File 13 -幕開け-

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 空港での戦いから数日後、えっこたちは次の行動について話し合っていた。創世主はあくまで裏で糸を引きながらゲームを楽しむつもりだと予想したえっこたちは、警戒しながらも次の目的地へと足を進めるのだった。
 空港での戦いから数日、えっこたちはプルヌスのラボを訪れていた。オペ室から運び出されたえっこの麻酔がようやく切れたらしく、えっこはプルヌスたちを呼んだ。

「おー、お目覚めはどうだいフロッグちゃん?」
「お陰様で悪くない感じですよ。どれ、もう起き上がれそうですから……。」

破壊されたえっこの義手や義足は修理完了されたらしく、えっこは特に不便を感じることなくベッドから身を起こし、ベッドの縁に腰掛けた。



「ありがとうございました、プルヌスさん。これでまた、支障なく地上の探索が続けられそうです。」
「えーよえーよ、いつも地上でジャンクパーツ拾ってきてくれてんだし気にするなし。せめてものサーチャーたちへの報いってもんよ。」

「んで、本題に入らなきゃならねぇ訳だが……。新しく手に入れたメディオキュールのことだぜ。えっこと因縁のある、創世主とかいう透かした奴が関与してるのは間違いなさそうだな。」
「ええ……奴はあちらの世界においても、我が物顔で俺たちの陣営とその敵対勢力の双方に首を突っ込んでいた……。何の目的があるのかは分かりませんが、俺たちと敵対勢力を戦わせながらも、自分は高みの見物を決め込んでいるようだった。」

えっこは創世主について説明を続けた。えっこたち人間をポケモンへと転生させたこと、自分とレギオン使い双方に力を貸していたこと、その正体は明かされていないこと……。


「なぁるほど、あんさんとレギオン使いとかいう奴らとを戦わせるように仕向け、自分はそれを見物するゲームマスター気取りって訳かね? 実に下らないしムカつくなそれ、何としてでも目にもの見せてやりたくなりましたわ。」
「そして恐らく、メディオキュールを生み出してこちらの世界にまでその魔の手を広げ、ゲームを新たな局面へと誘おうとしている……。自分の正体を看破していたプレイヤーが消えたことで、喜び勇んで次の目障りな邪魔者を消しにやって来たのでしょう。」

「それがえっこと私……。でも、私が狙われる理由がまるで分かんないなぁ。あんな奴、一度たりとも関わり合いになったことないんだけどね。」
「それに関しては、現状では何とも言えませんね……。それが奴のやり方なんですけどね。救いの女神と見せかけて、裏で汚らしく操り人形の糸を引いている。自分が知っていて、相手本人は何も理解していないという一方的なアドバンテージが一番の好物……面倒な性格してますよありゃ。」

ユヅキはえっこと出会うまで、こちらの世界でごく普通の住民としてごく普通に過ごしてきた。異世界からの突然の来訪者とその因縁の相手、自分が彼らに関わる某の重要な存在であることなどつゆ知らずに。


「確か創世主は次に行くべき場所を口にしてたよね? 『総合ホール』に来いってさ。……見え透いた罠に思えてならないんだよねぇ……。」
「俺はそうとは思えません。奴は最短距離で目的を果たすことを極力避けてきた。理由は分からないにせよ、何故か俺たちやレギオン使いが互いの素性を探り合い、幾度となく衝突するよう仕向けてきた。本気を出して潰しに来たのはローゼンさん……つまり奴の正体を見抜いていた人物を始末しようとしたあの一件のみ……。」

「だから、あのアホったれは君たちにチビチビ情報やヒントを小出しにしながら模倣体を差し向けて戦わせ、またまた高みの見物決め込むって魂胆だな? そりゃ言えとるわ、アンタの説明聞く限りは奴の性格にぴったり合ってる行動だし。性悪クソブス女の好みそうなこった!!」

確かにえっこやプルヌスの言うように、あくまでゲームマスターとしての特権を活かすのであれば、簡単にえっこたちを捻じ伏せるような真似はしないと考えられる。しかしながら、敵が手くすね引いて待ち構える場所に、何の警戒もなしに乗り込めと言われても無理なお話だ。


「判断が難しいとこだよな……敵も趣味の悪い狡猾さが溢れ出る感じがあった。その腹の底は簡単に読み取れるもんじゃあねぇ。でも今は行動あるのみだと俺は思うぜ、罠だったらそんときはそんとき。今はとにかく前進あるのみじゃねぇのか?」
「だね。『総合ホール』へ向かう、それで大丈夫だよね? 何が待ち受けてるかは分からないけど、こっちからアクションを起こさないと。せっかくえっこが元いた世界に戻る手掛かりが見つかるかも知れないんだ、怖気づいてる場合じゃないよ。」

こうしてえっこたちは、次の手掛かりを求めて『総合ホール』へと赴くこととなった。空港で回収したメディオキュールは、プルヌスとレヒトとエクトルが分析し、何らかのヒントを得られないか試みるとのことだ。








 『バンク』のエレベータから北西へ進んでいくと、突如巨大な人口池のある開けた区画へと辿り着いた。池の随所には大きな噴水のノズルが設けられており、人間文明が健在だった頃には、この場所で華やかな水のアートが見られたものと思われる。

木造のデッキスペースは意外にも頑丈に作られているらしく、恐る恐る足を踏み出して乗ってみても、底が抜けたりぐらついたりする感覚は感じられなかった。池の横には、無数のコンクリート製の円柱土台に支えられたマンションのような建築物がどっしりと構えており、まるで豪華客船の一部分のようにさえ見えてくる。


「それで、これが話に聞いていた『総合ホール』ですよね? 何でも人間がここに生きていた時代には、この街でも有数の文化センターとして利用されていて、大衆演劇からオーケストラのコンサート、外国の伝統芸能の出張公演まで、幅広い芸術が楽しまれていたとか。」
「その通りだ、でも死の病が蔓延してからは使われなくなり、当然人間が滅びちまった今でも誰も寄り付かねぇって訳だ。俺たちみたいなサーチャーと模倣体くらいだな、例外はよ。」

『総合ホール』の建物それ自体は派手な造形ではないものの、周囲の開放的なウッドデッキにも、たくさんの噴水を持つ大きな池にも、空中に浮かぶ集合住宅にも決して負けない存在感はしっかりと持っているように思えた。

上層階には元々植物の育てられている温室もあったとのことで、都会のオアシスの1つとして、この施設が周囲の住民の集う場として機能していたことは想像に難くない。


「内部の構造はそんなに複雑じゃないかな。1~3階までロビーがあって、2階に中劇場、3階に小劇場がそれぞれ作られてる。で、3階まで吹き抜けになる形でメインの大劇場が設けられていて、4階から上はレストランとかお店、オフィス、それから植物園のあるスペースだね。」
「あのデカい模倣体を出してくるとすれば、間違いなく怪しいのは大劇場の方だな。あれだけの吹き抜けスペースで1階席と2階席と3階席まで作られてんだ、ホール内部も相当な広さがあるはずだぜ。」

「大劇場ならすぐそこの入り口からも入れますね……。他の場所からは模倣体の気配すらも漂ってこないし……やはり入ってみるしか……。」
「だね、後は野となれ山となれだ。私はどっちにもならないけどー。」

そんなあっけらかんとした声で笑いながら、ユヅキは大劇場の扉に力を込めた。少しぎこちなくも開かれた重い扉の向こう側は、この時間帯でも日光が遮断されて一面の暗闇と化している。

天井が朽ち果てた部分からわずかに光が差し込み、暗闇に断片的に浮かび上がるような形でホールの内部空間の様子が見えてくる。絨毯や座席は全て濃いえんじ色に統一されており、ナチュラルウッドの手すりや壁との調和が上手く取られているように思える。舞台の前をぎっしりと埋める1階席は比較的新しい質感をしているように思われ、恐らくはこの辺りの舞台の真ん前に位置したエリアは、高額なチケットが必要になる特別席なのだろう。


「誰もいなさそうな感じですかね……。というか、電気が止まってる密室だけにろくな光源もありませんね、目が慣れるまで待つしかないか……。」
「そういうときのための暗視バイザーだぜ、機械化技術の賜物って奴だな。ってどれどれ……うーん、何もいねえ。」

「私はサーモバイザーで見てるけど、生物の反応はないっぽいね。警戒してやって来たのに、肩透かし食らっちゃった感じだよ。」

ホールの吹き抜けを見上げると、3階まで縦に連なる巨大な吹き抜け空間が見えるが、その吹き抜けにも、1階の座席やステージ付近にも、敵の存在は何1つ感じられないようだ。それでもなお、敵の罠に不意を突かれないように少し慎重気味に進むえっこの首筋に、突如何かの感覚が伝う。


「なっ……!! この感覚、上の方か!!!!」
「上だって……!? クソッ、あのクソッタレ……!! いつの間に出やがった!!」

「おやおや、そのような荒っぽい態度で歓迎をされるとは、何とも悲しいことですね。こうしてあなたたちを次の目的地へと導いているのです、少しは感謝されてもいいくらいなのですが。」
「感謝なんて微塵もないね。私たちの進む道は私たち自身が決めてその先を照らしてるんだ、あんたが上手く操ってるんだと自惚れてるなら、それは大間違いだって言っとくよ。」

吹き抜けの2階席、入り口の真上側に創世主の姿はあった。えっこが感じたひんやりとした嫌な寒気が急に訪れたことを考えるに、彼女が姿を表したのはつい先程なのだろう。


「自惚れてなどいませんよ、逆にあなたたちが自身の意思で未来を進んでいるというのなら、それこそが自惚れであり、見通しが甘いと断言しましょうか。全てはあるべき姿へと進んでいく、私はそれを知っているからこそ、結果的にあなたたちを意のままに動かせているのです。」
「卵が先か鶏が先かなんてことはどうでもいい、重要なのは真実に辿り着くこと、お前の『甘い』目論見を打ち破ることだからな。お前が俺たちの動きを読んで誘導してるってなら、それでも構わない。ローゼンさんのように、その延長線上をも迷うことなく突き進んでお前の予想をぶっ潰す。お前の言うあるべき姿を超える、それだけだ。」

「威勢のいいことですが、それならば己の力をここで試すことですね。ローゼンの言葉を借りるならば、選ばれぬ『その他大勢』のエキストラ程度の運命しか持たぬ者は、今この場で敗れて死んでいくことでしょう。それがあなたたちとなるのか、それとも私の手駒となるのか、それで一旦は分かるのですから。」

その言葉を受けてえっこたちは身構える。創世主の手駒とあらば、もう『あれ』の他に可能性はないのだから。


「この特大のノイズ……来るよ、みんな注意して!!」
「何だ? 何か嫌な予感がする……。どうしてこの狭さのホールでそんな巨体になってる……? ……まさか!! 伏せろえっこ、ユヅキ!!!!」

スィフルが何か違和感を感じてそのように叫んだ。徐々に形成されつつある模倣体の身体は、ホールの1/3は軽々超えるような丸みを帯びた巨体に見える。そのサイズではホール内をろくに動き回ることもできず、まさに大きさが仇となって自滅の道を辿る他ない。スィフルはそれが本当はどれ程に恐ろしいことなのか、持ち前のセンスから本能的に察知したのだろう。


「うわっ……ちょっ…………!!!! この光……まさかこれって!!!?」
「スィフルさんの言った通り、マズいっ!!!! でもそんなことが……!!!!」

えっことユヅキがそう叫んで伏せた瞬間、膨大な熱波と風圧に加え、骨の芯まで響く轟音と、目を伏せていても感じられる程の凄まじい光とが空間を満たし、埋め尽くした。


「ううっ…………何だってのよこれ……。どっちが生き残るか、そんな話をしてた矢先にこんなこと……………。」

敵の身体は原型を留めない程にバラバラに砕け散り、周囲には衝撃で吹き飛ばされた座席や舞台の瓦礫がうず高く積もり、息をすることさえためらわれる程の土煙が辺り一面に充満していた。そう、敵はこの場に出現した瞬間に自爆したのだ。


「『だいばくはつ』で私たちまで道連れにしようって魂胆だったのね……。それにしてもえっこもスィフルも見つからないっ……!! えっこー!!!! スィフルー!!!! 返事をしてー!!!!」

ユヅキが叫ぶ声はホールの壁に反響し、依然として煙が舞うこの空間を押し分けるようにして飛んでいった。しかし一向にえっこたちの返事も見えず、サーモバイザーや暗視バイザーで確認してもそれらしき反応は目視できなかった。ユヅキはえっことスィフルの無事を祈り、瓦礫の上に飛び乗って周囲を再度見渡すのだった。


(To be continued...)


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