第18話:変わり果てた友情――その2

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読了時間目安:8分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「お、おい。セナ……?」

 後ずさりしながら、ホノオはセナに震えた声で話しかける。小さく一歩。重々しくまた一歩足を引きずる。
 セナは“炎の渦”に締め付けられているポチエナに不穏な笑みを向けると、“バブル光線”を放ったマリルを標的とした。

「くそっ、倒したと思ったのに!」

 悔しげに言うと、マリルは次の攻撃を始めた。

「“捨て身タックル”!」

 セナへの効果が薄い水タイプの技を使うのをやめ、マリルは至近距離から猛突進。まん丸で小さい身体に見合わず、大きなパワーを秘めた攻撃だった。いよいよマリルは、全体重をぶつけるべく地面を蹴り、セナを弾き飛ばそうとする。
 しかし、状況をよく見ていたセナは、マリルを引きつけてからほんの少し右に動くことで無駄なく攻撃をかわす。右手からつららを生みだしながら、間髪入れずにひらりと身をひるがえした。

「わあ!」

 攻撃をかわされたマリルはそのままボールのようにゴロゴロと転がりそうになるが、しっぽを地面に擦り付けてどうにか踏ん張った。しかしうつ伏せの状態で、分が悪い。立ち上がろうとしたが――セナがそれを許さなかった。
 マリルの左足だけを狙って、セナはつららに全体重をかけて突き刺した。

「ぐあぁっ!!」

 左足の激痛に悶絶し、マリルは転げまわる。セナは面倒くさそうにため息をつくと、マリルの腹を踏みつけて動きを封じる。そのまま一切のためらいもなく、マリルの右足も突き刺した。

「ああああああッ!!」

 痛みの正体を理解したマリルは、恐怖で理性を失った。金切り声で叫び散らす。
 ホノオの身体ががくがくと震えた。その少年、セナはもはや、昨日までとは別人に成り果てていた。ホノオの暴行に良心を痛め止めてくれた、穏やかな彼ではなくなった。マリルの両足を痛めつける“作業”を、淡々と遂行する機械のようだった。

 常軌を逸した悲鳴に満たされたその戦場は、空気が凍り付いていた。しかし、正義の救助隊は勇気を振り絞る。

「“スピードスター”!」

 パチリスは震える声とともに、セナとホノオに星形の光線を放った。弾丸のような勢いのそれらは、避けるスキを与えずに2人をとらえた。

「うあっ!!」

 思わず顔をゆがめ、セナとホノオは衝撃に耐える。何度も痛みに襲われ、気が遠くなった。
 パチリスの攻撃が終わると、2人はふらふらと立つ。体調が悪いホノオは身体を支える気力がなく、今にも倒れそうだった。

「お、お、お前……やりすぎだよ!」

 チルットは声を震わせてセナを責める。良心の呵責が弱点であるはずのセナはしかし、悪びれずにチルットの言葉を鼻で笑った。

「やりすぎ? オイラたちを殺そうとしているお前たちが、それを言う筋合いあるの?」
「そ、それは、その……」
「はっ。何怯んでるんだよ。お前たち、本当にオイラたちのことを殺す気あるの? 世界を救う姿勢を見せて、正義の味方ごっこをしているだけじゃないの?」
「で、で、でも……自分たちは救助隊だから……だからぁ……っ!」

 覚悟が半ばなのは明らかだが、チルットはセナに煽られて突進を仕掛けてくる。セナはそれを静かに待ち受ける。
 一瞬、白い綿毛が飛び散る。
 チルットの右の翼がとらえたのはセナ自身ではなく、彼が即座に突き出したつららの頂点。生暖かい赤色がチルットの純白の翼に染み出した。

「うっ……うああっ!!」

 その色の重大さを理解した途端、チルットは翼が引き裂かれそうな痛みを感じた。片方の翼のみで宙に浮けるはずもなく、セナが手を下ろした途端に落下し、転げ回って悶え苦しんだ。その後の手順はマリルと同様。セナはチルットの腹を踏みつけ、慣れた手つきで左の翼もくし刺しにした。

「ルト!!」

 パチリスはチルットの名を叫び、涙ぐんで駆け寄ろうとする。が、セナに睨みつけられると足がすくんでしまった。

「ふっ」

 セナは口角を上げると、ゆっくりとパチリスのもとへ歩いてゆく。
 ホノオは悟った。このままでは、パチリスもきっと――。
 止めなきゃ、止めなきゃ、止めなきゃ……。焦るほどに、言い訳のように、ホノオは全身の怠さを自覚してしまう。昨日のセナの行動が、いかに勇敢であったか思い知った。オレも、勇気を、勇気を出さなきゃいけないのに……。
 怖い。という言葉では、表しきれない心情なのだが。ホノオの中にはそれを上回る語彙がなかった。とにかく、怖くて、怖くて、怖かった。

「や……やめて……。ごめんなさい。許してください……」

 そう乞いながらも、パチリスはセナから逃げるように後ずさる。許しなど期待できないことを、心の底では理解しているらしかった。パチリスの後方に、太い幹の木がある。退路に限りがあるからこそ、セナはゆっくりとパチリスを追い詰めた。
 パチリスのしっぽに、ゴツゴツした木の肌が触れた。

「やっ……!?」

 嫌な予感に、パチリスはつい振り返ってしまう。セナから視線を逸らしたその瞬間だった。

 セナがパチリスの両足を貫いたのと、ポチエナが“炎の渦”から解放されたのは、ほぼ同時だった。渦に閉じ込められながら、仲間がひとりずつやられていく様子を見せつけられ、ポチエナも心を痛めたようだ。しかしそれ以上に、彼は怒りを捨てなかった。

「お、お前……! マルとパチの足を……ルトの翼を……! 後遺症が残ったら、動けなくなるだろ……!」
「動けなくなるだけならいいじゃん。こっちは息の根止められそうになってんのにさ。むしろ、良心的な対応に感謝して欲しいくらいだよ。オイラはお前たちの移動を封じるが、殺しはしない。そうしたらお前たちは、生きていられるけど、もう追ってこられない」

 倫理観を抜きにすると、セナの主張は正論でもある。しかしポチエナは、セナの言葉を、行動を、許せなかった。

「うるさいっ! お前、よくそんな歪んだ性格で、救助隊キズナのリーダーなんてやってたな……。もし仮に、お前が無実だったとしても。俺はお前を、絶対に許さない……! 今ここで、お前を倒す!」

 震えながらも、怯えながらも、ポチエナはセナに“突進”をしかけた。セナに近づくことが危ないのは、よく分かっていた。仲間の惨劇を見てきた。しかし、直接攻撃しか持たぬ彼には、これが最善の、精一杯の攻撃なのだった。

「“倒す”? ちゃんと“殺す”って言ったら? 責任のない言葉を選ぶから、弱いんじゃないの?」

 穏やかで、優しく諭すような声で、セナはポチエナに応じる。笑顔を浮かべたまま、つららでポチエナの4つ足を――。

 ――よくそんな歪んだ性格で、救助隊キズナのリーダーなんてやってたな……。
 そのポチエナの言葉をセナは完全に受け流したが、ホノオの心には深々と刺さってしまった。

(違う……。そこにいるのは、本当のセナじゃない。セナは本当は、すぐ考え込むけど優しい、頼れるリーダーだったんだ)

 セナがその身に受けた、ポチエナの救助隊からの深い恨みを、ホノオは代わりに受けたいと願った。しかし、セナを傷つけて変えてしまった上に、変化を止める勇気さえなかった自分が、それをただ願うという行為は。あまりにも身勝手で、無責任なものだという自覚はあった。
 どう転んでも、這いつくばっても、罪の意識に苛まれる。身体が火照る。息が苦しい。怠い。頭が痛い……。
 こうして体調が悪くなるのも、意識が遠のくのも、きっとオレの、狡い“逃げ”なんだろうな――。

(本当にごめんなさい。ごめんなさい。セナが変わり果てたのは、オレのせいです。何とかしたいけど、もうどうしたらいいのか、分からないや……)

 ポチエナの絶叫を、意識の片隅で聞いた。ホノオは両足で身体を支えきれなくなり、ふらりと前に倒れた後に気を失った。


 セナは、追手の移動器官を十分に痛めつけ、“追手を減らす”作業を終えた。
 罪悪感、後悔、自責の念――。そんなものを一切感じない、暗くも明るくもない世界に、彼は立っていた。

「……最高じゃん。この生き方」

 その言葉は、誰の耳にも届かなかった。

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