第27話 今にも崩れそうな大地の上で

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ねぇ、起きて、起きてったら」

 身体が揺れる。誰かに揺すられているようだ。そこでようやく、自分が倒れている事に気付いて、ゆっくりと目を開ける。

「わあ、よかった!」

 自分を揺すっていたのは、視界に映る紫色のポケモンなのだろう。彼、あるいは彼女がどんなポケモンか、自分にはそれが分からなかった。
 否、自分が何者かも、思い出せない。

「っ……!」
「だ、大丈夫……?」

 鋭い頭痛に自分は顔を歪ませる。それを心配そうに覗き込むポケモンに、自分は安心させるべく笑いかけた。

「……大丈夫、だよ。ちょっと、記憶が飛び飛びで」
「記憶?記憶そーしつってやつ?」
「そうかもしれない、はっきり言って自分がどうしてここで倒れているのか、皆目検討もつかないんだ」

 それなのに、何故だか妙に冷静な自分がいる事に対して、少し疑問を感じながらも、辺りを見渡す。なんて事のない、ただの森だ。もっとも、自分にはここが何処だかなんて分かるはずもないけど。
 そうなると、自分を起こしたこのポケモンに少し話を伺う必要がある。

「……聞きたいんだけど、自分がここに倒れていたのかい?」
「ん?オマエの事?んーっとね、分かんない!オイラもこの世界に初めて来たから!」
「…………この世界?なんだ、君はまるで異世界から来たような言い方だな」
「そうだよ?」

 あっけらかんにそう答える紫色のポケモン。衝撃はあるものの、自分の知識ではこのポケモンがどんなポケモンなのか、どんな名前なのか全く分からない。それは、このポケモンの言う通り、このポケモンが異世界から来たからだと考えると、得心がいく。最も、記憶喪失であろう自分がその知識を忘れている、という可能性も否定は出来ないが。

「君が異世界の住民だとして、どうやってこの世界に来たんだ?いや、そもそもこの世界が君の元いた異世界という可能性も……」
「それはないよ〜」
「どうして?」
「だって、オマエについてきてオイラこの世界に来たんだもん!」

 思考が追いつかなくなった。自分は深呼吸をし、このポケモンの証言をまとめる。

「…………自分も、異世界の住民という事か?」
「うぅん、向こうの世界でオマエみたいな緑色は見た事無かったもん。でも突然わーぷほーるを通って現れたから、遠くから眺めてたんだ〜!そしたら用事が済んだのか、またわーぷほーるで帰ろうとしてたからそれに一緒に入ったって訳!」
「成る程ね、うん……理解が追いつかないが……」

 元々の自分はこの世界の住民で、なんらかの方法(このポケモン曰くワープホールを通ってきた)で異世界に訪れ、また戻ってきたのだろう。

「……という事は、恐らくそのワープホールを通ってこの世界に戻る過程で何かしら事故が起き、自分が記憶喪失になったと仮定するのが道理だろう」
「よく分かんないけど、れーせーだなオマエ」

 しかし異世界か、にわかには信じ難いが、見た事の無いポケモンが異世界から来たと言っている以上、まぁ八割ほどは信じるに値する事であろう。

「それにしても、こっちの世界はすげーなー!」
「……なんて事ないただの森だと思うけど?」
「オイラの世界にはこんなオマエの身体の色みたいな葉っぱは無かった!」

 そのポケモンは興味津々に葉っぱに触れている。

「葉っぱ……という言葉を知っているって事は、向こうの世界に葉っぱはあるが色が違うのかい?」
「うん!紫色の〜オイラみたいな色の葉っぱ!」

 紫色の葉っぱ、そんな色の葉っぱはこの世界に無い訳ではないが、それでもそれが向こうの世界で当たり前だと認識されている以上、やはりこの世界とこのポケモンが来た異世界は常識が違うのだろう。

「さて、と……これからどうしようかな」
「なーなー」
「なんだい?」
「オイラ、オマエについてっていーい?」
「どうしてまた」
「だってオイラ、この世界の事なんも知んねーもん」
「そもそも、君は元の世界に帰るつもりはないのかい?」
「オマエがオイラの世界に来て帰ってこれたって事はオイラも出来るって事だろ!だいじょーぶだいじょーぶ!」

 最も、その“オマエ”は帰り際に記憶を失って今ここで困っているんだけどね。

「やれやれ……まぁ、構わないけどね。ただまぁ、行くべき場所とか決めていないし、適当な旅になるけどそれでもいいのかい?」
「んーん!オイラこの世界の色んな所見たい!オマエ色んな所に行くんだろ?だったらついていく!」

 いや、別に色んな所に行くとは言ってないし、記憶の手掛かりになりそうな場所があるならそこに優先的に向かうけど……

「差しあたっては、君の名前を知りたいな。名前はなんていうの?」

 紫色のポケモンは首を傾げる。

「名前……?」
「名前、無いのかい?」
「オマエはなんていうの?」
「…………うん、思い出せない」

 互いに顔を見合わせて、笑う。

「あっははは!似た者同士なのかもしれないね」
「オイラもオマエに親近感湧いたぞ!」
「でも、まぁ……名前がないってのは不便だし、君の事は“No name”からノームって呼ぶ事にするよ」
「ノーム……ノーム!いい名前だ、オイラ気に入ったぞ!それで、オマエは?」
「そうだね……うん、君と同じように“名無し”から

             僕の名前はシナだ」

 こうして、記憶を失った僕ことシナと、異世界から来たという謎のポケモン、ノームと共に、記憶探しの旅が始まるのであった。

 そんな僕達は、早速森から出るべく森の中を歩いていると、妙に焦った様子のハハコモリと出会った。

「そこのレディー、如何なさいました?」

 気が付くと、僕はそのハハコモリの側に立ち、蔓を使ってハハコモリの手を取る。

「ひぇっ!?」
「ご安心ください、怪しい者ではございません。貴方様のフェロモンに導かれやってきた、哀れなカエルです」
「相当怪しいと思うぞ〜?」
「見た所、何か恐怖、怯えといった感情が見受けられます。何かあったのですか?」
「多分半分くらいオマエのせいだぞ〜?」
「あっ、いえ……その…………」

 ハハコモリは僕達の様子を伺いながら、言い淀む。成る程……

「おおよそ、自分の息子か娘とはぐれてしまった、という所ですか?」
「ええっ!?な、何で……!」
「これですよ、これ」

 僕はハハコモリの手を蔓で握る。粘着質な糸が付いている。

「この糸はクルミルのもの、そして知っての通りハハコモリとクルミルは進化関係にある。つまり、自分の息子あるいは娘のクルミルと共にこの森にいたがはぐれてしまった……そうでしょう?」
「は、はい……突然爆発音の様な物が聞こえたと思ったら、地盤が崩れて……気が動転して息子を……置いてきてしまったのです……!」

 ハハコモリの目に涙が溜まり、体を震わせる。

「……その爆発音の正体も気になる所だけど、何よりも貴方の息子さんが心配だ。そのはぐれた場所に連れて行ってもらいますか?」
「は、はい……こちらです……」



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「ここです……」

 ハハコモリに連れられ、僕達が辿り着いたのは地崩れの起きた場所だった。

「実は……この場所は不思議のダンジョンで……」
「不思議のダンジョン??」

 ノームが首を傾げる。聴き馴染みの無い物だったのだろう。

「不思議のダンジョンっていうのは、入る度に地形も、落ちている物も変わってしまう摩訶不思議な地形なのさ」
「だから不思議のダンジョンなんだなぁ〜」
「そしてこの地崩れの起きた場所に不自然な穴がある。息子さんはここに落ちたんですね?」
「はい…………」
「ふむ……不思議のダンジョンには凶暴なポケモンもいるという。これは息子さんの命も危ういぞ」

 ハハコモリの顔から血の気が引いていく。そんなハハコモリを安心させるかのように、僕は微笑むかける。

「安心してください。私達が息子さんを助け出しますよ。貴方はここで待っていてください」
「……お願い、します……!」
「……っと、勝手に君を巻き込んじゃったけど、君はどうする?」
「ついてくぞ!」

 ノームの意思を確認し、僕達は穴の中に入る。そして、その穴の中には普通では考えられない程の大部屋が広がっていた。

「な、何だここは!?」
「ここが不思議のダンジョンだよ、ノーム。不思議のダンジョンはいくつかの部屋とそれを繋ぐ通路で構成させているんだ。そして何処かの部屋の中にダンジョンの最奥部に続く階段があるのさ」
「んー?でもよー、そのクルミル?って奴がこのダンジョンのさいおーぶにいるとは限らねーじゃねえか」
「その通り、だから虱潰しに全部探していくよ。あのハハコモリさんに、ふふふ……」
「なあなあ、不思議のダンジョンよりもオマエが気になるんだけど、オマエなんであのハハコモリを助けようとしたんだ?」

 ノームの純粋な質問に、僕はふと足を止める。そうだ、何故か自然に、まるでそれが使命かのようにハハコモリを救いたいと思ったのだ。しかし、その半分で、そのハハコモリがメスだったから助けなきゃとも思った。

「それに、オマエ記憶そーしつなのに不思議のダンジョンの事は知ってるんだな」
「……多分、それは記憶ではなく知識だからだろうね。例えば、この僕はフシギダネという種族だけど、それは僕がこの世界のポケモンの種族を知識として身に付けているからこそ言えるんだ。だからこそ君の種族が分からないから、君の異世界から来たって話も本当かもしれないなって思っているんだよね。逆に僕の名前とかは知識では無いからね、だから思い出せないんだろうね」
「へー、よく分からねー」
「よく分からないのはこっちもだけどね。そもそも君は何タイプなのかな、見た感じ……毒・虫の複合かな?」
「毒?よく分からねーけど、こういうのは出せるぜ!」

 ノームは得意げにそう言うと、頭の針の様な部分から、毒々しい液体を射出した。毒タイプを複合する僕ですら、恐怖を覚え身を引いた。すると、僕がいた場所に液体が落ち、そして地面が溶け出した。

「……ッ、それは、誰かに向かって使わないで、二度と」
「えー?オイラ達、これをかけあって遊んでたんだけどなぁ」

 それは恐らく抗体があるのだろう。そして、ノームの種族も僕達と同じように別個体がいる事も判明した。

「ま、まぁとにかくその危ない液体以外は使えないのかい?」
「そうだなー、とぉー!」

 今度は先程より落ち着いた(それでも毒々しいけど)液体を射出した。

「……これは“ようかいえき”って技だね。やっぱり君は毒タイプを有しているんだね」
「よーかいえき?カッコいいな!」
「さて、それはさておき、ノーム」

 見知らぬ事に瞳をキラキラさせるノームに、通路の先にいるコラッタを指差す。

「あれは不思議のダンジョンだけで現れる敵だ。倒すと消滅する存在、そんな敵にはルールがあるんだ」
「ルール?」
「うん。それはこちらが動かないと向こうも動かないって事。現に、あのコラッタは僕達を見つけているにも関わらず、様子を窺っているだろう?」
「そうだな〜、でも目がギラギラしてて怖いぞ!」
「ああ、それが不思議のダンジョンの敵の特徴。極稀に自我が芽生えて、仲間になってくれる子もいるらしいけど、まずは倒す事が必要だから……」

 僕は力を溜めて、コラッタに向けてエナジーボールを放つ。避ける事もせず、エナジーボールが直撃したコラッタはそのまま地面に倒れ、光の粒子となって消滅した。

「む……なんか、変な気分だな、オイラ達も死ぬ時はあんな感じなのか?」
「いやいや、これは不思議のダンジョンの敵にだけ見られる性質だからね。僕達はもっと残酷に死ぬし、倒していちいち気に病む必要はないよ」

 まぁ、不思議のダンジョンに関しては未だに分かっていない事が多いから、その敵がどのような存在かもハッキリ分かっていないんだよね。つまり、考えるだけ無駄!

「さてさて、そんなこんなでここまでクルミルちゃんは一切見つからなかったね。やっぱりそうなると最奥部かな?」
「なーなー」
「ん?どうしたのノーム」
「これ何〜?」

 ノームは何やら奇妙な色の玉を持っていた。

「それは……不思議玉だね」
「フシギダネ?」
「それは僕。不思議玉って言って、不思議のダンジョン内だけで、不思議な効果を発揮する不思議な玉さ。効果には色々あって、それによって名前が違うんだ」
「へー!じゃあこれは何だ?」
「……もろはのたま、だね。フロア内の敵の体力を大幅に削るけど、その代わりに使用者にもダメージが来るっていう玉だから、使わない方がいいよ」
「もろは……」

 ノームはもろはのたまをじっと見つめたまま、何かを考え込むような表情を見せた。

「……ま、いいやー!さっさとクルミル救おー!」
「うん、そうだね」

 どうやら細かい事を考えるのは苦手らしく、持っていたもろはのたまを放り投げて、ズンズンと先を進んでいく。道中、敵に出会うものの、ノームもそれなりに鍛錬を積んでいるのか、僕達は苦労せず最奥部へと辿り着いた。

「うぅ……おかあさん…………」

 最奥部には、恐怖に震え、小さく縮こまっているクルミルがいた。あれが、ハハコモリの息子さんだろう。

「やあ、君がクルミル君かい?」
「おにいちゃん、だあれ……?」
「僕達は君のお母さんに頼まれて君を助けに来たんだ。さ、一緒にお母さんのもとに帰ろう?」
「うん…………」



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「本当にありがとうございます!なんてお礼を言ったらいいか!ほら、貴方も!」
「ありがとう、おにいちゃん!」
「ははは、良いんですよ。義を見てせざるは勇無きけり。貴方様の助けになるなら例え火の中水の中!ふふっ、ですからお気になさらず」
「しかし、お礼もせずというのは……」
「でしたら貴方のか……」

 僕は思いっきり自らの舌を噛み、言葉を千切る。今、自分の意思で、そして自分の意思とは反した言葉が出そうになったのだ。

「…………?」
「貴方の、手料理が食べたいですね。私達、お腹ペコペコで」
「そんな事でよかったら、是非!私達が住む村はここから近いんです、御案内します」

 こうして記憶を失った当日は、ポケ助けをして美味しいご飯をいただいただけで、特に何か起きる事は無かった。まぁ、すぐに自らの記憶の手掛かりが掴めるとは思ってないけど、しかし自分の記憶と関係無いけれど、いくつかの疑問が生じた。
 いずれにせよ、ハハコモリのご厚意で一日泊めていただける事になったので、それらを考えるのは明日の僕に任せよう。

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