第43話 水底に沈めたい思い

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 1つ、水の落ちる音が響く。 それに促されてリアが目覚めたとき目の前にあったのは、丘の芝生とは明らかに違う、硬い質感の床だった。

 「......はっ!」

 すぐさま起き上がり、記憶を整理する。 そうだ、確か自分は、協力を仰いで、感謝を言おうとしたら......煙幕に閉じ込められて。
 そこから先が、思い出せない。

 「うっ......」

 頭上を見上げてみる。 そこにあったにはまさしく、鍾乳洞と呼ばれる洞窟の天井だった。 何故ここに、というのを考える暇もなく、声がリアの耳に届く。 聞き覚えのある、彼女にとってあまりに耳障りな声。

 「起きたか」
 「......っ、あんた......!」
 「『父親』に向かってあんたはないだろ? にしても、こう面と向かって会うのは久しぶり......」

 ......エルレイドがリアを撫でようとするが、それを手で払う。

 「触らないで! ......なんでよ、あんた、捕まったんじゃないの......? どういうこと? 今度は私を誘拐するの? なんで、なんでよ」

 エルレイドはキョトンとした顔になり、そしてすぐに笑った。 声が壁に反響して、不快感がリアを襲う。

 「何がおかしいの!?」
 「おかしいも何も......リア、お前は勘違いをしているね。 全てはお前をここに連れてくるためだよ。 ここで2匹だけで住もうじゃないか」
 「は......!?」
 「嘘じゃないさ、1回やったのは一応練習なんだよ。 捕まりはしたけども」
 「......そんな、突拍子のないこと言われたって......」
 「本気だよ」

 舌に油でも乗せているのか、口から非常識な言葉がつらつらと出てくる。 リアは絶句せざるを得なかった。

 「お父さんは心配なんだよ、お前のことが。 だからずっと側にいてやろうじゃないか。 お前は昔はお父さんっ子で」
 「ふっ、ふざけないで!! 私はいつまでも子供じゃない!!」
 「俺の子であるという事実は揺らがないだろう?」
 「だから何!? 血が繋がってようが、私とあんたは別のポケモン!! なんで一心同体みたいな感じで話してんの!?
 じゃああんたは、私をさらうだけのために、他のポケモンの心を傷つけたっていうの!?」
 「そうだよ」
 
 あまりにもあっさりした回答。 リアは自分の顔から血の気が引くのを感じた。 どこまでも狂気に囚われたその姿には、恐怖さえも感じられる。
 
 「どこまで外道なの......?」
 
 恐怖のせいか、声のボリュームも弱々しくなってしまった。

 
 
 
 
 
 
 「ここだ!」
 
 警察から借りたもう1つのテレポートの結晶で、2匹はダンジョンの入り口にやってきた。
 テレポートの結晶はネイティオのサイコパワーによって作り出されたもので、警察は勿論、探検隊が使用することもまれにだがある。 例としては、遠くの高難易度ダンジョンで凶悪なポケモンの目撃情報が得られた時など。 幸いにも同じ行き先のものを警察が複数所持していたおかげで、探検隊だと分かると快く貸してくれた。
 行き先は『明鏡の鍾乳洞』。 その名の通り、「透き通った水が鏡のようにポケモンを写す」と言われる鍾乳洞の地下ダンジョンだ。 ......本来なら純粋な探検活動として行きたい、水と鍾乳石が美しいダンジョン。 しかし、我儘も言っていられない。 得た情報からして、リアがここに連れ去られたのは間違いではない。 それはユズとキラリの情報を重ねればすぐ察しがついた。 だから、一刻も早く彼女を助けなければならなかった。
 
 
 ダンジョン内に突入する。 リアの姿を探し、無ければ階段を見つけて進んでいく。 たまにキラリは景色に目が止まりかけたが、そのたびに首を振って進み続けた。
 今回は、戦闘面に関してはユズの活躍が著しかった。
 なんせここに出てくるのは水や岩、もしくは地面タイプばかり。 [マジカルリーフ]を1、2発放てば、その場から去ってくれる。 草タイプ技を恐れて逃げる者もいる有様だ。

 「ユズナイス!」
 「このまま行こう、少しでも早く!」
 「......うん!」


 ......いや、どちらかというと、ユズの気迫の方を恐れたのかもしれない。 淡々と、無駄なく、最速で。 リアの元へ行こうとしていたから。
 
 
 
 
 
 そうこうしているうちに、最下階へ辿り着く。 ダンジョンではよくあることだが、そこは広間になっていた。 そして、ありがたいことにリアもそこにいた。 横にエルレイドもいる。 ......恐らく、奴が実行犯。
 
 「ユズさん!」
 
 リアの安堵とも取れる叫び。 彼女の体に目立った怪我はなく、2匹はそれに少しホッとする。 もっとも、犯ポケはそんな時間は与えてくれない。 リアの横に立つエルレイドは舌打ちをした。
 
 「ちっ、邪魔者が......。 探検隊にこれ以上捕まってたまるかよ」
 「これ以上......ってことは!」
 「ああ、脱獄したエルレイドだよ。 せっかく......娘とせっかくずっと一緒にいるチャンスなんだ。 お前らに邪魔はさせない!」
 
 そう言うなり突っ込んでくるエルレイド。 勿論、狂気の形相から放たれた「ずっと一緒にいる」という言葉が、通常の意味を成さないというのは2匹にもすぐに分かった。 取り返しのつかない異常さを感じ取りながらも、必死に応戦する。
 
 「[スピードスター]!」
 「[サイコカッター]!」
 
 念力の刃と星がぶつかり、相殺し合う。 キラリとエルレイドは飛び上がり、また技を放った。

 「十八番が駄目なら......新技くらえぇっ! [じゃれつく]!」
 「なっ......!? [かげぶんしん]!!」
 
 効果抜群の技を避けようと、エルレイドは素早く身をかわす。 覚えたてなのもあり命中難なのか、キラリはそのまま技を外してしまった。 しかしフォローがないわけではない。
 
 「[マジカルリーフ]っ!」
 
 技をかわして一安心のエルレイドに、隙もなくユズの技が襲い掛かる。 これは避けられず相手は受けた。
 
 「ぐっ......なら全方位にっ!!」
 
 サイコカッターをそこらかしこに放つ。 方向が予測できないために、避けるのには一苦労だった。 最早やけくそともいえる攻撃。
 
 「......やりづらいなぁ!」
 
 尻尾を鋼鉄に覆い相手に叩きつける技、[アイアンテール]。 それをもってエルレイドにダメージを与えようと試みる。 高く飛び上がり、勢いのままに相手に尻尾を叩きつける!
 
 「がっ!」
 
 結果技は通った。 相性の問題もあり致命傷にはならなさそうだが、隙を作るだけでも十分だった。 勢いそのままに、今度は[スイープビンタ]を叩き込む。
 流石にまずいと思ったのか、エルレイドは後ろに下がる。 そして激昂した様子で叫んだ。
 
 「なんだよっ! 俺はただ娘と一緒にいたいだけだ!」
 「なっ......何さそれ、そんなの、ただの暴論ってやつだよ! 一緒にいたいからって、誘拐なんかしていいわけないじゃん!」
 「黙れっ!」
 
 キラリが反論する。 だがどうしても受け入れられないようで、エルレイドはキラリのところに突撃する。
 
 「[まもる]!」
 
 間一髪、ユズがそれを防いだ。 エルレイドはまた舌打ちをした上で、彼女に向かって言う。
 
 
 「なぁ、探検隊。 ダンジョンを攻略して栄光を得るためならお前らは『なんだってする』だろ? ダンジョンという自然の世界にズケズケと入り込む。 場合によっちゃあ、お前らはポケモンの心にも入り込むよな? ポケ助けしたっていう喜びを得るために。 それが結果的に何を生むかなんて考えたことないだろ?」
 「はっ......?」
 
 両方が後ろに飛び退く。 エルレイドは歪んだ顔で、こう吐き捨てた。
 
 「それと似たような感情だよ。 やり方の問題だ。
 ......というか、お前らが甘いんだ。 気づかされたんだよ。 ......俺はもう違う。 目的を、『娘とずっといる目的を果たす』ためなら、どんなことをするのも厭わない。 その過程で誰か傷つけたって大したことない。 目的を邪魔した奴が悪いんだ」
 「......何ですって?」
 
 ユズの中で、ざわりと何かが騒ぎ出す。
 
 「......だからといって......」
 「誘拐なんか、だろ? はいはいもう聞き飽きたよ。 他の方法の提示すら出来ないくせに。
 なにが探検隊だよ? ちょっと強いからって偉ぶって。 俺を倒すことでしか解決できないんだろ?」
 「黙って......リアさんの気持ちも知らないくせに!」
 「ああ知らないさ。 あいつは自分からは俺に明かさないからなぁ......だからこそ逃げ場もなくしたかったんだ。 2匹きりならきっと......!」
 「そんなの屁理屈だ!」
 「くははは! 何度でも言えばいいさ! 例え狂気と言われようが、お前らが信念とやらを貫いてる中で、俺の気持ちを貫いて何が悪いっ!!」
 
 [インファイト]が繰り出される。 防壁もこれには耐えられず割れてしまい、2匹は少し吹っ飛ばされた。
 
 「だからさぁ......いい加減ここで消えてくれよ。お前らに生きていられると邪魔なんだよ!」
 
 エルレイドは再び[サイコカッター]を放ってくる。 今度は[リフレクター]を張ってユズが防ぐが、受けるたびにさっきの言葉がリフレインしてくる。
 
 
 
 
 
 傷つける。
 それが大したことない。
 邪魔した奴が悪い。
 
 ......生きていられると、邪魔。
 
 
 
 「......〜〜っ!」
 
 頭がクラクラする。 心なしか、目の前の世界は正しい色を帯びていないように見えてきていた。
 何かの景色が脳に過ぎって、頭が壊れそうになる。 それはノイズの入った砂嵐のようで鮮明ではない。 でも、下衆な声が響いているのはわかる。 そう......ちょうど、このエルレイドのような。
 そして声が喉から迫り上がる。 許さないという声が。
 
 リアを救いたくて焦る気持ち、エルレイドが許せない気持ち。 その2つの思いに挟まれて動けないユズは、その迫り上がってくるものに身を委ねる他無かった。
 そして、1つの言葉が静かに吐き出される。 冷たく、厳しい声だった。
 
 




 
 ......あなたみたいなのがいるから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 その時だった。
 
 「ぐおっ!?」
 
 地面を突き破り、植物が生えてくる。そしてそのままそれはエルレイドの体を縛り付けた。 勿論引きちぎろうと力を込めるが、それも無駄。 逆に抵抗する程、力は強くなっていった。
 
 「なっ、なんだよ、これ。 おい、お前何しっ......うぐう」
 
 その異常性に、今まで余裕そうだったエルレイドの顔に汗が浮かんだ。 もしかしてこのまま......という妄想までも浮かんでくるほどの強い力だったから。
 
 「......!?」
 
 キラリとリアは驚きを隠せない。本来静かな筈の鍾乳洞が、急に、ユズの一声と共に修羅場へと変貌したのだ。 それに、あれは[やどりぎのたね]という技。 ユズは今まで、あんな技を覚えたなんて言ったことがあっただろうか。 ユズの方を反射的に見やるが、それにもキラリは絶句せざるを得なかった。
 
 
 ......彼女が、今までに見たことのないような、冷たい顔をしていたから。
 
 
 
 
 
 ユズは、そのまま身構える。 頭上に緑の光の球体が浮かんだ。 [エナジーボール]。 これもまた、彼女が覚えてなかったはずの技。
 
 「ひっ......た、助け......」
 
 殺される。
 エルレイドはもうそれへの怯えを隠せずにいた。 縛られているから、避けることも出来ない。 やどりぎに体力も吸われているから、引きちぎることなんかもう出来ない。 懇願の声が漏れ出す程、彼は怯えに満ちていた。
 ユズは、その懇願には答えない。 ......いや、言葉が出てこないのであって、答えというのはちゃんとその場に表れていた。
 緑色の光を帯びる光が、彼の視界を埋め尽くす。 これこそが「答え」だった。
 
 「ぎゃっーー」
 
 懇願も受け入れられず。 情けない声を上げて、その不届き者は1つの裁きを受けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 煙が晴れた後。 元々1匹の「父親」だった「外道」は、あっけなく気絶していた。 やどりぎで体力も吸われていたから、1撃でもう限界だったのだろう。
 
 だが、キラリは喜びの声を上げることがどうしても出来なかった。
 
 「......ユズ」
 
 キラリの声が、震える。 名前を呼んだが、答えは無い。 その場は先程とは打って変わり、静寂に包まれたまま。 鍾乳石の先の水が滴り落ちる音が、それを象徴している。 そして音がするたびに、キラリの不安は膨れ上がる。
 それをすぐにでも払拭すべく、キラリはお腹に力を込めた。
 
 「ユズっ!!」
 「......はっ」
 
 しばらくぼーっとしていたユズの顔に、いつもの表情が戻ってきた。 キラリはほっと胸を撫で下ろす。
 
 「ああよかったぁ......心配したよもう......。 というか......」
 
 キラリは、1つユズに問おうとする。 ユズがすぐにエルレイドをねじ伏せられた、1つの可能性について。
 絶対に今のは「あれ」だという確信が、遅ればせながらキラリの中に満ちてきたから。
 
 
 
 レオンの教えもあったからか、夏の間は一度も出てこなかった、「あの力」について。
 
 
 
 「ユズ、あの力......もしかして、使ってた?」
 「......え」
 
 はいでもいいえでもない答え。 ユズの顔には驚きが浮かんでいた。 キラリはそれに純粋に疑問を抱く。
 
 「えっ、ど、どしたの?」
 「待ってキラリ......これ私やった?」
 「ふえ?」
 
 ユズは倒れているエルレイドを指差す。 いまいち状況が理解出来ていないキラリに対して、ユズが捕捉する。
 
 「私、力......使ってた?」
 「え......ええっ!? 覚えてないの!?」
 「分からない......無意識、だった。 エルレイドに怒って......それから......それ、か、ら......」
 
 ユズの顔が怖れに染まっていく。 そしてそれはキラリも例外ではなかった。 レオンの言葉にずっと忠実に従ってきたというのに、約束を初めて破る形となってしまったのだ。 それも、自身の意思によるものではなく。
 2匹は気づいたら、互いの手を握っていた。 少しでも不安を和らげようと。 そんな中、もう1つの声が2匹のもとに響く。
 
 「あのー......お取り込み中のところ、悪いけれど......」
 
 おずおずと話しかけてきたリアに対して、2匹ははっとする。
 
 「あっそうだごめん! 警察のところまでこいつ連れてかなきゃ......って、どうやって運ぼう」
 「それについては心配なく」
 
 リアがすぐさま、[サイコキネシス]でエルレイドを浮かせる。 彼は宙に力無く浮くが、彼女はそれに対して何の反応も示さない。
 
 「重かったりしない?」
 「平気よ。 それに、あなた達だって触れたくないでしょ。 こんな奴に。 これが1番いいのよ......」
 
 リアの顔が、少し暗いものになる。 だが、すぐに作り笑顔を2匹に向けた。
 
 「これでお母さんも分かってくれる。 あんな奴に正義感とか求めるのが間違ってるって。 あの指輪だって、もう捨てるのに反対されたりはもうーー」
 「あっ......ねぇ、そのことなんだけど」
 
 キラリが言葉を遮る。 そしてまた少し口ごもった後、勇気を振り絞り続ける。
 
 「指輪は、取っておいてくれないかなって ......あれ修理したの、私のお兄ちゃんなんです。 お兄ちゃんが頑張ってるのを、その、見ちゃったから......それをすぐに捨てるっていうのは、なんというか......うん、とにかく」
 
 キラリはリアを真っ直ぐ見据えた。
 
 「思い出とか関係なく、『ただの綺麗な指輪』として持っていてもらえることは、出来ませんか......?」
 
 
 
 
 リアは少し考え込んだ末に、頷いた。
 
 「......分かったわ」
 「本当!?」
 「ええ。 あなたは命の恩ポケでもあるもの。 お願いは聞いてあげなきゃ。
  ......それに。 あの『指輪』は、とてもとても、綺麗だから」
 
 少し息を吸う。 そして吐く。 それから、今まで見なかったような微笑みが、リアの顔を染めた。
 まるで全ての過去を清算......忘却しようとするような顔だった。
 忘却。 聞いてしまうと心にモヤがかかる響き。 だが、2匹がそれを止める資格は無かった。 寧ろ、キラリがそれを後押ししたようなものでもある。
 
 正直、複雑だった。 思い出はそう簡単に忘れていいものじゃない。 キラリの中にはその考えが根付いていたから。 でも、今はもうそうしてもらうしかなかった。 指輪を捨てない口実をなんとか作るために。 彼女にとっては、苦渋の決断だった。
 ......忘れていいものも、きっとある。 それを、3匹の少女は洞窟を出るまで、ずっと己に言い聞かせていた。
 
 そして特に、ユズは切実にそう思っていた。
 この事件に対する自分の反応、そして行動。
 無意識な力の発露。
 これと、今まで見た夢などが、自分の過去の手掛かりになるのなら......不吉なものしか感じられなかった。
 
 (......嫌だな)
 
 ユズはリアと同じように、息を吸って、吐く。
 心の水底に眠る記憶。 せり上がりかけたそれを、忘却の彼方に再び押し込めるために。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 暗い屋敷の中。 珍しくフィニは調べ物にふけっていた。 といっても慣れていないせいか、そこまで集中しきれてはいない。 そこにラケナが茶々を入れてきた。
 
 「ほう......お主が調べ物......悪いものでも食ったかの?? 薬でも飲むかの??」
 「食ってねーよばーか!! つーか寧ろ絶食してんd」
 
 その時、フィニの腹の虫が、「飯を寄越せ」と悲鳴を上げた。
 
 「......サンドイッチでも作るかの」
 
 
 
 
 簡易的なオボンの実のサンドイッチを頬張りながら、フィニはラケナに調べ物の理由を伝える。
 
 「ほら、俺春に『ソヨカゼの森』とやらに行ったじゃん?」
 「ああ、あのボロ負けしてヨヒラちゃんに怒られてたやつのう。 あれは愉快じゃったのう、ほっほ」
 「潰すぞてめぇ」
 「冗談じゃよ。 ほれほれ、続きを話さんとワシは協力も出来んぞ?」
 
 ぐぬうと振り下ろそうとした右腕を抑え、フィニはイラつきを顔に浮かべながらも続けた。
 
 「......そんでだよ。 やべぇチコリータに会ったっつったじゃねぇか? 俺、正直そいつが気にかかってる」
 「魔狼に関係する感じでか?」
 「なんとなくだけどな。 でも魔狼自体ではない気がすんだよなぁ......」
 「理由は」
 「むかーし昔に、縦横無尽にポケモン乗っ取って暴れ回ったやつ、だぜ? だけどあのチコリータが強くなった理由っつーのが、どうもそれとはずれてる。 パートナーやられそうになった時だぜ? 真逆だろ?」
 「となると?」
 「魔狼倒したのって人間だろ?」
 「まあ、そうじゃな」
 「人間って、爪も牙も技を出す力もねーんだろ? そんなやつがどうやって魔狼ぶっ倒すんだよ」
 「なるほどのう......つまり魔狼に対抗し得る力があったかも知れんと」
 「ビンゴ! ......なんだよてめぇ、たまには気合うじゃねぇか」
 「ワシは考察しただけじゃもん。 気が合うなんて全く思ってないし正直その考えには反対じゃよー」
 「はぁっ!? なんでだよ教えろくそじじい」
 「ミステリアスさは大事なものじゃぞい」
 「それ一応味方間でいるか......?」
 
 呆れ顔を示すフィニ。 そして、ラケナは「それで?」と問う。
 
 「一応こちらから出向いてみるかの? 分かることもあるかもじゃぞ」
 「そうだなぁ......挑戦状的なの書いてくれ」
 「なんでワシ!? 仕事増えるじゃろう」
 「俺は二徹もしたから眠いんだ寝かせろばーーか!」
 
 あっかんべーをして、フィニは部屋をずんずんと出て行った。 1匹取り残されたラケナはため息をつくことしか出来ない。
 
 「全くもう、じゃの......くく、あいつも頭が結構回るんじゃの」
 
 笑ったラケナは、自分の毛皮に収納してある、1枚の古びた写真を取り出した。
 
 「ふう......あと少しかもしれんの......」
 
 愛おしそうにそれを見つめて、写真に対して一言、語りかける。
 
 「お前達は、こんな形で三途の川を渡ったなら、どう思うかの......?」
 
 手に強い力がこもる。 声をかけられた古びた「家族写真」は、当然何も答えることはなかった。

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