第41話 若き星の小さなアクセサリー店

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 「おじいちゃんおじいちゃんおじいちゃんおじいちゃん......ぶつぶつぶつ」
 「キラリ......もう3度目だよ? 流石に今日もあのポケモン関連の依頼は無いんじゃ......」
 「いや待ってって......もしかしたらどっかに隠れてるかもしれないじゃん」
 「それさっきまでに2度聞いたよ?」
 
 今日も今日とて依頼から手掛かりを探そうとするユズとキラリ。 しかし、やはりそう簡単にはいかないようだった。 他の探検隊が依頼の紙を次々と取っていく中、2匹......というかキラリはずっと依頼板と睨めっこしていた。 流石に温厚なユズも呆れ顔である。 キラリはまた紙を凝視しながら言った。
 
 「ほら、諦めない心が大切ってよくいうじゃん......? だから探せばきっとある!」
 「うーん、これは諦めなくても貼り出されてないものはない気が......」
 「あっ、なんか隠れてる!」
 「嘘!?」
 
 驚くユズをよそに嬉々としてキラリはその紙を手に取るが、すぐにその表情は凍りついた。
 
 「はい?」
 
 キラリに関係あるものといえばそう。 だが、今回の目的とはそう関係無い拍子抜けするものだった。 目に飛び込んでくるのは、困ってる様子なんてさらさら感じられないチラチーノ。 満面の笑顔でピースをしている。 というか、まず依頼書に自分の写真を貼る義務など無いのにでかでかと貼っているのは中々異様なものだった。 キラリがわなわな震える。
 
 「......キラリ?」
 「神様なぜに......? 私は......おじいちゃんのを頼んだのですよ......なぜに......お兄ちゃんがなんかかるーくピースしてウインクしてる写真をこんな朝っぱらから見なければならないんだあああ!!!!!」
 
 その時。 ちゅどーんと、キラリの中の何かが暴発する。 もっともそれはかわいいことに、辺りをぐるぐる走り回るだけではあるが。 だが通行ポケモンの迷惑になりかねないのも事実。 ユズはカバンからモモンの実を取り出し、タイミングを見てキラリの口に素早く突っ込む!
 
 「むぐう!?」
 
 突然の甘味。 走るのをやめてゆっくりと咀嚼していく中、彼女は冷静さを取り戻していく。 咀嚼は精神のストレスを緩和するともいうし、更にこれは彼女が世界で最も愛する甘い木の実、モモンだ。 効果が無い筈がない。
 
 「落ち着いた?」
 「......うん」
 「なら良かったぁ......」
 
 もももとモモンを落ち着いて味わうキラリを見て、ほっと息をつくユズ。 一件落着とも思えたが、周りのポケモンの目がこちらに向いていたのに今更気づいて2匹はびくりと震えた。 当然だろう。 ポケモンが急に暴れ出したと思ったら、パートナーらしきポケモンがその場で、しかも適切な方法で迅速にこれを止めたのだから。 愚行を止めた事への称賛か、コントとでも思ったのか。 何故かどこからか拍手の音が聞こえて来る。
 これをきっかけにして、ユズが「キラリ専属の医者」とも呼ばれるようになることを、2匹はまだ知らない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「えーっとなになに......。
 『探検隊の皆様、良ければオレの店にダンジョンで見つけた珍しい石をお譲りください。 何故かというと、オレの実力をもっと上げたいのと石の知識をもっと得たいからです。
 お礼としてそれを使ってアクセを無料で作りますよ、勿論手抜きなどしません、惚れること間違いなしです! きっとオレの店をご贔屓にしてくれることでしょう』......だって」
 「完全に宣伝要素混じってる」
 「......まあ内容からしてしょうがないけども......どうするキラリ? 受ける?」
 「むー、でも珍しい石ねぇ......」
 「保護物も多そうだから多分きついよね......あ」
 
 顔を傾けて表情を歪めていると、ユズが突然間抜けな声を漏らす。 そして、その顔にはどこか考えが浮かんだことによる高揚が表に出ていた。
 
 「......ねぇキラリ、今日ダンジョンに行かないことになるけど......あの取ってきた虹色水晶、どうかな?」
 「あっ、それだっ!」
 
 キラリの顔にもまた笑顔が浮かぶ。 持って帰ってきた水晶は、今は窓辺に飾っている。 そう、「飾っている」だけなのだ。 いつもはゆっくり眺めている時間も取れないし、正直言って宝の持ち腐れ。
 もし、それを何かしらのものに加工出来るのであればどれだけいいだろうか。 別にそれが出来ないとはあの2匹も一切言っていないのだ。 ......胸が躍る。
 
 「そうと決まれば......!」
 「まずは家だね!」
 
 勿論選択肢は1つ。 2匹は意気揚々と家へと戻っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ちりりんと、優しいベルの音と共に店のドアが開く。 店主は商品を並べていたようだが、音がした方に振り向くなりすぐにそれらをほっぽりだしてしまった。 兄としては正しい、だが商売をする上では微妙な行動。
 
 「キラリ! どうしたんだお前?」
 「えーっと......その、依頼をね」
 「依頼......あああれか! いやーー妹がやってくれるとは思わなかったぜ」
 「私ももう立派な探検隊だよ? 石、ちゃんと持ってきたんだから!」
 「おおサンキュー! ......お、もしかしてそっちはその探検隊のパートナー?」
 「あっ......は、初めまして、ユズっていいます.......」
 「そんなかしこまるなよもー! オレはアステルっていうんだ、よろしくな嬢ちゃん!」
 「はっ、はい......」
 
 急に話題がこちらに投げられ、ユズは口籠る。 そんなことは気にせずにキラリの兄、アステルはユズの前足を取って勢いよくぶんぶんと振った。 それによってユズは更に萎縮するわけだが、そんなことは構いもしない。 びびると同時にユズは、この勢いの良さはまさに兄妹だと思わずにはいられなかった。

  
 そんなことをしていると、アステルは思い出したかのようにキラリに聞いてくる。

 「そういやキラリ、石ってどんなんだ?」
 「えーっとね......これ!」

 カバンから取り出した虹色水晶の結晶。 アステルはそれをまじまじと見つめる。日光にも軽く当てて、光の具合を確かめる。 するとすぐに感嘆の息を漏らした。

 「......へぇ、こんな石あるんだなぁ......別にオレもまだ長い間やってるわけじゃないけど、こういうのは中々お目にかかれないんじゃないか?」
 「だよねぇ......遠征で取ってきた石なの。 持って帰ってもいいよって言ってくれてね......」
 「遠征!? これまたなぁ......確かに長い時間頑張っただけの価値はありそうだ。
 ありがとな。 依頼の通りお礼として何かに加工するけど......どんなのがいい?」
 「うーん、それが決まってなくて......お任せしちゃってもいい?」
 「了解。 少し日数は貰うけど楽しみにしてろよ」
 「やった!」

 ぴょんぴょんと喜びのままに跳ね上がるキラリ。 ユズはそれを聖母かのような眼差しで見つめていたが、ふと店を見渡してあることに気づいた。 顔の感じが変わる。

 「ん? ユズちゃんどうした?」
 「いや......なんか意外だなって思いまして」
 「意外?」
 「前キラリにお兄さんの話少し聞いて......『星もつけたがる』アクセってどんなかなぁと思ったんですけど、結構シンプルなの多いなって。 勿論それが駄目とかそんなんじゃなくて、素材の美しさが光るというか......」
 「あっ確かに! 派手派手じゃないけど......でもなんか綺麗というか」
 「へへ、ユズちゃん見る目あるなぁ」

 アステルは鼻の辺りを嬉しそうに擦る。 そこから、誇らしげな顔で続けた。

 「なんだろうな、アクセサリーって、正解は無いんだと思うんだ。 だってポケモンによって好みそれぞれだろ? 金ピカが好きなポケモン、オリエンタルな雰囲気が好きなポケモン、シンプルな感じが好きなポケモン......挙げていったらキリが無いさ。
 だからこそ、オレは『自分なり』のやり方で客を喜ばせたいわけだ。 1匹1匹の好みに忠実になり過ぎると商売にならないのもあるけど......素材の光る部分を生かして、磨き上げて......そうやって出来たアクセもまたいいと思うんだよなぁ。 自分を貫くっていうか」

 「ま、オレもまだ未熟だけどな」と言って、アステルはニカリと笑う。 キラリとどこか似た表情で。彼には彼なりの信念があるのだと思うと、ユズは彼に尊敬の念を抱いた。 先ほどまでのちょっと悪い第一印象は、すぐに打ち砕かれる。 キラリの目にも、兄のいつもと違う真剣な姿が映る。 窓からの日光に照らされた、暖かな姿が。
 
 「そっか......あのすいませんアステルさん」
 「ほい?」
 「これで依頼終わりとなると、ちょっと時間的にも中途半端なんです。 だからその......少し手伝わせて貰えませんか?」
 
 目を丸くするアステルだが、キラリはユズの思いを後押しする。
 
 「いいじゃんそれ! というわけでお兄ちゃん、何かお仕事ちょうだいよ! 私達にも出来る奴!」
 「ええっ!? ......まあ、確かにありがたいかな......うん、じゃあ1個頼んでいいかい?」
 「勿論です!」
 「よっしゃありがとう! 終わったら何かお礼はする。 じゃあ早速......。 これだな」
 
 彼は手頃な仕事を見つけたのか、1つの小さな袋を2匹に手渡した。 1枚のメモと共に。
 
 「この店、一応修理依頼も受け付けてるわけなんだ。というわけでこれを持ち主の家に配達して欲しい。 えーっと住所は......」
 
 
 
 
 
 
 
 
 住所を聞き出し、街を歩くユズとキラリ。 かなり街外れの方ではあるが、こうやって歩くのもまたいい時間の使い方だと感じていた。 ところどころ、家の花壇にコスモスが咲いている。 秋らしさを感じる昼下がり。

 「ユズはやくはやくー!」
 「急いだところでいいことないよ? 届ける時間も決まってるし」
 「そりゃそうだけど......やっぱ気分乗るし。
 にしてもユズが手伝いたいと言うとはね......まあ確かにユズならあり得るけど」
 「唐突に浮かんだだけだよ」
 
 そんな会話をしながらのんびりと歩く。 そんな中、一つ声が聞こえてきた。 おばさん達の井戸端会議の声が。 別にいつもよくある光景。 ......の、はずだった。

 「そういえば奥様、最近窃盗事件が起こってるのはご存知?」
 
 その声に、ユズ達の足が止まる。

 
 
 
 「ええ。 怖いわね......家のものも盗まれたりしないかしら」
 「警察と探検隊に頑張って貰いたいものねぇ......すぐ解決してほしいのに」

 少々、いやかなりの不満が籠もった声が耳に入ってくる。 風がすうっと通りぬけるのとは違い、まるで水が耳に入ってきたかのような、すっきりしないゴワゴワする心地。 少し、キラリがむっとした表情を浮かべた。 まるで「今頑張っていない」ような口ぶりだったから。 確かに直接関わっていない自分達にはこの言葉は図星かもしれない。 でも、解決しようと尽力するポケモンは確かにいるのだ。 その意思を蔑ろにされることがどうしても嫌で、キラリの目はつり上がる。だが、彼女らは何も知らないポケモン達だ。 仕方ない。 言いたいなら言わせておけばいい。 そう自分に言い聞かせ、彼女は足を地面に踏み締める。

 「平和になったり物騒になったり、色々変なものよね」
 「そうね.......事件といえばそうだ、最近聞いたんだけど」

 こういうものはやはり気になってしまうものだ。 2匹はその声に耳を澄ませる。 会議の中にいるポケモンは、少しうっとりした表情で言った。
 
 「ダンジョンに子供がさらわれるっていう事件が起きたんだけど、最近来たイケメンさんが解決したんですって。 探検家でもないのに」
 「あらま......あの細くて水色のポケモン? 名前忘れたけど」
 「優しそうだと思ったけれど、やっぱそうだったのねぇ。 ロマンがあるわぁ」
 「もしかして狙ってる?」
 「どうかしらねぇ」

 ほほほと笑うおばさん達。 キラリは少し考えた末くすりと笑った。

 「多分これケイジュさんだよね......凄いもんだな......ねぇユズ?」
 
 キラリはユズの方へ振り向く。 ......だが、ユズの応答は返ってこない。
 
 「......?」
 
 顔を覗き込む。 だが、正直彼女から感情を読むことは難しかった。 驚きとも何ともとれない今までに見たことのない顔で、目の焦点が掴めなかった。 どこを見つめているのか分からない。 取り敢えず顔の前で手を振ってみる。
 
 「......あっ、ど、どうした?」
 
 気を取り直したユズが、顔を上げにへらと笑って見せる。
 
 「いや、解決したのケイジュさんかなって......大丈夫? 何か具合悪い?」
 「えっ? いや大丈夫。 ちょっとぼーっとしちゃっただけだよ」
 「そ、そっか」
 
 いつも通りの笑顔を見せるユズ。 彼女自身も自らの行動についてそこまで理解出来ていなかったようだ。 正直不安しかなかったが、別に無理している様子も無い。キラリはユズの言葉に従い受け流すことにした。 きっと、偶然だろうと。
 
 
 
 
 
 
 
 遂に家の前に着く。よいしょと家の前のベルを鳴らし、家主が出てくるのをじっと待った。 何故か胸に動悸が起こる。 探検隊として今までやってきたわけだが、こういう仕事を受けることなど今まで無かったからだ。
 少し待つと「はい」という声と共にドアが開いた。 そこにいたのはキルリア。 見た目は少女のようだが、どこか成熟している感じもある。 中間進化のポケモンというのもあるだろうが、内面的な感じも理由としてあるかもしれないとその穏やかな所作から感じ取れる。
 ドアを開けた先にいた2匹の小さな少女を怪しんだのか、キルリアは訝しげに2匹に聞いた。
 
 「......何か御用? 私、子供を家に招いた覚えはないけれど」
 「えっいやその」
 「あ、アクセサリー店のアルバイトです、今日限りの」
 「......そう。 それでどうしたの?」
 
 自分達は一応「お店の方」ではないのだ。 キラリは若干口籠ったが、ユズがフォローを見せる。
 
 「あの、これの修理頼んでた方ですよね......お届け物です」
 
 袋をキルリアへと渡す。 彼女は何故か目を丸くして、それをすぐに開いた。 小さな箱の中に収まった、マラカイトの指輪。 それは一目でキラリの兄の実力が窺えるくらいに綺麗だった。 艶のある深緑色と銀色がとても美しい。
 だが、キルリアは表情を変えず、静かに佇んでいた。 普通なら少しは笑顔を浮かべるところだというのに、どちらかと言うとかなり辛そうに見える。
 少し間を置き、そして一言。

 「......ごめんなさい、修理を頼んだのはこちらというか、は、母なのだけれど......。
 折角やってくれたわけだけど、良かったらそちらで引き取るか、処分してくださる?」
 
 返ってきたのは、予想だにしない言葉だった。

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