21.帰還、思わぬ再会

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 二匹はリンクが反動から回復するのを待ちながらギャラドスを観察した。安全のため距離を取って、座り込んで遠目にじっと見る。

「今は……普通のギャラドスだよな」
「何をとっても普通。あんな大きかったのが嘘みたいだよ」
「嘘、ねえ……」

ダッシュは何やら思い当たる節があるように頬杖をついた。

「リンク。あいつに“でんこうせっか”繰り出した時、どんな感触だった?」
「どんな……? うーん、なんて言えばいいんでしょうか。それこそ、幻に技を浴びせているような、手応えのない感じがしました」
「だよな! やっぱ俺の気のせいじゃねえよな!」

ダッシュはパアっと顔を明るくすると、自信満々に仮説を語り出した。

「俺が思うに、あのデカさは何らかのエネルギーでできた幻みたいなものなんだ。ほら、赤い雲やら霧があいつを覆ってただろ?」
「確かに、そうでしたね」
「我ながらいい勘してるよな〜。よし、そうとなったら早速調査するぞ!」

そう言うやいなや、ダッシュはまさに光の速さでその場からいなくなってしまった。サポはその様子を見て「相変わらずだなあ」と苦笑してから、リンクに振り向いて言った。

「僕たちも行こうか。おんぶするよ」

リンクが答える間も無く、サポはスルスルとツルを伸ばしてリンクを持ち上げたかと思うと、球根にまたがらせる形で背中に乗っけた。サポはそのまま何食わぬ顔で歩き出す。

「お、おんぶなんて……子供じゃないんですから」
「どうせ誰も見ていないんだから大丈夫。それにリンクだってまだ子供でしょ」

静かな水底で、細かい砂を踏むサポの足音だけがサクサクと音を立てる。数分歩くと、その先でダッシュが「おーい」と手を振っていた。その傍らには壊れかけの石碑がある。

「これこれ。何か書いてあるんだけど、分からなくてよ」

調子の戻ったリンクはスルスルとサポの背中から降りて、その石碑に近づいた。その石碑には確かに文字が刻まれていた。見たこともない、奇妙な文字だ。

「これ、二種類の文字が混じってるよ」

黙って石碑を見つめていたサポが顔をしかめた。

「分かるんですか?」
「うん……でもどっちも古代文字だから、すぐには分からないかな。ギルドなら読解本が置いてあるんだけど」

サポはそう答えると、バッグからタブレットを取り出して石碑やその周辺をしきりに撮り始めた。ついでに、まだ気絶しているギャラドスも写真に収めた。

「こうしておけばギルドに帰ってからも、謎解きができる……すごい発明だよね」
「なあ、まさかその謎解きって……」
「もちろん自分たちでやるんだよ! 当たり前でしょ」

ダッシュはあからさまに苦い顔をしてみせたが、逃げられないことを悟って大きなため息を一つついた。それから周囲を見渡してやり残したことはないか確認した。

「……帰るしかないか。これ以上は先に進めないしな」「うん!」

恨めしそうな顔でボソっと言ったダッシュに対し、嬉々とした声で嬉しそうにうなずくサポ。リンクはそんな二匹を羨ましくも不思議そうに眺めていた。こんなに価値観が違うのに、どうして彼らは特別な絆で結ばれているのだろうか。

(自分もわにまるの価値観を理解できたら、一緒にいられたのかな)

「おーい、リンクー。行くぞー」

ダッシュの声でリンクはハッと我に返った。

「はい、今行きまーす!」

ダッシュの元に駆け寄ると、ゴツゴツした岩の隙間から強い水流が水面に向かって噴き出ていた。

「ここにバッジをかざしてくれ。この水流とバッジの力を合わせれば地上に出られるはずだ」

リンクはスカーフからバッジを取り外した。そして、三匹で一斉に噴き出す水流にバッジをかざした。不思議な力が授けられ、三匹はダンジョンから脱出した。

──ダッシュは 綺麗な湖 を 突破した! ▼

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バッジには、空間を超えて自身が作られた場所に戻ろうとする不思議な力がある。そのため水中でも天空でも、バッジとそれを助ける力──水流や風の流れなど──があれば地上に戻ることができる。
しかし、これはあくまでダンジョンの敷地に戻すものであって拠点に直接戻れるわけではない。拠点に戻るには自身の足で歩くしかない。敷地にも「流れ」があり、敷地の流れに逆らって進めばダンジョンに繋がる歪みが生まれやすくなり、流れに従って進めばダンジョンは生まれない。

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帰り道は特に何事もなく、三匹は五日ほどかけて霧がかったブライトベースに帰着した。さぞ盛大な出迎えがあると思ったが……

「誰もいねぇな」
「どうしちゃったんだろう」

畑の土は湿り、ハリのあるぷっくりした木の実が実っており居住していた痕跡はあるものの、ポケモンの姿が見当たらない。ギルドに来ても同様だった。ホールは掃除されているし、各々の部屋も整頓されているが、どこもかしこもシーンと静まりかえっている。リンクが顔をひきつらせた。

「まさか自分たちが出かけてる間にヤツに襲われたんじゃ……」
「まさか」「そんなわけないでしょ」

二匹は軽く返したものの、ホールで座って待ってみても誰も来ない。だんだん不安になってきた。

「昨日は連絡ついたんですよね?」
「ああ。『こっちベースも問題なし』って来てるよ。ほら」
「タブレットも返さなきゃなのか〜。楽しかったのに」

現実から逃げるように、タブレットを囲んでやいのやいのと騒ぎ立てる三匹。二週間近く一緒にいたものの、壊れるのが怖くてロクに触ることができなかった。
そのはしゃぎ声が届いたのだろうか。

「あー、やっぱり帰ってきてた」

一匹のゼニガメが入口から顔をのぞかせた。

「……ディフ……?」

彼女の相方は、目をパチクリしてから呆然と呟いた。無理もない。首に巻かれているのはスカーフではなく薄いストール。それを後ろでふわっとリボン結びにしていて、頭には髪飾り。盾のエンブレムをモチーフとした本体から細いチェーンが垂れ下がっており、その先にしずく型のビーズがついている。

「ディフ、可愛い〜! なんでなんで? どういう風の吹き回し?」
「あんたに褒められても嬉しくないんだけどね。今、あるポケモン、、、、、、が港に来てて、その子にいじられたの」

そう言いながらもディフはまんざらでもなさそうだ。やっぱりこういう所は女の子なのだ。

「みーんなそっちに行っちゃったし、あんたたちも行ってみたら? 特にリンクはね」
「え、どういう……?」

察しのいいサポはピンときたものの、当の本人は分からずじまい。リンクに疑問を挟む余地を与えず、ディフはダッシュの首根っこを掴んだ。

「それは行ってからのお楽しみ〜。私はパートナー分からなかったこいつに話があるから先に行ってて」
「おい、勝手に話進めるな」
「リンク、行こうか」「はい」
「本当に置いて行くんじゃねえぇぇぇえええええ!!」

ダッシュのジタバタとした抵抗も虚しく、二匹は海岸に行ってしまった。

「アイツら……置いていくとか許せねえ……」

ダッシュはゼェゼェと息を切らしながらも、首根っこを掴まれていた。

「イメチェンしたパートナーに気の利いた言葉の一つも掛けなかったあんたが悪い。てか何よ、初見の反応」
「いや、だって、その……」

言葉に困って、口ごもるダッシュ。ディフはそれを情け容赦なくドベッと捨てて、腕を組んで仁王立ちした。

「似合わないなら『似合わない』って言ってくれて構わないのよ?」

それから聞こえるか聞こえないかくらいの声でボソッと付け足した。

「……そんなの自分が一番よく分かってるんだから」

しかし、ダッシュの耳はその本音を捉えた。長く発達した耳は伊達ではない。

「……なこと……」
「え?」
「そんなこと言うなよ!」

ものすごい勢いで体格差のあるパートナーに掴みかかるダッシュ。その声は震え、ディフを真っ直ぐ見上げる瞳は心なしか潤んでいるように見えた。
決して強くはないものの、ディフは彼に掴まれたまま動くことができなかった。

「確かに普段は食い意地張って可愛げがなくてでっかくて『こいつ本当に女か?』って思うことも多いけどさ! 俺にとっては誰よりも可愛い大切なパートナーなんだ! そいつがいつもと違って可愛い格好でもしたら誰だって戸惑うだろうが! それをそんなつまらない一言で台無しにするんじゃねえよ!!」

ダッシュはそこまで一気に言ってから、ハッとしてストールを掴んでいた右手を離した。

「ごめん。強く言いすぎた。それと、ストールも」

ダッシュが強く掴んでいたせいで、ストールははだけ、ぐしゃぐしゃになってしまっていた。

(あちゃー、やらかした……こりゃ怒るよな……)

ダッシュは自らの性格を呪った。自分はいつもこうだ。後先考えず突っ走ってしまう。自分一匹ならまだいい。窮地に陥っても機転でなんとかできるから。でも、自分は一匹じゃない。仲間を、パートナーを巻き込んで取り返しのつかないことになったら絶対に後悔する。
……現に今、取り返しのつかないことになって後悔しているわけで。

「……あんたって、ずるい。本当にずるい」
「ああ、ずるいよな。本当に」
「いつも奇襲ばかり」
「体力なくて奇襲しかできないもので」
「そういうことじゃなくて、その」

しばしの沈黙。少し震えた声で、しかしハッキリと聞こえた一言。

「すごく嬉しかった」

ダッシュはそこでやっとパートナーの顔を見た。手で覆ってしまって所々しか見えないものの、頬は紅く、瞳は涙ぐんでいる。
それから、彼女はポツポツと語り始めた。
本当は誰よりも帰還を心待ちにしていたこと。そこに折りよく「あるポケモン」がやってきたこと。彼女に頼み込んで可愛く着飾ってもらったこと。そうすると、みんな彼女の元へ向かってしまったこと。『自分だけでも』と思い、混雑を抜けて戻って来た時には遅かったこと。

「だからね、本当はこれを真っ先に言いたかったの」

ディフは「遅くなってごめんね」と付け足すと、とびきりの笑顔でこう言った。

「おかえり!」

盛大な出迎えよりも嬉しい出迎えが、そこにあった。

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その頃。
二匹は海岸に向かっていた。あそこまで来れば、特別察しがいいわけでもないリンクでも分かる。

「幸せそうですね」
「君も大概だと思うよ」

サポがジトッとした嫉妬の目で見てくる理由が、リンクには分からなかった。

誰もいない税関を通り防砂林を抜けた先には、たくさんのポケモンがいた。出かけている間にまた増えたようだ。彼らはある一匹のポケモンを取り囲んでいて、こちらに気づく気配はない。
しかし、取り巻きの中心にいるポケモンはこちらに気づいた。喜色を顔いっぱいに浮かべて混雑を抜けて飛びこんでくる。

「リンクーーーーーーー!!」
「シロフォンさん!?」

思わず抱き止める形になるリンク。住民たちの注目の的となってしまい、かなり恥ずかしい。せめて「そんな関係じゃないんです」オーラを出してはみるが、果たして気づく者はいるのだろうか……。

(いや、いない!)

脳内でセルフツッコミする。これはどこからどう見ても、遠距離恋愛していたカップルの女の方が男を追ってきたようにしか見えない。たった一瞬で既成事実が出来上がったことに、リンクは動揺を隠せなかった。
シロフォンはそんなのものともせず、ゴロゴロと喉を鳴らしてリンクに甘えてくる。

「どうして、ここに……?」
「だってリンク、手紙くれなかったから」
「手紙……?」
「覚えてないの? 約束したじゃん!」

その大きな声に「何?」「痴話喧嘩?」などとヒソヒソする住民たち。そこにサポの追い討ちがかかる。

「確かに言ってたねえ。僕も聞いてたよ」
「サポさん!! 言いがかりはやめてくださいよ!」

リンクが血を吐く勢いでサポに突っかかる。野次馬が一気にザワっとする。
しかし、サポも常識はわきまえている。リア充は好きではないが、故意に事を大きくする必要はない。誰にも聞こえる声で解説を入れる。

「嘘じゃないよ。シロフォン、海岸で言ってたでしょ? 『向こうに着いたらお手紙ちょうだい』って」
「そういえば……言ってました……」

リンクもやっと思い出した。たしかに第九話ぐらいで言っていた。あの直後は言葉の真意についてかなり悩んだものの、忙しさの果てに忘れてしまっていた。

「でも、こっちに来てからはずいぶんと忙しかったし落ち着いたと思ったらすぐ出発だった。みんなも知っての通り、リンクは真面目だし、目の前のことに一生懸命だったからね。忘れちゃっても仕方ないよね」
「うん。だからシロフォン、別に怒ってないよ。リンクが元気にしてて安心した!」

二匹の言葉で野次馬も「なーんだ」と落ち着きを取り戻す。ゾロゾロと解散する住民たち。
残ったのはギルドと本部のメンバー、二匹のポケモンだった。

ビショップが歩み寄ってきて声をかけた。随所に包帯はあるものの日常生活が送れるほどに回復しているのを見て、リンクは少し安心した。

「リンク、お疲れ。帰ってきて早々、災難だったね」
「災難どころじゃないですよ全く……。一時はどうなるかと思いました」

リンクは毛皮についた砂を払いながら立ち上がった。長い毛のせいで砂がなかなか落ちない。後でお風呂に入らなければ。

「でも、シロフォンさん、どうやって来たんですか? 本土からの定期便はまだ先のはずですが」
「あっしに乗ってきたんでごぜーますよ!」「ワタシにもね!」

そう言って飛んで来たのはボーマンダとチルタリスだった。

「ヴァンさんにルタリさん!?」
「うむ。二匹は新婚旅行でここに来たとのことだ。そこにシロフォンがついてきたのだ」

オフェンの解説にルタリがくちばしを挟んだ。

「違うわよォ。ワ・タ・シ・が、連れて来たのよォ。シロフォンには職場でお世話になってたし、ここ最近のシロフォンったら『お手紙まだ来ない』なーんて毎日しょげてたんだものォ」
「ちょっとルタリ、やめてよ……恥ずかしいじゃん」

ルタリはシロフォンの経営するブティックの従業員の一匹で、チルットの時から働いている古参だった。彼女とヴァンは仲睦まじいカップルとして、トレジャータウンで知らない者はいないほど有名だった。近いうちの結婚も公になっていた。
二匹はせっせと働いて、貯まった結婚資金で新婚旅行がてらフロンティアに遊びに行こうと思い至った。そこでルタリがシロフォンを誘うことを提案。何かを運ぶのが大好きなヴァンも大賛成。最後には強引に連れ去る形での出発だったとか。

「シロフォン、夫婦水入らずの旅行に混ざる勇気はなかったよお……」
「それは心から同情します……」

そう囁きあいながら、若い二匹はイチャつく新婚二匹を眺めていた。
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