ!!!! おかしい、あの時計変だよ!! 何で短い針が7時の位置ぴったりにあるの!?」
「そうか、分針が10の位置にあるならば、つまり6時50分か7時50分ならばあの時針の位置はあり得ない!! そこに化けているのかっ!!!!」

時計の時針は分針の動きと連動しており、分針が一回転すると丁度次の数字を指すようになっている。ユヅキやえっこの言う通り、50分であれば7時台にしても6時台にしても、時針は次の数字からほんのわずかにズレていなければならない。

やはりえっこたちの予想は的中したらしく、投げ蒼剣が当たる寸前に変身を解いた敵は、靄のようにフワフワと浮かびながら、再び空気中へと溶けるようにして姿を晦ました。


「ああっ、また逃げられたっ!! これじゃあイタチごっこだよ!!」
「いや、さっきと違って敵が姿を隠しただけっつーなら、もしも存在そのものを消すことができねーってが分かれば、こうしてやれば一発だぜ!!」

スィフルは両腕の刃で地面を掘り返し、土を空気中に巻き上げて周囲を茶色一色に染め上げた。土煙に思わず目を覆うえっことユヅキだったが、スィフルはしたり顔を見せて周囲を確認する。


「ちょっ……スィフル……!! 何も見えないってばこれ!!」
「俺の目は砂嵐の中でもお構いなしに物を見ることができるんでな。そして巻き上げた土が敵の位置を反響してるのが分かるせ、そこにいやがったか!!!!」

ゴーグルのような透明の組織に目が守られているフライゴンだけに、スィフルは巻き上げた土の中でも周囲を確実に見通すことができるらしい。そして先程とは異なり、単に姿と気配を透明化させて緊急退避しただけであろう敵の性質を逆手に取り、土煙に敵の反響音や振動を伝えてもらい、位置を特定したようだ。


「手応えがあったぜ!! どうだ、この擬態野郎!!」
「よし、土煙も晴れてきた……!! あの紫炎、スィフルさんの『りゅうのいかり』が命中したか……もう逃げも隠れもできないぞ!!」

えっこはようやく少しずつ晴れてきた土煙の中に、紫炎に包まれた透明の塊を見出す。スィフルの攻撃を受けたことで擬態が通用しなくなった敵に、えっこの蒼剣による追撃が決まり、敵は今度こそ完全に消滅した。


「よし、一撃でくたばりやがったか!! さーてと、後はあの変な液体がねぇか探すだけだな。」
「いや……消滅したってことは…………。いつもと何かが違う、様子が変だ。」

「えっこの言う通りだよ、もし今の一撃で力尽きたなら、模倣体の外殻が壊れて中身のモヤモヤが出てくるはず……。それがないってことは……!!」

勝利を確信して敵のいた位置に向かうスィフルに対し、えっことユヅキは一歩も動くことなくそのように叫んだ。確かに模倣体を撃破したのならば、ポケモンの殻が壊れて中身の黒い靄だけが空気中へと放出されるはずだ。それが起こらなかったことに気付いた一行は、再び1ヶ所に固まって周囲の状況に全神経を研ぎ澄まし始めた。








 膠着状態に突入してからどれだけたっただろうか? 依然として敵からのアクションは確認することができず、一同の精神力がじわじわと擦り減らされていった。さりとて敵がこの場を立ち去ったわけではないことは確からしく、迂闊に警戒を解くこともできない状態だ。


「これは面倒なことになったね……。この前みたく狭い屋内も大変だけど、これだけ見通しのいい屋外で姿を消されると、本当にどこから襲ってくるのか絞り込めなくなるよね。」
「さっきみてぇに砂を巻き上げるわけにもいかねぇしな……。敵が2度も同じ手に引っかかるとは思えないし、あの状況で周りを見られるのは俺だけ……。つまり、えっことユヅキが無防備になっちまう。本当に位置に確証が持てでもしねぇと使えないな。」

「…………なっ、そこか!!」

周囲をじっくりと探るユヅキとスィフルだったが、えっこが突然動き始めたことで、一瞬だけ2匹の注意がそちらに移る。


「どうしたのえっこ、敵がいたの……ってうわっ!?」
「何だこりゃ、目が!!」

「何っ!? これはどういう…………!?」

突然全員の視界がブラックアウトした。時間にして3秒もなかっただろうか、まるで真夜中に停電したかのように目の前が完全な闇に包まれた後、一瞬にして視界が元に戻った。だがそこにあったのは、えっこたちを一気に混乱させるに十分な変化だった。


「痛っ……何するのよえっこ……!!!?」
「えっ、そんな……すみませんユヅキさん、あなたを狙ったりなんか………!! 何で俺は敵じゃなくユヅキさんを……!?」

「んあっ!? 視界が変わった!? さっきまで天文台の方を見てたはずだぞ、何で公園側を……!?」

えっこの攻撃はユヅキに命中し、ユヅキは苦痛の表情を浮かべていた。えっこは確かに敵の気配を感じて敵に攻撃を仕掛けたはずであり、現に飛び出していった方向的にユヅキを攻撃してしまうことなとあり得ない。また、スィフルも暗転前後で見ている場所が変わったらしく、一瞬の出来事に完全に戸惑っていた。


「やってくれるじゃねぇか……自分は手を汚さずに、仲間内で潰し合うように仕向けるってわけかよ。俺はそういうのマジでムカつくんだよな……てめぇは絶対に許さねぇぞ。えっこ、ユヅキ、必ず敵の手の内を暴いて、その腐り切った魂胆ごとぶっ叩いてやるぞ!!」

スィフルがどこに隠れているとも知れない敵の姿を睨みつけるように鋭い眼光を飛ばし、そのように告げた。えっことユヅキも静かに頷くと、敵の行動の中に何か手掛かりを見い出せないかと考えながら、次の攻撃に備えて警戒を強めた。

(To be continued...)


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