3 シンリョク村

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注意事項                                 
・勝手な解釈
・独自設定
・拙い文章
それでもいいという方がいたら読んで頂けたら幸いです。
「ここがカエンが住んでる村なんだ……」
 カエンが言ったことを自分で繰り返して言うと、カエンの村に到着したことの実感がだんだんと湧いてきた。
 カエンがシンリョク村と呼んだ村は決して整備されたような所ではなく、高低差のある地形にはまばらにここに住んでいるであろうポケモンたちの家が建っていたが、むしろユウカはその光景を見て何だかワクワクした。だって森の奥でひっそり生活してるのってなんかいいじゃん!秘密基地感があって!
 そんな風にユウカ(夢見る中学生)が目を輝かせているのはカエンにも伝わっていたらしいが、何か済ませなければならない用事があるのか、
「この村の紹介は後でするからとりあえずついてきてくれるか?」
 と言われてしまった。
「あははっ、ごめんごめん。それでどこに行くの?」
「ここの村長の家に行くんだ」
「なんで?」
 どうやらこの少女は目の前の村を見ただけで当初の目的を忘れてしまったらしい。
 ため息をついてカエンはユウカに返答した。
「……この村に住ませてもらう為」
「あっそうだった忘れてた!それで村長の家はどこ?」
「こっちだ」
 カエンがそういって少し複雑な道を歩き出したので、迷わないようにユウカもカエンの後を追う。村の端に流れている川から水を汲んでいるミミロルがいたり、また、別のところでは先程のミミロルの親らしきミミロップや誰かの母親らしいインテレオンが井戸端会議をしている。家の数を数えてもそれなりの数のポケモンが住んでいそうだが畑のような施設は見当たらず、向こうに見える少し大きめの建物はーーー何となく道場だろうか?
 と、ユウカがこの村の様子を見て色々考えていると、気づいたらユウカの前を歩くカエンの足が止まっていた。どうやらいつのまにか村長の家に着いていたようだ。
「ここが村長の家、他のところより大きいから分かりやすいだろ?」
「うん」
 カエンに大きいと言われた村長の家は確かに他の家より大きく、そこそこ頑丈そうであった。
 村長の家には他のところより大きくする必要があるのか、はたまた単純に体が大きいから家も大きくしているのかとユウカはまた色々と考えているのに対し、元々住んでいるカエンは気軽に、大きな声で村長に呼びかけた。
 が、カエンの口から発せられた言葉の中に入っていた一つの種族名が少々問題だった。
「『キテルグマ』村ちょーー!ちょっと話があるんだけどーー!」
「え゛っ!?」


**********


 カエンが大きな声で呼んでから少したって、目の前の玄関からキテルグマが出てきた。
「あれ?カエン君じゃん。どうしたんだい?……って、その子は?」
「こいつはユウカっていうんだ。んで今日はこいつについてなんだけど……って、ユウカお前どうした?」
 それぞれ疑問を持った二匹の目線の先には、なにやら固まっているユウカが立っていた。
 冷や汗でぐっしょりであった。
(え?キテルグマ……え???キテルグマって確かポケモンの中でも結構危険なポケモンじゃなかったっけ!?)
「うーん、君結構汗かいてるけど大丈夫かい?」
「ヒエッ」
 いきなりキテルグマがずいっと顔を近づけてきたので、ユウカから小さな悲鳴が出てしまった。カエンとしては、先程まで村に着くなりあんなに目を輝かせていたユウカがあそこまで疲れているとは考えづらかったので、
「緊張しているのか?」
 とカエンは言ったが、
「そんな感じじゃなさそうだ。立てるかい?手を貸すよ」
 と、キテルグマはそう言って手を差し伸べてきた。しかしユウカのガタガタは止まらない。なぜならキテルグマという種族は力が強すぎるが故に無自覚でケガを負わせてしまうタイプのポケモンだからである。繰り返そう、無自覚で骨を折ってくる。しかし言葉もまともに発せられない今の状況で首を横に振ったとしても、手を借りても起き上がれない状態だと誤解されて腰を担がれてしまう危険性がユウカの頭に浮かんでしまった。こういう時、人間という生き物はそれが起こることがどれだけ確率の低いことだろうが、その最悪の可能性を極度に意識してしまう習性がある。なのでユウカは素直にこれからオシャカになってしまうであろう自分の右前足をキテルグマの右手に差し出した。
 さらばエーフィの右前足……お前のことは夢が覚めるまで忘れない……!そんな風に考えていたユウカだったが、
 むしろ違和感を感じるほどに、キテルグマの手から返ってきた感触は優しかった。
「……?」
「どうしたんだい?」
「いや……何でもないです」
 キテルグマ……もとい村長の手を借りてユウカは起き上がった。一瞬ユウカはあまりの力の大きさに痛みを感じられなかったのかと思い握られた前足を少し動かしてみたが、自由に動く自分の右前足を見る限りその考えは間違っているようだ。もしかして種族にしては珍しく力が強くないのか、あるいは……
「立ち話もなんだし、とりあえずぼくの家に入って話をしようか」
「だってさユウカ。早く入ろーぜ」
 ユウカの思考を遮るように二匹は話を進めてしまった。
 お互いに気を許しあっている二匹が村長の家に入る様子を見て、ユウカはこう心に決めた。
 ポケモンを種族で判断するのは控えよう、と。


**********


 他の二匹より少し遅れてユウカが村長の家にお邪魔し、家のダイニングのようなところに入った時にはすでに二匹はそれぞれ丸太の椅子に座っていて、村長がユウカにカエンの隣に座るように促した。ユウカが座った椅子とカエンの座っている椅子の前のテーブルの上には、丁寧に切られたリンゴがお皿の上に盛られていた。
「食べていいよ。たぶんお腹が空いているだろうしね」
「えっ、いや」
 村長の言葉にユウカが何かを言おうとした刹那であった。
 ぐうぅ~~~~~~~~!!と。
 ダンジョンで蓄積された疲弊と先ほどの緊張感で極限状態になっていたたいへん正直なユウカのお腹が、早く目の前のリンゴを食べさせてくれと金切り声を上げたのだ。
 隣を見ると至近距離でユウカの腹の音を聞いていたカエンが必死に笑いをこらえている。笑い飛ばしてよ。じゃないともっと恥ずかしいの!!
 とどめの一言は、リンゴを出した張本ポケから発せられた単純な言葉だった。
「ほらね?」
「っ~~~~~!いただきます!!」
 ついに恥ずかしさに耐えられなくなったユウカは、半ばヤケクソ気味にリンゴにがっつき始める。それに合わせてカエンもリンゴを食べ始めた。
 ガツガツムシャムシャガツガツムシャムシャ……
「おいしい!!!」
 こういう時すぐに立ち直れるのはユウカの美徳なのかもしれない。
 カエンもこれ以上ユウカをいじるつもりはないらしく(そもそもいじろうとしていたかは不明だが)、二匹がリンゴを食べ終えると、
「それでユウカの話なんだけどさ……」
 と、すぐに村長に本題を持ち出した。
「ああ、そうだったね。その子がどうしたんだい?」
 空気の変化を感じて、ユウカは背筋を伸ばした。カエンも少し緊張しているらしく、姿勢が少し前のめりになっている。
「ユウカはオレが森で食料を集めている時に倒れてるのを見つけたんだけど、なんか記憶を無くしちゃったみたいなんだ。それで帰る場所もわからないから、とりあえずこの村に住ませてやりたいんだけど……」
「ふむ、なるほど?」
 そう言って村長はユウカの顔を見た。ユウカは記憶を無くす前はこのような経験はなかったのか、どういう反応をすればいいのかわからなかったのでとりあえず頷いた。もちろん緊張感が張り詰めた空気ではあったが、最初に村長に会った時のような感情は湧いてこなかった。
 村長もうんうんと頷いて、
「だいたい分かったよ。そうだね……今ちょうど空き家が一軒、カエン君の家の隣にあるんだ。そこでいいならここで住んでもいい」
 と、答えてくれた。
「「本当!?」ですか!?」
 村長のその言葉を聞いて、二匹は顔をパッと明るくした。そして場を支配していた緊張感がゆっくりと崩れていくのを二人は感じたが、
「ただし」
 という村長の一言で、消えたはずの緊張感が再構築されていく。
「ここに住むからにはこの村のルールに従ってもらう」
「そのルールって……?」
 聞いたのはカエンではなく、ユウカだった。
 村長はその言葉を聞いてから話を続ける。
「この村は畑できのみを育てていたりしていないんだ。だからぼくたちの食料とかは森やダンジョンから取ってきている。……その仕事を君にもやってほしいんだ。どうだい?」
「分かりました」
 対してユウカは即答だった。
「私はただ匿ってもらうんじゃなくて、その分お礼というか……恩返し?をしたいし、それに……」
「それに?」
「私は外で運動したいタイプのひ……ポケモンですから。」
 ちょっと出かけてしまったが、言いたいことは全部伝えた。今言ったことは一つを除いて自分の本心だ、というのにカエンが余計な一言を入れた。
「ダンジョンのポケモン一匹も満足に倒せないんだけどな……」
「うるさい!」
 ユウカがそう言って(空気の読めない)カエンを睨みつけたら、村長がさっきまでの落ち着いた雰囲気とは打って変わって、豪快な笑いをした。
「はっはっは!まあまあ!自分を鍛えることはいつでも出来る!それに……」
 そして雰囲気を元に戻した村長が、
「いいじゃないか……明るく前向きで。いいだろう、この村に住むことを許可する。カエン君。ユウカ君を空き家に案内してくれ」
「分かった村長。ユウカ行こーぜ」
「うん!あっ、村長さんありがとうございました!!」
「村長だけでいいよ。明後日から頑張ってね」
 そして当初の目的を達成した二匹は、村長に見送られて村長の家を後にした。


**********


「はぁー、よかった……」
 ユウカはさっきまでの緊張感から完全に開放されたからか肩の力を抜いている。何だかお腹が空いてきた。隣ではユウカと同じように脱力しているカエン(別にお腹は空いていない)が一緒に歩いていた。
「村長結構いいポケモンだっただろ?まああんな風に笑ったのは初めて見たけど……」
 その言葉を聞いて、ユウカは村長について少し思考を巡らせる。
(あの笑い方は普段はしないんだ……でも違和感はあんまり感じなかったけど……)
「ついたぞ。ユウカ―?」
 ユウカが考え事をしているうちにいつの間にか空き家についていたようだ。さっきも考え事をしているうちに村長の家に着いていたような気もするが……何となくこれはどうしようもないことだとユウカは思ったので、これ以上深く考えなかった。
 これからユウカが住む空き家は意外にも奇麗なままで、中を少し見ても最低限の家具が揃っていた。
 元から揃っているのは楽には楽なんだが流石に都合がよすぎないか?とユウカは思ったが、その疑問の答えは意外にもカエンが持っていた。
「ここは元々オレの母さんの友達の家だったらしくて、本ポケはもうここに来ないって言ってるんだけど、母さんがたまに手入れをしてるから奇麗なままなんだよ」
「そんな家使っちゃっていいの?」
「本ポケも戻らないって言ってるし、オレの母さんの仕事が減るから大丈夫だろ」
 ユウカはこの家に住むことに対しいささか疑問を持ったが、カエンに大丈夫と言われたのでとりあえず納得する。
「あっ、あとこれ」
 そういうとカエンは自分のバックからオレンのみとポケを取り出した。いずれも今日ダンジョンで手に入れたものである。
「これユウカにあげるよ」
「えっ、いいの?」
 ユウカは受け取っていいのか聞いたが、
「確かこの家の中には食料はなかったはずだからな。何もないのは困るだろ。」
 とカエンに言われて、今自分が置かれている状況を思い出した。
「そうだった……ご飯どうしよ……」
「それも含めて明後日から頑張っていこうぜ」
 意外と深刻な問題にユウカは頭を抱えたが、対するカエンは気軽なものだった。これも慣れているか慣れていないかの違いだろうか。
「じゃあ、また明日な」
「あっ、ちょっとまって」
「?」
 ユウカは自分の家に帰ろうとしているカエンを呼び止めてお礼を言った。
「今日は色々ありがと、カエン!」
 そしてお礼を言われたカエンは照れくさそうに、しかし笑ってユウカに答えた。
「へへっ、どういたしまして!」


**********


 カエンの今日という物語はおそらくこれで終わっただろう。しかしユウカにはまだ重大なイベントが残っている。
 空き家の探索である。
(まず家を全部見回して、それからどこをどうつかうかきめてー)
 この期に及んで好奇心が尽きないユウカは、しかしやっぱり疲れているのか緩くなった思考力を頭に抱えたまま目の前にそびえ立つ家に突入した。
 玄関から入ってすぐ左に二階への階段があるがとりあえずこれは後回し、居間に続く廊下の途中には洗面所があった。少し覗いてみると奥にはお風呂もある。下に薪をくべて火をつけてお湯を沸かす昔のものだったが、サイコキネシスをうまく使えば楽に沸かせるかもしれない。居間は普通の昔の家のような感じで、キッチンどころか囲炉裏もなかった。前の持ち主は料理を嗜まないポケモンだったのだろうか。一階の探索が終わったので次は二階に突入。階段を上って正面にあったドアを開けてみると、まさかの小さな書斎があった。おかれている本は「せかいをすくったにんげんとぽけもんのおはなし」という絵本もあれば「不思議のダンジョンで使える道具20選!!」というありがたいのだが少し胡散臭い本もあったりした。本格的に前のこの家の持ち主のイメージがごちゃごちゃになってきた。二階には他にも部屋が三つあったが、どれもベッドが付いている個室だった。屋根裏に行けないかどうか十分ほど粘ったが手掛かりの一つも見つからず、ついにユウカは諦めてユウカの空き家大探索は幕を閉じた。閉じたはずだ。
 しかし、何かが足りない。
(あれ……?)
 寝かけていたユウカの脳が、一つの嫌な事実によって活性化されていく。
「トイレ……なくない………?」
 死活問題であった。
 真面目に話をしよう。人間に限らず、全ての動物には体内にたまった不要物を外に出す必要がある。そして知能のある者がその行為をするための場所が俗に言う『トイレ』なのだが、どうもこの家にはその設備が見つからない。つまり外で穴を掘ってそこに埋めろと言うのか?それともポケモンという生物はそもそも○○を必要としないというのか!?こんなバカみたいな事実を突きつけられてパニックになったユウカがどういう脈絡か書斎に駆け込むと、ある一つの分厚い本がユウカの目に留まった。背表紙には「ポケモン生物学」と書かれているその本をユウカは乱暴に引き抜き、自分がそうであってほしいというものを必死に探し始めた。
 しかし繰り返すが、全ての動物は○○をしなければならないのである。そこに「ポケモンだから」という理屈で許される事例など
「215ページ……[ポケモンは個ポケ差があれどおおむねは戦闘に特化した生き物であり、技を出すうえで必要不可欠な『PP』を補うために摂食した物の全てをエネルギーに変換する臓器が存在する]……?」
 あった。
 どうやらこの家にトイレがないのは大工の設計ミスではないようだ。
「ふー、焦った……」
 とりあえずの問題はどうにかなったが、代償に脳が覚醒してしまった。なのでユウカは、せっかく書斎にいるので適当な本を一つ選んで眠くなるまでその本を読むことにした。
「これっ、えーっと、「不思議のダンジョン学」?」
 なにやらつまらなさそうなものを選んでしまった。
 しかし表紙を見ているうちに机の前まで来てしまい、今更本を選びなおすのもめんどくさいので仕方なくこの本を読むことにする。
「んーっと、なになに……?」


**********


 今や世界中に無秩序に散らばった存在、『不思議のダンジョン』という存在は読者の方々も知っているだろう。「うん、知らなかった」あるポケモンはそこで生活に必要な道具や食料を集めたり、また別のポケモンは難関ダンジョンを探検して自分の腕を試したり、はたまたダンジョンで困っているポケモンを救助したりと、ダンジョンに対する関わり方はポケモンによって様々である。「へーそーなのかー」では、そもそも『不思議のダンジョン』とは一体何なのだろうか?それを知るためにはダンジョンの性質について今一度確認する必要がある。「へーそーなの(略)」まず一つ目は、『ダンジョンの外と中ではポケモン同士のバトルのシステムが少し違う』ことである。「あちょっとこれ気になる」細かく突き詰めていけばキリがないのだが……私が特に重要だと思っていることは『本来重複するはずのない状態異常を同時に受けてしまう』ことや、『本来六段階が上限なのに十段階までステータスの変動が確認されている』ことだ。「へーそー(略)」これについて私は「めんどいしとばそー」……とまあこんな風にポケモンの体にもわずかな変化が起こっているのである。そしてここに繋がってくる『ダンジョンのポケモン』についても説明しよう。「おけ」ダンジョンのポケモンは私達を見つけると警戒してくるが彼らには本質的な自我や理性は存在せず、話すことはおろか警戒以外の表情をすることすらままならないのである。「へー(ry……うん?」
 本を開いて二言目から寝そうな雰囲気が漂っていたが、とある記述にユウカは違和感を感じた。ダンジョンのポケモンは自我や理性を持っていない。話すことも表情を変えることもできない。本文に『説明』と書いてあるのでこれがダンジョンのポケモンの一般的な認識なのだが、ユウカはどこかで矛盾を感じていた。警戒以外の表情を見せたダンジョンのポケモンを自分は見たような気がする。そのポケモンがほんの少しだけ理性を感じ取られるような叫びをしながら自分に飛ばされたような気もする。
 そのポケモンは、
(あのイワンコ……いったい何も……い゛っ……!)
 流石に頭を使いすぎたか、軽めの頭痛がユウカを襲った。
 もういい、休め、と何者かに言われているような錯覚さえ感じる。元々ユウカは眠くなることが目的だったので、特にその誘いに抗うこともなく書斎を出る。隣の部屋のベッドに体を投げ出すとすぐに睡魔が襲ってきた。最初からこうすればよかったのかもしれない。薄れゆく意識の中で、ユウカはこんなことを考えていた。
 明日何時に起きれるかな……というあまりにも平凡なことを。

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