第25話 天閣の舌戦

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読了時間目安:11分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 私はただ、突っ立って地面に伏すリゴンを見つめる事しか出来なかった。
 私が殺したのか?いや、元はと言えば先に仕掛けたのは向こうだ。これは正当なる防衛だ。そうしなければ私は確実に死んでいた。自らの身を守る為に、私は『はねかえし』ただけなのだ。
 私はそうやって、今にも破裂しそうな鼓動を収めようとする。だけど、私の鼓動は収まるどころか、どんどん早くなっていく。

「私は……悪くない……っ!」
「果たしてそうかな」

 私の絞り出した声に、背後から何者かが反応を示す。驚いて振り向いてみると、そこにはティールが佇んでいた。

「法律で考えるのなら、心肺停止で死んでいるんだ。正当防衛すら成立しない、勿論過剰防衛でもない。君は“悪くない”。しかし、今の君の様子を伺うに、自らが仕掛けた行為に困惑し、動揺し、罪悪感を抱いている。罪悪感を抱くって事は、己の仕出かした事が“悪い”事だと認識しているのではないか?」
「だが……先に仕掛けたのはあっちで……!」
「先に仕掛けられたから、向こうが殴ってきたから、あっちが悪いから……いつだって我々はその繰り返しで戦争を起こしてきた」
「なら、死ねというのか!?何もせず、なすがままに死ねというのか!?」
「君が正義を名乗るなら、両者共に平和的な解決が出来た筈だ」
「それが……出来るなら……」
「苦労はしないよな、だがそれが正義の名を語る者としての役目だ。それが出来ないのなら正義を名乗るな」

 ティールの言葉が私の胸に突き刺さる。

「まぁまぁ、ティールったらそこまで言わないであげて」

 想像しない所から声がかかる。リゴンが、ニコニコと笑いながら私を見ている。

「なっ……!」
「ああ、しっかりきっちり君に殺されたから君が悪くない訳ではないからね。ただ僕は『ふっかつ』しただけ」
「『ふっかつ』……不思議能力か!?」
「そう。まぁ僕の不思議能力じゃないけどね。クロカチ、ほらあのクチート。あの子の不思議能力さ。その『ふっかつ』を付与してもらってただけ」
「そんな、そんな生命を弄ぶような能力が……!」
「そうだね、『ふっかつ』は唯一無二の生死に関わる不思議能力だ。だが、だからこそ弱点があるんだよ。この不思議能力は、意識を強制的に呼び覚ます。例え植物状態のポケモンも、それこそ死んでいるポケモンでも意識を取り戻す事が出来る。ただし、決して怪我や病気が治る訳ではない。意識を呼び戻し、再び心肺を鼓動させるだけの能力なのさ。だから、腹を突かれて死んだポケモンがいるとしたら、一瞬だけ生き返って、再び死ぬという残酷な能力に変わるのさ」

 だから、心臓の鼓動停止を『はねかえし』されたのに生きているのだろう。いや、厳密に言うのなら一度死んで、そして生き返ったのだろう。

「だから僕達は傷や病気を治すような不思議能力を求めているんだ。持ってきてもらった腕輪、通称不思議腕輪は、端的にいうと特定の不思議能力が使える腕輪でね。傷や病気を治す不思議能力を持っている子からその不思議能力を腕輪に定着させて、『ふっかつ』と併用する事で実質的な不死が成り立つ訳さ。……不老に関してはおいおい考えるけど」
「だからお前達を呼び出したのだ。水レンジャー全員の不思議能力を把握している訳では無いからな。もしそんな不思議能力があれば、“協力”してもらっていたが……残念ながらそれは叶わなかったようだな」
「…………この、腕輪が……」

 私は不思議腕輪を見つめる。不死の可能性を秘めるこの腕輪。奴らは、自らの目的を達成する為に不死を得ようとしている。悪による悪の掃討、確かにそんな事を目指せば普通よりも命の危険性は高くなる。それを、奴らは“生き延びる”事を回避するのではなく“生き返る”事で命の危険性を回避しようとしている。……なんて、覚悟だ。痛みを回避するのではなく、痛みを受けた上でその痛みを抑えようとする。生半可な覚悟では出来ない。

「それにしても『はねかえし』ね、おおよそ正義の味方が持つような不思議能力じゃないねぇ」
「………………」
「君の『はねかえし』は即死するダメージ以外のありとあらゆる物理的、精神的ダメージを別の誰かに跳ね返す。ありとあらゆる悪から弱者を守る正義の味方が持つ能力としては……あまりにも異端で……あまりにも残酷だね」
「それが……なんだというのだ……!」
「常にダメージを『はねかえし』てきた君にとって弱者の気持ちなんか分かる筈も無いって事さ」

 思わず持っていた腕輪を落とす。そしてポキリ、と私の心の中で何か折れるような音がした。この苦しみを、痛みを何処かに跳ね返してやりたい。だけども、それをするって事は自分がリゴンの言った通りであると認めてしまうのと同じ事である。

「僕はね、君達の活動に関して少し調べていたんだ。君達は正義の名の下に、数々の依頼をこなしてきている。しかし、いくつかの依頼では正義が守るべき弱者すらも不幸にしてしまっている。例えば、最近では改造技マシンの製造をしていた会社を潰した件だね。あの会社で働いていた改造技マシンには関与していないポケモン達の生活を奪った。まぁ、その件に関しては君の組織の策略家、ターコイズ君が対処したみたいだけど……それ以外にもまだまだあるよ」
「やめろ…………」
「そうそう、君がまだ水レンジャーを結成する前にティールと行動していた時の事件!ティールと君が決別する原因ともなった事件だけど、君が助けたあの子は今どうなっていると思う?」
「やめろ……!」
「村を燃やして村民全員殺したよ。でも、君はそんな事気にしないよね、だってその辛さすら跳ね返すもん」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっっっっっ!!!!!」

 私の悲痛な叫びが部屋に響く。蹲って、頭を抱える私にリゴンはゆっくりと近付いて囁きかける。

「君のその不思議能力は正義よりも悪に身を投じた方がとっても有用だ。それに、死ぬ前に言ったけど僕達と君達は似たもの同士なんだ。手段が違うだけでね。だから、僕達が手を組めば最強だと思わないかい?」

 リゴンは私に向けて手を差し出す。

「勿論、仲間を裏切るのが心苦しいっていうのなら、君が彼等を引き入れてしまえばいい。そうだね……コメット君、オリオンちゃんは君に恩があるし、そもそも彼等はどっちかというとこちら寄りだ。彼等なら君についてきてくれるだろうね。コバルト君は正義である事に誇りを持ってしまっている。彼を落とすのは少し難しいだろうね。同様の理由でネルソン君もそうだ、彼の場合は誇りというより憧れだろうけど、だからこそコバルト君よりこちらに靡く可能性は無いに等しい。スパルタちゃんも、正義を誇り所か信念として持ってしまってる。例え他全員がこちらに靡いた所で彼女は絶対に仲間になってくれそうにないね。シンフォニーちゃんは……多分君についてきてくれるだろうね。彼女は正義と謳ってはいるが、その実はそこまで正義に固執していない。君と一緒にいれるのなら、別に良いと思うんだよね。それでターコイズ君、僕をもってしても彼は読めないね。あっさり仲間になってくれそうだし、絶対に仲間にならなさそうでもある。と、まぁこれが客観的に見た君達水レンジャーのメンバー観だ。半分以上が君についてきてくれる可能性があるんだ、それなら別に良くないか?」

 私はそれをただ黙って聞いていた。リゴンを差し出したこの手を掴むという事は、私はリゴンの仲間になるという事。本当にそれで良いのだろうか。私は正義の味方になる為に水レンジャーを作り、仲間達と戦ってきたんだ。



 待てよ、私は何故正義の味方になろうと思ったんだ?



 私は腕を組んであらぬ方向を向いているティールに目線を向ける。ティールは、一歩踏み出す勇気が出なかった私の背中を押してくれた。ティールに言わせてみれば、私が勝手に進んだだけだと言うだろうが、それでも私にとってはティールが水レンジャー設立の要因となっているのは言うまでもない。だが、何故正義の味方として水レンジャーを作ったのか。私は何を思い、何を考えて水レンジャーを作ったのだ?

「……単純な答えだ」

 そんな私の疑問に対して、ティールは答えた、否、応えた。ティールは、昔からまるで私だけでなく、周りのポケモンの心を読めているような振る舞いをする。いや、もしかしたら本当に読めているのかもしれない……

「お前はただ非日常を求めていただけだ、そして正義の味方である事がただ心地良かっただけだ。つまるところ、お前の正義は自己満足に過ぎない」

 心に刃を突き刺されたかのような、そんな心の痛み。違う、と否定出来れば良かったが、心の何処かでその事実を認めてしまっている自分がいた。

「もー、そんなにいじめちゃダメだよ。ティール。折角仲間になるかもしれないんだし、仲良くしよ」
「……リゴンの言う事だから、納得はしてるし否定する気は無いけど、私はこいつが仲間になるとは思わないんだ」
「え〜、どうして?」
「それはこいつが主役に憧れたモブだからだ」

 

「だから正義の味方に憧れて正義の味方になったんだ。正義の為に戦ってるんじゃない、自分が主役である為に戦ってるんだ。例えこの組織に入っても、こいつは自分の為だけに、自分が目立つ為だけに動くだろうよ。その為の水レンジャーなんだからな」






「成る程ねぇ、所謂自己顕示欲の塊って事か。うーん、もしかしたら僕は見誤ったのかもしれないねぇ。でも、僕はそういう子が仲間にいても良いと思うよ」




「まぁ、貴方がそれで良いなら良いんだけど」



「さて、ずっと突っ立ている訳にもいかないし、パステルちゃんにもそろそろ決断してもらおうかな」
「私はお前がどんな選択をしようが、否定はしない。肯定もしないがな」
「まぁ、この後の運命をかける決断だ。やっぱり自分の手で決めるべきだと思うんだよね。でも君はこういう経験した事があるでしょ、だから水レンジャーを作ったんでしょ?」



「「さあ、選択は君次第だMake your choice





 私は
  リゴンの手を……

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