第126話 ココロの切り抜き

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 アヤノとのバトルが終わりマイがコウのバトルを観戦していた時、横にゴールドではなくクリスが隣に座って来た。別にそれはおかしな行動ではなく、旅に出る前は何度か隣に彼以外の人がいるなんて事はザラにあるもんだった。

「アヤ、控え室で泣いてる?」
「ううんーと……泣いてたような泣いてないような……」
 
 歓声が飛び交う中、女子二人で話す姿は珍しい物ではないが、クリスの横に座っているゴールドからしたら試合を見ろよ、と言う視線が送られる。そんな事にも目もくれずアヤノの心配をするクリスにマイは内心、アヤノが羨ましいと感じる。
 だってわたしはあのアヤノに勝ったのに誰も認めてくれるような事は言ってくれないし、まるで自分が勝った事でアヤノを泣かせてしまって悪者みたいな扱いを受けているような、そんな気もした。
 
「ふふ、優しいのね。分かったわ、アヤは泣いてない、そうよね?」
「はいっ!」

 曖昧な返しをするマイの視線はアッチコッチに飛んでいて、クリスからしたら気を使っているのだと勘違いする。本当は抱きしめた事が恥ずかしくて目もくれずに控え室から飛び出したのが事実であり、真実は分からないまま。

「なぁ、クリスよ。おめぇ、いつからアヤの事気にかけてた?」
「そうねぇ、マイちゃんとの試合が始まる前はマイちゃんを心配してたわ。だって、前に負け、あっ!」
「もう気にしてないんでだいじょうぶです!」

 会話に混じるゴールドは身体を少しだけ曲げて問う。顎に手を置き空を見上げたクリスはほんの少しだけマイを見つめた後に言葉に詰まらせる。
 それでも、気にかけられた本人は大丈夫だとニヤけた顔で言うので推し量りつつも言葉を続けた。

「前に負けた時は随分落ち込んだって言うから心配したんだけれど、試合の後半でピーくんがボルテッカーをした辺りから心にクるものがあって……」
「成る程な。天下のクリスさまも勝敗は読めなかったと。まぁ俺はマイが勝つと思ってたけどな! な、マイ?」
「うんっ! わたし、頑張ったから勝てるって信じてたよ!」
「天下のクリスさまって……もう、まあいいわ。ほら、試合見るわよ」

 本当はアヤノとの試合が決まった事で相当落ち込んでいたが当日になったら、どうにかなるものだとゴールドに元気付けられたのでマイは立ち上がれた。

(そう言えばバトルの時、右腕が痛かった。やっぱりレッド先輩の言う通りわたしの身体は究極技を受け付けないみたいだなぁ。あんまり連発するのはよしておこう)

 ゴールドとクリスの目線がコウの試合になったのを確認すると、マイは右腕を摩る。ボルテッカーを繰り出す時に痺れが走ったようだが、すぐに収まったらしい 

「どうした、マイ。疲れてんのか?」
「へっ? ううん、なんでもないよ。ちょっと眠たいだけだよ」

 伏し目がちにしていたため、変化に気づいたゴールドに感謝しつつも作り笑顔で誤魔化した。
 何だか何か引っかかるような顔つきでゴールドは、クリスの目の前を遮ってマイの額に手を当てた。
 男らしい骨張った手つきにマイは黙って目を瞑る。意外と冷たい手が気持ちいいのか、表情が穏やかになる。

「うーん、少し熱あるな。バトルの結果は俺が言うからお前、帰って寝てろ」
「ええっ! や、やだよ。わたし、平気だよ。ほんとに眠いだけなんだって!」

 子供体温と思われがちだが単なる熱持ちなのだ。言われてから、そう言えば目の端がチカチカするとか、頭が重いとかはあるなぁ、と自覚。
 左手で軽く否定をしながらもクリスに手を取られて口をきゅっと閉める。

「無理は禁物よ。ゴールドが心配してるんだから帰りなさい。大丈夫よ、コウ君は絶対に勝つから」
「絶対?」
「ああ、だってお前のサイコーのライバルなんだろ? 信じてやれよ」

 今度はクリスにデコピンされておデコを摩るマイは、涙目になりながら揺れる視界に映るゴールドを見つめる。
 熱っぽいと言われると急に体調が悪くなるタイプのマイは最後に言われたゴールドの台詞を良く聞き取る事が出来なかった。

「うん、わたし帰って寝る。おやすみなさい~」

 既に眠りの世界に入りそうなマイを見かねてゴールドはバクフーンの入ったモンスターボールを手渡す。リーグ会場から出たら、バクフーンに跨って帰れと言う事だ。

(バクたろう、もふもふ、きもちいい)

 触り心地抜群のバクフーンの背に揺られ、マイは天国気分で帰って行く。

 
◆◆◆

 自宅に帰ってからどれだけ時間が経ったのだろうか。試合が始まったのは午後一時、それから試合が終わったのが午後の何時かも分からなかったため、自分がどれだけ寝たのか、起きてからも理解できなかった。
 ただ起きたらゴールドが目の前にいたのだけはハッキリ分かる。

「ゴールド。おはよ、ねえ今何時?」
「おはようさん。今は午後の九時だ。よく寝てたなー」

 まだ眠たそうな声とどんぐり眼に口角を上げて、髪をくしゃくしゃにしながら撫でる。
 
「ぐっすりだよー。あ、そう言えば試合どうなったのかな? コウちゃん、ちゃんと勝った?」

 ベッドから身を起こして床に足を付けて背伸びをしながら聞く。

「おう、圧勝だったぜ。流石お前の認めたライバルだな」
「えへへ。そうなんだ、勝ったんだ」

 彼は、自慢気な笑顔を見せて報告する。
 そして、わたしのライバルかぁ、とマイはくすぐったそうに身をよじる。

「ってことは、明日コウちゃんと試合か……」
「おう。六体六のフルバトルだ。だから、今日はしっかり飯食ってしっかり寝ろ」

 独り言のように呟く金色の瞳を覗き込む金色。
 瞳の色は同じだれど何かが違う、そう思ってた。それなのに今は。

「おんなじだね」
「は? 何がだよ」
「なんでもなーい! さーご飯! バクたろうありがとうね、はい」

 いきなり突拍子も無い台詞にゴールドは目を丸くするが手渡されたモンスターボールを受け取るとどうでもよくなり階段を降りる。
 明日はポケモンリーグ最終決戦。勝っても負けても文句は無し、マイは自分とポケモンを信じた。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。