死体は語る③

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

がっつりホラー回です……

●あらすじ
 ヤレユータンに動作呪文を掛け、死体を動かしたマニューラ。その口を開き、彼の身に何が起きたのかを聞こうとするが……




 ヤレユータンは蘇った――正確に言うと、蘇ったというよりも死霊が憑りついていた。動作呪文を死体に掛けると、それはおぞましい死霊術になった。後で賢者の図書室で判明したことだが、マナフィ家の魔女が死者を蘇らせたという逸話は、まさに今、私がしている生命の冒涜そのものだった。熱帯雨林の夜に湧き出でたのは、底冷えするような霊気だった。

「あなたの名前は?」

 死霊は返事をしなかった。

「名前は、と聞いたのよ」

「ファ……ファ、ファ、ファ、ファリ、ファリ……リーン。お、お、お前、なのか」

「ソーニャよ。私はソーニャ。質問に答えてちょうだい」

 ヤレユータンは時折、手足と頭を不気味に痙攣させていた。その度に、ジュカイン・アムニスの悲しい呻きが聞こえてきた。

「あなたは死んだ。何で死んだ?」

「く、く、苦し、く。る。し。い」

「あまさん、もうやめたってくれんか……」

「待って。何で苦しいの?」

「フク、ロウ……」

「フクロウ?フクロウがどうしたの?」

「フクロウ……追い、かけ、かけた。も、も、もも、森、森の前に。危……危ナイ。フク、ロウ。ニ、ゲ、タ」

「フクロウが逃げた?どこに?」

「ミ、ミズ、ミズ、ミズ、ミ。ミ。ミ。ミズ」

「水?用水路ね?フクロウは次にどうしたの?」

 死霊は再び沈黙した。

「フクロウは。次に。どうしたの?」

「……森。危ない、森。止メタ、メタ、メタ、メタ。のに。のに。のに。のに」

「生きている森。フクロウは。生きている森に。入ったのね?そうなら、アーと言いなさい」

「ア、アー。アー」

「苦しいのは、フクロウのせい?」

「アー。アー、アー、アー」

 稲光が走った瞬間、事務室の窓に何かの影が映ったように見えた。気のせいだったと思いたいが……

「そのフクロウとやらが生きている森に入ろうとしたのを止めて、返り討ちにあったってわけだ」とムクホークが言った。

「誰だと思う?」

「聞いてみればいい」

 私は再びヤレユータンの顔を見た。 「フクロウの特徴を教えて」

「ア、アアア……」

「アーじゃない。特徴は?どんな姿をしていたの?」

「アアアアア」

「特徴は!?」

「あああああああああああああああああああああああああ」

「もうやめてくれ!」

 アムニスは私の右肩を引っ張った。その時、私の呪文は途切れて、死霊との交信が中断された。ヤレユータンの身体は糸の切れた人形のようにうつ伏せに倒れた。遺体からは黒煙が薄っすらと立ちのぼっていた。

「あんまりだ、こんな仕打ち!」、アムニスは叫んだ。

 私は良かれと思ってやったわけではない。だが、必要なことだと思って行動した。ゆえに、非難されることは覚悟の上だった。

「だが、フクロウか。得るものはあったな。フクロウ……ホーホー、ヨルノズク、モクロー、フクスロー、あとは――」

 ムクホークが最後の名前を言いかけたその時だった。

「おじい、いる?」、キモリ・アミュオの声が勝手口から響いてきた。外は嵐だったが、その声は極めて明瞭に聞こえた。

「おじい?」

「アミュオ?何をしとる?こんな時に外に出たら危ないじゃろう」

「うん、ごめん。開けてくれる?」

 アムニスは私の身体から手を放し、事務室の勝手口へと向かった。勝手口は棚に隠れていたので、こちらからは様子を見ることが出来なかった。アムニスの姿が棚に隠れると、重い扉が開く音がした。

「アミュオ!?どこにおる!?」、アムニスは外に出た。バタンと扉が勢いよく閉められた。

「ジュナイパーよ」。私はムクホークの言葉を補った。

 裏切られし者の狙撃手、ジュナイパー。恐らく、ヤレユータンが見たのは彼だろう。だが、ジュナイパーはどうやって傷もなく毒を打ち込んだのだろうか?

「だが、生きている森に入ったならば、その暗殺者も生きてはござらん。一度、これからどうするかを話し合うのも一考かと。お館様!」

 返事はなかった。大雨と風に遮られて聞こえないと思ったのか、ソウケンは再びアムニスを呼んだ。しかし、やはり返事はなかった。ソウケンもまた、勝手口の方に行った。

「お館様?」

 まさかと思って、私は窓の外から勝手口の前を見た。ジュカイン・アムニスもキモリ・アミュオもいなかった。どこに行ったのだろうと思って、周囲を見回していた時だった。雨の音に混じって、何かが近くの地面を引きずる音に気付いた。音のした方を見た時、私はその正体を見てしまった。

「開けてくれい、ソウケン!」アムニスの元気な声だった。

 ジュカイン・ソウケンは扉の取っ手を引く直前だった。

「開けないで、ソウケン!」、私は悲鳴に近い声を上げていた。

「何だよ、マニューラ?」

 ムクホークが窓際まで近づいてきたので、私は音の正体を指差した。

「ソウケン、開けてくれい!おるんじゃろ!?」

 音の正体はジュカイン・アムニスだった。首に蔦を巻き付けられて、管理事務室の下に身体が引きずり込まれる音だった。

「誰だ、そこにいるのは!?」、ムクホークが玄関の方に叫んだ。

 返事はなかった。そして、玄関前の誰かは再び話し始めた。

「ソーニャ、エチエン、俺だ。いるんだろ?開けてくれよ……寒いんだ……胸に穴が開いてるんだよ……」

 私も、ムクホークもその声には聞き覚えがあった。ここにいるはずのない男だった。

「レントラー……?」

 私はヤレユータンの身体を見た。身体から出る黒い煙は未だに消えていなかった。



肝試しの季節ですね。ですが、狙ってたわけではないです。

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