第8話 異変と過去の影

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 “漆黒の翼”掃討作戦からちょうど3日後、王都ではある1匹のポケモンの死体が見つかっていた。平和で近代的な生活が営まれる王都内でも、それ自体は珍しいことではない。近年は高齢単身者の孤独死も社会問題のひとつになっているし、当然、ポケモン同士の争いから殺害が発生することもあった。しかしその死体は”よくある”そういった死体とは全く異なっていた。全身が病的に衰弱し、手足には自傷と思われる血痕を残していた。さらに、両目は見開かれまさに”狂った”ように死んでいたのである。これは次の日には一大ニュースとして各新聞社が一面で報じ、”狂死体”として全国的に話題になった。そのポケモンの出自や死の理由について、この時点では明らかにされていなかった。

 それから4日、今度は大量のそれらが見つかったというのである。

「うちにも捜査の依頼があった。”国”からだ。とりあえず現場を確認したい。ブイゼル、今から出れるか。」

 この国で特殊捜査の仕事に就くためには大きく2通り方法がある。一つは、”エール”のような民間の特殊捜査ギルドに所属すること。もう一つは、国家が運営する特殊捜査局の職員になることだ。前者は全国各地に多く存在するのに対し、後者は単一である。そのため前者と区別して多くのポケモンは後者を”国”と表現した。国内の刑事事件は一旦特殊捜査局に集められ、ギルド協会を経由して民間ギルドに委託される。

「はい、大丈夫ですよ。」

「よし、じゃあ簡単に準備してすぐ行くぞ。」

 言いながらデスクを立ち、カメックスは道具箱の整理を始めた。ブイゼルは「えっ」と声を上げ、

「ボスも出るんですか?」

と自身の道具箱を確認しつつ、カメックスの様子を怪しんだ。

「ああ、悪いか。」

そう簡単に答えると、カメックスは彼から見て右の手前にデスクを置くハーデリアに声をかけた。

「これから”国”のポケモンが来る。話を聞いておいてくれるかな。」

「かしこまりました。」

ハーデリアは、不自然に急ぐ様子のカメックスを見て訳知りげに笑う。

「さては、カイリューさんですね?」

「…ああ。」

「どうりで。案件の詳細を任せて現場に行くだなんて珍しいと思いましたよ。」

苦虫を噛み潰したような顔をするカメックスだが、ハーデリアは対照的に「ほっほっほ」と穏やかに笑い声をあげた。

「ええ、カイリューさんってあのほっこりしてて優しそうなイケオジですよね?ボス苦手なんですか?」

「苦手ってわけでもないんだが…、とにかくもう出る。ブイ、行くぞ。」

チルットを適当にあしらい、カメックスはブイゼルの返事も聞かずに急ぎ足で事務所の出入り口に向かう。無理やり荷物をまとめて続いたブイゼルがちょうど彼に追いついた頃、カメックスはピタリとその足を止めた。カメックスの視線の先にはカイリューがいた。たった今、事務所に着いたといった様子だった。

「久しいなあカメックス。早めに出てきてよかったよ。僕が向かうときはいつも外出しているから。」

「お、おお。久しぶりだなカイリュー…。」

 にっこりと再会を喜ぶカイリューに、いかにも気まずそうな様子で挨拶を返すカメックス。その横でブイゼルはぺこりと頭を下げた。

「カイリューさん、お久しぶりです。」

「ああ、君は…、」

「ほら、フライゴンのところの。」

カメックスが補足すると、カイリューは「そうだ」と手を叩いた。

「犯罪社会学研究室の学生さん、だったね。久しぶり。…あれ、大学は?」

「1年前から休学して、ここで勉強させてもらっています。」

「現場志望なんだよ、こいつ。」

 カイリューは、大学生として出会ったブイゼルが事務所にいることを不思議そうにしたが、ふたりの答えから合点がいったように頷いた。

「それでか。確かにフライゴンは今じゃ大学の教員だから現場のポケモンではないし…、」

言いながら、カメックスの方にちらと視線を送る。

「それに”国”とも距離を置きたがっているみたいだからなぁ。」

「あいつはそうでもないだろう。第一、大学は王立なんだから”国”と関わる機会も多い。」

「もちろんお前ほど露骨ではないさ。」

言われて、カメックスはわかりやすくバツの悪そうな顔をした。それを見たカイリューは笑顔で両手を振る。

「なんでお前がそんな顔をするんだよ。同期ふたりが突然辞めて、しかも急に避けられるようになったこっちの身にもなってくれ。」

「すまないとは思ってるよ。…だが会うたびに”戻れ”と言われちゃ敵わん。」

「こっちも聞き飽きてるのは百も承知で言ってる。でも、まあ今日は言わないでおくよ。久しぶりに会えただけで満足だ。」

「妙に聞き分けがいいのも調子が狂うな。」

「…もう、15年になる。」

 その瞬間、ふたりの間で時間が止まった。”15年”という数字が、カメックスとカイリューにとってただの期間以上の特別な意味を持っているらしいことは、事務所内のポケモンたちの誰にもわかった。カメックスは何も返さなかった。

「さて。仕事の話は、今日もハーデリアさんかな。」

「ええ。ここからは私がお伺いしましょう。」

間を見計らったかのように、ハーデリアは奥のデスクからカイリューに声をかけた。カイリューは軽く頷いてみせ、また視線を眼前の2匹に戻す。

「引き止めて悪かった。あいつとばかりでなく、たまには僕も飲みに誘ってくれよ。」

「お前酒には弱かっただろう。」

「ははは、会う口実さ。ブイゼル君、”先生”によろしくね。」

「はい!」

 それだけ言って、カイリューはブイゼルの返事を背に受けながら事務所の奥へと進んだ。軽く上げられた右手は、背のふたりへの簡単な別れの挨拶だった。



「知ってるのか?」

 “狂死体”発見現場までの道中、カメックスが隣を歩くブイゼルに聞いた。

「どうしてボスと先生が”国”を離れたか、ですか?」

 民間の特捜ギルドと比較して、特殊捜査局には、国中の”エリート”が揃った。その入所倍率もさることながら、非常に高いレベルでの教養試験、体力試験を課されたからだ。当然、特殊捜査官としてのキャリアは”国”が花形とされている。ここを去るのは不自然なことだった。

「そうだ。」

「知りませんよ。話したくないんでしょう?」

ブイゼルは彼らの事情について知った風な口をきく。

「そうだが、聞かないもんだから知っているのかと。ほら、お前はそういうのやたらと聞きたがるだろう。」

「空気が読めない、って言ってます?」

「いやいやそうとは言ってない。ただ、聞きづらいからこそあえて無神経を装って知ろうとするところがあるよな。」

「ふふ、先生にも同じこと言われました。」

カメックスに笑いかけ、ブイゼルはそのまま続けた。

「聞いてみたことはありますよ。実際気になりますし。でも先生、どれだけ酔ってても話そうとしなかった。それってよっぽどのことなのかなって。」

「もっと知りたくなったか。」

「はい。」

子をからかうような、意地悪な笑みで顔を覗き込んだカメックスにつられるように、そう答えてブイゼルはまた小さく笑った。

「…お前ならいずれわかる。」

 呟くようにカメックスは言った。うって変わって真面目な顔をしていた。

「そうなんですか?」

「可能性の話だ。」
TVerにて「大恋愛」という恋愛ドラマの再放送をちょっとずつ見ていたんですが、つい昨日最終回まで見終わりました。
ヒロインの戸田恵梨香がアルツハイマーという設定の、約束された神ドラマでした。今なら全話無料公開中なのでおすすめです。
作中、主人公(?)のムロツヨシが小説家で小説風にナレーションが入るのですが、これに若干書き方が影響された感があります(笑)
おこがましいかな?
長々とすみません。

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