第28話 お庭で特訓

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 次の日の昼、メガニウムが出掛けた後に4人は再び庭に集まり、昨日ゼニガメが提案した特訓をここでやるようだ。早速対戦相手を決めるためにくじ引きをした結果、ヒトカゲとドダイトス、ゼニガメとチコリータの組み合わせとなった。

「あちゃー。俺とヒトカゲは相性悪い相手になったなぁ」

 くじを引いた後にゼニガメが頭を掻きながら言った。ゼニガメの“みず”に対し、チコリータの“くさ”、ヒトカゲの“ほのお”に対し、ドダイトスが持つ“じめん”タイプは、ヒトカゲとゼニガメにとって苦戦を強いられるものとなった。

「あら、もう敗北宣言かしら?」

 チコリータの何気ない冗談にゼニガメはカチンときたようで、眉間あたりをヒクつかせている。元番長というだけあってか、ケンカを売られた気分になったようだ。

「は、敗北? 俺が? だ、誰が負けるもんかぁ~」

 短気なゼニガメはもうはや熱くなっている。意地になっている彼を見てチコリータは笑いながら、どっからでもかかって来なさいと言わんばかりの無防備な体勢で立っている。

「早速、“かみつく”!」
「“まもる”!」

 興奮気味のゼニガメがチコリータに向かって行き、“かみつく”ために飛びつく。だが“まもる”によって弾き飛ばされ、彼女は無傷だ。

「次は私から。“はっぱカッター”!」
「それなら“てっぺき”!」

 チコリータが“はっぱカッター”をくりだした。直撃はまずいと思ったゼニガメは咄嗟に“てっぺき”で防御力を上げたことで、思った以上にダメージを受けずに済んだ。

「これならどうかな? “メロメロ”!」

 意外にも、ゼニガメは“メロメロ”を覚えていたのだ。まともに“メロメロ”を受けたチコリータは、ゆっくり彼のところに歩み寄る。彼女の目はすっかり潤んでいる。

「あはっ♪ ゼニガメく~ん」

 メロメロ状態のチコリータは、ゼニガメの頬に顔をすりすりさせている。ちょっとだけ嬉しいのか、彼の顔が若干赤みを帯びていて、表情が硬い。
 だがデレるのもここまで。一気に勝負に出るために“ロケットずつき”をくらわせてチコリータに大ダメージを与えようとした、その時であった。

「……な~んちゃって♪ “マジカルリーフ”♪」
「何ですと!?」

 何とメロメロ状態にもかかわらず、チコリータがゼニガメのすぐ近くから“マジカルリーフ”を放った。それに仰天したゼニガメは避けることができずに“マジカルリーフ”をくらってしまった。

「な、何でだ!?」

 自分にメロメロ状態のチコリータがどういうわけか攻撃してきたことにゼニガメは激しく動揺していた。その理由を彼女は涼しい笑顔でこう語った。

「ゼニガメは友達だけど、“メロメロ”になるような要素はないからよ。さすがに恋人にはしたくないからね」

 冷たくそしてさらっとした答えは、技を食らわせたのとは何か別な理由でショックを与え、ゼニガメを一気にブルーにさえた。さらに何を思ったのか、彼女は大声で本音を語った。

「私が恋人にしたいのはただ1人……ドダイトスだけよ!」



 一方、ヒトカゲとドダイトスもゼニガメ達と少し離れたところで特訓を始めていたのだが、このチコリータの一言が2人の耳にしっかり届いたことで、一時中断を余儀なくされた。

「お、お嬢、何を仰っているのですか……」

 この爆弾発言を聞いたドダイトスは、本気か冗談かわからなかったためただ混乱していた。ヒトカゲは口を開けたまま、声を詰まらせながら呆れていた。

「え、えーっとドダイトス、聞かなかったことにして、続きやらない?」
「そ、そうだな……」

 現実逃避を試みる2人。気持ちを切り替え、何も起きてない、そうだあれは空耳だったのだと自分達に言い聞かせて特訓を再開させた。

「ではいきますよ。“ウッドハンマー”!」

 ドダイトスは勢いよく “ウッドハンマー”でヒトカゲに向かってきた。ただでさえ頑丈な彼の胴体を相手に叩きつけようとしているのだ、ダメージは相当なものだろう。

「“メタルクロー”!」

 これに対してヒトカゲは“メタルクロー”で反撃しようとしたが、力量不足のせいか、“ウッドハンマー”にはじかれて後方に飛ばされてしまった。

「いったぁ~! それなら“ほのおのキバ”!」
「“かげぶんしん”!」

 次にヒトカゲは“ほのおのキバ”をくりだしたが、ドダイトスの素早い“かげぶんしん”によって、本物に当てることができなかった。

「こっちだ! “タネマシンガン”!」

 ヒトカゲの背後を捉えたドダイトスが“タネマシンガン”を放った。猛烈なスピードで数多くの種が弾丸のごとく向かってくる。

「ちょっ、“みがわり”!」

 大慌てでヒトカゲが“みがわり”で自分の分身を作り出し、間一髪で“タネマシンガン”を回避することができた。

「“えんまく”!」
「なら“じしん”でどうだぁ!」

 ヒトカゲの“えんまく”と同時に、ドダイトスは容赦なく“じしん”で攻撃した。視界がない中で足元がぐらぐらと揺れ始め、庭の地面には割れ目がどんどんできていった。

「ぐわあっ!」

 ヒトカゲの声が煙幕の中から聞こえてきたが、ドダイトスは首をかしげた。全くと言っていいほど手ごたえがなかったのだ。そして直に煙幕が晴れると、そこにはヒトカゲの姿はなかった。

「ん、どこだ?」

 辺りを見回すが、どこを見てもヒトカゲの姿が見当たらない。少し焦りだしたドダイトスが彼を探そうと足を踏み出そうとした、その時だった。

【紅蓮の炎を操る神よ……】

 ドダイトスの背後からヒトカゲが詠唱する声が聞こえてきた。後ろを振り向くと、自分の背中にある木の上に彼はいた。どうやら“じしん”の回避と詠唱の時間確保が目的だったようだ。詠唱が済むと、彼は木の上から降りてきた。

「詠唱してる時間ないかなって思って、“えんまく”から“でんこうせっか”で逃げたんだよ」
「なるほどな。そのくらい待ってやったのに」

 実戦でも上手くいくようにと、敢えてこうしたようだ。2人が本気モードになり、より一層張り詰めた緊張が辺りを支配する。



「“ハイドロポンプ”!」
「“ソーラービーム”!」

 その頃、ゼニガメとチコリータの方は大詰めを迎えていた。どちらかが倒れるまで互いに強力な技をぶつけ続けるという、以前ヒトカゲとバクフーンがしていた特訓をヒントに考えたものを実践した。

(つ、強い……ホントにお嬢様なのかよコイツ!?)

 ゼニガメは、自分の想像していた以上にチコリータが強いことに気を押されていた。お嬢様がこれほどの力を持っていたとは想像もしてなかったようだ。

(さすがに強いわ。でも負けるのだけは嫌!)

 彼女もゼニガメの強さに驚いていた。しかし彼女は大の負けず嫌い。相手が誰であろうと手加減は一切しないと心に決めていて、全力で彼と勝負している。

(これで最後!)

 2人は同時に心の中で宣言し、自身の技の威力をさらに上げた。その勢いで周りは土埃が舞い、互いに相手が見えなくなる。

「……やりぃ♪」

 土埃が晴れた時には、勝負はついていた。勝者はその嬉しさにおもわず歓声を上げた。一方の敗者は目を回しながら地面に倒れていた。

「残念でした、ゼ・ニ・ガ・メ・ちゃん♪」

 そう、この勝負に負けたのは何とゼニガメだった。若干ではあったがチコリータの方が技の威力が強かったのだ。彼はふらつきながらも立ち上がり、疲れている表情を見せつつも、笑顔に溢れている彼女を見て不思議と彼自身も綻ぶ。

「強かったぜ、お嬢様」
「お父様から稽古は受けてたのでね。さて、私達はあっちが終わるのを見てましょうよ」

 どおりでと納得するゼニガメ。あのメガニウムの娘ならと考えるとその強さも想像に難くない。一段落した彼らはまだ決着のついていない、ヒトカゲとドダイトスの対戦を見ることにした。



「“オーバーヒート”!」
「“リーフストーム”!」

 こちらも大詰めを迎えていた。ゼニガメ達が戦っている間、2人は大技をいくつもぶつけ合っていたため、庭の至るところに穴が開いていた。

「はぁ、次で、最後にする?」
「はぁ、はぁ、そうだな……」

 互いに息を切らしている。そして最後にぶつける技はとっくに決めていた。力を振り絞り、2人はお互いの最強技を放つ態勢にはいった。

「“ブラストバーン”!」
「“ハードプラント”!」

 2人が放った技が衝突するや否や、技のエネルギーの相乗効果で大爆発を起こした。それはまるで小規模の太陽がそこで光輝いているかのようであった。その場にいた全員があまりの眩しさに、エネルギーが拡散するまで目を瞑っていた。
 しばらくして目を開けた4人は、ヒトカゲとドダイトスの間に巨大な穴ができていたことに驚いた。それは修復するだけでも相当の時間を要するくらいの穴だった。

「はぁ、疲れた……」

 ヒトカゲはその場にへたり込んでしまった。ドダイトスも技こそ受けなかったものの、久々の大技連発で疲れ、地面に伏せる。ちょうどその時に運悪く、出掛けていたメガニウムが帰ってきてしまった。

「ただい……」

 メガニウムは自分の目の前に広がっている光景――巨大な穴1つと小さい穴がいくつもある庭を見ると、絶句してしまった。しばしの沈黙がその場に流れ、その間にも彼の心の中では何かがふつふつと湧き上がっていき、その様子を察したヒトカゲ達4人は凄い量の冷や汗をかいている。
 そして、メガニウムはその中の1人の名前を呼んだ。

「ドダイトス、ちょっと」
「……は、はい……」

 ドダイトスは言われるがままに、メガニウムと共に家の中に入っていった。その時、ヒトカゲには彼がとても恐怖に引きつった顔をしているのが目についた。

 数分後。

「ぎゃあぁぁ――っっ!!」

 メガ家の中から痛烈な悲鳴が聞こえ、ヒトカゲ達は恐怖心を覚えたのか、その場から一歩も動くことができなかった。

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