第４２話 敵の目的
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まだ日が昇る前の深夜、とある島の洞窟の中では3匹のポケモンが話をしていた。
『ええっ、殺したって？』
「何驚いてるのよ？」
そのうちの2匹、カイリューとプテラが何やら驚いている。彼らに対してクールな態度で会話しているのは、アマリジョ島でヒトカゲ達を翻弄し、挙句の果てに彼を死に追いやったブラッキーである。
「あなた達がいつまでも殺らないから、私が殺っただけじゃない」
その言葉にカイリューはため息をつき、プテラは少し面白くなさそうな顔をした。彼らのそんな表情をブラッキーは、何そんな落ち込んでるのかしらと変な様子で見ていた。
「ヒトカゲの事は僕に任されてたのに～。はぁ……」
どうやら自分の獲物を取られたことが納得いかなかったらしく、カイリューは残念そうにがっくり肩を落として落ち込んだ。
「ボウズと1回戦ってみたかったのによ～」
特にプテラは、ヒトカゲの詠唱、そして彼が“ブラストバーン”を使うところを1度も見ていない。話を聞いてからその場面を見たがっていたこともあり、今度カイリューと一緒に接触しようと考えていたところだったのだ。
「で、他の仲間の始末は？」
完全に興味がなくなったようにたるそうな声でカイリューが尋ねる。本来の標的はヒトカゲだけだが、一応、彼の側につく仲間も始末の対象になるようだ。
「してないわよ。ヒトカゲが死ぬのを見届けさせたのよ」
ブラッキーはそう言うが、実際はあまり面倒な事はしたくない主義なのだ。疲れるような仕事はいつも他人に任せることにしているらしい。
「じゃあ、俺らにやれってのか？ そういう時だけ女の子ぶるの止めたらどうだ？」
少し棘のある言い方で、全てお見通しのプテラがブラッキーに不満をぶつける。すぐにでも喧嘩を仕掛けそうに食ってかかる態度だ。
「だって、これは元々カイリューに与えられた仕事。なのにあなた方は勝手に面白がってヒトカゲをからかってばっかりだったじゃない。じれったいのよ、そういうところ」
彼女も負けじと言葉を返す。さすがに喧嘩腰で物を言われ、頭に少し血が昇ったようだ。顔こそ笑顔なものの、内心苛立ちを覚えている。
「別に面白がって生かしておいたわけじゃないよ」
気に障ったのか、カイリューまで言い争いに入ってきた。どうやら彼らは、同じグループに所属してはいるもののそんなに仲が良いように傍からは見えない。
「もし今後あのヒトカゲのようなポケモンがこの世界に現れたら、困るのはこの世界のポケモン達なんだよ？ だったら調べておくのが正当だと思うけど」
ヒトカゲを生かしておいた理由をカイリューが語るが、その中にある“ヒトカゲが他のポケモンを困らせる存在”という認識は彼らの中では共通であると伺える。
「現れる度に殺せばいいだけ。違うかしら？」
「お前、覚えてないのか？ 何故ボスが――」
プテラがそこまで言いかけた時、洞窟に誰かが入ってきた。比較的大きい体格なのか、歩く足音が洞窟に大きく響いている。
「カイリュー様、プテラ様、ブラッキー様、報告があります」
そう言ってカイリュー達の前に現れたのは、何とゼニガメの兄である、隻眼のカメックスだった。3人は彼の声を聞き首だけ向ける。
「どうしたの？ 報告って何？」
カイリューは先程の苛々を引きずっているせいか、さっさと済ませて欲しいと思っている。だが、カメックスの報告は3人が想像もしなかった内容であった。
「ヒトカゲが、生きています」
『はっ、何だって!?』
3人は信じられないといった顔で仰天した。その中で1番驚いているのはヒトカゲに手をかけた本人のブラッキーである。焦りを見せながらカメックスに聞き返した。
「ど、どうして？ 間違いじゃないの!?」
「いいえ、確かにヒトカゲは生きていました。仲間達と歩いているところを、昨日ナランハ島にて確認致しました」
淡々とカメックスは報告事項を述べていく。想像していなかった事態にブラッキーは困惑している。それとは逆に、少しだけ嬉しそうに笑ったのはカイリューとプテラだ。
「しかし、ヒトカゲが生きていた事は、逆に我々にとって好都合なのです」
『というと？』
標的が生きていて何が好都合なのかわからない3人は首を傾げた。カメックスはその3人の疑問に満ちた顔を眺めながら、説明を始めた。
「何故かはわかりませんが、奴らはアイランド中の勾玉を集めているのです。偶然かもしれませんが、各島に祀られている勾玉を集めてアスル島の神殿に持っていくことで、我々の目的も達成されるのです」
この時カイリューは、初めてヒトカゲに接触した時に彼の首から勾玉がぶら下がっていたことを思い出した。これを聞き3人の目の色が変わった。そして今の言葉の意味を確認するかのように、プテラが問い返した。
「おい、それは本当なんだろうな？」
「えぇ。私が調べた結果、昔にも同じような事があることがわかりました」
彼らはカメックスに一定の信頼を置いているのだろう、疑う様子もなく、プテラはその発言を受け入れた。
「ということは、我々の目的『ボスの復活』が達成させるわけね」
ブラッキーが口にしたのは、カイリュー達が活動している本当の目的だ。それは、自分達を従えているボスの復活だという。
「復活……というよりは、封印を解く、とでも言うべきでしょうか」
「それもそうね」
ヒトカゲ達が勾玉を集めているのは、『海の神』ことルギアを助けるためである。だがカイリュー達は、それと同じ事をするとボスの復活が叶うという。神が現れると同時に、悪が現れる。もちろん、ヒトカゲ達はこれを知らない。
「ですので、我々があいつらを仕留めるのは勾玉を集めきった頃、アスル島に現れた時にするのはいかがでしょうか？」
カメックスは次にヒトカゲ達に接触する機会を提案する。3人は各々の最善策を考えるが、全員が最終的な利益を優先し、首を縦に振った。
「わかったわ。そしたら私は戻るわ」
用が済むと、その場にあまりいたくないと思ったのか、ブラッキーは足早に去っていった。彼女の姿が見えなくなると、カイリューとプテラは少し疲れた様子で、息を大きく吐いた。
「さて、そろそろ話してくれてもいいんじゃない？ カメックス」
気持ちが落ち着いたカイリューは何やらカメックスに聞きたいことがあるようで、彼の方を向き、目をじっと見ながら質問した。
「何をですか？」
「君さ、ヒトカゲに同行しているゼニガメの兄なんじゃないの？」
カイリューはカメックスを自分達の仲間に引き入れてから、彼とゼニガメが兄弟なのではとずっと気になっていたようだ。表情を一切変えずにカメックスは聞き返す。
「何故そう思います？」
「ある噂が耳に入ってさ。カメックス、君が弟とポケ助けとかやってたって噂をね」
話を聞いて呆れたように肩をすくめながら、カメックスはカイリューの質問に答えた。
「そんな善良なポケモンが、自分の弟を殺そうとしますか？」
それをカイリューはクスクスと笑いながら聞いていた。一方のプテラはあまり興味がなさそうに小さくあくびをする。仮に事実だとしても、自分にとってデメリットになることがなければいいと思っている。
「そうだよね～。だったら……」
次の瞬間、カイリューの目つきが鋭くなった。彼お得意の“あの”表情だ。
「勾玉が全部揃ったら、僕達の目の前でゼニガメを殺してね♪」
笑顔でカイリューは命令を下す。裏に強い感情を秘めているようにも感じられる彼のその笑顔は、プテラが悪寒を感じるほどであった。
「了解しました。それでは」
だがそれにさえ、一切怯えたり困惑したりすることもなく、カメックスは機械的な返事をするとどこかへ向かって行った。洞窟の中にはカイリューとプテラしかいなくなった。
「んじゃ、俺ぁ金稼いでくるかな」
プテラは別の仕事があるようで、今から現場へ行こうとしている。仕事が理由ではあるものの、カイリューから離れたいという気も若干持ち合わせていた。
「君は金の亡者だね。ここに来たのもそういう理由みたいだし」
「悪いかよ？ 金がなきゃ俺ぁ生きていけねーんだよ」
そう言うとプテラは洞窟から飛び立とうとしたが、すぐに止めてしまった。互いに背中合わせの状態で、今度はプテラがカイリューに尋ねた。
「お前、まだ“あの事”気にしてるのか？」
それを聞いたカイリューは、珍しく言葉を詰まらせ黙ってしまった。
「今までにも多くのポケモンを殺してきたみてぇだけどよ、それも“あの事”を引きずって……」
「それ以上喋んない方がいいよ」
触れられたくないのか、カイリューはプテラの言葉を遮った。プテラがふと彼の方を向くと、残忍かつ冷酷な顔つきになっていて、再び寒気が走った。
「僕はいつスイッチが入ってもおかしくない。そしたら間違いなく“壊れる”よ？」
彼からとてつもないオーラが発せられているのをプテラは感じた。それはおぞましいもので、おもわず自分の身に危険を感じてしまうほどのものだった。
「わ、わかったよ……」
まるで逃げるかの如くプテラはカイリューの元から飛び去っていった。しばらくしてカイリューは落ち着きを取り戻すと、自分の塒に戻り、横になった。この日は雷雨が激しく、洞窟内ではその音が一段と大きく鳴り響いた。
『ええっ、殺したって？』
「何驚いてるのよ？」
そのうちの2匹、カイリューとプテラが何やら驚いている。彼らに対してクールな態度で会話しているのは、アマリジョ島でヒトカゲ達を翻弄し、挙句の果てに彼を死に追いやったブラッキーである。
「あなた達がいつまでも殺らないから、私が殺っただけじゃない」
その言葉にカイリューはため息をつき、プテラは少し面白くなさそうな顔をした。彼らのそんな表情をブラッキーは、何そんな落ち込んでるのかしらと変な様子で見ていた。
「ヒトカゲの事は僕に任されてたのに～。はぁ……」
どうやら自分の獲物を取られたことが納得いかなかったらしく、カイリューは残念そうにがっくり肩を落として落ち込んだ。
「ボウズと1回戦ってみたかったのによ～」
特にプテラは、ヒトカゲの詠唱、そして彼が“ブラストバーン”を使うところを1度も見ていない。話を聞いてからその場面を見たがっていたこともあり、今度カイリューと一緒に接触しようと考えていたところだったのだ。
「で、他の仲間の始末は？」
完全に興味がなくなったようにたるそうな声でカイリューが尋ねる。本来の標的はヒトカゲだけだが、一応、彼の側につく仲間も始末の対象になるようだ。
「してないわよ。ヒトカゲが死ぬのを見届けさせたのよ」
ブラッキーはそう言うが、実際はあまり面倒な事はしたくない主義なのだ。疲れるような仕事はいつも他人に任せることにしているらしい。
「じゃあ、俺らにやれってのか？ そういう時だけ女の子ぶるの止めたらどうだ？」
少し棘のある言い方で、全てお見通しのプテラがブラッキーに不満をぶつける。すぐにでも喧嘩を仕掛けそうに食ってかかる態度だ。
「だって、これは元々カイリューに与えられた仕事。なのにあなた方は勝手に面白がってヒトカゲをからかってばっかりだったじゃない。じれったいのよ、そういうところ」
彼女も負けじと言葉を返す。さすがに喧嘩腰で物を言われ、頭に少し血が昇ったようだ。顔こそ笑顔なものの、内心苛立ちを覚えている。
「別に面白がって生かしておいたわけじゃないよ」
気に障ったのか、カイリューまで言い争いに入ってきた。どうやら彼らは、同じグループに所属してはいるもののそんなに仲が良いように傍からは見えない。
「もし今後あのヒトカゲのようなポケモンがこの世界に現れたら、困るのはこの世界のポケモン達なんだよ？ だったら調べておくのが正当だと思うけど」
ヒトカゲを生かしておいた理由をカイリューが語るが、その中にある“ヒトカゲが他のポケモンを困らせる存在”という認識は彼らの中では共通であると伺える。
「現れる度に殺せばいいだけ。違うかしら？」
「お前、覚えてないのか？ 何故ボスが――」
プテラがそこまで言いかけた時、洞窟に誰かが入ってきた。比較的大きい体格なのか、歩く足音が洞窟に大きく響いている。
「カイリュー様、プテラ様、ブラッキー様、報告があります」
そう言ってカイリュー達の前に現れたのは、何とゼニガメの兄である、隻眼のカメックスだった。3人は彼の声を聞き首だけ向ける。
「どうしたの？ 報告って何？」
カイリューは先程の苛々を引きずっているせいか、さっさと済ませて欲しいと思っている。だが、カメックスの報告は3人が想像もしなかった内容であった。
「ヒトカゲが、生きています」
『はっ、何だって!?』
3人は信じられないといった顔で仰天した。その中で1番驚いているのはヒトカゲに手をかけた本人のブラッキーである。焦りを見せながらカメックスに聞き返した。
「ど、どうして？ 間違いじゃないの!?」
「いいえ、確かにヒトカゲは生きていました。仲間達と歩いているところを、昨日ナランハ島にて確認致しました」
淡々とカメックスは報告事項を述べていく。想像していなかった事態にブラッキーは困惑している。それとは逆に、少しだけ嬉しそうに笑ったのはカイリューとプテラだ。
「しかし、ヒトカゲが生きていた事は、逆に我々にとって好都合なのです」
『というと？』
標的が生きていて何が好都合なのかわからない3人は首を傾げた。カメックスはその3人の疑問に満ちた顔を眺めながら、説明を始めた。
「何故かはわかりませんが、奴らはアイランド中の勾玉を集めているのです。偶然かもしれませんが、各島に祀られている勾玉を集めてアスル島の神殿に持っていくことで、我々の目的も達成されるのです」
この時カイリューは、初めてヒトカゲに接触した時に彼の首から勾玉がぶら下がっていたことを思い出した。これを聞き3人の目の色が変わった。そして今の言葉の意味を確認するかのように、プテラが問い返した。
「おい、それは本当なんだろうな？」
「えぇ。私が調べた結果、昔にも同じような事があることがわかりました」
彼らはカメックスに一定の信頼を置いているのだろう、疑う様子もなく、プテラはその発言を受け入れた。
「ということは、我々の目的『ボスの復活』が達成させるわけね」
ブラッキーが口にしたのは、カイリュー達が活動している本当の目的だ。それは、自分達を従えているボスの復活だという。
「復活……というよりは、封印を解く、とでも言うべきでしょうか」
「それもそうね」
ヒトカゲ達が勾玉を集めているのは、『海の神』ことルギアを助けるためである。だがカイリュー達は、それと同じ事をするとボスの復活が叶うという。神が現れると同時に、悪が現れる。もちろん、ヒトカゲ達はこれを知らない。
「ですので、我々があいつらを仕留めるのは勾玉を集めきった頃、アスル島に現れた時にするのはいかがでしょうか？」
カメックスは次にヒトカゲ達に接触する機会を提案する。3人は各々の最善策を考えるが、全員が最終的な利益を優先し、首を縦に振った。
「わかったわ。そしたら私は戻るわ」
用が済むと、その場にあまりいたくないと思ったのか、ブラッキーは足早に去っていった。彼女の姿が見えなくなると、カイリューとプテラは少し疲れた様子で、息を大きく吐いた。
「さて、そろそろ話してくれてもいいんじゃない？ カメックス」
気持ちが落ち着いたカイリューは何やらカメックスに聞きたいことがあるようで、彼の方を向き、目をじっと見ながら質問した。
「何をですか？」
「君さ、ヒトカゲに同行しているゼニガメの兄なんじゃないの？」
カイリューはカメックスを自分達の仲間に引き入れてから、彼とゼニガメが兄弟なのではとずっと気になっていたようだ。表情を一切変えずにカメックスは聞き返す。
「何故そう思います？」
「ある噂が耳に入ってさ。カメックス、君が弟とポケ助けとかやってたって噂をね」
話を聞いて呆れたように肩をすくめながら、カメックスはカイリューの質問に答えた。
「そんな善良なポケモンが、自分の弟を殺そうとしますか？」
それをカイリューはクスクスと笑いながら聞いていた。一方のプテラはあまり興味がなさそうに小さくあくびをする。仮に事実だとしても、自分にとってデメリットになることがなければいいと思っている。
「そうだよね～。だったら……」
次の瞬間、カイリューの目つきが鋭くなった。彼お得意の“あの”表情だ。
「勾玉が全部揃ったら、僕達の目の前でゼニガメを殺してね♪」
笑顔でカイリューは命令を下す。裏に強い感情を秘めているようにも感じられる彼のその笑顔は、プテラが悪寒を感じるほどであった。
「了解しました。それでは」
だがそれにさえ、一切怯えたり困惑したりすることもなく、カメックスは機械的な返事をするとどこかへ向かって行った。洞窟の中にはカイリューとプテラしかいなくなった。
「んじゃ、俺ぁ金稼いでくるかな」
プテラは別の仕事があるようで、今から現場へ行こうとしている。仕事が理由ではあるものの、カイリューから離れたいという気も若干持ち合わせていた。
「君は金の亡者だね。ここに来たのもそういう理由みたいだし」
「悪いかよ？ 金がなきゃ俺ぁ生きていけねーんだよ」
そう言うとプテラは洞窟から飛び立とうとしたが、すぐに止めてしまった。互いに背中合わせの状態で、今度はプテラがカイリューに尋ねた。
「お前、まだ“あの事”気にしてるのか？」
それを聞いたカイリューは、珍しく言葉を詰まらせ黙ってしまった。
「今までにも多くのポケモンを殺してきたみてぇだけどよ、それも“あの事”を引きずって……」
「それ以上喋んない方がいいよ」
触れられたくないのか、カイリューはプテラの言葉を遮った。プテラがふと彼の方を向くと、残忍かつ冷酷な顔つきになっていて、再び寒気が走った。
「僕はいつスイッチが入ってもおかしくない。そしたら間違いなく“壊れる”よ？」
彼からとてつもないオーラが発せられているのをプテラは感じた。それはおぞましいもので、おもわず自分の身に危険を感じてしまうほどのものだった。
「わ、わかったよ……」
まるで逃げるかの如くプテラはカイリューの元から飛び去っていった。しばらくしてカイリューは落ち着きを取り戻すと、自分の塒に戻り、横になった。この日は雷雨が激しく、洞窟内ではその音が一段と大きく鳴り響いた。