第1章 第3話

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読了時間目安:25分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

彼岸女
「守連ちゃんを狂わせたのは、一体何なの?」


とりあえず、私はタイナにそう尋ねる。
あれから数時間は経ったものの、まだ寝室で寝たままの守連ちゃんは目覚めなかった。
私と雫は紅茶と茶菓子を貰いながら、タイナとリビングで話をしていたのだ。

タイナは、優雅に湯気の出るカップを手にして一口飲む。
うーん魔女って言ってたけど、どの辺がそうなんだろうか?
むしろ色はピンクと白だし、そんな雰囲気はまるで見えないけど…


タイナ
「…いくつか要因となる物はありますが、特に今回の件で想定しますと」


タイナはカップを皿に置き、やや俯いて何かを考える。
いくつかあるって事は、そんなにこの森には人を狂わす要因が多いって事かね?
だとしたら、最悪のケースも想定しなきゃだけど…


彼岸女
(もしかしたら、七幻獣の能力で引き起こされた可能性もあるからね…)


このケースだと、可能性が高いのは『憤怒』の能力なんだけど…
確か、新たにノーマっていう『ゲノセクト』が引き継いだって話だ。
真姫から聞いた話だと、彼女は王の命令でもなければ動く気配は無いとも言っていた。

だとしたら、今回の件では多分関わってないだろうね…断定は出来ないけど。


タイナ
「守連さんは、どうも幻覚症状が出ていたみたいなので、その手の麻薬関係が怪しいかもしれませんね」

彼岸女
「麻薬…! そんなのがこの森では取れるのかい?」


ここで幻覚剤の類いとなると、可能性が高いのはLSDやマジックマッシュルームって所かな?
森である以上、知識のある者なら調合で作り出す事は不可能じゃないだろう。

ましてや、あの時の守連ちゃんは聖君を奪われたショックを思い出していた。
あれから2年も経っているというのに、それでもあれだけ暴れる程に悔しかったんだろう。
多分…その時の記憶が幻覚として現れたのかもしれないね。


タイナ
「この森で取れるキノコはかなりの種類があります、当然毒キノコも多く、幻覚等を引き起こす物も…」

彼岸女
「オーロンゲ族はそれを守連ちゃんに?」


「毒キノコで良いんだったら、食事にでも混ぜれば良いものね…」
「守連の事だから、もてなされた料理は平らげるだろうし」


た、確かに…毒キノコを料理に混ぜられたらどうしようもないね。
守連ちゃんの事だから、相手の友好的な態度を疑う事はしないだろうし…
逆に、それが原因ならもう少し疑う事は覚えてほしい所だけど。


タイナ
「とはいえ、あくまで推測です」
「実際に守連さんの体からは、そういった毒素が検出されなかったので…」
「とはいえ、あの見境無い暴れ具合ですと他の可能性は薄いと思うのですが…」


あ~…多分、それ雫のせいだろうね。
何でもかんでも奇跡で何とかしちゃったから、毒素その物も消しちゃったんだと思うよ?
…とはいえ、それを説明した所でどうにもならないしなぁ~


彼岸女
「そういえば、あの時食った夢から何か解らなかったの?」


私はソファーに背を預け、横目で隣の雫にそう聞く。
雫はソファーの上でクッキーをポリポリ食っており、少し面倒そうな顔でこう言った。



「悪意の塊だったのは確かね…少なくとも、誰かさんへの恨みは相当深かったみたいよ?」

彼岸女
「その誰かさんって誰さ?」


「守連が恨みを持つ程の存在なんて、そんなにいると思う?」


私は言われて押し黙る。
なる程ね…まぁ、彼女に関しては御愁傷様と言っておこう。
しかし、そうか…あの黒い邪気は、守連ちゃんの悪意だったのか。
だとしたら、2年間の間にどれだけ溜め込んでいたのか…?
幻覚剤でそれを掘り起こされ、一気に爆発したのがあの結果だったのかもね…

雫がクソマズという位の物だから、相当恨みが深かったんだ…



「あの悪意からは、それ位しか感じ取れなかったわ」
「少なくとも、毒を盛った誰かさんの事までは解らない」

彼岸女
「…そうか、まぁ仕方無いね」

タイナ
「あの…さっきから、何の話を?」


おっと、そう言えば彼女は理解出来なかったんだっけ…
とはいえ、説明しても仕方無いしここは適当にお茶を濁らせておこう。


彼岸女
「まぁこっちの話さ…気にしないでよ」

タイナ
「そんなに、秘密にしなければならない事なのですか?」


おっと、流石に怪しまれたかな?
まぁ、秘密にする必要は無いんだけど…言っても理解は出来ないと思うんだよね~



「私は夢の『愚者(フール)』、夢を食らう超越者よ」

タイナ
「??? 夢を…食らう?」

彼岸女
「ほら~意味不明になってるー」


「信頼度が足りてないのよ…○ララギマンゴー100個食いなさい!」


いや、それは別ゲーの話だから…
後、初代だけだからね? それ出来るの。
って、タイナに言っても更に意味不明になるって…


タイナ
「貴女たちは、何者なんですか?」

彼岸女
「とある目的で、世界を飛び回る羽目になった愚か者さ…」
「そして、その目的のひとつが…守連ちゃんたち家族を助ける事なんだ」

タイナ
「では、貴女たちは守連さんのご家族なのですか?」


私は俯いて黙る。
首を縦にも横にも振れなかった…
私は所詮、半端者だ。
守連ちゃんたちに対して、堂々と家族面は出来ない。
だとしても、私は聖君の家族になりたいとも思うのだ…

まぁ、その事は聖君を救ってから決めれば良いさ。



「…まぁ、そう思ってもらったら?」

彼岸女
「どの道、この世界だけの関係だからね」

タイナ
「えっ…?」

彼岸女
「この世界をクリアしたら、私たちはここからいなくなる…」
「君との関係は、そこまでって事」


私は素っ気なくそう言う。
タイナはそれを聞いて、少し寂しそうな顔をした。
あ~これフラグっぽいわぁ~、絶対後から仲間になるパターンだ。

って、私には予想しか出来ないんだけどね!
つーか、あのタイミングでネームドキャラが味方サイドで来たら、ほぼそうなるパターンでしょ?


タイナ
「…何か、私には解らない運命が貴女たちにはあるのですね」

彼岸女
「運命だなんてクソ食らえさ…そんな物、犬の餌にもなりゃしない」


「そんな物に抗う為に、私たち愚者(フール)は存在するのよ…」
「そして同時に、神の定めた運命に抗うからこそ、私たちは愚者(おろかもの)と呼ばれるの」


へぇ~そんな設定があったんだね…私はそこまで考えてなかったよ。
どっちにしても、聖君の消滅が神の定めた運命だってんなら、抗うしかないんだけどね!


タイナ
「神に、抗う…」

彼岸女
「深く考える事はないさ…君には関係無いし」
「とりあえず時間って解る? この世界の設定は解んないから…」

タイナ
「あ…えっと、今は21時ですね」
「もう、夜中と言えます」


わざわざ24進法使ってるって事は、時間の流れ方は同じって事か。
まぁ、王が作った世界ならそんなにややこしい設定にはしないわな…


彼岸女
「とりあえず、動くのは明日からにしよう」
「今日はもう寝る…何か疲れたし」


「そっ…なら、私も眠るわ」


そう言って雫は体を粒子の様な物にし、私の体に入って来る。
特に変化は感じられない…雫が外にいようがいまいが、私の力には影響が無いって事かな?



『代わりに、この状態なら私は貴女の考えも読めるし、貴女が死にさえしなければ安全でもあるのよ…』


雫は私の脳内に直接語りかける。
なる程ね…考えを読まれたくなかったら、外に出てもらった方が良い訳だ。
もっとも、それはそれで守る手間も増えるんだけど…

私はふぅ…と息を吐き、とりあえずソファーに寝転がる。


タイナ
「あの、客室ならまだ空いてますので…そちらを使っていただいても」

彼岸女
「ここで良いよ、もう動くのがめんどい…」

タイナ
「そ、それでは毛布だけでもお持ちしますね!」


そう言ってタイナは、慌ててリビングを出て行った。
良い娘ちゃんだねぇ~細い体に巨乳だし、聖君の好きそうなタイプだ。


彼岸女
(だけど、この先どうなるかは私には予想出来ない)


守連ちゃんを救う事がクリア条件じゃ無かった…
だとすると、この森の争いを終わらせる事が条件なのかもしれない。
そうなると…ただの力技でやれるとも思えない、か。

聖君の時とは違う…こっちは雫の力を使うにも条件がいる。
その為には、私自身が変わる必要があるんだよね…
そんな事を考えていると、自然に眠気が襲って来た。
愚者となっても、こういう人間的な所はあまり変わらないんだね~



………………………



彼岸女
(これは…夢?)


『ほら聖君、ちゃんと手を握って?』


『うー…』


私は、何故か聖君の夢を見ていた。
夢に出て来る聖君はとても小さく、すぐ側でひとりの女性に手を引かれている。
その女性はとても優しそうな顔をしており、聖君は彼女の笑顔だけで嬉しそうに笑っていた…

私は…それを見て、何となく羨ましく思う。


彼岸女
(彼女が…聖君の義姉であり、母親代わりだったケンホロウ)


確か、名は『苧環 風路(おだまき ふうろ)』…
人間の世界に溶け込む為、翼を捨てた聖君の大切な家族…


風路
『ほら、頑張って? もう少しで、公園に着くよ~♪』


『うー! がんばる~!』


風路はクスクスと幸せそうに笑う。
聖君の年齢は3歳位だろうか? とても愛らしい姿で、風路の手にしがみ付きながら走っていた。
まだまだ幼さだらけの姿であり、同時にあの頃の聖君にはまだ雫は受け継がれていない。

そう、この時点での雫の所有者は…紛れもなくあの風路というケンホロウなのだ。


彼岸女
(だとしたら…まさか、これは聖君の夢じゃなく彼女の?)


それ以前に、何故そんな夢を私が見ているのかが解らない。
雫が私に何かを伝えようとしているのだろうか?
それとも、無意識に見せられている?
どっちにしても、今の私にはどうしようもない…
この夢での私は、肉体すら存在しないのだから…


風路
「はい、とうちゃ~く♪」


「やったー! キャハハ!」


聖君は無邪気に公園へ駆け込んだ。
公園には他に誰もおらず、聖君は遊具で楽しそうに遊んでいる。
風路はそんな聖君を優しく見守り、一定の距離から聖君を見ていた。


彼岸女
(彼女は…どうして雫を手放したんだ?)


私は疑問だった。
あれだけの力を持つ雫の力を、風路は歴史上初めて暴走させずに使ってみせたのだから…
それまでの継承者は、全て存在にすら気付かず死んだか、1度の使用で暴走させていたと伝えられている。

唯一の例外が風路の先代なのだが、それですらも数度で暴走させていたのだ。
どちらにしても、神ですら気が遠くなる程の歴史上でそれだったのだから…
風路が導いた奇跡という物は、一体どんな望みだったのだろうか?

そして、どんな思いでそれを聖君に譲ったというのか…?



………………………



彼岸女
「っは!?」


私は突然目を覚まし、周りを確認する。
ここは、館のリビングだ…あれから、完全に寝入ってしまったのか?
時間は…6時と柱時計に書いてあるな。
昨日は気付かなかったけど、あんな物があったとは…
しかし、もう朝か…あまり寝た気はしないんだけど。


彼岸女
(何だったんだ、あの夢?)


記憶としてはおぼろげだけど、小さい頃の聖君がいたのは覚えてる。
この手の夢って、特に意味が無い事も多いんだけど…


彼岸女
「雫が、あの夢を見せたのかい?」


「ふぁ~あ…何の事かしら?」


雫は私の体から外に出て、眠そうな顔で欠伸をし、目を擦っていた。
どうやら、雫が何かしたわけじゃないらしい…
だとしたら…何で私の記憶に無い光景が夢に?
それとも、何かの願望がそれを形作ったのか?



「とりあえず朝食! トーストが良い」

彼岸女
「はいはい…これで良い?」


「愚か者! 食パンは○ブルソフトに決まってるでしょうが!」

彼岸女
「え~? 超○も美味しいじゃーん」


私はそう言って○ブルソフトを出してあげる。
そして、次に小さめのオーブントースターをリングから出した。
私はそれをテーブルに置き、キョロキョロと電源を探す。


彼岸女
「あれ? 電源無いのかな?」


「流石に無いんじゃないの? あの森で電線通ってるとは思えないし…」


冷静に考えたらそりゃそうか…
私はしゃあない!と意気込み、リングからなるたけ小さい発電機を取り出そうとした。
…がっ! 重い!! いくら小さくても20㎏はある代物だけに、少女相当の力しか出せない私にはかなりの重労働だった。


彼岸女
「だぁ~!! もう少し何とかならないのかね~!?」


「力が出ないのは私のお腹が空いているから!」
「つまり、お腹一杯になればマシになる…はず!」


確信は無いのね!?
とはいえ、どこまで信じられるのか…
結局の所、私の夢が重要みたいだしねぇ~?


彼岸女
「とりあえず、これで電源は取れると…やれやれ外に一旦出すか」


私は発電機を頑張って外に運び、そこから今度は延長コードを出して発電機のコンセントに差す。
そして発電機のスイッチを入れ、エンジンスタート!
後は伸ばした延長コードを館の中に入れ、そこにトースターのコンセントを接続した。


彼岸女
「よしよし、これでトーストはOKっと♪」
「ペーストはどうする? バター? それともジャム?」


「通な私はチーズにするわ!」


ふむ、それも中々良いよね~
私はとりあえず定番の○ろけるチーズを取り出し、それを雫の食パンに乗せてあげた。
私はバターで良いし、それじゃあ焼きますかね~

私は食パン2枚をトースターの中に入れ、時間を設定してしばらく待った。



………………チンッ!




「ハムハム…やっぱり○印のチーズは最高ね!」

彼岸女
「まっ、私はシンプルにバターで良いけど」


私は焼いたトーストにバターを塗っていく。
熱伝導の高いバターナイフだから、綺麗に塗れる♪
さて、後はコーヒーでも用意しますかね?
お湯も一緒に炊いときゃ良かった…

私はリングから電気ケトルを取り出し、それをコンセントに繋いでお湯を炊き始めた。
数分もすれば、これで沸騰するでしょ…
後は紙コップと、インスタントコーヒーね。


彼岸女
「雫はブラック?」


「カフェオレが良い、○lendyならなお良し!」


私はそれを聞いてブラックとカフェオレを別々に出す。
後は木製のマドラーも出して…これで準備は完了!
やれやれ…朝食だけでこんな手間かかるとは。
機材から揃えるとなると、中々大変だね…



………………………




「ご馳走さま!」

彼岸女
「はいはいお粗末様です…」


私たちはそのままコーヒーを飲んで落ち着く。
守連ちゃんはまだ起きてこないか…タイナも出て来ないけど。


彼岸女
「妙に静かだね…朝なら野鳥の声でもありそうな物だけど」


「もしかしたら、敵に攻め込まれてたりするんじゃないの?」


そういえば、オーロンゲ族が進行してるって話だっけ。
ここは僻地だから滅多に襲われないとは聞いてたけど…


彼岸女
「タイナがひとりで出た可能性もあるか…」


「放っておけば? 黙って行くのなら危険は無いのかもしれないし」


タイナの実力がどんな物かは解らないけど、少なくとも守連ちゃん程強いとは思えない。
敵の勢力も不明だし、情報が無いのは少しディスアドバンテージだね…


彼岸女
「…近くに気配は無い」


私は超能力で館周辺を索敵する。
少なくとも、この館には私たちを含めて3人しかいない。
そして残りのひとりは寝ている守連ちゃんだ。
彼女をひとりには出来ないし、さてどうしようかな?


彼岸女
「そういえば、雫はこのままでも離れて大丈夫なの?」


「世界の範囲内ならね…それを超えたらリンクが切れて共倒れするわよ?」


ふむ、つまりゲートを潜らない限りは大丈夫って事か。
しかし、雫に戦闘力は皆無。
下手に離れてやられたら、そっちの方がリスク大か…


彼岸女
「守連ちゃんを起こすのがある意味最良か…」


「そうね…最悪、力を使ってでも起こした方が良いかも」


私たちはコーヒーを飲み干し、機材を片付けて守連ちゃんの部屋に向かう事に…



………………………



彼岸女
「特に変化は無し…か」


「相変わらず眠りこけてるわね…ほら、さっさと起きなさいよ」


雫は強めにペチペチと守連ちゃんの頬を叩く。
だが守連ちゃんは反応せず、起きる様子は無かった。
雫は少しイラッとした顔になり、こっちを睨み付ける。
はいはい…私がやれって事ね。


彼岸女
「呼吸は正常、普通に寝てるだけだよね…?」


「良いからさっさと起こしなさい、この先の戦いにはどうやっても必要な戦力なんだから!」


私はリングから木の実をひとつ取り出す。
そしてそれを守連ちゃんの口に捩じ込んだ。
守連ちゃんはやや苦しそうになるも、その木の実をバリボリと噛み砕いて飲み込む。
すると…


守連
「ぶはぁっ!? な、何~今の~!?」


「…何食わせたの?」

彼岸女
「『カゴの実』」


それを聞いて雫は、ああ…と納得する。
ポケモンな以上、眠気覚ましにはコレが1番!


守連
「こ、ここは…?」

彼岸女
「とある魔女の館さ…とにかく、君には協力してもらいたい」

守連
「貴女は…誰?」

彼岸女
「私は、フーパの『彼岸女』…この雫と一緒に、聖君を救う為に動いてる」


守連ちゃんはそれを聞いて、目を見開く。
そして次第に目に涙を浮かべ、顔を押さえてしまった。



「泣いている暇は無いわよ? 貴女のせいで余計な手間がかかったんだから、その分協力してもらうわ」

守連
「…っ、貴女たちは聖さんの何なの?」

彼岸女
「その少女はね、『夢見の雫』さ」

守連
「!?」


予想通り守連ちゃんは驚く。
そりゃそうだろう…まさか夢見の雫の正体が愚者だったなんて。
私だって驚いたからね。



「聖が消えた今、私はこの彼岸女の体に寄生しているわ」
「でも、それも聖を甦らせるまでの話…」

守連
「じゃあ…君の力で聖さんは甦るの!?」


「そんな簡単な話じゃないわよ…そもそも、聖の魂が何処にあるかも解らないのに」

彼岸女
「とにかく、今は君たちの家族を集めて探すしかない」
「その為には、この世界をクリアする事が恐らく必須だ」


あくまで仮説だけど…私はそう思っている。
悔しいけれど、混沌の王は多分全部お見通し。
私たちの目論みも、やっている事も全部筒抜けのはずだ。
つまり、全てが神の掌の上…

だからこそ、私たちにショートカットは許されない。
家族を集めるだけなら今すぐこの世界から出れば良いけど、多分それじゃ王は許してくれない…
この世界を王が造って私たちを導いたのなら、間違いなく…


守連
「それじゃあ…この世界は混沌なの?」

彼岸女
「多分ね…確証がある訳じゃないけど」
「混沌の王が世界に君臨し、新たな第8世代を造ったのは紛れもなく本当だ」
「そして、その世界で生きる以上、ルールには従わなければならない…」


「それが、この世界のクリアって事ね?」
「随分、ゲーム好きな神様だこと…」


私は皮肉めいて笑う。
あれは単に遊び好きなだけさ…それも度が過ぎたレベルのね。
自分の組み立てた積み木を眺めてるだけの存在じゃ決してない。
必ずその積み木にはプレイヤーを用意し、エネミーやミッションクエストを用意する。
そして神として、あいつは必ずクリア条件を造るんだ。

絶対にクリア出来ないゲームはただのクソゲー以下であり、それは制作者としてはただの失敗作…
だからこそ、必ずクリア出来る様には造ってあるはずだ。
聖君だって、そうやって全てのステージをクリアしたのだから…


守連
「…うん、分かったよ」
「今は貴女たちを信じる…聖君の為だって言うなら、私は力を貸すよ」


「彼岸女は『最高の強敵(とも)』を得た」

彼岸女
「一気にクソゲー臭がして来た!!」


まぁ、元ネタのゲームはそこまで酷くも無いんだけどね…
というわけで、私たちはそんなやり取りをしながらも仲間を増やすのであった…


彼岸女
「さて、それじゃあどうする?」


「タイナを探した方が良いんじゃない?」

守連
「誰なの、その人?」


私たちはふたりして呆れた顔をする。
しかし、考えてもみればタイナは自分の事を同族から忌避されてると言っていた。
だとしたら、他のブリムオン族と一緒にいた守連ちゃんとは案外面識が無かったのかもしれない。


彼岸女
「この館の主で、森の魔女だってさ…」

守連
「…それって、災厄の魔女の事?」


「災厄って…穏やかな通り名じゃないわね」


確かに、少なくともタイナの事を言っているのだとしたら、相当酷い渾名と言えるだろう。
話した感じ、彼女がそんな悪人には思えなかったけど?


守連
「過去に、ブリムオン族の村を滅ぼしかけた災厄を起こしたのが、その魔女って聞いたよ」
「そのせいで森の勢力バランスが崩れて、オーロンゲ族が侵略を開始したって…」

彼岸女
「益々、本人に会って聞かなきゃならないね」


「何か隠していそうな気はしてたけど、下手したらラスボスの可能性もあるんじゃない?」


だとしたら、ちょっと気は引けるね。
それとも、そういう風にシナリオをあえて組んでるんだったら、悪趣味にも程がある。


彼岸女
「とにかく移動しよう…オーロンゲ族が攻めて来るのなら、タイナも仲間を助けに行っているのかもしれない」

守連
「本当に、信じられるの?」


「あら、貴女にしては疑り深いのね? それとも、何か引っ掛かる部分でもあるの?」

守連
「…私はその人の事は知らないけど、他のブリムオンたちはその魔女の事を相当嫌ってた」
「何度も被害にあったって言うし、私も警戒はしてたんだけど…」


守連ちゃんはもう2年もこの世界にいる。
だったら、守連ちゃんの方が事情は解っている…か。


彼岸女
「とにかく、移動しながら話そう」
「敵にしろ味方にしろ、直接聞けば解る事だ」


私たちはとにかく移動をする。
館から外に出て、私たちは話ながら移動を開始した。


彼岸女
「…探知には引っ掛からない、ここは相当僻地なんだね」

守連
「この辺りは近付くなって言われてた…やっぱり、災厄の魔女の事なのかな?」

彼岸女
「村の方角は解る? とりあえずそっちを調べてみよう」


私は守連ちゃんに任せ、村の方へと向かう。
すると、いくつか反応を感じて誰かがいるのは感知出来た。
多分、ブリムオンたちだね。



………………………



守連
「皆さん、無事ですか!?」

老人
「おお、守連さん! よくぞご無事で…」
「オーロンゲに操られて暴れられていたと聞いておりましたが、元に戻られたのですな!?」


まず出迎えてくれたのは、年老いたブリムオンの村人だった。
服装はやや汚れたローブに身を纏い、タイナとは違って肌を一切露出させてない。
頭から生える触腕だけを動かし、守連ちゃんの手を握っていた。


彼岸女
(雫、何か感じる?)


『悪意の類いは無いわ…ごくフツーの村人ね』


雫は今私の中にいてもらってる。
雫は夢という概念の中で、悪意や邪気を見極める事が出来るらしい。
平たく言えば、嘘発見器に近い物みたいだけど…



『どっちかって言うと、○ラゴンズティアだけどね!』


とまぁ、曖昧だけどそれが解るって訳。
そして、雫はタイナに対してその悪意を感じ取れなかった。
少なくとも、あの時点じゃ私たちに悪意は持ってなかったって事だけど…



『もし二重人格とかだったら、私でも間違える可能性はあるわ』

彼岸女
(あくまで感知出来るのは、目に見えてる範囲の悪意や感情だけって訳か…)


『そう、後そんなに射程距離は無いから…精々会話出来る範囲じゃないと、私には判別出来ないわ』


役に立つものの、制限はあるって訳か。
私自身がそれを感知出来ないってのも厄介だね…



『もっと私とリンクが強くなれば、貴女にも見える様になると思うわよ?』

彼岸女
(…って事は、それだけ夢を見せなきゃならないわけだ)


雫はそのとーり…と頭の中で呟く。
私は改めて村を見る。
特におかしな所は見付からない…至ってこの世界では普通の集落って感じだ。
タイナの反応は感じられないし、攻められてる様子も無い。

だったら、タイナは何処に行った?
考えられるとしたら…



『オーロンゲ族の所に行ったか、ね』


私はそれを想像して頭を抱える。
下手をしたら、二重人格で敵のスパイか…
しかし、辻褄は合うんだよね…タイミング良く災厄が起き、オーロンゲ族が攻めて来る。
タイミング良く守連ちゃんが利用され、更に追い討ちをかける…

私たちと接触したのも、タイミングが良すぎる気がした。
でも、私には彼女がどうしても悪人には見えない。
これまで腐る程の悪党を見てきた私だから断言する。
あのタイナは、絶対に敵じゃない。



『でも、二重人格ならそれが容易く崩れ去る』


そう、そうなのだ…
奇しくも本人が忌避されている魔女と名乗り、同族とは離れて暮らしていた。
同族からですら近付くなと言われる僻地に追いやられ、ひとり寂しく過ごしていたのだから。


彼岸女
「………」


私はふと、あの時の寂しそうなタイナの顔を思い出した。
あの時の彼女は、いっそ別の世界に連れ出してくれ…とでも言いたかったのかもしれない。
もしそうだとしたら、本当に彼女が災厄の魔女なのか?
ただ、逃げたいから…あんな顔をしたのか?

私には、彼女の本意は計りかねる。
やはり、もう1度会って確かめないと…!
私はそんな風に内心決意を固め、ブリムオンたちから話を聞いている守連ちゃんを遠目に見ていた…










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第3話 『守連、復活』


…To be continued

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