夜の港と白い粉Ⅱ

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読了時間目安:17分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

意気揚々と修羅場に下り立った凛だったが、早速暴れようとして気がついた。


───……区別がつかない───


敵も味方もヤクザである。どちらも似たような強面の風貌をしていて、ここで暴れれば、一応味方の『品川会』にも被害が出る。
現にすぐ側でバリヤード同士が争っているが、どちらが北畠か分からない。
そもそも、自分へ向けて『ソーラービーム』撃つような相手が、そんなに素早く倉庫に来れる訳も無い。


───外の敵を潰すか…───


凛はヤクザ達の間を潜り抜けながら外へ飛び出した。これに驚いたのは後から着いて来ようとした昭博。


「(おいおい、あの我が儘お嬢様は何を考えてるんだ?まったく何のために飛び降りたんだか…)」


軽くため息をつきながら、敵の攻撃を交わしつつ、外へ出ようとする。






凛が外へ出た途端、待ってましたとばかりに一斉に銃弾の雨が凛に向けて降り注ぐ。


「読み通りよっ……!」


凛は跳躍しながら鉛の雨の中を駆け抜ける。そのまま隣の倉庫の壁に隠れるが、銃声は相変わらず鳴り響いている。


───そうよ……こんな闘いを望んでたのよ……っ!───


凛は状況を見ながら、戦闘の興奮で胸の高鳴りを感じていた。


───先ず、銃を持ってる奴から……───


その直後、


───っ!?───


後方から殺気を感じて、前に身を素早く翻すと、隠れていた壁に直線のヒビが入り、線に沿って滑るように壁が崩れ、土煙が舞う。


「……………」


直ぐ様体勢を立て直して身構え、奇襲に備える。

煙の中から瓦礫を踏みつつ現れたのは、鈍く腕の刃を光らせたキリキザン。


「…………」

「…………」


凛の目付きは一気に鋭くなる。キリキザンの放つ雰囲気は、さながら殺戮マシンと言わんばかりに、他のヤクザのそれとは明らかに異なっていた。


「……………ふふっ」


凛は不敵な笑みを浮かべる。それから青龍偃月刀を右手に発現させる一方で、左手を胸に当てる。
銃声は次第に遠のき、場が静寂に包まれるのを感じた。















ドクン……


ドクン……


ドクン……



凛の胸の奥から鼓動が響き、左手にも振動と熱が伝わってきていた。


───ここまで昂る闘いは久しぶりね。……嗚呼、アイツはどこまでアタシを楽しませられるのかしら……?───


高鳴り続ける心臓を合図に'獣'も覚醒し、凛に囁く。


───ネェ、アタシモ血ニ飢エテイルノ…………オ前バカリガ前ニ出テ、ズルイワ………アタシニモ踊ラセロ……ッ!───


憤怒にも似た声で獣は叫ぶが、凛は意にも介さない。


───だめよ、久々に良さげな相手だもの。ここは譲れないわ…───




ドクン……ドクン……


ドクン……ドクン……


ドクン……ドクン……


キリキザンの放つ殺気が、心拍を加速させる。その激しい音と熱に、恍惚とした感情まで呼び起こそうとする。


───もっと……激しい鼓動を聞かせて……───



















不意に遠くで銃声が一発鳴り響いた。


───……踊レ…っ!───


両者はそれを合図に地を蹴って疾風の如く駆け出す。
凛は青龍偃月刀を振りかぶり、キリキザンの首を切り落とそうとする。
キリキザンはそれを読み、腕の刃で防ぐ。
ガキンッ!という音が倉庫の中に響いた。続いて反対の刃で突き刺そうとするところを、青龍偃月刀は回転させて防ぐ。さらにキリキザンは、凛の腹部に蹴りを入れた。


「うぐっ!!」


その勢いを利用して後方にバク転し、態勢を崩さずに持ちこたえることができたが、視界にキリキザンの姿は無い。
その瞬間、背中に衝撃が走り、凛は壁に吹っ飛ばされた。『騙し討ち』だ。そのままドラム缶の束に激突し、積まれていたドラム缶は音を立てて倒れる。青龍偃月刀もその拍子に消失した。


「………くっ………っ!?」


凛がすぐさま起き上がろうとすると、キリキザンが追討ちで『瓦割り』を仕掛けようとする。
だが、寸前で青龍偃月刀を発現し、柄の部分で防ぐ。
さらにこれを回転させ、柄の端でキリキザンの腹部を突く。


「ぐおはっ」


これで仰け反ったところに、追い討ちで胸部に鉄拳を食らわせる。勢いよく跳ばされるも、受け身を取ってダメージを軽減させた。
そこから直ぐ起きあがり、『メタルクロー』を刃に纏って斬りかかる。無論、凛は青龍偃月刀でこれを防いだ。

互いの武器が幾度もぶつかり合い、その度に火花を散らす。
激しい動きの読み合い。一瞬の油断が死に繋がる緊迫する状況。
凛にはこの戦闘がたまらなく楽しい。


───さて、アンタはどうでる……?───


凛は一度、跳躍して距離を取ったかに見せ、刹那に自ら距離を縮めた。


「っ!?」


思わずキリキザンは驚いて下がろうとするが、すぐに凛に距離を詰められる。
凛はキリキザンの心臓の上に手を押さえつける。そして、キリキザンに囁く。


「……紅の海に溺れな…」


『はっけい』を放つ。バキバキと胸骨が粉々になる音が響き、キリキザンは大きく飛ばされた。
後を追いかけるように跳び上がり、青龍偃月刀でキリキザンの心臓を貫く。肉を切り裂く感触と、ぐちゃぐちゃ、という不快な音が凛の耳に入る。キリキザンのからだを貫通した青龍偃月刀の刃には、赤黒い血と臓器の一部がこびりついていた。


「ぐはあ………」


キリキザンは一声あげると、血を吐いて絶命した。吐かれた血は凛の顔面に降りかかり、彼女の体を赤黒く染めた。





















凛は青龍偃月刀を引き抜き、顔面に付いた血を拭うと、素早く建物の外に向かう。


───楽しかったわよ………───


心中でそう呟くが、外に出ようとすると再び銃弾の嵐に遭うが、寸前で壁に隠れてやり過ごす。


───銃を持っているからって、アタシに勝てるつもり?───


青龍偃月刀を構え直し、再び外に駆け出す。飛び交う銃弾を防ぎながら、一人、また一人敵の懐に入り、一刀両断に凪ぎ払っていった。

無駄の無い動きと返り血を浴びた姿は、鬼と呼ぶに相応しいもので、それに恐れおののいて逃亡する敵も現れ始めた。
一通り敵を倒し尽くすと、凛は一旦青龍偃月刀を消して周りの気配を探る。


───近くにはいないようね。あの倉庫の方はまだやってるみたいだけど…───


今度は、瞳を閉じて波導で探索を始めた。辺りに転がるのは死体ばかりで生きている者は見あたらない。もしくは車に乗って明らかに逃亡を決めこんだ者位である。
だが、西に200メートル行った所で誰かが走っている。逃げ回っているようにも見えなかった。


───行ってみるか…───


凛は跳躍して屋根に登ると、そこから屋根伝いに、その人物のもとに近づく。


───シルエットから察するに、カメールか…此方には気付いてないようね。なら………───


凛は飛び上がり、カメールにのし掛かった。カメールが驚きの声を上げるが、お構い無く取り押さえ、首に青龍偃月刀を当てた。


「どこの組?」


睨みながらドスを利かせて問う。


尓…我只是一个女人罵?アンタ…さっきの女か?


中国語で返事が返ってきた。


───なんだ、中国マフィアか…───


凛は青龍偃月刀を消し、カメールから下りた。そして、中国語で返す。


我听説。尓在這里干什糸?そうよ。アンタは此処で何してんの?

追逃碩的対手后、我已経失去了。逃げた相手を追いかけていたら、道に迷ってな


───間抜けな奴…───


凛は口にこそしなかったが、心中でせせら笑う。
すると、車らしき音が近づいてきた。50メートルほど離れた倉庫の影から複数の車が現れ、凛達のすぐそばで止まる。
中からゾロゾロと銃を持った集団が現れ、凛達を包囲した。その風貌はおよそ堅気とは思えない。

凛とカメールは素早く背中合わせになる。


尓,戦斗的経歴罵?アンタ、戦闘の経験は?


凛はカメールに尋ねた。


這就像打我的日常生活常日頃戦っているようなものだ

并有可能要如果這対冤家?このぐらいの敵ならいけそう?

没問題問題ない


凛はニヤリとしながら青龍偃月刀を生成する。後ろのカメールも意気揚々と拳銃を構えているようだ。


───アタシと同じ性格ね……いいわ、同じタイプならこっちも接しやすい───


尓、叫什糸名字?あんた、名前は?


カメールが不意に聞いた。


「安国寺凛」

我的名字是、王 永福俺は、ワン ヨンフー


……永福、后面我会離開!……ヨンフー、後ろは任せたよ!

哦!ああ!


二人の戦闘狂は一斉に駆け出した。










一方、昭博は


「北畠さんよ!全く敵が減る気配が無いんだが!」

「大方、増援したのでしょう!そうでもしないと……ほら、そっち行きましたよ!逃がさないでください!!」


結局、最初の倉庫から出られずにいた。倒しても倒しても、敵の数は減る気配が無い。
銃弾もいつきれるか分からない状況だ。
北畠も、指示を出しつつエスパー技や拳銃で攻撃を繰り返している。


「…これじゃ埒が明かねぇ、…仕方ない。北畠さんよ、もし味方を斬っても怒らないでくれ」


北畠は訳が分からないように言った。


「はい?何を言って……」


しかし、振り返った時には昭博の姿はなく、今まで暴れていた敵が一斉に血を噴き出して倒れた。


「こ、これは……」


「生きてるか?北畠さん」


そこには、全身に血を浴びた昭博がいた。よく見ると、腕の葉が明るい碧に輝いており、そこに血が集中している。


「…『リーフブレード』ですか」


昭博は、葉に付いた血を振り落としながら言った。


「俺自身が強くないから、殺すまでは無理だがな。あの乱戦を収めるにはちょうど良いだろう」

「それにしても動きが速いですね」


それより味方の救助を、昭博が促すと、ヤクザ達は味方の救護に当たった。北畠もさらに応援を要求しようと電話を取り出す。

一方の昭博は、大怪我で無抵抗の敵から、ついでに金品を奪っていった。中には抵抗しようとする者もいたが


「お、おい………何……」

「堅気からの強引なシノギ(注1)で得たもんなんだろう?その報いが来たと思えや」


昭博に殴られて結局取られるのである。
















「どうした?もう終わりか?」

弱我弱いもんだな


凛と永福の周りには屍の山、そして炎上した複数台の車。二人の力は圧倒的で、30匹近くいた敵も数えられるほどにまで減っていた。


「………こ、こいつらやべえ!」

「勝てねえ……」


敵のヤクザは一目散に逃げて行った。
二人は無闇に追わず、その場で武器をしまった。


娜可以很好的即使女人アンタ、女のくせにやるな


永福はタバコを口にくわえ、火を点けながら言った。


……這是性騒擾的意図?……それセクハラのつもり?

它這是不礼貌的、是年齢的女人現在是強これは失礼、今は女が強い時代だったな


その発言も結局セクハラみたいなものよ、と内心で毒づく。暫く二人はお互い何も話さず、あたりには静寂が訪れた。

遠くでは船の汽笛と時折車の走る音が聞こえている。空は相変わらず漆黒に覆われ、その空を映すかのように海もまた一面の闇が広がっている。辺りには潮風によって運ばれた独特の香りが広がり、凛は昂っていた心を落ち着かせていた。

その状態になってふと思い出した。


───あ、ソーラービーム撃った奴、倒してない───


とはいえ、今さら探し出すつもりも無かった。粗方片付けたところから考えると、とっくに逃げたりした可能性も十分にあったからだ。
隣の永福はタバコを足で踏み潰して言った。


順便説一句、尓知道到前一陣的倉庫?ところで、アンタはさっきの倉庫までの行き方を知っているか

我也考慮去而已。它会引導尓アタシもちょうど行こうと思っていたの。案内するわ


凛が先頭にたって、二匹はもといた倉庫に向かって歩き出した。後ろから永福は銃を片手についてきている。

その途中で凛は周りの雰囲気に違和感を感じていた。


───妙に静かね………───


あれほどの敵がいたのに、まるで気配が無い。
波導で探索を始めたが、周辺には生きている者はいない。自身でも相当数倒してはいたが、それでもまだかなりいたはずである。

もといた倉庫には何人かいるが、それは恐らく品川会のメンツである。


───こりゃあ、逃げたわね……───








倉庫に着くと、まず目に入ったのは死体の山であった。数十もの死体が一か所に固められて山になっている。倉庫内を見回していると、昭博がおーいと声をかけてきた。
凛は黙って左手を上げて無事であることを伝える。


「ったく、お前は動きが速すぎなんだよ。おかげでこっちは間に合わずに倉庫内で乱戦だ」

「アンタが遅すぎんのよ。おかげでアタシ、倉庫出た瞬間死にかけたんだから」

「そりゃ、あんな敵が沢山いるところに飛び込んだらそうなるわな」


まだ何か言いたげな凛だったが、ところで、と昭博は話題を変える。


「お前と一緒にいたカメールは誰だ?今、『品川会』のやつらのとこに行ったが」


「アイツ、中国マフィアよ」

「なんでお前と一緒にいるんだ」

「敵追いかけてたら、道に迷ったんだって」

「……意外と間抜けなやつだな」


そこへちょうど二人の話を割るように、北畠が頭を下げながら現れた。


「お二方、ご無事で何よりです。取引もゴタゴタこそありましたが、なんとか終わりました」

「それは、良かった。……いや、良くは無いか、ヤクザに肩入れしちまったからな」

「……………」


北畠を見た瞬間、凛の表情はまた不機嫌そうになる。


「凛、いい加減機嫌直したらどうだ?」

「ふんっ」

「どうやら私は完全に嫌われたようですね」


当の北畠は全く気にして無いようで、笑顔のままだ。
ふと思い出したかのように昭博は北畠に尋ねた。


「俺達が『品川会』に協力したことは当然ながら、ばらさないよな?」

「それは勿論です。万が一情報が漏れたとしても、お宅の支部長様にはを必ず黙って頂きますからどうぞご安心を」


すると、車のエンジンがかかる音が聞こえた。その方向を振り向くと、中国人マフィアを乗せた車がゆっくりと動き出し、それをヤクザが整列し見送っているところだった。
車は静かなエンジン音で、夜の闇の中へ消えて行った。


「では、私たちも帰りましょうか」


凛達も車に乗せられ出発した。流石にやる気が無かったのか、凛は北畠を襲うようなことはせず、黙々と車に乗り込んだ。
(注1)
シノギ・・・収入、取り立て

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