Episode-5 おれは自分で自分の事がよくわからなくってさ

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読了時間目安:38分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

前話まではそんなの全然なかったんですが、この話から流血表現が出てきたりします。残酷なグロ系統とまでは行かないと思いますが、苦手な方がいらっしゃればご注意くださいませ。
 世界は目覚めの時を迎えた。水平線の近くで橙色の層が徐々に伸びる先。遥か上空に立ち込める紺色の層を侵食し、明るく塗り替えられた空は、さらに群青色から蒼色へと纏う衣を変えていく。黒一色の影しか映らない世界に、光が灯され始めた。
 薄明で輝く空には真っ白な巻雲が広がり、さながら天使の翼が現れたよう。夜が明けていく中で、じんわりと沁みる肌寒い空気に抗いながら、人々はまず就寝の床から動き出す。ある者は学び舎に行って勉学に励むため、またある者は職場に行って仕事をこなすため。
 日常の中で各々が一日の始まりを過ごし始める中、非日常にその身を置く少年は、相棒と共に今日も空を駆けていた。トレードマークたる赤いマフラーを靡かせ、高い建物の屋上を跳び、未だ人通りの少ない通りを抜けていく。悪の組織の脅威に曝されないように見回りをするのも、“正義のヒーロー”たる彼の日課であり、彼にとっては日常と化していた。
「ソラ、今日は特に異常はなさそうか?」
「うん、町の方は今のところは」
 学校の屋上まで登り切ったところで、マフラーを巻いたエースバーンは町を見下ろす。人間からポケモンになった事で、体力にも時間にも余裕が生まれた。以前ならば外回りか建物内の階段を上るしか辿り着く方法はなかったが、今はベランダ部分の空間目掛けて次々と跳び上がっていくくらいは容易に可能になった。人間の頃には出来なかった芸当に、改めて自分が大きく変わった事を痛感する。
 自身が望んでいた正義のヒーローとして、地道ながらも着実に実績を重ねられているという実感もそこにはある。駆けつける速度が上がった事で、悪の組織の動きをいち早く止められるようになった。自身が戦えるようになった事で、ソラだけで対処していた頃に比べて戦力的にもぐっと楽になった。故に、活動自体は上向きになり、ヒーローとして十全に動き回れていた。
 一方で、ポケモンの姿である事こそ受け入れられはしたが、人間の頃には味わえなかった心地良さと爽快感にばかり浸っていてはいけないとも思う。本来の目的を見失ってはいない。人間に戻る希望を捨てないためにも、自分をポケモンに変えた白衣の女性の下に辿り着くのが最優先。送り込まれる刺客と戦う内に、いつか尻尾を掴める事を願って、ひたすら邁進する。だが、あれからしばらく経っても一向に女性の姿を拝む事はなく、日夜途方もない巡回と戦いを繰り返すばかり。今の状態に慣れてきてしまった事を時々怖いとさえ感じ、明朝から町の平和を見届けたというのに、少年はどこか浮かない表情をしていた。
「強いて言うなら、異常があるとすれば――カケル、君の方だよ。大丈夫? 君はたまにそうやって、もの悲しそうな、辛そうな顔をするんだ。時々不安になるよ」
「へ? ちょっとばっかし眠いだけだよ。おれは全然大丈夫だぜっ!」
 隣に立つルカリオに図星を突かれ、カケルは咄嗟に笑顔で塗り潰す。拙い仮面など、波動を読めるソラには何の効果もない。思い返せば当たり前の事なのに、反射的にごまかそうとして、ついつい出てしまった悪い癖。そのまま意地になって取り繕ってはみるものの、ソラの真っ直ぐな視線がぎこちない顔に突き刺さる。
「カケルの嘘吐き。君が何を言ったって、どんな事をしたって、ボクは君の味方だ。ボクの事怖い? 信じられない?」
「いや、そういうんじゃない。そうじゃねーんだけど……」
 空元気に物を言わせた顔が曇る。本心を隠して強がるのは、本来カケルの専売特許だった。そのはずだったのだが、それはソラに支えられ、心から寄り添ってもらっていると自覚出来る前までの話。強がらずに誰かにもたれかかる安心感を得てからは、気を張ってばかりいなくても良いのだと思えるようになった。しかし、それも時と場合によりけり。甘えて良いとは言われたが、カケルとしては弱いところを見せるのはどうしても許せなかった。
 並んで戦うのに、足枷にはなりたくない。ソラの隣に立つには、強くあらねばと、正義のヒーローとして毅然とせねばと、どこかで背伸びを繰り返そうとしている節がカケルにはあった。以前一部を吐露こそして分かち合った思いではあるが、依然として解決したわけではない。その歯がゆい思いを捨てきれず、未だ正直になり切れない少年を、相棒は諫めるでもない。ソラが投げかける視線にはいくらかの慈しみが篭っていた。
「カケルを追い詰めるつもりはないんだ。ただ、カケルが苦しいなら、ボクは寄り添ってあげたいって思っただけ。今は何も言いたくなかったら、話したくなった時でも良いよ。ボクはいつだって君の傍にいるから」
「……ごめん」
 早朝の冷たい風が、カケルとソラの間を吹き抜ける。偽りの笑顔はすぐに剥がれ落ちた。それでもソラは、カケルを問い詰めるような事はしない。波動でいくらかその機微が読めようとも、カケル自身の意思を尊重するだけ。程よい距離感を保ってくれるからこそ、上手く言葉で伝えられないカケルには、もどかしさが募っていく。何気ない偵察の一時が一転、自分の心に巣食う闇を垣間見たような気がして、いつしかソラと目を合わせられなくなっていた。
「おれ、ソラの事が嫌いだとか、信用してないとかじゃないんだ。いつも支えてくれて、傍にいてくれて、すっごく感謝してる。だけど、お前がそんな感情を向けてくれるおれ自身は、結局何者なのかなって……おれは自分で自分の事がよくわからなくってさ。どれだけ考えても、見えて来ないんだ」
「自分が何者か、か。そんなの、皆が皆、ちゃんとわかっているわけじゃない。だからこそ、ボクは何度も言ってるじゃないか。人間だって、今はポケモンだって、カケルはカケルでしょ。ボクにとってはそれ以上でも以下でもない」
「……そう、なんだよな。ありがとな。うん、それはわかってるんだ」
 ポケモンになったばかりで不安だった時も、同じように慰めてくれた事は忘れるはずもない。ソラが認めてくれるというだけで、カケルの世界に光が広がる。居場所という安心を得られる。その温もりにばかり依存してはいけないと思いつつも、エースバーンというポケモンとしての自分を認識してくれるのは他にはいない。なればこそ、カケルは自身の存在意義を、他ならぬソラに無意識の内に託しているのだと気づかされる。
「じゃあ、どうしたの? それだけじゃ、まだ不満?」
「不満なんかじゃねーよっ! ソラの想いが本当なのはちゃんと伝わってくるし、こんなおれに甲斐甲斐しくしてくれるのはすっげー嬉しいんだ。だけど、その――」
 謝罪もお礼も口にしたはずなのに、言いようのない澱みが胸の内に渦巻き、しかしてそれを吐き出すのは躊躇われた。本当は、自分ももっとソラに頼られたい。おんぶに抱っこの関係じゃなく、お互いに背中合わせで支え合い、頼り合えるような、相棒としての関係を築きたい。人間とポケモンという種族の違いを抱える頃はついぞ浮かばなかった想いが、今のカケルの心を満たしていた。
 だが、それを直接口にして、ソラに歩み寄らせるのはどこか違う気がした。ソラの方から自然と手を伸ばしてくるような、頼りたいと思わせるような、強くてかっこいい自分になりたい。そのためには、今は自分の真意を表に出す事なく、強くなって活躍して、良いところを見せ続けたい――半ば自己顕示欲に近いものが湧き上がっているのを、カケル自身は認知していた。
 頼って欲しいという思いと、頼られたいと思っている事を気取られたくない思い。年頃のませた少年の、子供っぽい思いは小さな心に同居して、混在して、わがままだとさえ思う。それでも、自分の正直な想いに嘘は吐けなくて、けれど直接は伝えたくなくて。行き場を失った想いは、喉元で止められ、熱の冷めきらないまま飲み込まれる。後に残ったのは、やり場のない虚しさばかりだった。
 ソラへの心地良さと自身への不快感が入り混じる。静寂がやけに長く感じ、手すりを掴む力が知らず強くなる。がむしゃらに今を生きるだけでなく、これから先をどうするか、展望が見えないもどかしさばかりが募っていた。町の平和自体は嬉しいはずが、手放しで喜べない所以はそこにあった。暗がりで表情は見えにくいとは言え、ソラには波動で感付かれているのだろうかと気になってしまう。半ば顔色を窺うようにして視線を向けた先で、ソラは後頭部の房を浮かせ、ある一点を凝視していた。
「カケル、あっちの方に妙な反応がある。こんな夜中に戦っているみたいな……ポケモン同士の縄張り争いとかなら杞憂で良いんだけど」
「せっかくだ。確かめに行こうぜ! 見に行って何もないなら、それに越した事はないしな」
 このまま佇んでいても、真っ直ぐ家路に着いても、きっともやもやは晴れる事はなかった。大前提として、正義のヒーローとしての使命感が先行しての見回りではあるが、このタイミングで見つかった異変に、図らずも一種の喜びを感じてしまう自分がいるのも事実だった。今だけでも現実から目を背け、足を前に踏み出す事が出来る。そんな複雑な心境が表れたカケルの足取りは心持ち重く、ソラに誘導を促す体で後を追う事にした。

 夜明けを迎えてきたとはいえ、まだ世界に占めるのは黒の方が多い。未明の闇を切り裂いて颯爽と空を駆ける。人々が寝静まり、活動を止める頃が“彼ら”の活動時間でもあった。二つの影が向かうのは、中心地たる町からは少し離れた位置にある森。外灯を初めとする明かりの類が一切存在しない。朧げな月光に照らされ、薄い影が伸びていく世界。
 樹海のような木々が鬱蒼と茂る入り口の手前。ほとんど整備されていない獣道が続く通り。森へと足を踏み入れた途端に、一気に空気が冷え込んだ気がした。周囲の樹木には引っ掻き傷のようなものが残されており、地面にはところどころ月光で淡く輝く結晶が散乱していた。いかにも争いの形跡が残されており、否が応にも二匹の緊張の糸は張り詰める。
 神経を尖らせて周りを見渡す中、がさがさと草むらを揺らしてわざと存在感を誇張するようにして、捜していた対象は姿を現した。見晴らしの良いポイントに佇んでいる影が、今回の正義のヒーローのターゲットだった。悪の組織から放たれる刺客は、カケルとソラの到着を今や遅しと待ち構えていたらしい。二匹が辿り着くや否や、興奮したように縦横無尽に動き回る。
 分類の「装甲ポケモン」に相応しい、固い鎧と鋭い巨大な爪を持つそのポケモンの種族名はグソクムシャという。カチカチと両手の爪をぶつけて音を鳴らし、攻撃の機会を窺っているようだった。その威嚇の対象が自分達である事は、カケルもソラも互いに注意喚起し合うまでもなく気付く。
 敵の動きに警戒するソラに対し、カケルが真っ先に足を前に出して動き出す。しかし、待機していたグソクムシャの方が、少なくとも応戦に移る事に対して分があった。明確な敵意を持って、先制攻撃を仕掛けようと目論む。肉薄していくカケルの懐に、瞬時にグソクムシャが飛び込んだ。その動きはあまりにも速く、姿を認知する暇もなく、カケルは無防備な状態で堅牢な鎧の突進を喰らう。突進攻撃は文字通り“であいがしら”の衝突。不意を突かれた一撃に、息を全て吐き出してカケルは地を転がっていく。
「しまった、カケルっ!」
 相性的には“こうかはいまひとつ”とは言え、ポケモンとしての戦闘経験は少ないカケルが受けた一撃。ソラとしては、自分が慎重になってカケルに先行させたが故に受けさせた攻撃に他ならない。自ずと不安が過り、即座に波動で長い棍を作成、直後に直進するグソクムシャとカケルの間に割って入る。振り下ろされた爪を波動の棍棒で受け止めている間に、がら空きになっている腹部を蹴飛ばして強引に距離を取った。追い討ちをかけるよりも、今はカケルの安全を確保する方がソラにとっては最優先だった。
「カケル、大丈夫!?」
「あ、ああ。助かったよ、ソラ。ありがとな」
 むくりと起き上がって、カケルも臨戦態勢に戻る。打撲は残るものの、今の攻撃で戦闘に支障を来す程の傷を負ってはいない。腕をぐるぐると動かして、改めてポケモンの体を確かめる。人間の時よりも耐久力が上がった事を噛み締めつつ、自分は変わったのだろうかと歯噛みもしつつ、振り払うように頭を横に振り。カケルは闘志を滾らせ、再び駆け出す。
 グソクムシャは果敢に迫り来るエースバーンの出方を見て、その鋭利な爪の先に水を纏わせる。貫くような軌道で腕が伸びる。その動きは決して早くはない。カケルは足をばねのようにして跳び上がり、グソクムシャを軽々と飛び越えて背後へと回る。隙の出来た背中に鋭い蹴りを見舞った。
 強襲でよろめくグソクムシャの頭部めがけ、待ち構えていたソラが棍棒を振り下ろす。鈍い音を立てて“ボーンラッシュ”はクリーンヒットした。地面に叩きつけられたところへ、ソラはすかさず二回目の攻撃に移る。立ち上がりかけていたグソクムシャの体は、完全に四つん這いになって倒れた。
 優勢を取って安堵したのも束の間、カケルはその耳で遠くの音を拾った。それはかすかにではあるが、風が吹きつけるような音と、何かを切断するような音に聞こえる。戦闘の爪痕が残っている割に、グソクムシャが相手取っていたはずの相手の姿はない。抱いていた違和感を払拭する鍵は、きっと別の場所にあるに違いないと踏んだ。
「ソラ、そいつはお前に任せた! おれはちょっとあっちの方も見てくる!」
「カケル、一人で行っちゃ危ないから――って、まったく。気を付けてね」
 返事を待たずして去った背中に、ソラは既に届くはずもない憂慮を投げかける。目の前のグソクムシャは未だ戦意を絶やしていない。任された以上は応えねばと、ソラは波動の棍棒を手に、爪の鋭い鎧戦士と火花を散らし始めた。

 頼りない明かりの下、カケルは単身駆けていた。別の索敵を買って出たのは本心として間違いではない。ただ、あの場でソラとの連携を見せ、グソクムシャを数の優位性を保って迎え撃つ事は、カケルにとって気を晴らすには物足りなかったのはある。それは、ソラがいなくても一人でも戦えるのだと、役に立てるのだと示したいという気持ちの裏返しに他ならない。それが身勝手だとも思う。正義のヒーローとしてらしくないと自覚してもいる。それでも、自分の本心に抗う事は、並大抵の事ではなかったのだ。
 新たな気配に注意しながら走る内に、森の中でも開けた場所に出た。足元の草むらは既に踏み荒らされた跡があり、ところどころに木々が傷ついている様子も見受けられる。ポケモンになった事で鋭敏になった耳を頼りに来た方角も間違っていない。カケルとしても無論悠長に構えてなどいなかった。辿り着いた傍から耳を立てて、異変を探ろうと神経を研ぎ澄ます。
「ほう。お前さんが噂の正義のヒーローってか」
 穏やかでありながら、背筋の凍りつくような低い声が背後から響く。反射的に、かつ最速に振り向く。だが、気づきはしても、対応は間に合わなかった。バットを振るような重い風切り音が続けざまに聞こえ、瞬時の判断で動いたはずのカケルの肩から腰にかけて、鋭い衝撃が走った。
「がっ……!」
 不意打ちの一撃で、ごっそりと体力を削られた。届かない背に何とか手を回し、押さえて痛みを堪えながら襲撃者を黙視する。二本足で立ち、腕組みをして堂々とした出で立ち。両手には鋭い爪を有し、全身を黒と灰の毛で覆った“ていしポケモン”。カケルを背後から襲ったのは、タチフサグマと呼ばれる種族だった。長い舌を突き出しながら、不敵な笑みをカケルに投げかけていた。
「今ので倒れないか。そうでなくっちゃ、面白味がないからな」
「はぁ、はぁ……お前が、悪の組織の、手先か」
「正しい。が、それが正答ではない」
 呼吸を乱すカケルに、息を整える暇すら与えない。タチフサグマは組んでいた腕を広げ、真っ直ぐに突進してくる。不意を突かれはしたが、カケルの方に素早さには分がある。即座にジャンプし、タチフサグマの“すてみタックル”をやり過ごす。回り込んで反撃するのは常套手段。着地後すぐに攻撃に転じようとするが、想像以上に背中の傷が重く、その場に膝を着いてしまう。痛みを堪えて立ち上がり、高速で蹴りを繰り出す。カケルの動きが鈍った間にタチフサグマは向き直って体勢を整えていた。
 正面突破の一蹴に合わせるように、両手の鋭い爪による“ブロッキング”が立ちはだかる。キックの速度と威力は申し分ないが、生憎とカケルの足の裏は毛と肉球があるだけで、柔い部分そのもの。蹴りの力が乗る前に、鋭く走る痛みに負ける形でカケルは押し返された。防御の型で傷を付けられ、カケルの痛みへの耐性はさらに弱くなる。
「いっつ……! この――」
 尻もちを着きかけたところで辛うじて踏み止まるが、その時には蹲った体に大きな影が覆い被さっていた。天高く掲げた腕が交差されている。何が来るのかカケルは直感した。なりふり構わず避けねばと、後の事を考えずに横に跳ぼうと試みる。しかし、そんな雑な回避を許してくれるはずもなく、“クロスチョップ”が無慈悲に胸に振り下ろされた。“ブロッキング”により著しく防御力が落ちている体に、その一撃は酷く重い。内側まで響く衝撃に、カケルの息が詰まる。
 だが、飛びかける意識の中で持ち堪え、四肢に力を入れて踏ん張る。倒れずに済んだところで、反撃の“にどげり”を打ち込む。“クロスチョップ”後の硬直を狙い、一度目で両腕を打ち払い、二撃目で腹部に俊足で叩き込んだ。さしものタチフサグマも、呻き声を上げて仰け反る。
 にやり、と不敵な笑みを零した。その反撃が愉しいと言わんばかりの、タチフサグマの戦闘狂じみた恍惚とした表情に、カケルは一瞬身の毛がよだつ。向けられた悪意に怯んだ隙に、再度距離を詰められた。大きな体格から繰り出される突進で、カケルの体が宙に浮く。車で撥ねられたかのような衝撃を受け、直後に背中から木に叩きつけられた。
「ごほ……ッ! ぐ、まだだ。おれはちゃんと戦えるって、証明しなきゃ」
 這いつくばって咳き込みながらも、必死に立ち上がる。タチフサグマは変わらず悠々と腕組みをして、カケルが立つのを待っていた。被弾の数はカケルの方が多いが、こちらの攻撃も効いている。倒せない相手ではないとわかっただけでも、戦意は潰える事はない。口元を拭って見据えた先で、タチフサグマは微動だにしなかった。代わりに、その隣に別の影が並び立った。
 “やまおとこ”を思わせるような荷物と服装にゴーグルを着用し、片腕には射出口のついた銃のような特殊な機械を装備した男がその正体だった。風貌からして怪しい事は伝わってくる。タチフサグマがわざわざ少し避けるように動いた事から、主人らしい事はカケルにも何となく分かった。新手のポケモンが現れなかっただけでも安堵する材料には充分で、タチフサグマに改めて睨みを利かせる。
『こいつぁ珍しい。野生でエースバーンにお目にかかれるなんてよぉ。弱らせたのは上出来だ。当初の目的とは違うが、捕まえるしかないよな』
「誰が、捕まって、たまるかっての。おれは、正義のヒーローなんだ。こんなところで――」
 ただ指示を出す人間が現れただけ。ならばさほど警戒する程もでもないだろう――そんな考えに一瞬辿り着いたカケルに、男は機械の銃口を向けてほくそ笑んだ。カケルは速攻を仕掛けようと駆け出す。刹那、不可避の光線が、カケルの腕に直撃した。しかし、これと言った痛みもダメージもない。こけ脅しかと再び足を踏み出した時、不意に違和感を覚え、前進を止めて見向きもしなかった腕の方を見遣った。
 光が照射された箇所から、徐々に石化が始まっていた。最初は幻覚かと思いはしたが、石になったように見える部分の感覚が失われ、ずしりと重くなっていく。石化の侵食は見る見る内に進行し、抗おうにも力を込めようにも、為す術もなく腕は色を失って固まっていくばかり。攻撃をする事はおろか、歩みを進める事すら頭から吹き飛んでいた。
 片腕はすっかり灰色の石になり、いくら力を入れても動かす事は叶わなくなる。噂でそういった力を扱うポケモンがいる事も、人間がその手の兵器を開発する事は聞いた事がある。だが、それは自分とは無縁な話だと思っていたばかりに、改めて現実なのだと思い知らされ、頭の中が真っ白になる。言う事の利かない体に、想像以上に恐怖が押し寄せる。ただでさえ分が悪い戦いの最中、敵は自分を狙っていて、タチフサグマは健在。カケルとしても逃げる選択肢は取りたくないが、ほぼ完全に退路を断たれたという事実を突きつけられた事で、カケルの危機感は最高潮に膨れ上がる。
「なんだよ、これっ! か、体が動かねえっ!?」
『ポケモンハンター御用達の石化光線を喰らった感想はどうだ? これを喰らったが最後、抵抗する事など出来ずに捕まるんだ。こんなに楽なもんはねえよなぁ』
「や、やだ……っ! おれ、元々は人間なんだぞ!? こんな、ポケモンみたいに捕まえられるなんて……石にされちゃうなんて、そんなの、いやだぁあああああっ!!」
 普段自身が強くあるため、心に纏っている正義のヒーローという鎧は、一瞬にして崩れかける。目には悲愴の色を湛え、さながら狩人に狙われる獲物のように怯えきった様子を見せる。怖い、という感情に満たされた心は正直だった。
 石化の経験こそないが、どんなものかは想像に難くない。眠りに近いものでありながら、その本質は死に近い。自由の利かない肉体。半永久的な意識の停止。現に動かなくなっている体が、否が応でもその恐怖を駆り立て、心が塗り潰されていく。男はそんな動きの鈍った標的に恍惚とし、喜色を顔中に湛えてじりじりと歩み寄ってきた。
『甲高い声で鳴いちゃってよお。心配しなくても、例の組織に高く買い取ってもらえるだろうぜぇ? もっとも、どんな扱いを受けるかは知らんがな』
「う、うわぁあああっ!」
 竦んでいた足は、パニック気味の感情を燃料として突発的に動き出した。今はまだ腕だけの石化で済んでいる。即座に放心状態から復帰し、都合よく近づいてくれた男にカケルは血走った目で跳びかかった。勇猛果敢な速攻はしかし、脇からタチフサグマの体当たりによる妨害で失敗に終わる。固まった腕で思うように動けない中、それでも転がる体を急いで起こし、カケルは唸り声をあげて興奮気味に疾走する。
「おれは、屈したりしねえっ! しちゃいけねーんだ。石化も、死も、正義のヒーローってやつは怖がってちゃいけねーんだよッ!」
「カケル、待って! ここはボクと協力して――」
 カケルは自分を押し殺すように、暗示をかけるように、裂帛の叫びでごまかしていく。グソクムシャを処理したソラが駆けつけるが、今のカケルの視界には入らない。いつもなら安心する声も届かない。眼前の敵を自分でどうにかしなければと、カケルは焦燥感に駆られて普段以上に血気盛んになっていた。一度真っ黒の恐怖で塗り潰された心を、真っ赤な熱で無理やり上書きして、脆くなったヒーローとしての心の在り方を使命感で建て直す。
 男は石化光線を放つが、その照準は素早く動くカケルには定まらない。その勢いにたじろいだ男は、一旦退いてタチフサグマに道を譲った。入れ替わるように躍り出たタチフサグマは、交差させた腕を振り下ろす。動きを読んだカケルは、一旦足を止めて一歩後ろへ。“クロスチョップ”が空振ったのを見計らい、前のめりのタチフサグマの腹部を蹴り上げる。悶絶しているところへすかさず踵落としを決め、地に叩き伏せた。
 邪魔者を退け、カケルは弾かれるようにしてハンターの男に肉薄する。怒りに身を任せ、得意の蹴りを加えようとするが、タチフサグマとの攻防の間に体勢を立て直していた。人間の身であれど、ハンターとしての経験が物を言う。狙い澄ました銃口が、今度はカケルのもう一方の腕を石に変えた。
 足じゃないのが幸いだが、体が一気に重くなるのを感じる。カケルは歯噛みしながら突っ走るが、差し迫る恐怖と石化した両腕の重さから、十全の動きが出来ない。その間に起き上がったタチフサグマが、主人を守るべく迫っていた。
「そこを、どけぇえええっ!」
 カケルに退くという選択肢はなかった。既に進めている足をさらに前へ。腕の重みに素早さを鈍らせながらも、高速で足を振り上げる。しかし、渾身のキックはすんでのところでタチフサグマに阻まれる。重心が崩れてよろめき、頭の中で鳴る警鐘に反して、体はいつも通りに動いてはくれなかった。鋭利な爪が、隙だらけのカケルの脇を抉る。熱が一閃、迸った。痛みに顔を顰めつつも、カケルは急いで距離を取る。
「いつつ……お前が、あいつらにポケモンを売ってたやつ、なんだな。なら、なおの事許すわけには行かねえっ!」
 正義の心に火が灯る。幸か不幸か、手痛い一撃を貰った事で暴走気味だった頭は冷静になった。傷口に触れると濡れたような感触を覚えるが、今は眼中にはない。冷静になった事で、目の前のポケモンハンターが悪の組織に捕獲したポケモンを売買していたとの事実を飲み込み、抑え気味の怒りを炎に変える。
 振り下ろされるタチフサグマの爪をかわし、腹部を蹴り込む。悶絶しているところへすかさず顔を蹴り上げ、上空へ跳び上がる。姿が消えて困惑するタチフサグマの頭部に、落下の勢いをつけた踵落としを見舞った。連撃に耐えきれず、タチフサグマはついに膝を折る。だが、まだ倒したわけでも戦意を奪ったわけでもない。
カケルが追撃に向けて足を振り上げた隙に、軸足の方を掴み、力任せに振り回す。頭上まで持ち上げたところで、一気に地面へとその体を叩きつけた。脇腹の怪我に衝撃が響き、カケルは小さく悲鳴を上げる。
 倒れたカケルを見下ろし、タチフサグマは正拳突きのような構えから爪を突き出した。生来の凶器がカケルの腹部を貫く前に、間一髪ソラの“はどうだん”が先に到達する。爆発と共に大きく吹き飛ばされていき、カケルは弾かれるようにして立ち上がった。ソラの一撃で大きなダメージを負ったタチフサグマも、戦う気概は未だ充分。その起き上がる隙を与えぬよう、カケルは肉薄して攻めに転じていく。
 咄嗟に構えを取る腕を一蹴し、ガードを崩す。勢いそのままに体を捻って回転させ、器用にもう一方の足で顔を蹴り飛ばす。再び地に伏せたタチフサグマの体を、今度は下から掬うように蹴り上げた。浮いた腹部に狙いを澄まし、渾身の“とびひざげり”を叩き込んだ。その勢いはまさしく疾風怒濤。次々と繰り出されるカケルの速攻が決まり、立て続けに弱点の攻撃を受けたタチフサグマは、ようやくぐったりとして動かなくなった。
『戦闘用の手持ちがやられちゃしょうがねえ。だが、お前の事は必ず狙ってやるからよ。次は覚えておくんだなぁ』
 タチフサグマをボールに回収した男は、別のボールからオニドリルを出し、脚に掴まって飛び去って行った。あっという間にその姿は見えなくなり、その間にも徐々に腕の石化は徐々に解けていった。男が離脱した事で、石化装置の効力が消えたらしい。周囲に平穏が訪れたのを確認するや否や、その安堵からカケルは地面に座り込んだ。ソラが急いでカケルの傍に駆け寄る。
「カケル、どうしてあそこでボクを頼ってくれず、無茶をしたのさ!」
「あれくらい、一人で何とかなるって思ったから。別に怒るほどの事じゃねーだろ?」
「確かにカケルはポケモンの姿に慣れてきて、少しずつ強くなってきた。でも、それとこれとは話が違う。現にそうやって、出血する程の攻撃を受けて……」
「へーきへーき。こんなの掠り傷だし――いってえ!」
 脇腹に滲む赤色を丸っこい手で必死に隠すが、ソラに触れられてカケルは思わず声を荒げる。一人で決めようと先行した代償として、負わずとも済むはずの傷を負ってしまった。深くないのが幸いとは言え、防ごうと思えば出来たのも事実。普段はやれやれと言った様子で手際よく手当てを施そうとするソラも、今回ばかりは浮かぬ顔をしてカケルに詰問する。
「そういう問題じゃないんだって! 前のカケルなら、ボクが怪我しないようにって慎重になってたはず。だけど、カケルはエースバーンになって自分が戦うようになってから、何だか平気で傷を作るようになってしまった。ボクはその変わりようが心配で」
「ソラが傷ついてるわけじゃねーんだから、別に良いだろ!? おれ、ずっとソラばっかり戦わせて傷つけてる事に、これまでずっと何も思わなかったわけじゃないんだ。ただの競技的なポケモンバトルならともかく、おれ達の続けてきた事はそれとは違う。だからこそ、ポケモンになったのは手放しで喜べる事じゃないけど、こうして一緒に戦えてるのが嬉しくてさ。戦いになる以上、ケガの一つ二つは当たり前だろ?」
「ボクだって、嬉しくないって言ったら嘘になる。こうやってカケルと言葉を交わして、話が出来る。今までずっと出来るはずなんてないって諦めてたから、すごく嬉しいよ。だけど、それだけじゃ良くないから、こうやって怒ってるわけなんだけど。そりゃ戦ってれば怪我くらいするけど、これは話が別だよ。まるで自分の命を燃やすようなカケルの無茶は、ボクは見てて、気分が良いものじゃないと言うか」
 交流が出来るようになった喜びと、カケルが怪我をするのとはまた別の問題。カケル本人は真面目に無茶をしているつもりはない。ただ、自分は一人でも戦えるのだと証明したいが故に、ソラの制止を振り切って戦おうとする機会は増えた。それを黙って見過ごせないソラにとって、自分自身を蔑ろにするカケルの癖は面白くない。互いの意見は相容れる事なく、押し問答は止まらない。瞳には相手の事しか映らない。その思いは相手に向いているはずなのに、結果的に空回りばかり。納得させ、説き伏せたいと思う内に、カケルもソラも周りに注意が行かなくなっていた。白熱するあまり、背後で動きがあるのに全く気付かない。影は気配を消して樹木の裏から姿を見せ、喧嘩を続ける二匹に向かって攻撃を仕掛けようとしていた。
 闇に潜む黒い影――ヤミラミは赤い目を妖しく光らせ、忍びのように影討ちを決めようとする。闇に隠れる刺客は、冷気を纏った光線で炙り出され――もとい、姿を凍り出される事となった。鈴を鳴らした音に近い小気味よい音色と共に、氷の彫像が完成する。近くで発せられた異常な音に、カケルとソラも言い争いを止めて振り向くと、氷の力を手繰るに相応しい青の体色をした新たなポケモンの姿が目に留まった。
「私たちの住処で何騒がしくしてんのよ。と言うか、あんた達、誰?」
「おれはカケル。正義のヒーローをやってんだ! そんで、こっちがソラ。もしかして、助けてくれたのか? ありがとな!」
「別に。こいつ、ちょくちょくこの辺に現れては、縄張りを広げようとしてるの。私は住処を荒らす奴を粛清しようと思っただけで、手助けをしたつもりはない。それに……正義のヒーローですって。くだらない」
 四本足で歩く水色の体躯をした氷タイプ――グレイシアは、カケル達に目を合わせる事もなく、そっけなく接していた。窮地を救ってもらったカケルとしては、感謝の思いを伝えたくて駆け寄ったのだが、グレイシアの方は溜め息を吐くばかりでまともに取り合ってくれそうな気配はなかった。
「くだらないって何だよ! そりゃまあ、住処を荒らす事になったのはおれも悪いとは思うけどさ……見ず知らずのお前にバカにされるいわれはねーぞ!」
「私、正義感を振り翳す奴って好きじゃないの。その正義感で、身を賭して悪と戦って、勝手に満足する。外野でやる分には勝手だけど、そういうのには巻き込まれたくない。だから、荒らす奴と戦ってくれた事には感謝するけど、深く付き合う気はないってだけ」
「正義感、別に振り翳してるわけじゃねーよ。おれがやりたいと思ってる事をやってるだけだ。おれはその力があるなら、誰かを守りたいってずっと思ってたからな」
「その発想がくだらないって言うのよ。ま、あんた達とこんなところで押し問答をしていても仕方ないし、失礼するわ。それじゃね」
 カケルとソラを一瞥し、自身が氷漬けにした対象には見向きもしないまま、刺々しい対応を見せたグレイシアは森の奥へと姿を消した。横柄な態度を向けられて快いはずもなく、しかしてそれ以上追う事も憚られた。ひとまず戦いを終えた安堵感を噛み締めながら、カケルとソラは森を後にする。目に見える負傷をしたカケルをソラは気遣わしげに見つめるが、当の本人は「こんなの平気だって!」と繰り返し強がり、執拗にソラに支えられる事を拒んだ。無事に戦闘を終えた事もあってか、ソラはそれ以上突っかかるような事はせず、暁の頃合いを以って家路に着いた。
 静かに自宅の自室に戻ってからも、ソラは黙々とカケルの治療にあたるばかり。カケルは泣き言も言わず、掛けるべき言葉も見つからず、黙ってソラの手当てを受けた。
 大きな仲違いをしたわけではない。任務を失敗したわけではない。ましてや相手の事を憎く思ったわけでもない。ただ、認識の齟齬が、気まずい沈黙を生んでいた。カケルはソラの役に立ちたいと思うがあまり、ソラはカケルの事を心配するがあまり、どうしても譲れない一線があって、その一線がどうしても相容れない。互いを意識するが故のすれ違いに、カケルとソラはいつしか言葉を交わす事すら忘れてしまっていた。
「カケルはしばらく休んで、怪我の治療に専念して。昼の巡回はボクが行ってくるから」
 夜の激しい戦闘をこなして、一眠りして休憩を取ったお昼過ぎ。いつもなら揃って町の方を飛び回るところを、ソラが単独で買って出た。カケルはそれが気に食わないわけでもなく、反論したところで拒まれると理解した上で、黙って送り出す事にした。だが、カケルとしてはおとなしくしている性分ではない。傷を負ったところも包帯で巻かれていて、痛みは残っても動けない程ではない。じっとしていては、それこそ役立たずの証明になってしまう。心に潜むネガティブな自分に突き動かされるようにして、カケルは無理のない程度に外を跳び回る事にした。
 昼過ぎという事もあって、町には仕事をしている人の姿は少なく、主に在宅している主婦などの買い物途中の姿が多く見られた。そんな中にちらほらと制服姿の学生も見受けられた。時期的にテスト期間中であろう事はカケルにも何となく察しがついた。白昼堂々と少年少女に悪事を働く悪の組織はそういるものでもないと熟知している。巡回という体で気晴らしに外に出たかったカケルは、何気なく高い建物の屋上から彼らの様子をぼんやりと眺めていた。その視線の先には、見覚えのある少女と――有り体に言う幼馴染の姿も映った。平生なら気兼ねなく声を掛けているところであるが、身を乗り出した時点で今の自分がポケモンの姿である事も思い出し、苦虫を噛み潰したような顔で前のめりだった体を元の位置に戻す。
「おれも本当なら、今頃ああして友達と楽しそうに歩いてたりしたんだろうなあ。……ははっ、今駆け寄ったところで、ただの怪しいエースバーンだもんな」
 理解のある母親のお陰で、自宅に戻っても何不自由なく暮らしていられる。勉強というしがらみに囚われず、自分があれだけ夢見た“正義のヒーロー”として毎日を過ごしていられる。今まではただの一トレーナーとポケモンとして、指示を出して戦わせるだけだった関係性から、より信頼出来る親友や疑似的な兄弟的なものにソラと至る事が出来た。その事自体はポケモンへと姿を変じた事の利点だと思っていたが、改めて人間としての幼馴染や友人の姿を目にする度に、仲良さげに歩いてる中に自分の姿がない事に、途方もないやるせなさを覚えずにはいられなかった。
 ポケモンとして存在する事自体は、戦いの面において自身が人間の時以上に活躍の場を広げられる事もあって、半ば迎合していた点でもある。その一方、懇意にしていた人間関係すら断つような事実を受け入れなけれならばならない時点で、言葉の通じぬポケモンである事を最も歯がゆく感じるポイントでもあった。状況的に致し方なかったとは言え、ポケモンの姿である事と、人間として元の生活に戻る事の狭間で、自身の心が揺れ動いている事を今のカケルは否定する事など出来なかった。
 腹の底から漏れる大きな溜め息は、カケル自身の迷いを体現しているかのよう。彷徨う心は、ここにあらずという様子であった。――故に、背後から迫る気配に、カケルは気づく由もなく。間近まで迫った足音にようやく聴覚が反応した時には、既に遅し。振り向きざまにその姿を確認する暇もなく、体の自由も意識も一瞬にして刈り取られていくのであった。

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