第18話 決意、出発、告白?

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 その日の夜、ヒトカゲ達はメガ家で夕飯をご馳走になった。というのも、ここ数日はメガニウムに存在を気づかれないようにしていたため、食事も宿泊も別のところでしていたのだ。もちろん費用はメガ家持ちだ。

「うちの娘がご迷惑をかけてすまなかった。そして本当にありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでですから」

 メガニウムが深々と頭を下げて2人にお礼を言った。だがいまだに彼に怯えているのか、ゼニガメはものすごく謙虚になっている。

「それにしても強いんですね、メガニウムさん」

 ゼニガメとは正反対にすっかり平気になった、というよりは目の前の料理にしか目がいっていないヒトカゲがよそ見しながら声をかける。失礼極まりない。

「こう見えても、昔はあちこち放浪の旅をしていたからな。いろいろあったな」

 チコリータは父親が過去に放浪の旅をしていたことについて初耳なようだ。旅と聞いて他の2人も興味を示している。当時を振り返りながらメガニウムが喋り始めた。

「海を越え、山を越え、仲間ができたり、敵をこらしめたり。今思い返せば、とてもいい経験だったよ」

 この話を聞いて、チコリータは旅というものにとても興味を持った。小さい頃から家にいることが多く、外の世界をあまり知らない彼女にとって知的好奇心をくすぐる話だ。

「お父様、私も旅に出てはいけませんか?」

 そんな彼女の突然の発言にメガニウムはもちろん、ヒトカゲ達も驚いた。ヒトカゲに至っては喉に食べ物が詰まったらしく、苦しそうにもがいている。その提案に対し、メガニウムは渋い顔をする。

「ダメだ。外はお前が思っているほど甘くないし、危険が多い。それにお前が旅に行くにはまだ弱い。ヒトカゲ君達に迷惑がかかるではないか」
「そうですか……」

 あっさりと断られ、チコリータはがっかりして肩を落とす。付け加えるようにして、ただ頭ごなしに断ったわけではないとメガニウムが優しく説明する。

「よく聞きなさい。弱いというのは力量のことではない。心の問題だ。ちょっとした事で考えが変わったり弱気になったりしては、当然旅なんかできない。だから安易な考えで旅をしてはいけないという意味で言ったんだよ」

 ヒトカゲは自分が旅に出たときに、エンテイに同じようなことを言われたのを思い出しながら聞いていた。旅に出る者の心構えみたいなものを、改めて感じされられたようだ。


 夕食後、3人は家の庭にあるベンチに座った。外は今のチコリータの気持ちを表しているかのごとく、どんよりと厚めの雲がかかっている。

「はぁ……」
「そんなにため息つくなよ。わからなくはないけどさ」

 ずっとため息ばかりついているチコリータを見ながら、ゼニガメが親身に接している。フォローしてあげたいところであるが、嗚呼もきっぱり言われてしまうと、どうしてあげればよいかと考えてしまう。

「私は外の世界を知りません。だから旅に出たいと前から思っていたのですが、なかなかそれを伝えるタイミングがなくて……」

 以前から、彼女は外の広い世界を知りたいと思っていた。今まさにチャンスと思って提案しただけに、少々諦めきれないようだ。そんな様子を見たあるポケモンが、3人のいるところに近づいてきた。

「どうなさったのですか、お嬢」

 その声に気づいてチコリータが顔を上げた瞬間、彼女は固まってしまった。なぜならそこにいたのは彼女の憧れである、警備員のドダイトスだったからだ。

(お、お嬢って……)

 ヒトカゲとゼニガメはその呼び方に少し違和感を覚えた。資産家の令嬢に対する呼び方ではなく、暴力団組長の娘に対する呼び方に聞こえてしまうようだ。

「いいえ、何でもありませんわ」
「私にはそうは見えませんが? お嬢、何か悩みがありましたら、私でよければ相談に乗りますよ」

 そのいかつい顔と強靭な体格からは想像がつかないくらい、ドダイトスは優しくチコリータに語りかけた。彼女は彼のそういうところが好きらしい。

「……というわけなのです。私、旅に出たいという気持ちが抑えられなくなってしまいました。どうすればよいのでしょうか?」

 一通り話を聞いたドダイトスはうーんと唸りながら、まるで自分の事のように真剣に考えてくれた。そんなところも、彼女の心を掴んだ要因にもなっている。

「そうでしたか。ふむ、何とかお嬢の望みを叶えてやりたいのですが……」

 そう言いながら、ドダイトスはふとヒトカゲ達の方を見た。その瞬間、彼の頭にあるアイディアが浮かんだ。

「お嬢、この方達にお礼をするために一緒に同行するのはどうでしょうか?」
『えっ?』

 誰も考えつかなかった提案に3人ともおもわず聞き返した。お礼のために旅をするというのはどういうことか、ドダイトスが説明する。

「先程の事件を解決してくれたお礼、まだなさってないのでしょう? でしたら、それを理由にすればメガニウム様もきっとお許しになられるかと」

 どうやら、ヒトカゲ達の旅の手伝いという形でお礼をするという意味らしい。確かに、と納得した3人。これならうまくいくかもしれない、そう思ったチコリータは気分がよくなってきた。

「ヒトカゲ、ゼニガメ、お嬢を旅に連れていってやってくれないか?」

 改めてドダイトスが警備員らしく深々と頭を下げ、ヒトカゲ達にお願いをした。ここまでかしこまって頼まれずとも、どうするかは2人の中で意見は一致していた。

「うん、もちろん!」
「当たり前じゃないか!」

 2人は快くOKしてくれた。先ほどの破談に関してだけでなく、完全にわがままでしかない今回のお願いにも応えてくれ、チコリータは感動のあまり泣き出してしまう。そんな彼女を優しくドダイトスが撫でるあたり、良い関係なのかもしれない。


 次の日の朝、食卓でメガニウムとチコリータ、そしてヒトカゲとゼニガメが食事を取っていた。半分位食事が済んだところで、彼女は意を決して話を切り出す。

「お父様、昨日の話なのですが……」
「旅に出たいって話か? 昨日も言ったが、お前にはまだ……」
「私には、旅に出る目的があります!」

 もう待ちきれないといった様子である。メガニウムの発言を遮ってまで、チコリータは自分の意思を伝えようとした。滅多に見ない姿にメガニウムは目を丸くする。

「私は、この2人がいたからこそ、先日のような事件を解決できたと思うのです。しかし彼らには何もお礼ができていません。だから私は2人のお力になりたくて、恩返しがしたくて彼らと旅がしたいのです! どうかお許しください!」

 そう言うとチコリータは、床の上でメガニウムに向かって土下座して懇願した。父親に土下座するという初めて見る光景に彼は驚かずにはいられなかった。

「僕達からもお願いします。一緒に旅をさせてください」

 ヒトカゲとゼニガメも頭を下げながらお願いをした。さすがにこういうことになるとは思ってなかったらしく、メガニウムは少々困った顔をしていた。

「いやぁ、しかしなぁ……」

 メガニウムは心配でならなかったのだ。自分の可愛い娘に万が一の事が起こった場合を。それだけの危険があることは自分が1番よく知っていたからだ。そのせいか、なかなか首を縦に振らないでいた。

「う~む……」

 しばらく悩み続けているメガニウム。そんな時、居間の扉がいきなり開いた。その音を聞いた全員が扉の方を向くと、そこにいたのはドダイトスだった。

「メガニウム様。私がお嬢に同行致します」
『えぇっ!?』

 その発言には全員が驚きを隠せずにいた。昨日の時点でヒトカゲ達はそんな事を聞いた覚えはなかった。全員が動揺していることもお構いなしに、ドダイトスはメガニウムの方へ歩きだす。

「庭の警備員はすでに手配してあります。それとも、私ではお嬢をお守りするには頼りないと?」

 どうやらドダイトスは、切り札として自分が同行することを考えていたようだ。数年間この家の警備に従事し、メガニウムから信頼されていることもあり、きっと断らないだろうと想定して。
 そしてそれは彼の目論見通り、メガニウムも首を縦に振るしかなかった。

「……そこまで言うのなら、許可しよう。ただ、チコリータ。確認させてくれ。途中で投げ出すことだけは許されないからな?」
「はい、お父様!」

 旅に出ることができる、それだけでチコリータの気持ちは一気に高揚した。満面の笑みで彼女は返事をし、その喜びを他の執事達に伝えに行った。

「それからドダイトス、ヒトカゲ、ゼニガメ、娘の事を頼んだぞ」
『了解!』

 願いを叶えてあげることができ、彼らも嬉しそうだ。笑顔になった3人が、これから背負う重い責任感を受け止めるように大きな声で返事をした。


 翌朝、4人は船が出港する港に向かって歩いていた。お嬢様が道を歩くと近くの住民が騒ぎ出すので、まだ住民が起きていない時間帯に出発することになった。

「ド、ドダイトス、ありがとうございました……」

 チコリータは一緒に旅にしてくれることに改めてお礼を言った。それに緊張のあまり、言葉がうまく出てこない。

「お礼を言われるほどのことはしておりません。元々、私はお嬢をお守りするのが仕事ですから」

 警備員たるもの、それが使命ですからと笑顔で応える。そんな優しいドダイトスを見て、チコリータは顔にぐっと力を入れ、ある決意をした。

「あ、あの……」
「どうされました?」

 チコリータの様子がどうもおかしい。何かをためらうように顔を下にし、もじもじとしている。それにいち早く気づいたのはヒトカゲだった。ゼニガメに近づき、耳打ちして話し始めた。

「もしかしたら、告白するんじゃない?」
「えぇっ、ここで? マジかよ!?」

 小声でゼニガメが驚く。改めて見ると、確かにそんな雰囲気を醸し出している。成り行きを見守るしかないと、2人はチコリータとドダイトスの方をじっと見た。

「わ、私……す……」

 頭の上に疑問符を浮かべながらドダイトスが聞いている。一方チコリータは顔を真っ赤にして、一生懸命その言葉を言おうと必死だった。そしてついに、想いを言葉に乗せて言い放った。

「……すき……」
(言った――!)

 ヒトカゲとゼニガメは興奮しながら見ていた。チコリータは言い切ったもののまだ緊張したままだ。恐る恐る顔を上げると、いつもの優しい表情のドダイトスがいた。彼女は心の中でうまく伝わったと確信した――が、それは違ったようだ。

「お嬢、すき焼きが食べたかったのですか? 言ってくだされば私が食材を家から持ってきて差し上げたのに」
(……はい?)

 そう、ドダイトスはこの手の事に関して超がつくほど鈍いのだ。彼女の必死な告白も、勘違いでただの食欲アピールと化してしまった。もちろんこんな回答を望んでいない他の3人はドダイトスのあまりの鈍感ぶりに脱力し、その場に倒れこんでしまった。

「お、お嬢? ヒトカゲ? ゼニガメ? どうなさったのですか!?」

 まさか自分のせいでこうなったとは思っていないドダイトスは、ただ1人焦っていた。

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