「それで、そちらさんはどちらさん?」
ハルキとアイトが仲直りしたタイミングでヒカリがフタチマルに視線を向ける。
「拙者の名はアセビ。 危ないところをそちらの2匹に助けてもらったでござる」
「いや、こっちこそ助かった。 ありがとな。 俺の名前はアイト。 そこのイーブイがヒビキで、そっちのポッチャマとピカチュウがハルキとヒカリ。 俺のチームメイトだ」
アセビと名乗ったフタチマルにアイトが名乗ったついでに、ハルキ達を紹介してくれた。
名乗る手間が省けたところで、ハルキは今この島でダンジョンポケモンが現れて、街が騒ぎになっていることを話した。
「そんなことが。 ……ゆっくりと話したかった所でござるが、宿屋で寝ている弟が心配でござるゆえ、拙者は急ぎ、宿屋に戻らせていただくでござる。 其方らも十分、気をつけるでござる」
「わかった。 アセビさんも道中、気をつけてな」
アイトの言葉に無言で頷くと、アセビは走って街の中へと消えていった。
「んで、俺達はどうする?」
「わたし達も宿に戻った方がよさそうですね」
「そうだね。 ここはポケモンの気配も無いし、さっさと移動したほうがいいかもしれない」
話がまとまったところで、ハルキ達も急いで宿までの道のりを歩き始めた。
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「この森を抜ければ宿はすぐそこだねー」
道中、警戒しながら森を歩いていたハルキ達は幸いな事にダンジョンポケモンと遭遇することなく、宿の手前まで戻ってきていた。
「どうする? ダンジョンポケモンじゃなくて、オバケとか出てきたら?」
「出るとしてもゴーストポケモンな気がする」
「ある意味、オバケではあるねー」
そんな話をしているとタイミングよく近くの茂みからガサガサと物音がした。
「オ、オバケです……?」
「いや、そんなまさかー」
「じゃあ、アイト君、見に行ってくださいよ」
「俺!? ま、まあいいぜ! そもそもオバケなんて非科学的な存在いるはずないしー、森に住む野生ポケモンだろうけどなー」
「そのわりに声が震えてるねー」
アイトが恐る恐る茂みに近づき、茂みを掻き分けようとしたその瞬間――
茂みの中から1匹のポケモンが飛び出てきて、アイトとぶつかった。
「うわあああああああ! ……って、なんだロコンか~」
アイトは大きな声をあげてその場に尻餅をついたが、ぶつかったポケモンの正体を見てホッと胸をなでおろした。
アイトにぶつかったポケモン、白い毛色のロコンはきょとんとした顔でこちらを見ていた。
「このお兄さんが大声出したからびっくりしたでしょー? 大丈夫?」
「いや、あれは誰だってビビるだろ。 とりあえずぶつかっちまって悪かったな。 けがはないか?」
アイトが右手を差し出して起き上がらせるとその拍子にロコンの頭から何か落ちた。
「ん? 何か落ちたな」
「あのっ! わ、わたくちを助けてください!」
「え?」
ハルキ達は急に助けてと言われて一瞬、呆気にとられて固まってしまった。
地面には、先ほどロコンが頭につけていた青い宝石がはめ込まれたティアラが落ちていた。
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「つまり、夜に花を探しにこっそり家を出たはいいけど、帰り道がわからなくなったってことでいいかな? いや、いいですか?」
「はい! あと、敬語はいりません」
頭に銀色のティアラをつけたロコンが元気に頷いた。
話を聞いたところ、このロコンはシュテルン島を代々管理している王族の娘さん、つまり王女様らしい。海沿いにあるでっかい建物が王家の家らしく、今日読んだおとぎ話に出てくる花を探しに抜け出してきたらしいが、花は見つからず、帰り道もわからなくなってしまったらしい。
「元来た道を引き返せば良かったのではないです?」
「わたくち、自慢じゃないですが道はすぐ忘れてしまうの」
「じゃあ、でかい建物が家なんだから、とりあえず森抜けて、でかい建物がある方向に行けばよかったんじゃねぇか?」
「そうしようと思ったけど、何故か森から出られなかったの。 なんか先ほどから似た風景ばかりで、迷路みたいな森……」
「この森って道なりに行けば1本道だったと思うけど、ハハハ……」
ハルキは苦笑いしつつ何となくこのロコンが何で迷子になったのか察した。
「つまり、方向音痴なんだねー!」
「ちょっ、ヒカリ!」
敬語はしなくていいと言ったが、相手はこれでもこの国の王女様だ。
僕達よりも年下だろうと最低限、言ってはいけない事がある。
もしこれで不敬罪なんて言われたら面倒臭いことになりかねない。
「言ったでしょー? わたくち、道はすぐ忘れるの」
謎のどや顔で誇らしげに言うロコン。
どうやら方向音痴な事がコンプレックスになっているわけではないようでハルキはホッとした。
「ダンジョンポケモンの件もあるし、助けてと言われた以上断れないから、この子を家まで送り届けようか」
ハルキの言葉に賛成した一同は保護したロコン――
「申し遅れました。 わたくち、リン・イーリスと言います。 チームスカイの皆さん、よろしくお願いしますね!」
もといリン王女様を家に帰すため、進路を変更した。